クオリティは低く、文字数も少ないですがそれでよければどうぞ!
……やはりソロはいい。リリンが生み出した人生の極みだよ。……俺はどこのフィフスチルドレンなのん?
……うむ、独りで何かをすることは慣れているを通り越して当たり前の俺でも一人ツッコミは無理……というか、純粋に恥ずかしい。というか、カヲル君の台詞を引用するなんて恐れ多い。……あの人使徒だけど。
まぁ、つまるところやはりソロライフは至高にして最高だ。休みたい時に休むことができ、寝たい時に寝ることができる。……あれ、それヒキニートじゃね? いやいや、一応
俺はインドア派なだけであってヒキニートではないと十回復唱し、そう言えばと二ヶ月前に買ったこのログハウスの周辺に何があるのかロクに知らないことを思い出す。
自分のホームの周りを知らないのはどこか落ち着かない。例えるなら、例えるなら……特にないな、うん。
誰にともなく弁明しながら、休養も兼ねて今日はマイスウィートホームの周りを散策することに決める。それにしてもスウィートホームとか言うと、アツアツ(死語)の新婚の家みたいである。
適当に朝食を済ませ、さして減っていなかった腹を満たすとまた眠気が襲ってくる。春でもないのになんてことだ……やはり生活サイクルが悪いとダメだね。でもソロは最高だよ!
× × ×
幼女、ゲットだぜ!
……いや待て落ち着け。どうしてこうなった? 確か……家を出て、どこか目的地を設定しないとすぐ帰ってしまいそうだからクラインが幽霊を見たとか言ってたところに設定して……、普通に着いたんだよな。で、幽霊なんて当然のことながらいなくて帰ろうとしたら視線を感じて、視線を感じた方に歩いたら幼女……いや少女がいた。
……うん、何で?
俺がそう思うのにはいくつか理由がある。
一つ、この少女が眠っている……もしくは気絶しているからだ。周りにホーム一つないこの場所で。
二つ、この娘は見る限り八〜十歳だ。ナーヴギアの対象年齢は確か十二歳以上だったはず。いや、これは対象年齢を破ってこの娘がフルダイブしたと考えれば説明はつく。だが保護者みたいな人はこの世界には普通いないだろうし、どうやって生活してきたのだろうか。下手をすると精神に異常を来しているかもしれない。
三つ、視線を合わせてもこの娘の頭上にカーソルが出ない。プレイヤーでもモンスターでも視線を合わせれば必ずグリーン、イエロー(オレンジ)、レッド、クリムゾンレッドのカーソルのどれかは表示されるのだが、この娘には出ない。NPCならカーソルは出ないので、これは何らかのクエストフラグとしてこの娘がいるなら納得できるのだが……生憎とこの娘の頭上にクエスチョンマークが無いことがその可能性を否定している。正直これが一番大きな謎だ。
「どうするかなぁ……」
正直この少女は何か訳ありな可能性が高い。関わるべきではないし、関わったら厄介事に巻き込まれそうな気がしてならない。そもそも見ず知らずの少女に構う義理も意味もない。……リスクリターンだけで考えるなら。
SAO初期の俺だったら後ろ髪を引かれながらも見捨てていただろう。だが、これでも多少は変わったのだろうか。それとも、数多の命を奪ってきたことに対する偽善者じみた贖罪か……。
気持ち悪い。
この女々しさは親父譲りだろうか。やっぱり、血は争えない。
俺にこびりついた怨嗟の血液をこの少女で拭うなんてことは赦されない。それは自己満足であり、罪からの逃げだ。
たとえ悪人であったとしても人の命は軽くない。因果応報という言葉通り、いつかは必ず自分に返ってくる。俺は運命なんて信じない。だからこれは確信だ。
まぁ、一寸先は闇と言われるほどに考えると鬱になる未来のことを思う余裕はない。ひとまず、この少女をどうしようかと考えるので精一杯だった。
× × ×
「……ほんと、どうするかな……」
寝室に元から二つ設置されていたベッドの片方で眠り、規則正しい呼吸をする少女を見つめて独り呟く。
ほんと、どうしたものか。俺が今していることは多分悪手だ。いや、何もしなくても……或いは何をしても恐らくは愚案だろう。
比企谷八幡の損得勘定だけで考慮するなら、この少女を見捨てるべきだった。事実一時は素知らぬ顔をして帰ろうかと考えた。
……だが、何故だろう。結局はこうして能動的に厄介事を背負い込んでしまった。
悪意、害意、敵意ならば利害や打算が行動原理だから読み解ける。それができないということは、今俺が行動した理由はきっと……。
知らないことは断定できない。ならば考えるだけ無駄だ。
確証のない予想をばっさり断ち、これからの予定を黙考する。
もしこの少女に保護者がいるという最高の状況を想定するなら、この少女の保護者を探せばいい。次善で疲れが溜まって倒れてしまったのならまだいい。……だが、最悪の場合、この娘は心が壊れているかもしれない。
HP全損=死が絶対のデスゲームという極限の環境の中で、精神が成熟しきっていないこの小さな少女が精神を磨耗し、磨りきれて無くなってしまっていても何らおかしくない。いや、むしろそうなっているのが普通だろう。
ならば、何故厄介事と解っていてこの少女を連れてきた? 浅慮になったわけでも、俺にメリットがあるわけでもないのに。
ぐるぐるぐるぐると、まるでウロボロスのように絶ち切ったはずの思考が循環して巡ってくるので、あどけない少女の寝顔から眼を逸らす。
純真さが雰囲気としてまとわりついているような真っ白な姿は俺には眩しい。光があれば影もある。俺みたいな汚れているやつがいるなら、この娘みたいに純真なやつもいる。戸塚とか。
同族嫌悪、という言葉があるが、あれは自分と似たような人間を嫌うことを指す言葉だ。まぁまちがってはいないだろう。俺だって俺みたいなめんどくさい嫌なやつがもう一人いたら嫌だ。
だが、異族嫌悪という言葉もあって然るべきだと思う。
自分と違うやつは嫌いだと言うやつは俺だけじゃないはずだ。
自分と話が合わないから。考えが違うから。人を嫌うには様々な理由があるだろうが根底は同じだ。相手のことが理解できないから嫌いなのだ。或いは、なんとなく嫌いという輩もいるだろうが、明確な理由があるのならばこれに尽きると思う。……あくまで持論だが。
だから俺は人が嫌いだ。
解らないから。理解できないから。それがひどく怖い。
だからだろうか、こんなあどけない少女にすら若干の恐怖心を抱いてしまうのは。
清らかに、神聖に見えるから怖い。まるで神に出会った信教者みたいではないか。
いや……この娘が起きたら恐らく、いやほぼ確実にパニックに陥るだろう。その時年上の俺がこの娘に恐怖を感じていてはいけない。それでなくとも俺は恐怖心を与える容姿をしているのだから。
……ほんと、どうするかな。
何度となく思ったことを、もう一度口内で転がした。
× × ×
システムで設定したアラームが俺の脳内で鳴り響く。喧しい音に渋々意識を覚醒させ、身を起こす。
時刻は午前六時。ソロプレイヤーとして怠惰な生活を送っていた俺にしては起床には早すぎる時間と言ってもいい。万が一にも少女が先に起きては混乱するだろうからだ。その少女と言えば、隣のベッドで未だぐっすりだ。……もしこの娘の精神が崩壊しているのなら、目を覚ますことはないかもしれない。
だとしたら、どうする? ずっと面倒見るのか? 無理だ、人一人の面倒をずっと見るなんて俺みたいなやつに出来っこない。
責任を取る覚悟もなくこんなことをしてしまったが、……いや何かちょっと犯罪臭がするがまぁそういうことではなく、関わってしまったのなら出来ることはやるのが最低限の責任だろう。
ひとまず、この娘を探しているプレイヤーを捜索することからやってみますか……。何はともあれ、まずは朝食だ。
キッチンで作るほど大掛かりな物を作る気なんてないが、料理をするとなると足が向いてしまう。サンドイッチは楽で美味い。オマケにアレンジもしやすいし食べやすい。正に朝食の長だ。いや、やっぱ小町が作った飯が一番だな。
飯を食ったらソファーで二度寝してしまい、起きてすぐに視界に映る時計を見る。八時ちょいだったので一時間程度しか寝ていないとホッとした時だった。
少女が目の前にいた。
驚きと羞恥で一気に意識が浮上し、思いっきり背を反らす。ようやく落ち着いて出た言葉は一つだった。
「えっと……おはようございます?」