皆さん、早ければ二月にまた会いましょう!
ちなみに一章はアローンクラッド、二章はフェイクリィ・ダンス、三章はファントム・ブレード、四章はアリシゼーション・ボッチングと、名前は決まってます。……え、どうでもいい?
特に意識したわけではない。
だがあの時、俺はこいつらに頼るという選択肢は頭になかったのだ。
意識したわけではないからこそ、その時頭に思い浮かんだのは俺の内面を映したもの。独りでやる、というものだ。
悪いことではないはずだ。
皆でやる。皆で協力する。素晴らしい、麗しい、美しい仲間理論だ。じゃあ、一人でやることは悪いことなのか? 自分の考えを押し付け、他人に自分を殺させ、自分と違う考えだったら異教徒だと攻撃する。
Q.一人で出来ないことがあったらどうしますか。
誰かに頼る? 皆でやる? 一人で出来なくても皆となら出来る? ……否だ。
所詮人は自分しかコントロール出来ない。解らないこと、出来ないこと、やれないことを人に頼って、頼った人が自分を裏切るなんてことはザラだ。騙し嘯き欺く。誰もが仮面を被り近づいてくるのだ。
自分が救いを求めても、誰も助けてくれない。外部からの助けなんて有り得ない。助けようとすれば、自分も酷い目に遭うから。
ならば救いを求めた者をいないものにし、不幸を一身に背負わせ、そいつを迫害した方が自分の身が守られる。
この世に誰も彼も助けられるヒーローやスーパーマンなんて存在しない。誰にでも都合のいい人なんていない。
なら、諦めるしかないのだ。自分の環境を享受し、耐え続け、歯を食い縛ってもけして膝を屈することは許されない。諦めても敗けは認めない。なぜなら俺は間違っていないのだから。
それを雪ノ下雪乃は続けてきたのだ。いや、自分の環境を変えようと、間違っているのは周りだと正しくあらんとした。
強く。
正しく。
美しく。
誰かを信じるということは、相手の言うこと全てを肯定するということだ。それは信頼などではなく、依存に他ならない。
俺に優しいやつは誰にでも優しい。
だから俺は優しいやつは嫌いだ。
言葉でどんなことを言おうとも中身は空っぽで結局は俺の味方になってくれたやつは終ぞいなかった。俺と他の友達を秤にかけ、切り捨てたのだ。
それ自体に文句はない。俺が絶望したのは言葉の空虚さだ。口ではなんとでも言える、ということに絶望した。だからこそ、俺は雪ノ下雪乃に羨望したのかもしれない。
誰もが薄っぺらい言葉を並べ、結局誰かを切り捨てることになる。
ならばこちらも切り捨てよう。他人という有象無象の一切合切を全て。
他人に任せるなら自分でやる。頼れという言葉なんぞ信じない。無償の信頼なんて有り得ない。
この世界は俺が人を信じられるようになるかもしれない最後の機会だったのだろう。
俺は言葉が欲しいんじゃなかった。
ただ、欲しいものがあったのだと、思う。
そして、それは恐らく手に入らないのだろう、と。
ボス部屋発見である。
ボスと聞くと未だ某コーヒーを思い浮かべるのは俺だけだろうか。二枚扉を見上げ、そんなことを考える。
相も変わらず会話はない。
「あ……っと、取り敢えず、軽く交戦して情報を探ろっか?」
「そーだな」
会話終了。
元来会話が得意じゃない俺とキリトが長く話すことなぞ出来るわけがない。別に悪いことじゃない。出来ないのに無理矢理会話を広げようとすると痛い目に遭うからな。ソースは俺。
ちらり、と目配りをしたアスナはすぐにそっぽを向き、いつの間に取り出したのか転移結晶を持った手で扉を押した。
重厚な音をたて、扉が開いてボス部屋が露になる――はずなのだが、生憎と部屋は明かりがなく中の様子までは解らない。
――と。
壁に付着している多くの松明が唐突に発火し、青い炎をゆらゆらと燻らせる。……どこの
輝く双眸。それと目を合わせると、カーソルが照準される。《The Gleameyes》……輝く目。実にそのままのネーミングである。
ボスに限らず、アインクラッドのネーミングは結構そのままだったりするものも多い。今回のボスは『目』というのがポイントだろう。
《
魔眼があるモンスターは少ないが、魔眼があるかないかで戦う危険度は段違いと言ってもいい。デバフを避けたいなら目を合わさなければいい。だが戦闘中にそんなことをするのは愚の骨頂だ。
つまり、今のところ有効な対処法がない。
だから今三人でボスに挑むのは大変危険であり、取り敢えずボスの見た目と武器だけを見て帰るのが吉だが……。
そんな俺の安全第一の考えは、前行く白衣の閃光に呆気なく砕かれた。
「アスナ!?」
「あんのバカ……」
滅多にすることのない舌打ちを盛大にし、アスナに追随する。本当になにをやってんだ、あのバカ……。
部屋の中央にいたボスとアスナが正に肉薄する瞬間、俺はアスナに追い付き、跳躍。
ソニック・リープを容赦なく顔面に叩き込み、わずかに怯ませ逃げる隙を作る。
「逃げろ!」
しかしアスナは逃げない。ギリッ、と歯を食い縛り、何かに怒っているように手を固く握っていた。
着地と同時に前転回避。振り下ろされた斬馬刀が破壊不可の地面を叩き、地震のように震わせる。まともに当たったら一撃死も有り得るな……と、冷や汗をかきながら冷静に分析する。
「やぁっ!」
斬馬刀を振るうボスとまともに剣を交わすキリトに戦々恐々としながら、俺はアスナのところまで疾走する。
「おい、撤退するぞ」
「……ええ、……ごめんなさい……」
何に対する謝罪なのか。無茶な偵察戦をしたことか、それとも――?
「……キリト、撤退するぞ!」
「りょーかい!」
キリトが相手の得物を思いっきり跳ね上げた時にすかさずスイッチ、ヴォーパルストライクを繰り出す。ギリギリで反応され、剣の腹でガードされたがノックバックはした。なら充分だ。
「今だ!」
俺が合図を出した途端、俺達は全力で遁走する。後ろから響く悪魔の咆哮を、ひたすら無視して。
「……何をしてんだ、お前は」
「…………」
俺の責めるような言葉にも沈黙を保つ。黙秘権は確かに認められているが、今この時に於いてだけは撤廃したい。
まぁ、俺が糾弾する権利もアスナを責める意味もさしてない。そう割り切り、一言も何も話さず、キリトに無言でバトンを渡す。
「はぁ……」
ささくれだった気持ちを押さえつけるため、ガシガシと思いっきり頭を掻く。
人生とは選択の連続である、とは誰の言葉だったか。
人生とは選択の連続であるのならば、人生とは後悔の連続であるということだろう。なぜなら、後悔とは選択しなかった一方の未練なのだから。
自分がしてきた選択は全て正しいと豪語できるほどの自信家でなければ、後悔は積もり重なる。
人が取り選るルートは本当に極僅かしかない。そのほんの僅かしかない選択肢でさえ、誰もが悩み、悔やみ、苦悩する。
そこまでして生きる意味は、長くも短くも感じる人生で見つけられるものなのだろうか。
強い人だけが生きればいい。彼の文豪太宰治著の斜陽では、そんなことを書いていた。生きることは辛いのだ、ましてやこんな命懸けの状況では俺たちの命は風前の灯。こんな状況だからこそ、俺たちはこの世界に来た意味を探さねばならないのだろう。
俺は……、俺は、欲しいものがあったのだと思う。
まだそれははっきりと見えていない。きっと、真面目にそんなことを言ったら馬鹿にされるものかもしれない。だが俺にとっては何よりも欲したものだ。
詰まるところ、俺は何もかもが中途半端なのだ。
裏切られて、傷ついて、他人との関わりなんぞ持たないし、それでいいと思っていた。
一人でいることは今も好きだ。だが、知ってしまったのだ。自分の世界に他の人がいる心地よさを、奉仕部で。
だが、それも結局半ばで終わってしまった。
果たして、俺の求めた何かは存在しうるのだろうか。