いや、これ久しぶりにやった気がしますわ。
ちなみにゲージもレッドが見えてきました! 応援ありがとうございます!
さて、久々のアンケートをしたいと思います。活動報告をご覧ください。
開幕の号砲は、ジェットエンジン染みた音響だった。
「ウ、リャアアッ!」
片手剣単発重攻撃剣技ヴォーパルストライクは軽くいなされ、日光に反射し煌めく銀の長剣が迫る。
それを
「ヌゥンッ!」
十字盾が白く発光し、かの閃光にも勝るとも劣らぬ速さで肉薄してくる。だが、それはさっき視た。
身を屈めると、純白の光を纏った盾は頭上を通過する。今だ――。
「オォッ!」
「グッ……!」
雷閃の光跡を中空に残すほどの剣速で放たれたスラントが鎧に擦る、紙一重ならぬ鎧一重で終わった。一瞬の隙も見逃さず放たれた今度はスキルを使っていない盾を、すんでのところで剣を交差して防ぐ。
お返しとばかりにバーチカル・スクエアを一撃目は遅く、二撃目と三撃目は速く、四撃目をまた遅くと申し訳程度のフェイントを入れる。
寸分の狂いもなくすべて叩き落とされたが、ヒースクリフの反撃も躱せたからよしとしよう。
「ほう……システムに規定されたソードスキルにフェイントを織り混ぜるのか……」
「まぁ、一応努力したんでな」
ラフコフの残党を狩るために。と心中で呟き、思わず自嘲の笑みを浮かべてしまう。
だが、今はこの戦いで出来る限り抗わねばならない。
「んじゃまぁ――行くぜ、
「来るといい――
ヒースクリフは盾を構え、俺は剣を不可視にする。
姿形は見えねども、確かにある感触が剣が存在することを教えてくれる。
右は振り降ろし、左は横薙ぎに斬撃を仕掛ける。しかしまるで見えているかのように
ならば次だと気持ちを立て直し、一ヶ月間培ってきた剣術でがむしゃらに、あらゆる角度からあらゆる攻撃を仕掛けるもすべてが見透かされているかのように防御される。
――焦るな、落ち着け。
確かにどうやって見えない太刀筋を防いでいるのかは解らないが、たった一撃を入れれば勝ちなのだ。まちがってもイエローゾーンまで追い込むなんて考えてはいけない。
連撃の中途、剣をお互い反対の手に逆手で持ち替えて攪乱しても苛立たしいほど的確にガードをしてくる。まるで破壊不可の建物の壁を斬りつけているかのようだ。
スピニングシールドの要領で三本の指で逆手から普通に持ち替え、また突撃する。
「フッ!」
剣尖を体を右に傾けることで回避し、次ぐ盾の殴りは前傾姿勢をさらに低くして相手の懐に潜り込む。
「くっ……」
「オォリャ!」
後ずさったのを見逃さず、剣を落として無手になり、剣を握っているあいての右腕を掴んで投げ飛ばす。
俺に触れていないため姿が現れた二本の剣をしっかりと掴み、今度は透明にしないでスキルモーションに入る。
ヴォーパルストライクが発動したとき、ヒースクリフは着地をしていた。これなら防御する間もなく一撃を喰らわせられるはず――いや、まだわからない。
体勢を立て直す時間なんて一秒すらなかったはずのヒースクリフの体を、俺のクリムゾンレッドに包まれた剣は貫かなかった。
「――んなっ」
防いだわけでも、弾いたわけでもない。キリトの時と同じように超スピードで避けたのだ。
無慈悲に放たれた騎士の突き。それが硬直で動けない俺の体に迫ってくる。
「ウ、オォォッ!」
ギリギリのところで幻月が発動してくれ、体が宙で一回転している間に剣が通り過ぎていく。
ヴォーパルストライクよりも遥かに短い硬直時間を終え、追撃に剣を薙ぐ。もう聞き慣れた金属音がまた聞こえた。
「……速すぎだろ」
「……君には言われたくないな」
お互いに獰猛な笑みを浮かべ、相手に一撃を入れるまでの道筋を頭中で構築していく。
「……よし」
剣を可視化し、スキルモーションを整える。
剣が纏ったライトエフェクトは、他のどのスキルにもない黒。
《グラビテーション》。
斬った空間に十秒間引力を付随する、ソードスキル自体には攻撃力がないスキルだ。
「ヌッ!」
踏ん張ろうと足に力を入れても意味などない。内心悪い笑顔でほくそ笑み、次のスキルを発動させる。
「ウォリヤャア!」
ヴォーパルストライクとまったく同じ動きで――速さは段違いだが――こちらに向かってくるヒースクリフに突撃。気合いの掛け声と共に真紅の剣で突き切らんと接近していく。
「オオォッ!」
普段の氷のように凍てついた顔とはまったく違う必死の形相で渾身のヴォーパルストライクを弾く。――だが、これはヴォーパルストライクではない。
「二撃、目ッ!」
右手の剣の発光が終わった刹那、今度は左の剣がクリムゾンレッドに輝く。
双剣二連重攻撃剣技《ツイン・ヴォーパルストライク》は従来のヴォーパルストライクよりも速さ、威力が上がっている上、二撃目の突きも加えられる。
二撃目の神速の刺突は寸分違わず確かにヒースクリフに当たる……はずだった。
まただ。またあの時間が引き延ばされたような不思議な感覚に襲われる。俺の必中の一撃を避けたヒースクリフが、悠々とソードスキルのモーションに入る。
この体勢、この体勢から繰り出せるスキルは……。
ない。
自らが身に纏う衣装と同じく赤々と光る剣を振り、俺に迫ってくる。
瞬間、俺を除いたすべてが緩慢とした動きになり、剣の軌道がはっきりと解る。感覚の鋭敏化で常時は刹那に終わる剣戟が長く感じられる。
紅のライトエフェクトが俺の数センチ横を通りすぎ、観衆のみならずヒースクリフまでもが顔を愕然とさせた。
と、ここで世界が元通りに動き始めた。
「ラァアッ!」
剣道上段の構えから繰り出される双剣スキルでも単発攻撃力なら二位三位を争う重攻撃《アストロノミカル》。二本の剣を束ねて振り降ろした剛の一撃はこれまでの戦いで一番の甲高い音を響かせ、多量の火花を散らせた。
そのあまりの衝撃に俺は剣を、やつは盾をファンブルし、対等な条件……いや、速度で勝る俺が有利だ。もちろん装備を拾う間など与えない。
「シッ!」
「ヌンッ!」
互いのバーチカルが交錯し、システム的な斥力が生まれ、弾かれる。ダメージディーラーと打ち合えるだけの技倆があるだけってどういうことだよ……。
だがやつも人間だ。集中力は無限に続かないし、自分が不利なら焦りも生じる。
とどのつまり、このデュエルは持久戦なのだ。先に集中を切らした方の負け。
剣技もプレイヤースキルもレベルもステータスも大して変わらないのなら、後は根気。
鍔迫り合いをしていた剣に左手も添え、相手を断ち切らんとシステムの許す限り全力で力を込める。同じようにヒースクリフも力を更に込めてきた。
絶えず火の粉が飛び、正反対の色の剣の違いが一層解る。彼方の剣は光を激しく反射し、輝いているのに対し、トレイターは光を食らっているかのように明るく見えるどころかいつもより暗く見えた。
此方は必死で押しているのに涼しい顔をしているヒースクリフが言葉を投げ掛けてくる。
「……エイト君、こうして話す機会もあまりないから言っておく。――血盟騎士団に来ないか?」
「はぁ?」
「キリト君は血盟騎士団に入ることが確定している。だというのに、君がこれ以上戦う意味はあるのか? 仮に勝ったとしても、君たちが三人でパーティーを組めるわけではない」
言われればそうだ。勝っても三人揃わないのなら大してやる意味も意義もない。
だが、そういうことではない。
俺は出来る限りのことはやると約束してしまった。自分のことは自分でやるのと同じで――アスナ曰く、その自分のことを嫌がりもせず一緒にやってくれるのが友達らしいが――、約束を守るのも至極当然のことなのだ。
何より、今なお相手が上司なのに俺を応援してくれているアスナや、自分が負けたのにも構わず激励してくれたキリトを前に諦めるという選択肢はない。
俺は知っている。一方的とはいえ、自分の願望や希望、理想を裏切られると辛いことを。
裏切られた時に感じるのは相手への失望と、希望を向けた自分への後悔。
あいつらが過去の俺だというならば、俺はあいつらにそんな思いをさせたくない。
ifの話なんて意味がないことは知っている。
それでも見てみたいのだ。
詰まるところ、これは俺の願望、俺の欲求、俺の欲心。
期待に応え続けることなぞ、葉山みたいなことをする気は更々ない。でも、この一戦だけは。
それが、今俺が戦う意味だ。
「退く気はない、とその双眸が語っているよ」
言うと、剣と両腕にかかる負荷が倍増した。明らかに今までは手加減していたのであろうことが窺える。
「ガアァ!」
仕方ないのでヤクザキックを腹にかまし、二メートル弱距離をとる。今の蹴りは一撃に含まれないのか、何のシステムウィンドウも現れない。
俺のHPは五割の勝敗確定ギリギリ、対してヒースクリフは五割強。お互いあと一撃で勝負は決まるだろう。まぁ元々が初撃決着なのだが。
双方落ちている獲物には目もくれず、ただ眼前の敵を斬り伏せんと疾駆する。
ヒースクリフはカウンタータイプの剣士故、こういったガチンコ勝負は少ない。その希少な姿を目に焼き付けることも忘れ、消滅した剣を振るった。
「オオォッ!」
「ヌゥンッ!」
烈々とした声とお互いこのデュエルで最速の剣を振り切り、俺は地面に倒れ込んだ。
その時もう悠久の昔に見たような気がするシステムウィンドウが表示され、果たしてそこに載っていた名前は――アインクラッド最強の聖騎士の名前だった。