そして評価が上がって嬉しいんだけど、仮に赤になったら、「作者、ついに人殺しに……」とか感想に来そうで怖いぜ!
そして受験で落ちるビジョンしか見えないから鬱だぜ!
ゴッドイーターアニメ冬に持ち越しちゃったしね!
……なんか、現実って悪いことばかり目についちゃうな……。
ククク、フゥーッハハハハハ! 我が名はダークゴールデンマスター! 闇の資金に追われて消えろ! なぜかアスナから暴力を受けることはや数ヵ月! 俺は! 今日! そのストレスを発散するぞ! ハアァーッハハハハハ!
……いかんいかん。九割がた中二時代に戻って高笑いしてしまった。ラノベのなかの中二病も若干混じったし。どうやら度重なる理不尽な暴力は、俺に相当なストレスを与えていたらしい。だがアスナは怖いので、ロクに文句を言えずにいた結果がこれだ。……これが、底知れないオーラの圧迫の力か……。八幡、ファイトだよっ! あれを聴いたら八幡いつでもラブライクだよ! やだ、俺穂乃果ちゃん好きすぎィ! でも推しメンはことりちゃんだよ!
いつもクールキャラで通している(少なくとも自分ではそう思っている)俺にしては珍しく、気分はもうキモいくらいにハイだ。
決闘の申請表示が出たことにクラディールはニタァーと笑みを深め、受理されたことが俺の目の前のウインドウが告げる。
今回は……どちらかと言われれば後者、だろうか。俺集団に属してないけど。一人で始まり一人で終わるなんて、まさにアルファとオメガ。そうか、俺が神だったのか……。
新世界の神になることを決意している間(デスノートは持ってない)にも、刻々と時間は少なくなり、それに反比例して
なにか騒ぎ立てているが、某ベクトル反射野郎ばりに無視していると、眼前に剣が。
「うぉうっ!」
なにすんだよまだデュエルは始まってないだろあっぶねーな。
……すいません嘘吐きました。なんか、もう始まってた。
ぼっち特有の思考をしすぎたせいで、十全な準備はできてない。しかも、周り(キリトとアスナ含む)は俺が消滅剣使ってると思ってるし。や、腰の鞘に剣があるって時点で気づいてくれよ。
まぁ、なんにせよ素手で挑むか、抜剣するだけの隙を作らなければいけないらしい。小学校六年生のとき、陸軍の対人訓練を見て親父に挑んでぼこぼこにされた俺をなめるなよ! 親父のやつ、嬉々として四割くらいの力で殴ってきたからな!
そのあと俺のワイルドカード、【小町&母ちゃん召喚】で制裁されたクソ親父はさておき、今はこいつとやらねばならん。
赤いエフェクト光に包まれた華美な両手剣を体を仰け反らせることで避け、スキル後硬直の隙に蹴り飛ばして距離を開ける。手応えはあったが固い感触。どうやら剣で防がれたようだ。
次いで、抜剣。
するとギャラリーに驚かれた。まさかまだ抜剣していなかったとは思わなかったのだろう。
「一介のソロごときが……俺をなめているのか!」
剣を抜いていなかったことを嘗められているように感じたのか、両手剣最上位スキルのモーションに入ろうとする。
――ヤバい。
なにがヤバいって、両手剣最上位スキルは高火力なのだ。あいつ完全に俺を殺しに来てやがる。
いかに俺が未だ被弾していないとはいえ、最上位スキルをモロに喰らえばHP全損も有りうる。クリティカルなんて判定されたら人生シャットダウンされるだろう。
俺はあいつに筋力値で劣るだろうから、ソードスキルの撃ち合いは愚策。逃げてもあれは突進系スキル、あっちの方が速い。だが、やりようならある。
猪も真っ青な突進を見せるクラディールだが、俺は左腕だけを動かす。
最上位とは対極の最下位スキル。《シングルシュート》。
飛弾してくるダガーはいわゆる陽動で、当たればラッキーくらいの気持ちで投げたけど、当たっちゃったよ……。
「ぐぅ……っ。小癪な……」
小癪なとかお前どこのテンプレバトル漫画の敵役? 異世界チーレム無双並みにテンプレ。
「なっ! あいつは何処へ行った? まさか……逃げたのか! ハハッ、アスナ様! あいつはとんだ腰抜けのようですよ!」
独り合点しないでほしい。アスナ呆れちゃってるし。しかも俺はここにいますよ? 目を隠す能力もないし。ただ隠蔽スキル使っただけです。防御度外視の防具の敏捷力アップと隠蔽確率アップナメんな! 動いてても八十パーセントはハイド出来るんだからな!
とはいえ、ストーカーに腰抜けされたのもイラッときたので、シングルシュートを真後ろから放つ。
「所詮ただのガキが俺に勝てるわけないんだ! ハーッハハハ……ガッ!」
不意打ちのダメージと衝撃は精神的にもダメージが大きかったのか、顔を羞恥に歪ませている。や、急にお前がベジータばりに高笑いするから悪いんだ、俺は微塵も悪くない。ほら、黙ってないで笑えよ、ベジータ。
俺の十八番ならぬ十八幡(ちなみに読み方は不明)の一つ、ハイドシュート(鼠曰く)。
戦闘中にも通用するほどの隠蔽確率がある俺だからこそできる技だとか。……それ誉めてんの? 貶してんの?
「え? 今どこから攻撃したんだ?」
「なに言ってんだよ、あそこらへんをスゲースピードで走ってんぞ?」
八対二くらいの割合でギャラリー達がざわめく。……すげぇな、ハイドレートドンピシャじゃねぇか。
ぶっちゃけ、このまま戦ったら勝つことはできるだろう。だが今回のデュエルの目的は二つ。【死なないでデュエルを終える】ことと、【アスナから受けた理由不明な暴力を倍にしてクラディールに返す】ことだ。……うん、我ながら後半の理由ヒデェ。
「クソガキィィィィッ!」
怒り心頭、マジギレのクラディールさん少し怖いです……。自分で自分の株下げるとか、こいつが組織の幹部だったら組織壊滅するんじゃないの? アスナさん、血盟騎士団潰れないようにファイトだよっ!
タネはまだバレていないようだし、危機に陥ったらまたハイドすればいい。このままじゃ目的二が達成できん。
最後にハイドしたまま閃打を背中に決める。初撃決着だったらシングルシュートでデュエルが終わってるとこだったぜ。
「……ふぅ。それで? 『栄光ある血盟騎士団様』。たかが『ガキ』の『一介』の『ソロプレイヤー』に虚仮にされてる状況はご自身でどう思われます?」
「ク、ク、ク、クソガキィィィィッ!」
本気で振られた剣が煌めき、華麗な剣とシンプルな剣とが火花を散らす。一回剣を弾いたら体術スキルで攻め込み、白衣の剣士を吹き飛ばす。何回か違う戦闘スタイルを試したことがあるが、これが一番しっくりくる。
こんなに怒声をあげて、周りの観客はなにも思ってないのか謎だが、まぁ漫才を見てる気分なのだろう。上に立つ奴が落ちていく様は見てて心地いいし。しかも自爆。
連撃が止んだと思えば煌びやかな両手剣は光を纏い、俺に襲い掛かってくる。それを弾くでもソードスキルで相殺するでもなく避ける。
「げぇっ……。ソードスキルって避けれんのかよ……」
……なんかソードスキルを避けたらギャラリーから気味悪く思われたが今はどうでもいい。
技後硬直で動けないクラディールに、今度は俺の剣が迫る……正確には華やかな装飾てんこ盛りな長剣に、だが。
ガキュイイィィンッ! と、今までに聞いたことのないくらい甲高い金属音が耳をつんざき、次いでバキンッ! となにかが折れた音がする。
「な……にぃ?」
「お、おおッ!」
クラディールの愕然とした声と、ギャラリー達の感嘆の声があがる。それに追随して地面に半ばから折れた剣の刀身が突き刺さった。華美な剣は例外なく脆い。つまり単純な奴ほど頑丈で図太い。これを人間に当てはめると由比ヶ浜が該当してしまう。だからあんなにメンタル強いのか……。
「はぁい、しゅうりょお」
某銀髪ラストサムライのようにデュエル終了宣言をするが、こいつの目には憎悪の炎が燻っている。
まぁ、システム的にまだ負けてないといっても、実質的に決着はもう付いた。まだデュエルを続けても無様だということは理解しているだろう。もしまだやるようなら、右腕を斬り落として「僕の王の右腕がァ!」とか言わせてやる。俺は涯なのん?
そんな機会はなく、呟くように「アイ・リザイン……」と口にし、デュエル終了の表示が出た。別に降参って言っても通じるのだが、そこは中二病、横文字に弱い。……思えば、このデュエルなんのストレス解消にもならんかったな……。
もう硬直は解けているのにも気付かず、未だにソードスキル後の体勢のままいたクラディールが動き出すと、列になって戦いを見物していたギャラリーに吠え出す。
「見世物じゃねぇぞ! 散れ! 散れ!」
うーん、そのわりにギャラリーが集まってきたときにはなんにも言わなかったのはどーしてなんでしょーね? ふしぎ!
剣を鞘に納めつつそんなことを考えていると、長髪を揺らしクラディールがこちらを向いてくる。
「貴様……殺す……絶対に殺すぞ……」
……あ? 殺す、だと?
「……殺人鬼相手に殺人宣言してタダで済むと思ってんじゃねーぞ……? 殺すなら、殺される覚悟をしてから来やがれ……」
憎悪、殺意、悪意に幾度となく晒されてきた俺に負の感情は恐怖でもなんでもない。本当に怖いものはもっと別のものなのだ、きっと。ニーチェの言葉だったか。「怪物と闘う者は、 自らも怪物にならぬよう、 気をつけるべきだろう。 深淵をのぞきこむ者は、 深淵からものぞきこまれているのだ」。
人殺しという怪物と闘うには自らもその身を落とし、怪物にならなければならない。だが、自らだけが怪物と思うなかれ。あれはそういう言葉なのだろう。
俺たちの間に流れる一触即発の空気を良くも悪くも断ち切ったのはアスナだった。
「クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。本日を以て護衛役を解任。別命あるまでギルド本部にて待機。以上」
なんの揺れもない平坦な声。冷たくも聞こえるが、苦悩や恐怖といった感情が見え隠れしている。こういうとき、俺は何も出来ない。
キリトを横目で見ると、あちらもこっちを目だけ動かして見ていた。何となく、考えを見透かされているような、そんな感覚を覚えたので目を逸らした。
「…………なん……なんだと…………この……」
辛うじて聞こえた言葉はそれだけ。恐らく俺に対しての呪いの言葉が口内で溢れているのだろう。少し、軽率だったかもしれない。
俺って奴の根本的な部分はきっとあまり変わっていないのだろう。自愛心が人一倍強い……いや、自分のことしか考えていない。利己的な理由でデュエルをし、アフターケアのことなど一切考えていなかった。
自己の感情を好きに表に出す奴はタダの餓鬼だ。理性で己を律しなければならない。自分を殺すのと自分を律するのは別だ。あらゆる事態を予測、計算しなければ一から十まで自分でこなさなければならないぼっちは生きていけないのだ。
青い転移光に包まれ、白と赤の制服のプレイヤーが消えていくのを見届けたら、つい口からこぼれ落ちたように、意識せずに言葉を発する。
「……なんか、悪かった」
「へ? なんで? むしろこっちが謝罪しなきゃいけないくらいでしょ?」
心底不思議そうにこちらを見てくるアスナはどこか眩しくて、俺は目を背けた。
光があれば闇もある。花道を歩き続けている奴もいれば闇路を歩く奴もいるのだろう。
なんとなく、察する。
多分、恐らく、この世界が終わると同時に、こいつらとの関係も終わるのだろう、と。