序章
「ハアハアハア…逃げなきゃ。」
何でこうなったんだろ。昨日までは楽しかった。父さんと遊び、母さんのおいしい御飯を食べ、昼寝をした。いつも通りだった。
なのに今は化け物から逃げている。たしか父さんの話だと「フェンリル」とか言いこの世にいる化け物の中で一番強いと教わったと思う。
「父さん…母さん…。」
完全に父さんと母さんを見失ってしまった。でもなぜかあの化け物は僕だけを追いかけてくる。
「何で僕だけなの…。」
もう何回も弱音を吐いてるがとにかく走る。どこに行ったらいいか分からないけど。
「もうつかれぇ!?」
転んでしまった。化け物がもう…僕ここで死んじゃうのかな。嫌だよまだやりたいことがいっぱいあるのに…。
化け物の爪が迫ってくる。もうだめだと思い目を瞑った。
「させるかぁ!!」
キンッと軽快な金属音が聞こえた。
「父…さん?何で…。」
「いや~探したよ。全く、こいつが追いかけていた奴がお前だったとはなぁ。まぁいいやこの先に時計広場があるからそこに行け、そこに母さんがいると思う。」
「でも父さんが…。」
「俺は大丈夫だから、早く。」
「でも…。」
「行け!!。」
そう怒鳴られたがここで僕は、気づいてしまった。
「父さん…左腕が…。」
父さんの左腕が無いのだ。それに父さんが愛用していた剣は半分になっている。
「早く…行け!。」
「でも…。」
「俺は大丈夫だから…。」
「…絶対に死なないでね、約束だよ。」
「ああ…。」
その時僕は泣いていたと思う。泣きながらただひたすらに走った。その時は本当に嫌だった。苦しくて辛くて…。でも走った、父さんとの約束を守るために。
20XX年この世には「化け物」と言われる奴らがいる。化け物は、人を襲い食らっていた。だがこの化け物に対抗する役職がある。剣を使い術式を使う
人々は、彼らを「魔導士」と呼んだ。
1章始まり~我が身に宿りし精霊よ~
「レイ、早く早く。」
「うるせーな。少しは黙れよ。」
今俺は幼馴染のルイスとケネディと一緒にいる。そして何故かルイスの我が儘に付き合っている。
「おいおいレイ。少しは落ち着けよ。」
「ふっケネディお前は、潰す。」
「それはどうかな。」
瞬間俺は愛剣「流星」をケネディは短刀を構える。
「またやってるよ。もうやめなって。」
「ルイス邪魔をするな。これは男の戦いだ。」
「そうだ。今日こそレイと決着をつける。」
ケネディを睨む。奴も同じように睨みつけてきた。
そして二人同時に地を蹴った。
『うおぉぉぉぉぉぉ!!。』
「いい加減しねぇかぁ!!。」
『!?』
何が起きたというのか一瞬にして、ケネディの首元にルイス愛用のレイルガンが突きつけられた。しかしそれは俺も一緒だ。
「あんた達、剣をしまいなさい。さもなくば撃つよ?」
「分かったよ。」と俺とケネディはしぶしぶ剣をしまった。
「全く…今日は3人でカフェに行く約束でしょ。それにここは日本。銃刀法違反で捕まるよ。」
「いや銃刀免許持ってるし。」
「うん、俺も。」
「俺に合わすんじゃねぇ。」
「いや合わした訳じゃねぇし。」
「何だと?。」
「はっ!!何勘違いしてんの?まじでウケるんですけどぉ。」
「てめぇ…。」
「あんた達?。」
『あっ…。』
そのまま俺達は数メートル吹っ飛ばされた。
「もう2回もそうなったてことは私に迷惑をかけたとして奢ってもらえるよね?ねぇ奢ってもらえるよね?そうだよね?」
「仕方が無い。俺がおごるよ。」
「やったー。ありがとレイ。」
これでルイスの怒りが収まってくれるのなら安いもんだ。
「じゃあ早く行こ!。」
「ああ。」
これで全ての問題は解決した。このまま今日は何も無ければいいけど…。
そうはいかないよなぁ。流石に。
「よしっ着いたぁ。」
「もう着いたか。」
「ん?なんか言った?。」
「何でも無い。」
「なら早く入ろ。」
「お前さっきから早くとしか言ってなくね?。」
「そうだっけ?。」
「はぁ~。」
「何でため息?まぁいいや…。」
そう言ってルイスは黙った。何かを感じ取るように…。
「どうした?ルイス。急に黙り込んで…。」
「うるさい。ちょっと黙って。」
「えっ…ああ。」
やっぱり、俺の予想は当たっていた。流石に気づくか、だって、こんなに強い妖力を放っているんだから。
「なぁルイス。これは何だと思う?。」
「この感じだと大蜘蛛あたりが妥当かな。」
「そうだよな。まぁメスじゃなければいいな。」
「そうだね。」
「じゃあ行くとしますか。」
「OK。」
「えっと…お二人さん?これは…。」
「ああ、大蜘蛛が出たんだけど。悪いけど手伝ってくれる?。」
「いいけど…。」
「じゃっそういうことで。走るよ。」
「了解。」
俺が魔導士になってから化け物を退治するために走ったのは何度目だろう。最近そんなことを考えてしまう。そもそも化け物とはどこから出て来るものなんだろう。だがいつも決まって何も無いところから出てくる。と言うことは誰かが化け物を口寄せしているのか?物理的には可能なんだが何のためにやっているのか。ただ人を殺めるだけなんじゃ…。まぁ深い事考えても仕方が無い。今は目の前の敵を倒すことに集中するだけだ。
「レイ。見えたよ。」
気がつくともう大蜘蛛がいる所に来ていた。大蜘蛛は人を食らいながら暴れまわっている。
「じゃあ、殺りますか。」
『了解!!』
まずルイスがレイルガンで大蜘蛛の注意を引く。その間に俺は高く跳躍した。
「レイ。今だよ。」
「了解。…我が身に宿りし精霊よ。この身を食らい我が欲望への弔いとなれ。
アカシックバスター!。」
流星が紅の如く紅色に染まる。
「うおおおお。」
俺は飛んだ勢いのまま大蜘蛛の腹を切り裂いた。
「やったか。」
だが考えが甘かった。確かに大蜘蛛は死んだのだ。大蜘蛛は…。
完全に誤算だった。まさかこいつが雌だとは、思わなかった。
死んだ雌蜘蛛の中から子蜘蛛が数百匹出てきた。まぁ子蜘蛛と言ってもかのシベリアハスキーぐらいの大きさはあるのだが。
「くそっ!!多すぎる。」
子蜘蛛は一回切ると死ぬのだがなんせ数が多い。
「やべぇ。」
「どうした。ケネディ。」
「悪い。ボウガンの弾が切れた。一回後退する。後は頼んだ。」
「はぁ!?何を…ぐうっ。」
畜生、あいつは何をやっているんだよ。全く…。
つうかこれで何匹目だよ。もう百三十匹は殺っているのだが…。
―うわぁぁぁ―助けてくれ―嫌だぁまだ死にたくない―
だいぶ市民も食われたな。このままじゃ俺の霊力も切れる。…どうするか。
「レイ!!下がって、私がやる。」
「ルイス!?。」
もしかして…。でも流石にあれは使わないよなぁ?
ルイスは、子蜘蛛の大群に突っ込んで行くかと思ったがその手前で高く飛んだ。
「ルイス!!それは使っちゃだめだぁ。」
しかし俺の声など届くはずも無く、呪文を唱え始めた。
「天地精霊、この身に宿り我が欲望に忠実になれ。スプリングシャワー!!。」
「うわっちょっまっ。」
「うおらぁぁぁ!!。」
くそっルイスの奴、本当にレイルガンを使いやがった。あれ使われると後が大変なんだよ。…色んな意味で。
俺は自分のほうに向かってきている弾を弾きつつ、まだ多く残っている子蜘蛛を切り続けた。
『うおおお…らあっ!!。』
ドォン
あっ…やっぱりだめだったか。
子蜘蛛は全滅したがルイスは多分倒れてるだろう。
ルイスを探していたら案の定、道路のど真ん中で仰向けで倒れていた。
「おーい。大丈夫か?。」
「うん…何とかね。」
「全く、無理すんなよ。それに地味に町が消え去ってるぞ?。」
「あはは…反省。」
「する気ねーだろ。」
「バレた?。」
「見れば分かるっての。何年一緒に居ると思ってんだよ。でもまぁ市民は、ほぼ無事だから±0だと思うぜ。」
「ははっ…良かった。でも私霊力切れちゃった。だからおやすみ。」
「おいっ!!…ったく本当に眠るバカいねーだろ。」
俺は完全に眠っているルイスを担ぎ上げ家に帰る道を歩いた。
いつになったらこんな戦いが終わるのか。俺達が要らなくなる時は、いつくるのか。ルイスを見ているといつもそう思う。
本当はルイスには戦って欲しくない。ルイスには安全なところで幸せに暮らしていて欲しい。心からそう思う。
俺が魔導士になった理由が父さんと母さんを殺した奴に復讐するため、そしてもう俺の周りで人が死んで欲しくないから。だがこのまま魔導士としてここに居たら絶対ルイスに影響してしまう。それが嫌だ、だから戦っていて欲しくない。
それにルイスは人一倍努力している奴だけど、悪く言うとすぐに何でも無理してしまうとも言える。今日もそうだ。本当はあの時既に霊力が足りなかったのだが無理やり強行したのだ。魔導士は霊力がなければ動けなくなる。死に値すると言っても過言ではない。だからこそ余計に分からなかった。何故霊力を完全に使い切ってまで…命を掛けてまで…。俺だったら出来ない。命を掛けられない。やはり俺は弱い。復讐すると言っても何も出来ない。ただのクソ野郎だ。
考えれば考える程どうしたらいいのか分からなくなる。何をやれば正解で何をやったら不正解なのか。もうどうしようも無い気分になる。
「なぁ父さん。俺はどうしたらいいのかな。」
何故か今日に限っていつもより夕日がまぶしく見えた。
同時刻とある場所で…
「くそっ!!やっぱり蜘蛛じゃ弱いか。」
ならいっそのこと「リヴァイアサン」を使うか。…いや最終兵器だからだめだ。
「ふふっ。ならバジリクスを使うか。そうだ、そうしよう。フフフ…。アハハハ…。殺ってやる。あいつらは…クソ魔導士なんか死ねばいいんだぁ。」
ここまでお読みいただきありがとうございました。