Century of the raising arms   作:濁酒三十六

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八話更新です…


黒服のあいつ…

 日本九州エリアを統べるミスルギ皇国…。マナと云う異能力を持つ人間達が住まい、争いもなく豊かに国民が暮らす平和な国であったが…、世界が融合を果たした後に女王として即位する筈であった第一皇女…アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギがミスルギ皇子であるジュリオ・斑鳩・ミスルギによりマナの使えないノーマであると暴露され、ノーマの隔離施設…アルゼナルへと連れて行かれ、ソフィア皇后は混乱の最中に皇女を守って撃たれ死亡…。ジュライ皇帝もノーマを皇后にしようとした罪により処刑された。

 そして更に皇帝の座に着いたジュリオはノーマ全ての粛清を計り軍を率いてアルゼナルを襲撃、ノーマの大虐殺を行った。しかしミスルギ軍はアンジュが乗ったヴィルキス一機により壊滅させられ、ジュリオは“ある男”によって殺される事となった。

 現在、ミスルギの皇族で残されているのは第二皇女でありアンジュの血を分けた妹…シルヴィア・斑鳩・ミスルギ、只一人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空青く晴れたミスルギ皇国宮城のテラスで金髪ロングヘアの美男紳士が小鳥の囀りを聴きながら一人…特級紅茶の香りと味を優雅に楽しみ、静かに文庫サイズの本を読み老けっていた。

 …暫く時が経つと小さな呼び出し音が鳴り、その男性はス…ッと何もない空間を指でなぞる。すると10インチの空間ディスプレイが現れ、ツインテールの少女の顔が映し出された。

 

「何だい、“サリア”?」

『読書の途中に申し訳ありません、“エンブリヲ”様。

関西エリア元首の斉武宗玄…様…からの御通信が入っております…。』

「ああ、彼からか。分かったよ、此方に繋いでくれ。」

『畏まりました。』

 

 …と、エンブリヲと呼ばれた紳士はサリアと呼んだディスプレイ越しの少女を見てクスリと笑みを零した。

 

『エンブリヲ様?』

「フフ…、すまないサリア。

君は本当に宗玄殿が嫌いなんだね。」

 

 エンブリヲに思考を読まれ、バツの悪い気持ちになりサリアは少し俯く。

 

『…申し訳御座いません。』

「構わないさ、君の気持ちもよく理解出来るよ。

あの男はとても厚顔で下品な男だ。

…しかし無知ではない、そして愚かでもない。反面、とても夢想的な思考を持っている。だからこそ利用出来る。

実際ミスルギの軍事力が水準値まで回復したのは彼の所属する“五翔会”のお陰だ、もしノーマとドラゴン達が攻めて来たとしても返り討ちに出来る程に軍事力は上がった。

そして君達が駆る五機の“ラグナメイル”の力があればこの国の安寧は約束された様なものだ。」

 

 エンブリヲは紅茶を口に含み、喉を潤す。

 

「だがそんなものに私は興味はない。

“私達”が目指すのはその安寧を越えた先にある。」

 

 彼の言葉にサリアは笑みを浮かべて頷き、エンブリヲはそれを見て嬉しげに微笑んだ。

 

「サリア、宗玄殿との話が終わったら私の部屋へ来てくれ。

幾ら盟友とはいえ下品な男の余韻はあまり残したくない、君の温もりで私を清めておくれ…?」

『はっ、はい、喜んで…エンブリヲ様…。』

 

 空間ディスプレイの中でサリアは可愛らしい笑顔で愛しい彼に返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 関東エリア…外周区台場自衛隊駐屯地では聖天子の独断にてある試みが行われようとしていた。駐屯地内には銀色のラグナメイル…ヴィルキスが置かれ、アルゼナルでパラメイルの整備を一手に引き受けていたメイが小さい体ながらもテキパキとヴィルキスの整備をしていた。

 

 その様子を物珍しそうな目で眺める樹と…何故だか怪訝な表情をした風と夏凛がボ~ッとした目で眺めていた。

 

「格好良いね、お姉ちゃん。コの戦闘機ロボットに変形するんでしょ?」

「何それ、変形するのコイツ?」

「アンタ何話聴いてたのよ、今朝この機体の特徴をあの整備してる子が教えてくれたじゃない。」

 

 夏凛に言われて風はコキリと頭を傾げフ~ンと鼻息を吐いた。どうもあまり身が入っていない様だが、樹も夏凛も理由は分かっていた。

 実は彼女達五人はどういう訳だか、四国エリアから関東エリアに“亡命”をした立場になっているのだ。先に帰った乃木園子はおろか大赦とも連絡がつかず、しかし携帯端末の勇者システムはそのまま固定されて変身もまだ出来る様になっていた。風は勇者部を引っ張る立場に居て面に出さないが、この何も解らない状況にかなり腹を立てているのである。

 更に言うなら、あの横須賀での戦い以降は彼女達の行動の殆どを制限され、今回の試みにも聖天子の鶴の一声により参加が決められてしまったのである。

 心配げに夏凛と樹は風の様子を伺うと、彼女の眉間にザクリザクリとシワが刻まれ眉毛もつり上がっていく。

 

「あーーーもーーーっ、やっぱもう一回聖天子様に聞いてくる!」

 

 前言撤回、不満を有り有りと面に出していた。そして声を上げる風を樹と夏凛で説得する。

 

「止めようよお姉ちゃん、もう何度も聞きに行って護衛の人達に追い返されてるし…。」

「そうよ、いくら風の勢いでやったって向こうの方が上手よ。何も教えてはくれないわ。」

 

 そして三人一緒に下を向き溜め息を吐く。

 メイはそんな風達をヴィルキスの上から不思議そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自衛隊駐屯地の作戦室では聖天子により今回の作戦に参加を求められた者が集まり、ミーティングが始まろうとしていた。

 勇者部より結城友奈と東郷美森、天童民間警備からは里見蓮太郎と藍原延樹、蒼き鋼にも協力要請が来て此方はイオナのみが参加となった。千早群像も参加を希望したが万が一の為にクルー達や他のメンタルモデルに引き止められて今回はミーティングのみの同伴である。

 そしてノーマ側からはタスクと里帰りが理由のヴィヴィアン…そして今回の試みの提案者であるアンジュがヴィルキスを使い皆をドラゴン達の世界へ連れて行く事となっていた。

 そしてもう一人…聖天子より選抜されたと言う人物がいた。背の高い…何処か冷たい印象を滲ませた黒いボディスーツに身を包んでいた少年で作戦室に入っても一礼をしたのみで特に誰とも話そうとはしなかった。

 そして作戦室の明かりが消され、壁に内蔵された大型モニターに聖天子が映し出された。

 

『皆様、御機嫌よう御座います。

いつも皆さんに辛い頼み事を申しつけて本当に申し訳ないと思っておりますが…、この日本内にて出来るだけ人間同士の争いとなる“種”を摘み取りたいが為…どうか今暫くの間、お力添えをお願い致したいと思います。』

 

 蓮太郎達や群像達は使われる事に違和感などなく、アンジュ達は発案者側にあるので彼女の言葉に異論はない。しかし自分達の意志と関係なく、この場所にいる者達は違う。

 結城友奈は聖天子を前に立ち上がり、彼女に自分達の状況を問い質した。

 

「どうして…、わたし達は四国に帰れないんですか?

園子ちゃんと連絡は取れないんですか?」

「申し訳御座いません、結城さん。今はドラゴンの世界へ行く作戦のミーティングを…」

 

 しかし聖天子を遮り美森が割り込む。

 

「わたし達は今回大赦と関東エリアの同盟により、蒼き鋼との対ガストレアの共同戦線の為に関東エリアに来た筈です。

それが気付けばわたし達五人は亡命者となっていて大赦の許可なく、そしてわたし達の意志に関係なくこの作戦に組み込まれています。

関東エリアと四国エリア…大赦との間に何があったのですか!?」

 

 聖天子は口を噤んでしまい、暫しの沈黙が流れる。次に口を開いたのは千早群像であった。

 

「聖天子様、関東と四国の間で何があったかは知らないが…彼女達に大まかな説明も無しに今日まで黙っていたのは俺もあまり感心しない。

もし何かあったのなら、この場で話してくれても良いんじゃないか?」

 

 群像の意見に聖天子は眉をひそめる。やはり関東エリアと四国エリアの同盟協定に亀裂の様なもので入ったのであろうかと…彼は推測していた。

 

「貴女方勇者の亡命もこの作戦の参加も園子さんの御意思によるものです…。

彼女と最後に通信を交わした時にお請け致しました。今日まで皆さんに伝えられなかったのはどうしても大切な公務を優先しなければならなかった為です。

今、四国エリアと園子さんに何が起きているかは解りませんが…此方からも連絡を取る事が出来ません。四国…“大赦”で何か良からぬ事が起きたと見るべきかも知れません…。」

 

 公務を優先していたのは本当だが、亡命と作戦参加は聖天子の独断である。亡命に関しては乃木園子が四国エリアへ戻った途端に音信不通となり、この状況下で友奈達を四国エリアへ帰すのは危険と判断した為で作戦参加に於いては神世界樹の勇者達の戦闘力は桁違いであり、異世界で何かが起きても必ず突破口を作ってくれると信じた結果であった。

 聖天子は話を続ける。

 

「結城さん、東郷さん、この作戦への参加が不本意であるなら…この部屋を御出になっても別に構いません。

しかし、私はこの作戦のみならず今後に於いても貴女方勇者達の力を私達に御貸し願えないかと思っています。」

 

 再び沈黙が戻り、蓮太郎と群像…アンジュは友奈と美森の返事を待った。

 

「友奈ちゃん…。」

 

 美森は不安げに彼女の名前を呟く。美森には友奈が出す答えが解っていた。結城友奈と云う少女に困っている人を見過ごす事など出来ないのだから…。そして友奈はすまなそうな顔を美森に向けた。

 

「東郷さんごめん…、風先輩いないのに…。」

 

 そう聞いた美森は是非などより自分が予想したのと友奈の意思が同じである事を確信し、それが嬉しかったのか…美森は頭を横に振り、笑顔で彼女に返した。

 

「いいえ、私は友奈ちゃんに付いて行きます。」

 

 二人の意志は固まり、聖天子に応える。

 

「改めて、この作戦に参加をさせて下さい。」

 

 

 友奈と美森は先程の疑念の目とは違い、決意を秘めた眼差しでモニターに映る聖天子を見据えた。聖天子は二人の参加表明を聞いてホッと胸を撫で下ろした。

 

「ありがとう、東郷さん、結城さん。貴女方の協力に感謝致します。

それではもう一人、新たな協力者を御紹介致します、大黒特尉?」

 

 聖天子に呼ばれ、名前の分からなかった黒衣の少年が席を立った。

 

「初めまして、自分は“日本国防軍”魔法協会関東支部特殊部隊戦略級魔法師・大黒竜也特尉であります。以後、お見知り置きを…。」


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