Century of the raising arms   作:濁酒三十六

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century9話目更新です。


いざ彼の地に行かん…

「そう、アンタ達聞いてくれたんだ。ありがとう…。」

 

 友奈と美森はミーティングの際に四国エリアと乃木園子の事…、自分達の身が聖天子預かりになっている事等を風達に告げた。

 

「ごめんなさい風先輩、みんなで話し合わなきゃならない事を独断で決めちゃいました…。」

 

 友奈は申し訳なさそうに風に謝る。彼女がリーダーである以上は本来彼女に決定権を委ねている筈なのにあの場で友奈は美森の意見も聴かずに自分達の今後を決めてしまったのであった。

 

「構わやしないわよ、話し合った所で結論はきっと同じだったでしょうしね。」

 

 風は笑って友奈の頭をポンポンと優しく叩いた。友奈も安心し、笑顔になる。しかし此から直ぐにドラゴン達の住む平行世界へと旅立たなくてはならない。作戦…、と云うよりはドラゴンと交渉をし、ミスルギ皇国への攻撃を一時中断してもらう為だ。ミスルギ皇国は鎖国国家でアンジュ達ノーマは国を出、関東エリアに身を寄せる事で混沌の世界状勢を知る事が出来た。つまりはミスルギ皇国の国民達にとって自分達の国そのものが世界の全てである。そしてドラゴン達は彼等の文化すら知らず、この広い世界の事など知る由もない。

 そして何よりノーマを受け入れた関東エリアにとって平行世界の者達とはいえ今ミスルギ皇国と事を構えさせる訳にはいかなかった。

 

「つまりは…、わたし達ノーマとドラゴン達の問題を関東エリアに持ち込んでしまう恐れがある…。ってのが聖天子の考えなのよね、それにわたし達も今の戦力じゃあミスルギ皇国とやり合うなんて出来やしない。

サラ子達もこの前の騙し討ちでかなりの戦力を失ってる筈、下手に手を出して負かされたらわたし達にも都合が悪い。

それにサラ子は友達、みすみす犬死になんかさせられない。

…それがわたしの考えよ。」

 

 別室でアンジュは今回の試みに対する自分の意思と聖天子の考えが一致した上で行う事をヒルダ、ロザリー、マギー、ジャスミンに伝える。

 

「まぁ、アンタがやろうとしてる事に異論はねえけど…、一緒に行く奴がタスクとヴィヴィアンだけでいいのか?

わたしは……行かなくても大丈夫なのか?」

 

 少し上目遣いで尋ねるヒルダだが、アンジュは軽く溜め息を吐いて彼女に言った。

 

「ヒルダにはわたしがいない間、聖天子達に好き勝手されない様にみんなを守って欲しいのよ。昨日伝えたでしょ?」

「そりゃあ、そうだけどよ…。」

 

 不満げに答えるヒルダだが、其れ以上口を出そうとはしなかった。変わりにジャスミンがアンジュに質問をする。

 

「ヒルダの続きで悪いが…、一緒に行く奴等は信用出来るのかい?」

「得体の知れない男が一人いるけど、残りのメンバーは多分大丈夫よ。

何せ、ジルをぶっ倒したあの娘がメンバーにいるからね。」

 

 ジャスミンは苦笑し、マギーは僅かに表情を曇らせる。あの事件以降…、ジルは横須賀基地に置いてあるアウローラの指令室ではあるが事実上軟禁状態となっている。

 マギーは親友に裏切られた気持ちでいて彼女が何を考えているのかを知りたかったが、ジルは一切の口を閉ざしてしまっていた。

 

「マギー、心配しなくてもジルは大丈夫よ。

あの女があんな程度で折れたりしないのはアンタの方が知ってる筈でしょ?」

「…そうだね、アンタにそう言われたら親友のアタシの立場がない。

アンジュなんかよりアタシの方が付き合いは長いんだからね。」

 

 マギーはそう言って笑い、アンジュもまた微笑んだ。

 

「さて、タスクとヴィヴィアンが向こうで待ってるし、もう直ぐ時間だから行くわね。

後は頼むね、ヒルダ?」

「イエス、マム!」

 

 ヒルダが彼女に敬礼で応えるとアンジュは少し怪訝な表情になる。

 

「そんな顔するなって。…ジルがああなんだ、人に命令すんの得意だろ、元お姫様にして現痛姫様?」

「痛いは余計よ。…でも、戻ったら考えとくわ。

その時はしっかり手伝ってよね?」

 

 アンジュはそう言って踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駐屯地ヘリポートでは里見蓮太郎と藍原延樹、タスクとヴィヴィアン、そしてイオナと大黒竜也がヴィルキスの前にて待機していた。

 

 ヴィヴィアンは背伸びをし、待つのに飽きた様でタスクにつまらなそうな口調で言った。

 

「アンジェ、遅いね~?」

「会議は終わってるんだ、もう来るよ。」

 

 タスクは苦笑いをしてヴィヴィアンに言い聞かせる。…と、ヴィヴィアンの所にいつの間にか延樹が来ていて彼女を見上げていた。

 

「妾もつまらないから鬼ごっこをしないか?」

「鬼ごっこ…。いいね~、やろうか!」

 

 乗り気のヴィヴィアンは自分が鬼だと立候補をして二人だけで鬼ごっこを始めた。

 

「キャアアアアアアッ♪♪」

「それそれえ、捕まえちゃうぞウサギちゃん♪♪」

 

 タスクと蓮太郎は取り敢えず二人は放っておき、今回は参加しないが千早群像も踏まえて簡単な役割を決めていた。

 群像はリーダーはアンジュとしてサブリーダーを蓮太郎と提案、コレに二人は特に反対せず賛同する。

 

「俺は別に構わないぜ。実際アンジュがリーダーやるのは責任の様なものだしな。」

 

 蓮太郎にタスクも続く。

 

「あぁ、交渉をするのはアンジュになるだろうし、向こうのサラマンディーネさんはアンジェを友達と言ってくれているから彼女を立てた方が都合も良い筈だ。」

 

 三人の意見が一致した所で蓮太郎は先程から様々な道具の整備やCAD(魔法発動を補助する携帯装置)に装備一式の整備を黙々と続ける大黒竜也に声をかけた。

 

「大黒、ちょっとコッチに来てくれ?」

 

 大黒竜也は蓮太郎に呼ばれ、三人の提案を聞いた上で意見を求められた。

 

「…いや、特にない。俺はこのチームでは言わば新参者だ、基本はお前達の考えに従わせてもらう。」

「分かった、…後はアンジュと大赦の連中だが…。」

 

 蓮太郎が周囲を見渡すと遠くから三つの影が此方に歩いてくるのが見え、蓮太郎は笑みを作りその裏腹で緊張感を醸し出した。

 

 アンジュは途中で合流した友奈と美森と一緒に現れ、此処に異世界へ赴くチームが揃った。準備も万端、自衛隊がヴィルキスと蓮太郎や友奈達が乗り込むマイクロバスを囲み、彼等が向こうへ旅立つ一部始終を聖天子は聖居の指令室のモニターより見つめる。

 アンジュはヴィルキスに…その周囲にタスク、ヴィヴィアンは自身の専用機、他の者達はマイクロバスに乗り込む。運転席には大黒竜也が座りその横の席にイオナが座って友奈と美森は緊張感の中、互いの手を繋ぎ、延樹は隣の蓮太郎にヒシリと掴まる。そしてマイクロバス内とタスク、ヴィヴィアンにアンジュから通信が入った。

 

《準備はOK?

ヴィルキスを起動させるわ!》

 

 アンジュのインカムにタスクとヴィヴィアン、そして竜也より了解の合図が入り、ヴィルキスのキーとなる左薬指の指輪にキスをし、ヴィルキスのグリップを握り締めて起動させた。

 

「ヴィルキス、いくわよ。…飛べえっ!!」

 

 アンジュの叫びに応えるかの如くヴィルキスは眩く光り出してタスク、ヴィヴィアンの専用機と皆が乗ったマイクロバスを包み込み、また一段と輝いた瞬間光はヴィルキスを中心にした全てと共に消え去ってしまった。

 




次回はサラ子さん登場予定っす。

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