感想。
世界最強の剣士で一騎当千の整合騎士の長、ベルクーリがベクタと相打ったのが何とも……。太陽神ソルスことシノン、地神テラリアことリーファを始めとしたキリトの仲間たちや日本のゲーマー達の参戦はネット小説時代と同じ展開(読んだことないけど)でも熱かったです。スリーピング・ナイツ……君達生きてたのか(嬉し泣き)。だがアメリカ、お前はダメだ。シェータとイスカーンという人界とダークテリトリーの共存の道への希望の芽を摘んだんだからな。
それにPoHの再登場。相変わらず洗脳じみたことをしていましたね。
そしてキリトにようやく復活の兆しが……と、今までの伏線回収や絆、そして新たな展開への移行が見られる盛りだくさんの巻でした。
……作者的に気になってた『シノンはキリトがライクで好きなのかラブで好きなのか』という疑問も氷解してスッキリしました。その時のアリスの言葉はもう……たまりませんな。
……はい、長々とすいませんでした。最後まで読んでくださった方はありがとうございます。
……あ、ファナティオさん、おめでとうございます。でもなぁ……、今巻一番報われていない人だと作者的に思いました。
……ヤベェ、なんて言おうと思ってたか一瞬で全部吹き飛んだ。脳内が人類最強ゲーマー兄妹のユーザー名だ。
「えっと、そのだな、ゆ……誘拐したわけじゃあないからな?」
おい、もっと先に言うべきことあんだろ……。自分でも自分のコミュ力の無さに驚愕するわ。
それにしても、限りなく人に近い人形かと思うほどに表情筋が微動だにしない。だがナメるなよ、雪ノ下の絶対零度の視線を受け続けた俺の精神は無表情の顔くらいじゃ傷つけることは出来ないぞ。
……だとしても、話しかけることが出来るかと問われれば断じて否だが。
「えっと……名前とか……訊いていいか?」
「?」
う、うーん、不思議ちゃんなの? 名前訊いたら首傾げちゃったよ……。
小町とも留美とも違う年下タイプである。幼児と呼べるくらい小さい子だったら元気いっぱい話しかけてきたことに応答するだけでいいが、この子くらいの年のやつが俺くらいの年のやつに話しかけるのはかなりハードルが高い。故に話しかけるべきは俺の方なのだが……。
「その、俺はエイトって言うんだ」
「え……と?」
「エイト、な」
たどたどしく復唱した少女に諭すように返し、まぁ俺を指しているとわかる名前なら何でもいい。
「言いづらいなら何と呼んでもいいぞ?」
「カ……エル? ……パパ」
ちょっと? この娘パパ言う前にカエルって言ったよな? ていうかパパ? ちょっとそれは……俺にそういう趣味があるみたいだからやめて欲しいなー……と思ったり……。
「パパ……パパ!」
「お、おう、そうだな、パパだぞー……」
まだ結婚はおろか、DTだというのにパパかよ……。……あれ、じゃあ小町は齢十七にしておばさ……やめよう、今まで積み上げたポイントがマイナスカンストしてしまう。いやでも予想外に冷たく「バカなの?」とか言われたらゾクゾクしちゃうかも……。
会話の糸口が全く見つからず、変態思考に染まりかけていた時キュルルルと細い音が鳴る。この娘の腹の音らしいが、当の本人は理解できずにまたもや首を捻っている。
取り敢えず、飯をもっかい作ってやるか……。
× × ×
起きて初めて見たのが俺だからという刷り込みか、はたまた飯を食わせて餌付けしたからか少女は非常に俺に懐いた。出来れば前者ではないことを希う。この娘の記憶がないのは俺にとってもこの娘にとっても得にはならない状況だ。
……あ、名前まだ聞いてなかった。
「改めて訊くが……名前は? 何で自分がここにいるのとかはわかるか?」
「な……まえ、はユ……イ。他、何も……わから、ない」
……最悪のパターンだ……。
両手に白旗を持ってお手上げしちゃうくらいにどうしようもない。だが放っておくわけにもいかんか……。この娘の記憶でこの不可解な状況がわからないのならば、どういう状況だったら今みたいな状況に陥るのかで考えるしかない。
何にせよ、今すべきことは情報収集だということだけは明確だ。
うん、それはそれとして、頬を引っ張るのやめてね? 楽しそうにしてるのはいいけど、頬に軽い電流を流されてるみたいな感覚がするから。
そこでこの娘が見ず知らずの俺に対しての警戒心が全くないことに気づく。俺は自分が人一倍他人に警戒されやすい容姿であると自覚している。そんな俺に対して警戒心が皆無なのは家族か純真な奴だけだ。つまり、家族以外には天使と幼児しかいない。
しかしこの娘はどう見ても幼児と呼べる年齢ではない。……見た目に限って言うならば。……中身はどうなのだろうか。
自衛本能が働き、過去の記憶を無くして心の平衡を保つために幼児退行をする話を聞いたことがないわけじゃない。だが自分に縁のない話だと思っていたことを目前に突きつけられても信じられないが、確かに今目の前にあるのだ。
我ながら面倒ごとを背負い込んでしまったものだと思う。だが、どこか悪い気がしない俺もいた。
懐かしい、のだと思う。二年前までは自ら望んだわけではないが、こういう厄介ごとに関わることがザラだった。
高校一年までの俺だったら感じることなんてなかった感情。それは俺が奉仕部、アインクラッドでの濃密な時間で確かに変わったことの証左だった。
「パパ?」
「……すまん。ボーッとしてた」
仮定をあれこれ憶測するのはよそう。今努めるべきは現状の把握と情報収集なのだから。何にせよ、情報を集めるには街に行かねばなるまい。
ずいぶんと長い思考に結論が出たので早速行こうとソファーから腰を浮かす。するとまるでタイミングを見計らったかのようにインターホンが鳴り、思わず動きを止める。何故か冷や汗が背中を濡らす。
ヒースクリフとデュエルした時に感じた危機感と同等の恐怖が俺を襲い、無意識に頭中で警鐘がガンガンと響く。
よし、居留守しよう。
その結論を下したのは脳ではなく俺の細胞一つ一つだと感じるほどに即決できた。この状況がバレたらヤバイ相手が今俺の家に来たのだと、過程や方式をすっ飛ばしても解ってしまう。……ていうか19歳の男が10歳程度の知らない子を家に連れ込んでる事自体誰にバレてもヤバくね?
あばばば……ど、どうしよう。いや待て落ち着け。居留守を使えばこの娘が俺の家にいる事もばれない。……完全に考え方が誘拐犯だが。
というか、俺の家を知ってるやつは確かいなかったはずなんだが……。
「…………」
「パパー?」
またも停止した俺をユサユサとユイガハマ……じゃない。知り合いに同じ名前がのやつがいるから名前で呼ぶのが憚られてしまう。……まぁ、ユ……イが俺を揺らしてくる。それでも微動だにしない俺にユイはふくれっ面だ。……ヤダ何この娘可愛いなおい。
「えいっ」
急に胸元にユイがダイブしてきたせいで背もたれに減速無しで仮想の背骨が直撃する。……いるよな、休日に惰眠を貪る親にダイブして起こす小さな子供。まぁ小さい頃の小町のことなんだけど。
「えっ……と」
今更だが、俺はこの娘をどう呼べばいいのだろうか。呼び捨て? さん付け? ちゃん付け? 君付け? 大穴の様?
「おま……君の事をなんて呼べばいい?」
「ユイ!」
「あ、うん、そうっすか……」
恥ずかしい、嗚呼恥ずかしい。ただの年下女子なら名前で呼ぶこともできるが、同級生と同じ名前のやつを呼ぶのはなぁ……。致し方無い、か。
「……よし、ユイ。今から俺が家に来た人を見てくるから、大人しくここにいてくれ」
こくこくと小さく首を振ったユイに俺も頷きを返し、何故か俺の家に来た誰かと相対するために玄関に向かう。……あれ? 俺居留守使うつもりだったんだが……。まぁいいか。だけど《鼠》だけは絶対勘弁、あいつだったら俺が社会的に死ぬ。
祈りながら開けたその扉の向こうにはーー。
「こんにちは、エイト!」
「はぁ……」
「……な、なんでいきなりため息吐かれたの?」
いや、これため息だけど安堵から来たものだから気にしないでください。
安心感と付随してきた脱力感を断ち切り、たっぷり数秒間瞑目していた瞼を開く。と、後ろにはもう一人純白の騎士がいた。……落ち込んでる、のか?
俺の視線に気づいたのか、キリトが後ろを振り返り納得したように「
ああ」と呟いた。それにしても芯が鋼鉄並みに硬いアスナがこうして落ち込んでいると一目でわかる雰囲気を纏っているのも珍しい。一体何があったのか少し気にはなったものの地雷を踏み抜いては目も当てられない。
「……で、何の用? つーか何で家の場所知ってんの?」
「えーと……、用があるのはアスナで、私はただの付き添い。ほら、アスナはエイトとフレンド解除したまんまだったから居所がわからなくて……」
ああ、そう言えばそうだったな。ここ最近攻略してないから別にアスナと連絡を取らなくても不便だと思うことがなかったから忘れかけてたわ。
「……で、アスナ。俺に何の用?」
「……謝りに、来たの」
「……言っとくが、クラディールのことなら微塵も気にすることは無いからな」
怯えるように肩を震わせたのを見るに、どうやら正解らしい。
部下の失態は上司の責任であるとよく言われるが、俺はそうは思わない。……まぁ、俺の賛否はともかく、その内容に当てはめるのなら責任を取るべきは血盟騎士団ーーアスナではなく、ラフィン・コフィンーーPoHであるべきなのだ。
気にすんなと適当な態度で示すが、アスナの様子はでも……といった感じでモジモジしている。成る程、誠実さが行き過ぎるとこうなるのか。
「クラディールの件はお前のせいじゃないと被害者の俺が思ってるからいいんだよ。話が終わりなら俺やることあるから」
「……うん、そうね。その、ハチ君。ハチ君はまだ私と仲良くーー」
「パパー?」
「ーーーー」
……うん、終わったな。くそぅ、小さい子が待っててと言われたところで守らないことくらい知っていたはずなのに……。ソースはモニタリング。
「……ねぇ、キリトちゃん。私、耳がおかしくなったのかしら。曲がりなりにも二年近くハチ君と交流がある私が会ったことのない小さい子がハチ君をパパって言った気がするんだけど」
「ううん、聞き間違いじゃないと思うよ。私も確かにこのSYOJOがAYTOをPAPAって言ったのが聞こえたもん」
全身に恐怖が絡みつき、体が麻痺したかのように動かなくなったがそれも数秒間のこと。再び機能し始めた全身のチカラで扉を閉めようと全力で引く。
「何で、閉めようとするの〜?」
「言っとくが、俺にそういう趣味はないからな……」
弁明しながら必死に扉を閉めようとする俺の脚にしがみついて引っ張るーー本人は必死にパパだと思っている俺を手伝っているつもりなのだろうーーユイを見て更に力が強まり、それに対抗するためにこちらも力を加えるのでユイが更に強く脚に引っ付き、キリトがまた……という悪循環である。
「そういう趣味じゃないって言うならさ、取り敢えず扉開けて話し合お? ね?」
「お前の目に光が宿ったらな……」
あれは侮蔑の視線である。いや確かに知り合いが小さい異性の子を家に連れ込んでいて、あまつさえお兄ちゃんどころかパパ呼ばわりされてんのを見たら俺もドン引きする。
「……謝りに来ただけだから参加しようかどうか迷っていたけれど……キリトちゃん、私も手伝うわ」
「なっ!」
ズルい! 卑怯! 二体一なんてイジメだよ! こっちも一応二人だけど、実質一人なんだからね!
まぁ、結局攻略組でもトップクラスのステータスを持つ二人に勝てるはずもなく、エイト城は敢え無く落城しましたとさ。