ぼーなすとらっく! とExtra Questの違い? 俺ガイルキャラが登場する番外編がぼーなすとらっく! で、SAOキャラが登場する番外編がExtra Questです。
ともあれ、比企谷八幡は平塚静に頭が上がらない。
夏休みの平和な昼下がり。独り暮らしのアパートにスマホの着信音が鳴り響く。スマホ画面を見ると、平塚先生から電話が来たことが窺える。
『比企谷。ちょっと総武高に来い。可能なら高校の制服でな』
「……はい?」
……唐突すぎる。
突然の召集命令だが、俺は基本平塚先生に逆らえないのだ。高校時代は暴力的な意味だったが、今は恩義的な意味で。
SAO事件から帰ってきて、一年の遅れは消せなかったものの、平塚先生の懇願がなかったら大学に行くまで、四年も遅れていたのだ。その恩は大きい。結婚申し込まれたらOKしちゃうまである。誰か、本当に早く貰ったげて!
まぁ、夏休み中だし、久しぶりに愛しの千葉に行くのも吝かじゃないし、久しぶりに千葉県のラーメン食いたいし、それはいいのだ。まぁラーメン店くらい東京にもあるけど。
「……なんでお前らまで呼ばれてんの?」
「反応遅くないッ!?」
「こっちが聞きたいくらいなのだけれど……」
俺と同じ総武高の制服に身を包んだ雪ノ下と由比ヶ浜が、俺と同じく放置されている。いや、来た理由が俺と同じか知らんけど。
「お、三人揃ってるな」
俺がここの生徒だった頃に比べ、平塚先生は若干よれよれになった白衣以外特に変わりはない。バッカーノ! してきちゃったんだろうか。平塚先生酔っ払ったら本当に馬鹿騒ぎしそうで怖い。
「先生、これは……」
「ん? ああ、説明はちゃんとするさ。付いて来るといい」
雪ノ下の問いをバッサリ切り、バサッと白衣を翻し、さっさと歩いていってしまう。ちなみに韻踏んでます。
「ひ、ヒッキー? なんで胸押さえてるの?」
「……気にすんな」
ちょっと白いものが翻ると、
「何をやっているのかしら、この男は……」
「うっせ。そもそもお前は押さえる胸もね……」
久しぶりに会うからか、言い返しのさじ加減が判らん。が、今のは失言だと断定できる。フッ、比企谷八幡はクールに去るぜ。
「待ちなさい」
たった五文字の言葉に俺は震え上がり足を止める。……何? お前威光のギフトでも持ってんの?
二年前より背が数センチ高くなった俺を睨む。はちまんのぼうぎょりょくがさがった!
「そもそも胸というのは体の部位を指すものであり比べるものではないの言ってしまえば脂肪なのよ使うときといったら授乳するときくらいなのだけれど私には関係ないしそもそも大きければいいというものでもないでしょう肩凝りの原因になったり服のサイズが合わなくなったり一概にいいとは言えないのよだから……ケホッケホッ」
「……はぁ。ほれ、水やる」
「……結構よ。自分のがあるもの」
捲し立てて喋りまくったせいで噎せた雪ノ下に親切に水をやろうかと思ったのに断られ、制服に合わせてなのか、学校指定のバッグから水色の水筒が出てくる。なんかなんでも入ってそうで怖いな。なんとかしてよ、ユキえも〜ん!
「それにしても、ヒッキーマジでキモい! 女の子に胸の話するとか……」
「おいキモいとか言うのマジやめろ。最近耐性ないから泣いちゃうだろーが」
「うんうん、仲良きことは美しきかな。だが時間がないから早くいくぞ」
カツカツと音を鳴らし、体育館方面に歩いていく平塚先生。……これは、ろくなことがないな。俺の
「ここで待っていてくれたまえ」
「はあ……」
体育館の隅っこのパイプ椅子に座らされ、マジで現状がわからん。なにこれ、学校見学ツアー? 一応俺達卒業生ですよ?
「……なぁ、なんで呼ばれたのかお前ら知ってる? しかも制服で」
「あたしはなんも知らないよ。ただ来てくれ〜って平塚先生に電話されただけだし。ゆきのんは?」
「私も詳しい話は聞いていないわ。まぁ、付いていけば分かると言っているのだし、ここは大人しく付いていきましょう」
「俺が言うのもなんだが、お前らよく来たな」
台所のゴキブリホイホイに掛かっちゃうゴキブリ並みにチョロい。いや、ゴキブリチョロいか知らんけど。家で見たことないし。マイエンジェル小町の掃除をなめちゃいかんぜよ!
「私はこう見えて負けず嫌いなの。依頼をすべて消化しないで奉仕部としての活動を終えるなんて、私自身が許さないわ」
……見たまんま負けず嫌いだ、お前は。もうその鋭い目からしてにらめっこじゃ負けません! って言ってるようなものだから。恐怖で笑わせるタイプな。
「いや、負けず嫌いと今回の件を受けんの、なんか関係あんの?」
「あ、それあたしも聞きたい」
俺だけが訊いたら「は? 自分で考えたら?(ツンデレではない)」みたいな顔してたのに、由比ヶ浜が同意したとたんに「仕方ないわね……べ、別にあんたのためじゃないんだからねッ!(ツンデレ)」の顔をした。二年経った今でも、ゆるゆりは健在です。
「由比ヶ浜さんは知らなくて当然でしょうけど、比企谷くん。あなた取り柄は記憶力だけなのでしょう? 仮にも奉仕部に入るきっかけにもなった依頼なのだけれど」
「なんだ雪ノ下、今日は今までで一番優しいな。お前が俺の長所を出すなんて。それともなに、その長所ですらお前に及ばないという超高度な皮肉?」
「いいえ、あなたのメンタルを挽き肉にするための皮肉よ」
「怖ぇよお前。これ以上俺の精神ズタズタにしてどうすんの? お前使徒かよ」
俺二号機乗ってないよ? A.T.フィールドは常に全開だけど。こいつの場合後光で俺を浄化しそう。しかし嘗めてはいけない。俺の眼の汚れは水垢並みに取れにくいのだ。
「何を言ってるのかしらあなたは……」
「ちょ、ゆきのん! 話ずれてるずれてる!」
俺と雪ノ下のお互いノーコンの言葉のキャッチボールを由比ヶ浜が巧く軌道修正する。なんなら星の軌道も変えられちゃうレベル。
「……あぁ、なぜ負けず嫌いとここにいる件が関係あるのか、という話だったわね」
「そうそう」
由比ヶ浜がヘッドバンキングばりに頭をブンブン振る。そんな頭振ったら脳味噌シェイクされんぞ。
「そうね……。まずそこの男はふざけた作文を書いて、平塚先生に強制入部されたのよ」
「おい待て。断じて俺はふざけてない。俺の考えが独特すぎて理解されなかっただけだ。言うなれば俺は信長だぞ、信長」
「あなたが信長と共通していることと言えば、裏切られることだけでしょう?」
「クッ、なにも言い返せねぇ……」
「ちょ、二人とも、またずれてるって! 話がヒッキーが入部した理由しかまだ話されてないよ!?」
「あら、話を逸らすのが上手いわね、逸らし谷くん?」
「なにそのなんでも物事を曲解して認識しそうな名前。あながち間違いじゃないだけに否定できなかったんだけど」
ちなみに過去形なのが味噌だ。今はもう勘違いはしない。ぼっち三原則は今でも胸に刻まれている。
「さて、続きを話すと……」
華麗にスルーされた。まぁこいついつかの体育祭でも空気投げしてたしな。さすがは無視ノ下さんだ。
「簡単に言ってしまえば、入部する際に先生にこの男の調きょ……人格矯正を依頼されたのよ」
今調教って言った? 今調教って言った? え、あの部屋は動物園かなにかなの? それとも水族館? 水族館は魚の調教はしないよ? 多分。
「ほえぇ〜……。でもその依頼って達成したの?」
「あら、愚問ね、由比ヶ浜さん。そのためにわざわざここまで来たのよ? 比企谷くんを調きょ……矯正するために」
……いや、もう言い直さなくていいけどね? ……待て、それだと俺が嗜虐されるのを好むドMみたいだな……。
というか、超ポジティブに考えたら「俺のためにわざわざ来てくれるなんて……感激ッ!」って捉えられるけど、まぁ当然、純粋に依頼完遂しないと気が済まんだけだろうな。……こいつ完璧主義者だし。
「……依頼と言えば、俺がいない間に他になんかあったのか?」
「あ、あ〜……まぁ、色々?」
「超曖昧な上になんで疑問系? いや、別に教えたくないなら無理する必要もないけど」
「いや〜、そういう訳じゃない、けど……」
「まぁ色々とあったのよ、色々、ね……」
「お、おう……」
なんか逆に気になるんだけど……。まぁ哀愁漂う雰囲気を感じる限り、この話題は避けよう。ちゃんと空気を読める俺、超紳士。
……なんか今日、超言い過ぎじゃね? そのうち窒素操れそう。
そんなアホな思考は、数秒後停止する。
「え? え? え? どういうこと?」
俺が聞きたい。……なんで、夏休みなのに……総武高の全校生徒が体育館に入ってくるのん?