Century of the raising arms   作:濁酒三十六

18 / 18
鋼の鉄槌…

 結城友奈と東郷美森が“満開”と叫ぶと友奈は右手の甲にある桜の刻印…美森は左胸にある朝顔の刻印が眩く光り、二人を包み込んだ。光が晴れると二人の姿は大きく変わっていた。二人の衣装は天女の如く神々しくなり、友奈は両側に多間接の太くて長い鋼の腕を伸ばし天輪をその背に背負う。美森は左右各四本の砲身を備えた巨大飛行砲台に乗った。

 アンジュ…竜也達は突然の二人の変身に呆気に取られてしまうが友奈からの通信で我に返った。

 

《あの乙女型…大型バーテックス三体は私と東郷さんで倒します!!

皆さんは残りのバーテックスをお願いします!》

 

 通信は其処で切れ、アンジュは顔をしかめヴィルキスを戦闘機に変型させた。

 

「あの“おバカ達”ってば!?」

 

 アンジュが友奈と美森を追う為ヴィルキスのペダルを踏み込もうとした時、射ち倒した筈の小型バーテックスの反応がレーダーに数十体現れた。彼女は機体を反転させようとすると大黒竜也の拳銃型CADより発射された分解魔法で小型バーテックス数体を撃墜、タスクとヴィヴィアンもまた小型バーテックスを撃墜した。

 

「此所は僕達に任せろ!数の少ない小型なら三人いれば充分だ!」

「じゃあ後は任せたわタスク、行くわよサラ子!」

《えぇ、宜しいですわよ、アンジュ!》

 

 タスクに応えアンジュは一気に加速、サラマンディーネも微笑を浮かべて焔龍號を戦闘機に変型させてアクセルを踏んで加速…アンジュに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠方よりゆっくりと迫る三体の大型バーテックスはレースの様にフワフワした透明の膜の様な物を風に舞わせながらアウラの民が住む城下へと迫り、満開を果たした友奈と美森が迎撃に間に合い、戦闘へと移る。敵は勇者となって初めて戦った時のバーテックスと同じ型である横道十二星座を模した乙女型、三体であろうと敵の特長は解っている。言ってしまえば乙女型は大型の移動砲台である。…だが満開時の移動砲台となった東郷美森と比べて移動速度が遅い。更には火力はおろか命中精度も美森が数段上である。そして結城友奈の巨大アームによる破壊力と突貫力が一緒ならば苦戦する相手にはならないであろう。

 三体の乙女型は下部にある太い器官より無数の卵の様な物を産み落とすと、其れはフワフワと浮いて無軌道に揺れながらも友奈と美森に迫った。美森は左右各四門の砲腕を伸ばし、此方に向かってくる無数の卵…誘導機雷を睨んで八門全てのアームカノンを発射した。何れだけ右へ左へと機雷が動こうと美森の砲腕は一つも逃がさず撃墜し、百発百中の命中率を見せつける。そしてその隙に友奈が突貫、速度を上げて弓矢の如く右腕を引くと右の巨大アームも寸分違わず友奈と同じ動きを取った。

 

「ユウシャッッパアアアアアアアァァンチイッ!!!!」

 

 満開により身に纏った神衣…鋼の拳が乙女型にインパクトし、上体がまるで巨大鉄球を受けたかの如く潰れる。空気圧すら打ち抜く友奈の突貫パンチは三体並ぶ真ん中の一体を一撃で粉砕し、乙女型バーテックスは光の粒子となって天へと昇る様に消滅した。友奈は上昇して二体の乙女型の頭上を取るが、乙女型は背中より新たな器官を三対出現させて二体共友奈に向けて熱線を発射した。

 

「エエエエッ、前はあんなにビーム出さなかったよ!?」

 

 友奈は慌てふためきながらも迫る十二本の熱線を高速で回避、その隙に美森が八門のアームカノンを一体に向けて発射し、乙女型二体目を撃破した。その一方的な戦闘を増援に来たアンジュとサラマンディーネは目にして戦慄を覚えた。

 

(まさか此処まで強いとは思わなかったわ。向こうにも友奈の仲間が三人…、彼奴等も此れだけ強いとなると…“リベルタス”を達成させるには関東エリアとの共闘が最短の近道ね!)

(アンジュの世界に住む者達は後何人があの様な強大な力を持っていますの!?

数千もの“呑口”にも逃げる事なく戦い抜き、自分よりも大きな敵を圧倒する。解ってはいましたがやはり我々だけではエンブリヲには勝てない…!アウラの奪還にはアンジュ…、いえアンジュ達の力が必要となりますわ!!)

 

 そしてヴィルキスと焔龍號が最後の一体に突進、互いの崩壊粒子収束砲「晴嵐」を乙女型に浴びせた。最後の一体は仰け反り、砲撃を受けた箇所は大きく抉られた。だがその部分は急速に再生を始める。

 

「チイイッ、何よあれ、反則じゃない!?」

「一撃による必殺でなければ倒せないと言う事ですか!」

 

 ヴィルキスと焔龍號が人型に可変、もう一度時空干渉兵器を使おうとするが、上空より声が聴こえ、上を見上げると何と結城友奈が高速で急降下をして来た。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!!

もう一っ回、ユウシャパアアアアァァンチイ!!!!」

 

 人間砲弾と例えてもおかしくない彼女の鋼の拳は天辺から乙女型の頭部を押し潰し、そのまま凄まじい剛力で完全に破壊…そのまま地面にズシンッと拳を突き立て大きなクレーターを造り上げた。最後の一体が光の粒子になって消え、小型バーテックスの残りもタスク達によって全て掃討された。友奈達はバーテックスよりアウラの民を守り抜いたのである。

 そしてその様子をアウラの城にある総司令室でも彼女達の活躍をイオナと配置に着いていたオペレーターであろう女性達に姫巫女の一人であるファフニール…、そして里見蓮太郎と藍原延樹…、大巫女が焔龍號より送られていた映像を指令室の大型ディスプレイで見ていた。

 大巫女の顔はファフニール達と同じ様に驚きを隠せずにいる表情で蓮太郎も“勇者”の異常なまでの戦闘力に絶句し、イオナは無表情のまま、映像を自身に記録する。…只一人、延樹は友奈達の大勝利に大はしゃぎである。

 

「スゴいのだーっ、友奈も美森もアンジュもヴィヴィアンもサラ子もタスクも竜也もみんなスゴい強いのだーーーっ!!」

 

 跳び跳ねて大喜びをする延樹とは裏腹に蓮太郎は勇者の切り札である“満開”を見せつけられて戦慄を覚えていた。

 

(あれが友奈達から聞いていた勇者の切り札…。以前はその強大な戦闘力を授かる代わりに力の源である神樹…今の俺達の世界を支える神世界樹ユグドラシルに身体の機能を一度に一つ…供物として奪われていた。

今の満開は供物を必要としない分一日に一度きりしか使用出来ない文字通りの切り札…。

彼奴等がいた“四国エリア”は全ての勇者がアレを使えるって事か…。)

 

 この世界に来てまだ数日と経ってはいないのだが蓮太郎は自分達の…関東エリアの状勢が気になり始めていた。西日本…関西エリアを支配する五翔会の動き。連絡のつかない同盟…四国エリア。エンブリヲと言う謎の人物が影にいるミスルギ皇国。そしてガストレアに霧の艦隊…。アウラの民との問題が解決した訳ではないが蓮太郎は大巫女…アウラ・ミドガルディアの表情を目にした時に彼女も共に歩む仲間になると確信した。

 

「里見蓮太郎、お前達の地球にはあの様な者達が沢山おるのか?」

「あぁ、敵にも味方にも沢山いる。…正に混沌にまみれた継ぎ接ぎの世界だ。」

「…どうやら妾は、母上の救出を急くあまりに…自ら視野を狭めてしまっていたのだな…。」

 

 自嘲する大巫女に蓮太郎も苦笑を見せる。

 

「アンタの母親を想う気持ちは決して悪くなんかない。…だがアンタは民の長…(まつりごと)を司る頂点だ。自分の思いを圧し殺してでも民を一番に考えなければならない。

…もし、まだミスルギ皇国へ攻め込むつもりなら俺はアウラの民を見限る。だが俺達と共に戦うなら、俺達は全力でアウラの救出に手を貸す!

アウラ・ミドガルディア、二者択一だ。」

 

 そして話を聞いていた延樹も真剣な眼差しを大巫女に向けて強く決意を言葉にした。

 

「妾も大巫女の力になるぞ!大巫女は母親思いな良い娘だから妾は応援したい、妾達と一緒に行こうぞ!!」

 

 指令室の空気に緊迫感が流れる。ファフニールや他のアウラの兵達が対等を貫く蓮太郎と全く同じ口調で大巫女に語る延樹に戦々恐々と睨みを効かす。その中でファフニールだけは二人にではなく、大巫女を見つめ続け…彼女の返答を待った。大巫女は自嘲を止めて蓮太郎へと歩み寄り、彼を見上げた。指令室内の者達はどよめいた。彼女達にとって大巫女であるミドガルディアは絶対的な指導者、その立場にある者が足元に立ち相手を見上げる行為はその相手を対等と認めたからだ。

 

「大巫女様、そんな下賤な男を見上げるなどと!?」

「どうかその者から離れて下さいませ!!」

「大巫女様!?」

「大巫女様!!」

 

 皆が皆、大巫女を心配して騒ぎ始めるが、ファフニールの一喝が彼女達を黙らせた。

 

「狼狽えるな!!

此は大巫女様が彼等を認める意志を示したのだ。我等もまた、その意志を受け入れなければならない。皆、大巫女様の決意を見届けよ!」

 

 その場にいた者達を黙らせたファフニールを大巫女…アウラ・ミドガルディアは苦笑を浮かべた。

 

「すまぬな、ファフニール。お前には苦労をかける。」

「いえ、此もまた私の役目でごさいます。」

 

 アウラの民と長との絆を見せられた蓮太郎は微笑みを浮かべ、大巫女の足元に跪いた。そして大巫女は彼に改めて同盟の意向を口にした。

 

「里見蓮太郎、我等アウラの民は其方等と共に歩調を合わせ共闘する事を誓おう!

そして我等が始祖…アウラ救出の際は其方等の力を存分に利用させて貰う!」

「大巫女…アウラ・ミドガルディア。御方の御言葉、しかとお聞き致しました。御方の決意にこの里見蓮太郎、大いに敬意を称します。」

 

 片膝を着く蓮太郎の真似とばかりに延樹も跪き、ふと大巫女は長らしからぬ事を頭に浮かべた。“今、やっと自分が認められた”のだと…。

 

(理解はしていたが…、母上の様にはまだいかぬな…。)

 

 その時突然三発の銃声が指令室に鳴り響き、室内にいる全ての者達が驚愕の表情を刻んだ。銃声と同時に蓮太郎が前のめりになって倒れ込み、彼を中心に鮮血が広がった。延樹は即座に蓮太郎を抱き抱えて彼の名を叫ぶ。

 

「蓮太郎…、蓮太郎、蓮太郎オオッ!!?」

 

 アウラの近衛とファフニールが大巫女の前に立ち守り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。大巫女やアウラの民はその人物に敵意を露わにし、大巫女が怨敵の名を憎々しげに口にした。

 

「貴様ぁ、エンブリヲ!!」

 

 拳銃を右手に金髪のロングヘアーをし、貴族服を着こなした美青年はその綺麗な顔立ちで全てを見下した嘲笑を彼女達に見せつけた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。