そして、ディアベルのセリフが長い。
広場にいたプレイヤーの数は、四十五人だ。
ボス戦は6×8の四十八人がセオリーらしいが、三人足りない。
……ていうか俺、よくソロでフィールドボス倒せたな…
今更ながら冷や汗をかきながら、人数が少ないことに溜め息をつきそうになるが……いや、よく集まった方か。
フェンサーも
「……こんなに、たくさん……」
「まあ、そうだな……」
命を懸けたデスゲームにしては、よく集まったほうだろう。だが……
「けど、全員が全員、死ぬかもしれないってことを覚悟しているわけじゃないだろうな……」
「……どういうこと?」
まあ、普通はそう思うだろう。
「……自分が死ぬわけないと思っている奴、まだ一層だから楽勝、とか思っている奴がいないとは言い切れないだろ?」
言うとフェンサーは首を上下させる。
俺は更に続ける。
「それにあいつらは最前線から落とされるのが怖いんだ」
フェンサーはよくわからなかったのか首を傾げる。
「……要はトッププレイヤーでいたいがために会議に来てる、って認識でいい」
くそぅ、この空気で話すの疲れるでごじゃる……
「……それって、学年十位から落ちたくないとか、偏差値七十キープしたいとか、そういうのと同じモチベーション?」
……数学学年最下位だった俺にはよくわからん例えだった。
……いや、だって数学なんて将来使わないじゃん……
「……わからんけど、そうなんじゃねーの?」
俺がそういうとフェンサーはふ、ふ、という声が聞こえた。
……笑っているのか?この仏頂面のフェンサーが?迷宮区から助けても、感謝の言葉の一言もなかった礼儀のれの字もないようなコイツが?
と、内心失礼なことを考えていたとき、パン、パンという音が聞こえてきた。
「はーい!それじゃ、五分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に……そこ、あと三歩こっち来ようか!」
俺はみんなに含まれてないからこのままでいいかなー、と思っていたら
「はい!そこ、早く動いて!」
と言われたので移動する。
ちなみにフェンサーはもう居なかった。
……アイツ、隠蔽スキル上げてんじゃねぇの?
声をかけてきた片手剣使いは、広場中央にある噴水の縁に助走なしで飛び乗る。
……アイツ、敏捷、筋力共に高いな…
さすが一層ボスを倒そうと思っている奴だ、と思っていたら、集まっているプレイヤーの一部が小さくざわめいた。
……ああ、そういうことか。
片手剣使いの容姿は、文句なしのイケメンで、髪は青かった。
髪染めアイテムでもあるのだろうが、店でも見かけず、ドロップもしなかったため、レアドロップかクエストの報酬だと推測。
その男は、リア充感溢れる笑顔で、
「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!知っている人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!オレは《ディアベル》、職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」
……その自己紹介からリア充と断定、俺の目はすごい勢いでもっと腐っているだろう。
……密かにディアベルのことを心の中でリア充(笑)と呼ぶことにする。
「さて、こうして最前線で活動してる、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど……」
リア充(笑)の演説の続きで密かな決意を一旦止めて、話に集中する。
「……今日、オレ逹のパーティーが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり、明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くってことだ。第一層の……ボス部屋に!」
やっぱり、パーティーの方が攻略が早いのだろうか。
……まあ、ソロのプレイスタイルを変える気はないが。
「一ヶ月。ここまで、一ヶ月もかかったけど……それでも、オレたちは、示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、はじまりの街で待ってるみんなに伝えなきゃならない。それが、今この場所にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」
……そんな義務捨ててしまいたい。
と思ったが、フェンサーの方をチラリと見て、
(アイツには散々偉そうなこと言ったしなぁ…)
俺はいつだって独りでやってきたため、責任も全て自分の物だと考えている。
せめて、アイツにはその義務を果たしてやる、と思っていたら、
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
そう言って乱入してきたのは……何かモヤットボールみたいな頭をしたやつだった。
「そん前に、こいつだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」
その言葉にリア充(笑)…いや、真面目そうな空気なので直そう……で、ディアベルは顔色一つ変えずに
「こいつっていうのは何かな?まあ何にせよ、意見は大歓迎さ。でも、発言するならいちおう名乗ってもらいたいな」
「………………フン」
モヤットボールは盛大に鼻を鳴らし、不機嫌そうに階段を降りてくる。
「わいは《キバオウ》ってもんや」
モヤットボールはキバオウと言うらしい。
「こん中に、五人か十人、ワビ入れなあかん奴らがおるはずや」
「詫び?誰にだい?」
キバオウは憎々しげにいい放つ。
「はっ、決まっとるやろ。今までに死んでいった二千人に、や。奴らが何もかんも独り占めしたから、一ヶ月で二千人も死んでしもたんや!せやろが!!」
その言葉を聞いた途端、約四十人の聴衆が黙った。
「――キバオウさん。君の言う《奴ら》とはつまり……元ベータテスターの人たちのこと、かな?」
今初めて険しい顔をしたディアベルが確認する。
「決まっとるやろ」
……どうやら聞くに耐えない話のようだ。
「ベータ上がりどもは、「なあ、ディアベル。俺、帰っていいか?」ってゴラァ!まだワイが話しとるやろ!」
ウルセェな……大体言うこと分かるんだよ……
「大体言いたいことが分かるんだよ……」
「じゃあ、言うてみい!」
邪魔されて随分ご立腹ですね……キバオウさん……
「ベータテスターは最初、ビギナーを見捨てた。その間に自分たちだけ強くなった。二千人が死んだのは、ベータテスターのせいだ、だからアイテムやらコルやら損害・賠償しろ……だろ?」
するとキバオウは面食らったのか、
「あ、ああ……せや」
よし、認めたな?
「まず一つ、ビギナーを見捨てた、これはお前が逆の立場で考えろ。約九千人にものコーチができるかどうか」
「二つ、自分たちだけが強くなった、強くなるにはいい狩場やクエスト…要は情報だ。それは入手する機会はビギナーにもあった。貰わなかったか?道具屋の攻略本」
「で、三つ、アイテムやらコルを賠償しろ……これが一番馬鹿だ。そんなことしたら、ベータテスターが戦力にならない。お前はさっき、ベータテスターはこのなかに五人、十人いる、といった。さあ、ここで問題です。三十数人のビギナーで、ボスが倒せるでしょうか」
はあ…疲れた……わざわざその考えはまちがっていると教えてやったんだから感謝して欲しいくらいだ……
俺は席に戻る。
ディアベルが仕切り直すように、
「みんな、それぞれに思うところはあるだろうけど、今だけはこの一層を突破するために力を合わせて欲しい。どうしても元テスターとは一緒に戦えない、って人は、残念だけど抜けてくれて構わないよ。ボス戦では、チームワークが何より大事だからさ」
キバオウはこちらを睨んでいたが、無視しているとやがて席に戻った。
――こうして、一回目の会議は終わった。
八幡がキャラ崩壊してないか不安です……