あと、BOOK・OFF行って、三、五、六、七、プログレッシブ二巻買って来ました。四巻なかった……
二層主街区《ウルバス》についた俺。
転移門を有効化(アクティベート)をした瞬間、俺は逃げた。
というのも、ベータテスターへの憎しみを俺に向けさせたまでは良かったのだか、いささか向けさせ過ぎた様である。
俺は『ベータテスターを庇った悪者』、『俺自身がベータテスター』などと呼ばれているという《鼠》情報だ。
一つ目は、ボス部屋でやったことから。
二つ目は、恐らくボスのカタナスキル(仮称)に対処できたから。
だが、最もメジャーなのは……
――『ビーター』
俺がベータテスターである(と思っている)ことから『ベータ』、他にもいたであろうベータテスターが対処出来なかったソードスキルを対処したことから、上層の多くの情報を独り占めしている(と思っている)ことから『チーター』、二つを合わせて『ビーター』らしい。
……良く考えたものだ。
しかし、俺はそんな悪口慣れているので問題ない。むしろ、マシな呼び名だと思っている。
……まあ、そんな訳で俺は逃走中という訳だ。
あらかじめ探しておいた隠れ場所である教会みたいな建物の三階にいる。
歓声がうるせぇ……
若干うんざりしていると、聞き覚えがある、とまで言わなくても聞いたことがある声が聞こえた。
………なにやってんだ、アイツは。
俺は索敵スキルはたまにしかスキルスロットに入れないため、《追跡》は使えない。
そのため、声が聞こえてくる方向に走っていく。
……べ、別に気になったわけじゃないんだからねっ!!
ようやく追い付いた場所は、軽く偵察したときに、強そうなデカイ牛がいたところだった。
今のレベルでは俺も行きたくない………まあ、めんどくさいところにはどこにも行きたくないが。
……まあ、それは置いといて、《鼠》と二人の男性プレイヤーが言い争っている。
「……んども言ってるダロ!この情報だけは、幾ら積まれても売らないんダ!」
いつもより刺々しい《鼠》の声。
ふっ、甘いな。雪ノ下レベルだったら「ストーカーするなんて人として恥ずかしくないの?黒鉄宮に送ってあげましょうか?」くらいは言うぞ?これでもアイツにしたら甘いくらいだ。
「情報を独占する気はない。しかし公開するする気もない。それでは、値段の吊り上げを狙ってるとしか思えないでござるぞ!」
――ござる?うわあ……材木座みたいなタイプか?それとも、ゲーム内だと役割演じちゃうタイプか?
俺は隠蔽スキルを発動させ、言い争っている場所が真下に見える場所へ四つん這いで進む。
「値段の問題じゃないヨ!オイラは情報を売った挙げ句に恨まれるのはゴメンだって言ってるんダ!!」
売ったら恨まれる情報?少し興味が出てきた。
俺は更に話(というか言い争い)に集中する。
「なぜ拙者たちが貴様を恨むのだ!?金は言い値で払うし感謝もすると言っているでござる!!この層に隠された――《エクストラスキル》獲得クエストの情報を売ってくれればな!!」
……エクストラスキル?直訳だと特別な技とかそんな感じか?
まあ、なんにせよ取っておいて損はなさそうな響きの名前だ。
「今日という今日は、絶対に引き下がらないでござる!」
「あのエクストラスキルは、拙者たちが完成するために絶対必要なのでござる!」
「わっかんない奴らだナー!なんと言われようとあの情報は売らないでゴザ……じゃない、売らないんダヨ!!」
おい……口調感染ってきてるぞ《鼠》……
はあ……そろそろ行くか?特別報酬のことも聞きたいし…
「よっと」
五メートル程の高さを飛び降り、衝撃に備える。
着地した瞬間砂ぼこりが舞う。受け身が上手くいったか、HPバーを見て確かめる――減ってない、どうやら上手くいったらしい。
「――何者でござる!?」
「他藩の透波か!?」
アンタら楽しそうですね……と内心呆れつつ、男逹の装備を確認する。
一言でいうなら《忍者》だ。
「あんたら、ここは引け」
なんとかなだめようとするが、
「うるさいでござる!そこを退くでござるよ!」
はあ……めんどくせ。
「そうか……アンタらが引いてくれるなら、エクストラスキル《手裏剣術》が取得できるかもしれないクエストを受けられるかもしれない場所を教えてやろうと思ったのになー」
勿論嘘っぱちだ。相手を引かせればいいだけだからな。
コイツらは忍者に憧れてでもいるのだろう。じゃなきゃあんな格好しない。ソースは中二の時の俺と材木座。
「「何っ!!」」
声をハモらせて聞いてくる忍者×2。ウゼェ……
「ああ、確か《ウルバス》のどこかで受けられるとか聞いたな……」
言うやいなや一目散に《ウルバス》へと走っていく忍者×2。
ふっ、ミッションコンプリート。
と心の中で、一人でかっこつけていると、急に背中に柔らかい感触。
「かっこつけすぎだヨ、ハッチ」
後ろから《鼠》の声、つまり、この柔らかい物体は……
理解するまで数十秒。その間も《鼠》が何か言ってるが、耳に……いや、頭に入ってこない。
ふえぇ……柔らかいよぉ……
「い、いいから放せ!!俺はお前のヒゲの理由を聞きに来たんだ!」
いや、ほんとに止めて下さい。勘違いしそうになるからぁ!!
そんな俺の心の叫びが通じたのか、《鼠》は離れる。
「……いいヨ、教えてあげル。でもちょっと待って、ペイントを取るカラ……」
ん、んん?何でペイントを取るんだ?
……何か見てはいけない物を見てしまいそうだからやめておこう……
「や、やっぱり教えてもらう情報変更して下さい!さっきアイツらが言ってた《エクストラスキル》とかいうのについてで!」
すると《鼠》は少し迷った顔をするが答える。
「なんでも教えるって言ったからには、約束は守るヨ。でも、ハッチも一つ約束シロ。どんな結果になっても、オイラを恨まない、ってナ!」
……そんなヤバいことなのか?
「あいよ、システム様に誓って決して恨みませ〜ん」
少々ふざけて言ったが、それでも《鼠》は満足したように頷く。
そして頷くのをやめたら「ついてきナ」と言って歩いていくので、大人しくついていく。
野を越え、山を越え、なんてことはなかったが、かなり遠かった。
それこそ、何回内心帰ろっかなーと思ったのか分からないくらい。
……三十分くらいの道のりだったが………
着いた所は、周囲をぐるりと囲まれた場所だった。
小屋がポツン…と建っている。
《鼠》は躊躇せず入って行くのだが……
「……何してんだ?キリト」
後ろにちょこちょこ見える黒い影。
恐らく――というか百パーキリトだろう。
「い、いや……アルゴとエイトが話してる内容が聞こえちゃって……」
そう言って少しシュン、とするキリト。
くっ!リアルジョブお兄ちゃんが、年下の女の子にそんな顔をさせるわけにはいかん!
「い、いや…別に怒ってる訳じゃないから、取り敢えずその顔やめてくれ」
可愛いから、と心の中で付け足す。
……俺史上、小町と戸塚に並ぶ可愛さだ。
「取り敢えず中入ろーぜ」
「うん!」
で、中入ったら筋骨隆々のオッサンがいて、その頭上にクエスト開始点である証の!マークが付いている。
「あれ?キー坊もクエスト受けに来たのカ?」
「う、うん。そうなんだ、アハハ……」
「フウン、ま、いいカ。で、アイツが、エクストラスキル《体術》をくれるNPCだヨ。オイラの提供する情報はここまで。クエを受けるかどうかは自分逹で決めナヨ」
「「た、体術?」」
俺はおろか、キリトまで聞き返す。
「《体術》は、武器なしの素手で攻撃するためのスキル……だとオイラは推測してる。武器を落としたり、耐久限界で壊れた時とかには有効だろうナ」
おお……
武器(アニールブレード)が壊れた経験がある俺には、かなり魅力的に見えた。
それに、忍者×2がこだわってた理由も分かったが、わざわざ言う必要は無いだろう。
俺逹が、座禅のオッサンの前に立つと、オッサンが話しかけてくる。
「入門希望者か?」
「……そうだ」
「修業の道は長く険しいぞ?」
「え、ならいいで「望むところです!」」
ちょ、キリトさん?何故に被せてくるんですか?
その時、オッサンの頭上の!が?に変わった。クエストが始まった証だ。
オッサン改め師匠が連れてきたのは外――巨大な岩の前だった。
――まさかとは思うけど…
「汝らの修業はたった一つ。両の拳のみで、この岩を割るのだ。為し遂げれば、汝らに我が技の全てを授けよう」
嫌な予想が見事的中してしまった……
「こ、これを両の拳だけで……?」
さすがにキリトも戦慄している。
――よし、諦めよう。
クエストをキャンセルしようと師匠改めクソジジイに向き直る。
「「あの」この岩を割るまで、山を下りることは許さん。汝らには、その証を立ててもらうぞ」
そう言ってクソジジイが取り出したのは――――筆。
ま、まさか、《鼠》のヒゲの理由って――
そこまで考えたところで、ツボに突っ込んだ筆が、凄まじい早さで俺とキリトの頬に当たる。
……この野郎。
思わず《鼠》を睨む。
「いやー、得したナ、ハッチ!結果的に、《エクストラスキル》と《ヒゲの理由》が知れたんだからナ!」
……殴りたい、その笑顔………
「あ、あのさ……私達の見た目って、どうなってるの?」
「そーだナ、ひと言で表現すると……《キリえもん》に《ハチえもん》だナ」
そこで限界が来たのか手足をジタバタさせて転げ回り、「にゃハハハ!にゃーハハハハハ!!」と大爆笑し続けた。いつまでも、ずっと。
……俺逹は苦心の末、三日で岩を割れた。
………《鼠》のタダの情報程高いものはないと思い続けた三日だったのは、言うまでもないだろう。
次回、《儚き剣のロンド》入ります。