ソロアート・オフライン   作:I love ?

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《星なき夜のアリア》終了です。
いつもより少し長いです。
感想お待ちしています。


やり方を変え、されど比企谷八幡は一人で背負う。

ようやくボスが倒され、後方にいたセンチネルも霧散する。

松明の炎が更に明るみを増し、ボス部屋を照らす。

――本当に、やった、のか?

思わず辺りを見回す。

どこにもボスはもういない。

――終わった、のか……

ようやく安堵の息を吐く。

 

「お疲れ様」

 

「………」

 

キ、キリトさん?何故に怒ったような顔をしているのですか?

 

「何で……あんな無茶したの?」

 

あんな無茶……キリトを無理矢理攻撃範囲から退かしたことか?

 

「い、いや……攻撃を防ぐ自信があったもので……」

 

キリトは泣きそうな顔で言ってくる。

 

「もう、あんな無茶しちゃダメだよ?」

 

ここで断ったら、キリトは恐らく泣いてしまうだろう。

年下の女の子を泣かしてしまうのは、妹を持つお兄ちゃんとしても、男としても駄目だろう。

それに、ボッチの俺には泣き止ませる方法がない。

かといって、絶対にしないとは言い切れない。

効率が良いのなら、俺はさっきのようなことを、またするだろう。

俺だって命は惜しい、死にたくない、生き残りたい。

だから、ここで俺がすべき返答は、

 

「ぜ、善処します……」

 

その時、新たなシステムメッセージが視界に流れた。経験値。取得コル。そして、取得アイテム。

そのシステムメッセージが現れて、少しした時に、わっ!!と歓声がする。

両手を突き上げて叫ぶ者。仲間(笑)と抱き合う者。滅茶苦茶な踊りを披露する者など様々だ。

そんな中、こちらに歩いて来る人影――エギルさんだ。

 

「……見事な指揮だった」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

エギルさんは、そしてと続ける。

 

「それ以上に見事な剣技だった。コングラチュレーション、この勝利はあんた逹のものだ」

 

……どうやらわざわざ褒めに来てくれたらしい。

助けられた礼もしていないのでしておく。

 

「い、いえ、エギルしゃんも見事な剣技でしちゃ、助けてもらって、ありがとうごじゃいましちゃ」

 

くっ!!また噛んだ!!ただでさえ初対面なのに、歳上の人だと噛むに決まってるだろ!

エギルさんは気にしてないかのように、エギルでいいと言いながら右手を拳で差し出してくる。

これ以上掛ける言葉が見つからないので、

 

「……わかりました」

 

とだけ言って、せめて拳を当てようと思った時――

 

「――なんでだよ!」

 

それは悲しんでいるような、怒っているような、責めているような、そんな声音だった。

 

「――なんでディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」

 

C隊の……つまり今は亡きディアベルのパーティーだった軽鎧のシミター使いが叫んでいた。

果たしてそれは、俺に向けてかキリトに向けてか、はたまたこの場のベータテスター全員に向けてか。

 

「……見殺し…?」

 

キリトがぼやく。本当に意味が分からないのだろう。

 

「そうだろ!!だって……だってアンタは、アンタらは、ボスの使う技を知ってたじゃないか!!アンタらが最初からあの情報を伝えれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!!」

 

まるで伝言ゲームのようにレイドメンバーに伝わり、ざわめく。

 

「そういえばそうだよな……」

 

「なんで……?攻略本にも書いてなかったのに……」

 

……何を言ってんだ?コイツらは。

 

「ちょっと待って!エイトは……」

 

俺はキリトを手で制する。

……さて、どうするか。

ここでヘイトを俺に向けるのは簡単だし、得意だ。

しかし、それをしても相模の件とは訳が違う。

奉仕部の依頼でもなければ、誰も得をしない。

彼らは、自分の責任を誰かに背負わせたいだけだ。

ならば、俺がここで取るべき行動は――

 

「馬鹿なことを言ってくれるな、役たたず共が」

 

しん、とボス部屋が静まりかえる。

 

「や、役たたずだと!?」

 

さっき叫んでいたシミター使いが言い返してくる。

 

「違うのか?ディアベルが死んでからろくに戦えず、レイドを壊滅寸前まで追い込んだ張本人逹だろ?」

 

それは事実だと認めているのかぐっ、と押し黙る。

 

「そもそもだ、情報本には書いてあっただろ?【情報はベータ時代のものです】ってよ」

 

正論を言われたり、図星を突かれたら人は大体怒るものだ。

アイツらも知らない内に、ヘイトは俺に向けられている。

 

「それでも情報がなかったのは事実、だが情報不足はベータテスター逹だけのせいじゃない、お前逹ビギナーのせいでもある」

 

もはや何も言えないが、俺に憎悪の視線だけは向けてくる。

 

「そもそも、お前らが役たたずでいた間、戦線を支えたのは誰だ?お前逹が嫌う俺逹ベータテスターだろうが」

 

実際は俺は違うけどな……と心の中で付け足す。

さあ、いよいよ〆だ。

 

「それをディアベルが死んだのは俺逹ベータテスターのせい?冗談言うな、お前逹が『役たたず』だったせいだろうが」

 

その言葉に今にも斬りかかって来そうなプレイヤー逹、だが、ギリギリのところで抑えている。

……よし、これでいい。少なくとも感情論で納得していないが、理屈では理解しているのだろう。

ベータテスターへの憎しみは、少しは収まり、代わりに俺にぶつけてくるだろう。

 

「分かったら、さっさとはじまりの街でも行って伝えてきたらどうだ?『一層は突破されました』とでも」

 

その言葉にパーティーごとに解散していく。

……ふう、あんなに喋ったから疲れた。

しかし、作戦は上手くいった。

――ディアベルが死んだのは全員のせいだ。

この『全員同じ』というのが人を妥協させ、安心させる。

ならば、その事実を伝えてやればいい。

何故ディアベルは死んだ?

――情報がなかったからだ。

何故情報不足になった?

――攻略本を過信し、収集を怠ったからだ。

ならば、それは誰のせいだ?

――情報収集を怠ったプレイヤー全員のせいだ。

つまり、ディアベルの死=全プレイヤーのせいという等式が成り立っているだろう。

さて、問題を解消したがどうするか。

アニールブレードよりは劣るが、武器はあるにはある。

――と、その前に

 

「キリト、今からアイテム送るからOK押してくれ」

 

「え?う、うん……」

 

俺はボスのLAボーナスの《コート・オブ・ミッドナイト》をキリトに渡し、ウィンドウを閉じる。

――これでデスゲーム開始の最初の時の借りは返したからな。

心の中でそう思いつつ、俺は二層に続く階段を登った。

……後ろからキリトの悲鳴に似た驚きの声が聞こえたのは幻聴だと思いたい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何しに来たんだ?お前」

 

今、俺の目の前には、フードを取った細剣使い――――アスナがいた。

アスナは二層の眺望に小さな声で「きれい」と呟いてから俺に向き直る。

 

「エギルさんと、キバオウから伝言がある」

 

うわあ……あまり聞きたくないな………

 

「そうか、ご苦労さん。じゃ」

 

そう言って逃げようと思ったのだが……

 

「ぐえっ」

 

……何回俺は襟掴まれるんだよ…………それも女子に。

 

「まずエギルさんからは『また二層のボス攻略も一緒にやろう』って。キバオウは……」

 

あれ?案外まともだ。まあ、『ボス攻略来なかったらどうなるかわかってんだろうな、ああん?』という意味だろうが。

キバオウ……キバオウ?誰だソイツ?あっ、あのモヤットボールのことか。

 

「……『今日は助けてもろたけど、やっぱり納得出来ん。わいは、わいのやり方でクリアを目指す』だって」

 

……うん、再現しようとしたのは嬉しいんだけど……

 

「言っとくけど全く似てないからな、関西弁」

 

すると恥ずかしかったのか、顔を赤くしながら言ってくる。

 

「う、うるさいわね!……んんっ!あと……これは、わたしからの伝言」

 

伝言っていうか、直接言ってますよね……

「あなた、戦闘中にわたしの名前呼んだでしょ」

 

あー、あの時は余裕なかったからなー、やっぱりキモかったかなー。

 

「悪かったよ……名前で呼んだりして……次からはちゃんとフェンサーさんって言う「違う」よ…」

 

なんだ?名前呼ぶのやめろってことじゃないの?

あとは……これはないと思うけど

 

「何?読み方が違った?」

 

すると怪訝な顔をするフェンサー……いや、アスナ。

……何で心の中でフェンサーさんって言ったこと分かって睨んでくるのん?

 

「……そうじゃなくて、何で名前教えてないし、あなたのも教わってないのにどこで知ったの?」

 

なんだ……そんなことならキリトに聞けよ、めんどくさ……いえ!アスナさんに教えることが出来るなんて、光栄の極みであります!!

……だから何で思っていること分かるのん?

 

「もしかしなくてもパーティー組むのは初めてだよな……」

 

迷宮区に三日以上籠ってる奴がパーティー組んでた訳ないか……

 

「左側に自分のじゃないHPバーがあるだろ?その下に何かないか?」

 

「え…」

 

呟き、顔ごと動かそうとするので、言っておく。

 

「顔ごと動かしたら意味ないぞー」

 

言った瞬間顔をピタッと止める。ダルマさんが転んだかよ。

 

「き…り…と?それがあなたの名前?」

 

何?俺は名前すらも影薄いの?

 

「違う。他にないか?」

 

「ない、けど……」

 

あっ、そういえばパーティー脱退してたの忘れてた。八幡うっかり、テヘペロ。

 

「……そういえば俺、パーティー脱退してたわ…」

 

「……それを早く言いなさいよ……」

 

ジト目で睨んでくるアスナ。いや、だって名前聞かれたことないし……

 

「……で、あなたの名前は何なの?」

 

「……エイトだ」

 

……自分で自分のキャラクターネーム言うの凄い恥ずかしいんだけど……

 

「……ほんとはね、エイト、あなたにお礼を言うために追いかけてきたの」

 

お礼?なんだ?

 

「なんだ?迷宮区のことか?それともパンか?」

 

あえて風呂のことを出さない。だってまだしにたくないもん!

 

「そうね……いろいろ。いろんなことのお礼。わたし……この世界で、初めて目指したいもの、追いかけたいものを見つけたの」

 

「……そうか、そりゃ良かったな」

 

……コイツは、もうあまり無茶はしないだろう。そんな確信があった。

 

「わたし、頑張る、頑張って生き残って、強くなる。目指す場所に行けるように」

 

「ああ……お前は強くなれるよ」

 

コイツは自分の居場所を見つければ強くなる。そのことは(他称)ひねくれ者の俺にだって分かる。

 

「じゃあ……またね、エイト」

 

そう言って扉の方に歩いて行くアスナ。

……これだけは今言わなくてはいけない気がした。

 

「アスナ、この世界……《ソードアート・オンライン》はクリア不可能じゃない、だろ?」

 

小さく、しかし確実に頷いたアスナは、今度こそ戻って行った。

 

「……行くか…」

 

あらかじめ《鼠》から買っておいた、近くの街の場所に行こうとした時、《鼠》から、フレンド登録しておけば(俺はさせられた)出来るメールが届いた。

【依頼はできたカ?ハッチ】

 

ボス攻略が終わったともう知っているのか……と《鼠》の情報網に少し恐怖しながら読み進めると、

 

【多大な迷惑をかけたみたいだシ、特別報酬で情報をなんでもひとつタダで売るヨ】

 

ほう、《鼠》にしては気前が良すぎて怪しいが、試すだけならタダだ。

 

【依頼は出来た。特別報酬だがおヒゲの理由を教えてもらう】

 

恐らく俺は、ボス攻略の時より悪どい顔をして、無理矢理フレンドにされたことの意趣返しのメールを返信していただろう。

 




次回《体術スキル》
ただ八幡はまだスキルスロットに入れることができません。

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