いや違うんですよ、ドラゴンボールゼノバースとか進撃の巨人をvitaちゃんでなんかやってないですよ? バカテストの井上先生が原作のぐらんぶるとか読んでないですよ?
ウン、ホントホント。
進撃の巨人の二次創作がハーメルンにもっと増えてほしいと思う今日この頃。
あとアンケートはニューディール君のやつが終わるまで募集中です。前回の投稿からアリスが凄い伸びてビックリしました。
《聖騎士》が、《黒の剣士》と《無剣》に打ち勝った――。
あの伝説のパーティーを全員打ち破ったヒースクリフ、やはり最強か?
これでまた一歩、ヒースクリフ最強伝説は磐石になったのだった。
――と、書かれた新聞を傍らに置く。伝説のパーティーって何?
いつもと違う寝床、いつもと違う環境、いつもと違う服装。
今俺はくすんだような色合いのコートとはグッバイして、純白の白衣を身に付けていた。
「あー、……帰りてぇ」
最後の一撃、俺は何が起こったのかまったくわからなかった。ただ一つ理解できたのはヒースクリフが気づけば眼前にいて、俺の胸から腹にかけて切り払ったことだけだ。
速すぎた、とかそんなちゃちなもんじゃ断じてねぇ。時間が跳躍したとかそんなレベルだ。
それはそうと、普段黒のキリトが白になっちゃうとか、堕天使が天使になったくらいのインパクトがある。人が神とか天使を信じるようになったのは空前絶後な美少女を見たからだと思うレベル。
ヤだよぉ、集団行動ヤだよぉ……。
「ヤだよぉ、集団行動ヤだよぉ……」
まったく同じことを思っている……というか言っている黒ずくめから一転、白ずくめになった剣士に視線を送る。
一瞬、黒猫団のことを思い出したのかと思ったが、様子を見るに純粋に集団行動が嫌らしい。まぁその気持ちはわからんでもない。
集団行動のみならず、あのヒースクリフの下になんて一番就きたくなかった。
「プッ、ハチ君、聖職者みたい……」
そう、最前線でも通用する男の剣士タイプの装備がなかったらしく、魔導師然としたローブ(色はもちろん白)を着させられている。
「……これ、戦闘面に支障が出るから着替えていい?」
「んー、ならこの腕章着けて」
「エイトだけズルい!」
ふはは、恨むなら女性人口が少ないのに男性と同じ数だけ制服を揃えていた血盟騎士団を恨むんだな。
ちょっとした優越感に浸って白が二本、赤が一本とラインが入った腕章を左腕に装備する。ちなみにステータス上昇などの恩恵はない。
「それにしてもユニークスキル持ちが全員血盟騎士団に入るのって軍や聖竜連合がうるさくないのか?」
「さぁ?」
さぁってお前……。血盟騎士団に対する興味、俺の母ちゃんの親父に対する関心並みにないな……。
「血盟騎士団の活動って何があるの?」
「部署によって色々あるけど……私たちは基本攻略だよ。たまに下層プレイヤーの育成なんかもするよ」
「うえ、育成なんかもすんの? 育成すんのはアイドルだけで充分だっての……」
「何言ってんのエイト……」
若干キリトに呆れられてしまった。
× × ×
「訓練?」
ヒラ騎士(笑)になって何日か経ち、副団長直属の部下として嫉妬の目線を受けるのにも慣れてきた頃、今更感がある訓練に駆り出されることになった。
血盟騎士団攻撃部隊長の……ノーバッツ? いや違ぇな、どこのとある魔術のオープニングだよ。
まぁ、兎に角血盟騎士団攻撃部隊長の人から提案されたらヒラ騎士(笑)は逆らえないなだが……。
「そんな話、ア……副団長から聞いてないんですけど……」
「うむ。だがダメージディーラーの実力を把握しないといかん。いくらユニークスキル持ちと言えども、使い物になるかはまた別」
まぁ正論だな。ユニークスキルは特権階級になるわけではないことなんて承知していた。しかし、この組織図を見るとな……。
もちろん
つまり攻撃部隊長のこの男より副団長のアスナの方が上位命令なのだが、どういうことかアスナに話を通していないらしい。
「無論団長からの新人研修についての許可は貰っている」
……アスナより更に上位命令でしたか。
ぶっちゃけ逆らっても俺には何ら害はない。除名されようが元々がソロプレイヤーなのだから直ぐに活動再開できるし、罰を負わせられようと受けなければいい。血盟騎士団員のヘイトは買うだろうが、今更そんなことを気にする柔な精神はしていない。ただ、俺がそんなことをしでかしたら上司であるアスナに責任が問われるだろう。
あいつは迷惑を掛け合えるのが友達の一つの形だと言っていたが、こういうのは違うだろう。そもそも友達じゃない……と思うし。
まぁ、今の俺は血盟騎士団副団長直属特設部隊《ツインソード》(笑)の団員なのである。ちなみにメンバーは俺とキリトだけ。
「……新人研修の内容は? 隊長と戦いでもすりゃいいの?」
「いや、対人戦闘については先の団長との戦いでよくわかった。次は私に対モンスター戦闘を見せてもらう」
思わず息が吐いて出そうになった。それこそ今更だ。対モンスター戦闘がロクにできないやつが攻略組なんかにいないだろうに。
「嫌だ。今更やる意味も意義もない」
……って凄い言いたい。でも言えない。ちょっと親父の気持ちを理解してしまう。これが、権力の抑圧か……。
がっくりと項垂れたのを肯定の首肯だと捉えたのか、純白の中年騎士は豪快に笑った。
× × ×
その翌日。
俺、キリト、アスナで円卓の席に着いていた。
「なんかさー、同じギルドって言ってもそんな頻繁に会えるもんじゃないんだね。私たち一応アスナの直属の部下なのにさー」
やはり普段と服装が違うと肩が凝るのか、キリトが肩を回した後疲れたようにグデーッと円卓に倒れ込む。うん、その気持ちは少しは解る。団体行動ってめんどいよな。
「私はもうこれが当たり前だから何とも思わなかったけど……やっぱり行動が制限されちゃうからね」
言うと、先ほどのキリトのようにアスナもグデーッと円卓に倒れ込む。や、お前はどこに疲れる要素があったの? 慣れてんじゃないの?
自分で言って嫌になってきたよぉ……やだなぁ、働きたくねぇなぁ。
精神的に何か疲れたので、背もたれに思いっきりもたれる。
ふと疑問に思ったことを述べた。
「……そういや、あのパーティー名何? ツインソードって……如何にもな……」
「何でそこで口をつぐむの? ちょっと気になっちゃうじゃない」
「……なら言ってやるよ。あれ、如何にもな中二じゃね? 誰が名付けたの?」
俺としては純粋な疑問を述べただけなのだが、アスナが物凄い勢いでまたラウンドテーブルに倒れ臥した。顔は見えないが、耳が莓みたいに真っ赤だ。……え、まさか、ねぇ?
「(おいキリト。もしかしなくても俺、地雷踏み抜いちゃったの?)」
「(うん、そうらしいね。エイト、To LOVEる発生だよ)」
「(お前今多分
さすがは限りなくヘビーに近いオタクと言うべきか、かなり無理矢理ネタをぶっ込んでくる。しかもTo LOVEるだと俺がアスナにラッキースケベ噛ましてるみたいだからやめてね?
しかし、中二病の先達としては非常に申し訳ないことをした。何か俺まで恥ずかしくなってきた。
この流れはまずい。話題、話題を転換せねば……あ、そうだ。
「そういや、キリトも訓練ってあんのか?」
「え、訓練? そんなのあるの?」
……やめようよ、そういう男女格差社会。女尊男卑、いけないと思います。うん、アスナはそろそろ起きてね?
「……あー、その、中二病患者の先達から言わせてもらうけどな、何かカッコいい感じの名前をつけるのはまだ中二病じゃないから、気にすんなよ。ラノベ作家みたいなもんだ」
「ウニャアアアァァァァァア!」
閃光の羞恥にまみれた猫のような声が副団長室に木霊した。
× × ×
「もう、お嫁にいけない……」
「だ、大丈夫だよアスナ! アスナは美人さんだから貰い手なんていくらでもいるって!」
「ふふ、ふふふ……いざとなったらハチ君に貰ってもらうね?」
妖しい笑いとともに、さりげなく俺の将来を質入れしてくる閃光様。いや、なんかダークサイドがにじみ出てるから暗黒様かもしれない。
「ふっ、残念だったな。俺の将来はもう決まってるんだ」
「……一応訊くけど、どんな風に?」
「だから現実に帰って、……あれ、現実に帰るって表現使ったら、なんか実現不可能な気がしてきた」
バカな、専業主夫になるという夢はそんなに容易く諦める気はないのに。
俺が現実に帰ると言った瞬間、俺の真剣な思考以上に真面目な顔になって、黒髪の剣士は言った。
「……エイト、本当に現実に帰る気ある?」
「は?」
唐突な問いだった。答えはイエスしかないはずなのに、その言葉は俺の核心を掠めた気がした。
大きな深呼吸を一つして、ツインソードの片割れはたどたどしく、弱々しく続ける。
「だって……その、ね……。何か、いつもエイト、自分が危険になることばっかしてるから……。それに、エイトは意識してないかもだけど、そういう行動するときはいっつも誰かを救ってるんだよ?」
「いや、そんなことは」
「あるよ」
ぐっ、と言葉が詰まる。言い終わる前に断言されてしまっては反論もできやしない。
「じゃあ質問。一層のボス戦の時、何でわざわざ攻略組の人達に悪口なんか言ったの?」
「……あのまま行けばビギナーとベータテスターの隔絶は埋めようがなかった。つまり攻略続行不可能になってたから、全員に責任を負わせて解消したんだよ。ベータテスト時最高到達階層まで問題を先送りにすれば問題自体がなくなるからな」
「うん、そうだね。でもエイトがそのことをしたからあのままじゃ弾圧されてた私たちベータテスターは救われたし、今七十五層まで攻略できた」
別に俺はあの時、ベータテスターを救おうなんて一部も考えていなかった。だから、その解釈はまちがっている。
「じゃあ、あのフィリアさんって人のことは? 会って一日も経ってなかったなら見捨てればよかったんじゃないの?」
「……いや、それは後味悪いだろ」
「うん、エイトが自分のためにやったのかもしれないね。でもそれでフィリアさんは今も生きてる」
何なのだ、これは。
そう疑問に思うも、キリトの真っ直ぐな黒瞳が嘘を許さなかった。その視線が、俺には妙に痛い。
「次にラフコフ討伐戦。エイトがあそこまでやる必要はあったの?」
「……そりゃ生存本能だ。ただ自分が死にたくなかっただけだよ」
キリトもあまり出したくない話題だったのか、問答は沈痛な声音で震えていた。思わず眼を逸らし、虚空を見つめた。
「……多面性ってやつじゃない?」
「……多面性?」
ここにきて口を挟んだアスナが思案顔で自己の考察を冷静に分析し、その結論が耳に入る。
「キリトちゃんはハチ君の行動の結果に焦点を当てて見たことを、ハチ君は自分自身の心情に焦点を当てた話をそれぞれ言葉で表したんじゃない? だから……」
そして、アスナは言うのだ。どちらも正しくて、どちらもまちがっている。これは答えのない哲学を考えるようなものなのだと。
重視していることの違い。見方の違い。それすなわち意見の違い。
俺から見た俺、キリトから見た俺は恐らく違くて、様々な俺が形成されている。ならば、自分らしさとは何なのだろうか。
「……確かに、私が勝手にエイトを語ってるのかもしれないけど、これだけは言わせて。――出来る限りでいいから、危険なことをしないで。誰だって、知り合いが死ぬのは嫌なの」
いつか言われたような懇願。あの時、俺は何と答えたのだったか。
「……悪いが、そりゃ無理だ」
昔は昔、今は今。
前に何と答えたのかはもう覚えていないが、これが今の俺の回答だ。
俺は現実世界に帰る。
決意を新たにした日から、その最終目標は変わっていない。だが、その前に……あるいはそのために、俺は茅場晶彦を殺さなくてはいけない。
罪咎を弾劾するつもりなぞ毛頭ない……というより、俺にそんな権利はない。所詮俺も同じ穴の狢だ。人殺しや殺人鬼なんて言われても反論の余地もないほどの犯罪者。
二年前。二年前のあの日から俺たちの時は止まった。
電子の檻にして鋼鉄の城、浮遊城アインクラッド。
今なお六千人強の意識はここに囚われ、外界とは隔絶している。そして四千人弱の命は現実世界を最後に一目見ることもなく奪われた。
具体的な理由は何もない。だというのに、茅場晶彦を殺すということだけは揺るがしようのないほど頭にこびりついていた。
自らを世界の神と名乗ったあの男を殺すのにこちらが無傷でいられるわけがない。危険に飛び込まなくてはならないのだ。
責任ない約束はすべきでない。
七十四層で俺が死んだとき、コイツらは多分、俺のことを心配してくれていたのだろう。迷惑をかけたことは悪いと思う。心配してくれるのなら、できるだけそうしないようにしたいと思う。
ただ、俺にはそれができない。
「……うん、何となく解ってた」
ちょっと寂しいように微笑を湛え、またポツポツと語りだした。
「二年前からそんなことばっかやってるからさ、多分治そうと思って治せるものじゃないだと思うの。それでも、やっぱり嫌だからさ」
「そう、ね。でもハチ君、一つだけ約束して」
「内容によるな」
内容も聞かずに約束をすると諭吉一個小隊が天に召されるらしい。ソースは親父。親父のトラウマの数は恐らく俺以上だろう。……どうやって母ちゃんと結婚するまで至ったんだ?
「じゃあ、約束。絶対に、死なないで」
「バッカお前それ死亡フラグ」
「茶化さないで」
茶化したつもりは一切なかったのだが、閃光様が拗ねてしまった。いい年して拗ねんなよとか思ったが、やはり見てくれがいいとそんな気もなくなる。
そろそろ訓練と言う名の扱きの時間だ。
木製扉を引き、誰に向けるでもなく呟いた。
「……任せとけ」
さあ、騎士(笑)としての初仕事、やりますか……。