……いや、ほんとすいません。だけど言い訳はさせて下さい!
いや、ほら、新生活ってなれないじゃん。しかも執筆今まではガラケーだったのにスマホになってからやり辛くてしゃーないし。
……うん、はい、それだけです。あとはなんかエタってました。
もしかしたらまた次の更新も一ヶ月後(そのくせ文量は変わらない)かもしれない駄作者ですが、これからもソロアート・オフラインをよろしくお願いいたします!
八幡たちの仮想世界での物語はまだまだこれからだ!
詰み。
それはどう足掻いてもどうにもならない状況のことを指す。そも、つみと読む言葉にロクなもんはない。例えば罪であったり、もしくは積みであったり……。
日本語を作り出した人にはつみという響きに何か恨みがあるのだろうか。
もう一つ問いたいことがある。
この状況は俺の罪が積み重なって詰みになったんですかね?
× × ×
「……よし、取り敢えず落ち着こうぜ。な?」
俺の命を永らえさせるためにも状況を説明するにも兎に角冷静さが必要だ。いやまぁ気持ちはわかる。俺で言うならざい、ざい……ざい何とかが幼女を連れ歩いていたのを目撃してしまった気分にキリト達はなっているはずだ。何それ、俺じゃなくても通報するだろ。
まぁ幸いSAOには運営がいないので「通報? HA? どこにすんだよww」と言える無法地帯みたいなもんだが。
「……ねぇ、アスナ。知り合いが幼女を家に連れ込んでいるのを見た時、人はどんな顔をすればいいの?」
「そうよねぇ〜、親類なら2年間ハチ君と一緒にいた私達が知らないのはおかしいし、単なる迷子なら家に連れて来る必要はないし、何より……パパって呼ばれてたものねぇ」
「ちちちち、違う……俺にそんな趣味はねぇ……」
俺はパパと呼ばれるなら悠木碧さんに呼ばれたいんだ……。だって千葉県出身だしぃ? 小町に声似てるしぃ?
「……なら
「い、イエス、マァム……」
× × ×
「……それ、ホント?」
「残念なことにマジな話なんだよ……」
俺がこいつを見つけて家まで連れて来た経緯と俺の憶測、そしてこの娘が俺をパパと呼ぶのは起きて初めて見たのが俺ということに対しての刷り込みだろうという事を念入りに話した。特に後者。
「…………エイトらしいね」
「は?」
何かを呟いたのであろうキリトの声を残念ながら捉えることができず、何を言ったのかわからない。しかし大した話でもなさそうなので追求することはしない。深追い、ダメ、絶対。
「……ねぇ、じゃあこの娘どうするの?」
「取り敢えずはじまりの街辺りに行って情報収集、だな。こんな小さい奴が街から出るとも思えん。拠点にしているとしたら八割がたそこだろ」
「でも、そもそもユイちゃんの保護者っているの?」
アスナが一番の懸念事項を問うてくる。やめろ、言うな。
そんな俺の想念が伝わったのかは知らんが、アスナがハッとしたような顔になる。当のユイは言ってることが理解できないのか、外見よりも更に幼い仕草で首を傾げていた。
最初からこの世界に存在しないならばまだいい。だが、存在していたのにいなくなったのなら。そのショックでユイは記憶を無くしたのなら何故子供一人で、あんなとこにいたのかの説明はつく。まぁ、システムウィンドウの異常化の説明はつかないが……。
「まぁ、何回でも言うが何にせよ街に行かんことにはどうにもならん」
「ん、手伝うよ」
「……いいのか? 血盟騎士団の仕事とかあるんじゃねえの?」
「ないね」
「ないわね」
「……思いの外血盟騎士団ってホワイトギルドなの?」
そんな呟きに目を逸らした二人を見て、俺は何かを察した。
大変ですね……。
× × ×
アインクラッド一層主街区にして最大の街、そしてその名の通り俺たちの二年間が始まった街ーー《はじまりの街》。
あの日から実に二年間が過ぎている。緋く、緋く染まっていた空は清々しいほどに青いが、瞼を閉じればあの光景が蘇る。
コツコツやる作業は嫌いじゃない。だが二年は長過ぎた。長さで言えば俺がここで過ごした時間は既に俺の高校生活を超過していて、密度で言えば俺のどんな二年間より濃い。
「……? どうしたの?」
「いや……、思えばお前らとも二年近い付き合いになんだなと思ってな」
「……そうだね。私、このゲームが始まった頃は……ううん、このゲームに入る前は二年間がすごく長く感じたけど……ここではあっという間だった」
「まぁ、なあ……」
生き残るために日々我武者羅に生きていると、一日一日が短く感じる。密度は現実にいた頃より遥かに濃いというのに……。いや、だからこそなのかもしれない。
「ま、それはそれとしてだけど……人が心なしか少なくない?」
「はじまりの街で人が集まるのはマーケットの方じゃない?」
「どうだかな、軍が横行してんなら出てこなくてもおかしくはないぞ」
「?」
トテトテと近寄ってきたユイを負ぶさり、久々の町並みを眺めながらゆったりと歩いていく。
この街にいるのは死に恐怖し、現実世界への帰還を諦めたもの……いや、現実世界への帰還を他人に任せた者たちだ。死ぬのは誰だって怖い。だからその事に思うところはない。別に俺たちはこいつらのために攻略を進めてきたわけでもなし。
手がかりもなんもないので、取り敢えずは人を探すのが得策だろう。しかし今更ながら軍のせいで決して治安がいいとは言えないこの街にユイみたいな小さい子がいるのだろうか。不安を後押しするように街は寂れていた。
キリトにアスナも軍の話は当然知っているため警戒は怠っていない。だからこそおかしい。常に気を張り、気配に敏感になっているのに人の気配が感じられないのは。
「……あんたら、余所モンか?」
さらに数分歩き、ようやく疎らに人を見かけるようになった頃、四十代くらいと見受けられる男が一本の木を見たまま問答してきた。
「……その通りだが?」
「なら早く帰んな。ここはもう安全な圏内じゃねぇ。軍の
「…………」
「あ、っと、あなたはここで何をしてるんですか?」
軍の税徴収の噂が真実だと知り、微妙な空気になったのを修正したのはやはりというかアスナだった。このコミュニケーション能力は先天性か後天性か、気になります。
「……企業秘密だ……と、言いたいとこだが余所モンならいいか……。実はこの木からたまに果実が落ちてくんだよ。食っても美味いし、売ったらそこそこ金になる」
「ほー」
「へー」
フィールドに出ないプレイヤーでも最低限生き延びられるだけの収入を得ることができるようにするのは茅場晶彦くらいだろう。
「ちなみに幾らなんですか?」
料理に造詣が深い我らが閃光アスナが尋ねると、男は一瞬思案顔を浮かべ、そして衝撃的なお値段を告げた。
「一個五コルだ」
男が言ったことがここに暮らすプレイヤーの情勢を物語っていた。
プレイヤーが経営する店でアルバイトができないこともない。しかし文字通り【はじまりの街】であるここにプレイヤーショップなんざロクにない。その上未だ数千人というプレイヤーがここにいるのだ。自分で店を出そうにもその元手がない。加えて軍の税徴収だ。
他の層に行っても圏外に出ないでもできる仕事がない。鍛冶屋? 鍛冶スキルの熟練度が足りない。情報屋? 二年間ここにいたのに情報を集めるだけの人脈がない。プレイヤーショップの店員? そんなものやっている奴が希少だ。
それに他の層に行こうとも自らの停滞と惨めさを再認識するだけだ。誰もが前に進んでいるのに自分たちは留まり、恐怖心に足がすくんで動き出せないでいる。そんなものを味わうなら、いっそのことこのままここで不変の日常……いや、非日常を過ごしていた方がいいのだ。
「あの……この街のすぐ近くにいるモンスター一匹倒せば三十コルくらい手に入ると思いますよ?」
「何言ってんだアンタ。モンスターなんかと戦ったら死んじまうかもしれないだろうが」
キリトの発言にすくま否定的案を唱え、口を固く結んでしまう。もう話す気はない、ということだろう。
キリトの言ったことは決して間違ってはいない。MMORPGとしての視点から見ても正しいし、事実俺たちはそうすることによってアインクラッドでの生計を立ててきた。
だが一つのミスが命取りになる戦闘をやりたいと思う人は誰もいない。今でこそ俺たちはそれを当たり前にやっているが、SAO開始初期の俺たちは……少なくとも俺は、常に精神を鋭くし、一部の油断もせぬよう戦いに臨んだ。死なないように、生きて現実に帰るために。
彼に限らず、この街にいる奴にとって、生きて現実に帰る手段というのはアインクラッドの攻略ではなく安全な圏内に引きこもり、外部からの助けを待つことなのだろう。
二年間も一切外部からの干渉がないのだから救助なんて不可能だと気づかない彼らはきっと愚かと形容すべきなのだろう。だがおかしいのはこの世界のルールに遵守し、モンスターを倒して生きている俺たちなのかもしれない。
攻略組もまた、百層を攻略すれば現実に帰れるという確証のない希望に縋り付いている者たちの集団に過ぎない。それも彼らから見たら愚かしいことなのだろう。
だからどっちが正しいかなんて、俺なんかにはわからない。
なによりーー俺は、あの戦いから自分の判断に自信を持てなくなってしまったのだから。