Century of the raising arms   作:濁酒三十六

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すみません、三ヶ月と半月ぶりの更新となります。


迫り来る危機と刃鳴…

 交渉は大巫女の頑なな思いにより決裂したが、何とアンジュがアウラの民に寝返るなどと言い出し、状況は何処へと転がるのか分からなくなってしまった。蓮太郎達は三組に分けられて再び牢に閉じ込められ、ヴィヴィアンもまた仲間である事を理由に共に入れられてしまった。

 

「う~ん、お母さん心配してるかな~?…してるだろうな~?」

 

 そんな事を言いながらちょっとはショックだった様で隅に座り込み項垂れていた。同室の美森と蓮太郎はアンジュの思惑が見えず、蓮太郎は彼女と共に戦って来たヴィヴィアンに尋ねてみた。

 

「なあ、アンジュは本当に俺達を裏切るつもりでいるのか?」

「えっ、多分そうだよ。」

 

 あっけらかんと即答するヴィヴィアンに蓮太郎は一瞬言葉を詰まらせた。代わりに美森が彼女に尋ねた。

 

「じゃあ、アウラの人達と一緒にミスルギ皇国への総攻撃に参加するのですか!?」

「多分、アンジュはそれを止める為にみんなを裏切ったんだ。」

「え…っ!?」

 

 美森は彼女が何を言わんとしているのかが今一解らず、口を噤んだが、突然蓮太郎が突然壁を叩きつけ美森とヴィヴィアンはビックリして肩を弾ませた。

 

「アウラの民の総攻撃を止める為にはどうするのか…手っ取り早い方法は一つだけ、その為に俺達を裏切ったならそれは俺達を巻き込まない為の浅知恵だ!!」

 

 其処に蓮太郎の襟元に付いていた小型通信機のバイブレーションが反応した。いざと云う時に竜也と交信出来る様に付けていてアウラの民も気付かなかった代物だ。蓮太郎は通信機をONにし、ヴィヴィアンと美森は彼に寄り通信機に耳を澄ました。

 

《里見か?》

 

 通信は予想通り大黒竜也からの通信だった。

 

「あぁ俺だ。」

《今俺はタスクと牢にいる。

アンジュの件だが…》

「解ってる、あの女…恐らくは大巫女を襲うつもりでいる筈だ!

その為にアウラの民に協力すると嘘吹いて一時の自由を得た。」

 

 其処で通信はタスクの声に変わる。

 

《ああ、そうだ。

そして短気なアンジュの事だ、今晩…大巫女が寝付いた頃を狙って行動を起こす筈だ。》

 

 すると通信に結城友奈の声が割り込む。多分同じ牢にいるイオナの力だろう。

 

《それ、本当ですか!?

そんな事したらアンジュさんとサラマンディーネさん闘わなくちゃいけなくなります!?》

 

 友奈の言葉にタスクが返す。

 

《アンジュの事だから…、覚悟の上かも知れない。》

《そんな…っ!?》

 

 其処で蓮太郎はこの最悪の状況下での作戦を話し始めた。

 

「先ずは今晩…アンジュが起こすであろう騒動とは関係なく脱走する。

そしてアンジュを救出し…大巫女を俺達の世界に連れ帰る!」

 

 “ええっ”と通信機から声がした。まさかの大巫女拉致に友奈も美森も困惑する。…しかし一番困惑したのは竜也である。自分が帯びていた任務がまさかの全員協力による遂行となろうとは思ってもいなかったのだ。

 

《……いいんだな、里見?》

「大方()()()()が何処かのお偉いさんより受けてた任務なんだろう?」

《フッ、其処まで推測していたのか。

侮れないな、里見蓮太郎。》

 

 そうである、アウラの民現在の長を務める大巫女の拉致は大黒竜也が受けていた密命である。彼は本来なら皆を裏切り行動を移す予定でいたが、アンジュに先を越されてしまっていたのだ。そしてグループの今後の作戦行動が大巫女を連れ帰る事となった以上は竜也が密命を実行する事は不可能となった。…何故なら竜也に密命を下したのは国防軍を通した“十師族”なのだ。彼等の狙いは理解出来ないがアウラの民に対し強い興味を持ったと見るべきではある。…つまり竜也が思ったのは既に蓮太郎達と争うのは愚考に他ならないと判断したのである。蓮太郎もまた大黒竜也の存在には違和感を持っていた為、彼がメンバーに加わった理由をずっと考えていたのだ。そして起きたのがアンジュの一時的な裏切り…、此によって彼は大黒竜也に対しての答えを得てどうせならば大巫女の身柄を政府…いや、聖天子個人に預けてしまおうと考えついたのだ。

 

「実行は今深夜、アンジュの動きは考えずに此方は此方で動く。

先ずは保管庫で奪われた持ち物を取り返し格納庫で“ヴィルキス”各機を確保だ。

その際俺と延樹は大巫女の所へ行きアンジュと大巫女の身柄を確保、そして俺達の世界に戻る!

最悪はアンジュだけでも大巫女を連れて帰すぞ!」

 

 方針は決まり、皆深夜の荒事の為に体力を温存するとした。…しかし、友奈の心には奇妙な不安感が貼り付き、消えてはくれずに両手を祈るかの様に組んだ。

 

(何だろう、胸が凄く苦しい?

バーテックスがこの世界にいるって知った時から続いてる…わたしの心にへばりついて離れない不安感。

みんなを守りたい…守らなくちゃ!!)

 

 そして祈り組んだ手を離して握り拳にし、友奈はその手に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてアウラの民が寝静まった深夜に蓮太郎達は行動を起こした。牢屋は電子ロックであったがイオナがハッキングして開錠、脱獄は難なくクリアし、監視カメラもイオナにより偽の画像に変えてカモフラージュした。

 一行は自分達の取り上げられた持ち物がある倉庫を目指す。本来なら探すのに時間をかけそうではあったがイオナが友奈と美森の携帯端末を逆探知して真っ直ぐに倉庫へと向かう事が出来た。…が、その出入口に運悪く警備兵が居り、蓮太郎と延樹が彼女等を格闘にてみね討ちにした。

 

「延樹も強いけど蓮太郎も強いね♪」

 

 蓮太郎と延樹の格闘戦を見て友奈、美森、イオナが感嘆してヴィヴィアンがはしゃぎ声を上げた。

 

「んなこたいいからサッサと自分達の物を探せよ!」

 

 蓮太郎にそう言われて慌てて倉庫内を荒らす友奈達、竜也は即座に自身の武器である拳銃型CADを見つけボディスーツと一体であるヘルメットも装着した。そして美森が自分の携帯端末を見つけ出して電源をONにした時、彼女の顔が驚愕のものへと変わった。

 

 

「友奈ちゃん携帯を見て!!」

 

 危機迫る美森に友奈は頷いて携帯の画面を見ると、驚く事に“バーテックス”の反応が画面に映し出されていた。

 

「バーテックス…!!」

 

 友奈の顔が険しくなり、普段では聞けないであろう怒りと恐れが入り混じった声が絞り出された。二人の様子に気付いたタスクが友奈の携帯を覗き尋ねる。

 

「何かあったのかい?」

「バーテックスが…、この都に攻めて来ます!」

 

 友奈の言葉に蓮太郎と竜也も反応し、美森が詳しく説明を始めた。

 

「数は大型バーテックス乙女型を含めて凡そ()()、南方より侵攻中。後二十分もせずに城下に着きます!」

 

 蓮太郎の顔は青醒めていた。此からアンジュと大巫女を連れて自分達の世界へ帰還しようとしている矢先に強大な敵の群勢が此処へ迫って来ている。帰還する事は言わばアウラの民を見捨てる事と同位なのである。

 

(クソ…、何でこんな時に…!?)

 

 そして彼の上着の裾を延樹が強く握り締めて懇願した。

 

「蓮太郎、妾は……あの大巫女もこの世界の者達も放って置いてなど行けぬ!!」

「延樹…。」

 

 なかなか判断が着かない蓮太郎に意外にも竜也が助け舟を出した。

 

「里見、此処でアウラの民に恩を売るのもまた“手”ではないか?」

 

 彼の言葉にハッとし、蓮太郎は思考する。初めて見た時、ガストレア・ステージ4を相手にして一歩も引かず戦いのけた勇者二人、自分達の世界で対ガストレア兵器として重宝されている戦術魔法師、“蒼き鋼”が保有する霧のメンタルモデル、そして未知数の性能を持ったラグナメイル。そして頭に浮かんだ言葉は一つである。

 

「勝てるかも知れねえ!

友奈、美森は外に出てバーテックスの群勢を迎撃、出来るだけ抑えろ!

そして俺達はラグナメイルを確保しアンジュにもバーテックス退治を手伝わせる!!」

 

 作戦は大巫女の拉致からアウラの民の都を守り、アンジュ合流後は全員で攻めて来るバーテックスの纖滅となった。友奈と美森は即座に駆け出し、タスクと竜也、イオナ、ヴィヴィアンはラグナメイルのある格納庫へ向かい、蓮太郎と延樹は大巫女の寝室へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜、アンジュは小走りと忍び足を繰り返しながら大巫女の寝室へと向かっていた。目的は大巫女の拉致…彼女を人質にし仲間の解放…そして彼女を連れたまま自分達の世界へ戻る。…予定ではあるが先ず無謀と云えるだろう。しかし決して可能性が零ではない以上は此に賭けるしかなかった。少なくとも大巫女を確保すれば後はどうとでもなる。アンジュはそう考えていたのである。…しかし、気付いた。寝室への警備が少な過ぎ…まるで誘導しているかの様な配置にアンジュはふと笑みが零れてしまった。

 

(フフッ、まだ寝室に着くまでもなく“失敗”が解っちゃうとはね…!)

 

 大巫女の寝室に着き、部屋に足を踏み入れた瞬間に明かりが付いた。アンジュは驚きもせずすかさず拳銃を抜いて向かい側に立つ“サラマンディーネ”に銃口を向けた。

 

「予想通りの時間ですわ、アンジュ…。」

 

 サラマンディーネが不敵に笑みを浮かべ、アンジュも彼女につられて笑う。そしてサラマンディーネの傍らに大巫女が姿を現した。

 

「アンジュ、妾は汝と言う人物を見誤っていた。

汝はもう少し妾側に立てる人間と思っていたのだが、所詮は野蛮人を通り越した獣であったな…。」

 

 大巫女…アウラ・ミドガルティアは本当に失望感を露わにしてアンジュを詰り、それを聞き彼女は眉間を寄せた。

 

「ガキの戯言は聞きたくないわ!

それより…、サラ子…良い顔しているのね!」

 

 アンジュの言葉にサラマンディーネは長刀を鞘から抜き、下段の構えを取った。

 

「本当に貴女と殺し合うのは避けたかったのです。

…でも、身体が震えます。まるで喜んでいるかの様に…、貴女を犯したいと…殺めたいと…、震えるんです!」

「良い答えよサラ子、さあ……殺し合いましょおおっ!!!!」

 

 掛け声と同時にアンジュは拳銃の引き金を引きながらサラマンディーネへと駆け出し、背に装備したコンバットナイフを抜く。そしてサラマンディーネは飛んできた三発の弾丸を刀で弾きその勢いで体を一回転に回しアンジュに刃を振り下ろした。彼女はコンバットナイフで長刀を受け止め刃鳴がなった。


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