Century of the raising arms   作:濁酒三十六

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三ヶ月以上空けてしまいました、すみませんです。最新話投下です。


忠義は強く、友愛は熱く…

 友奈達が連れて行かれたのは嘗てアンジュとタスクが連れて来られた大巫女の広間で、前方にはピラミッドの様な祭壇があってその段々の両側に巫女姫達が座し、最上にはあの時と同じ白布の中に囲われて座していた。

 

「久し振りであるな、偽りなる地球の野蛮人よ。

先ずは妾の前にて跪くがよい!」

 

 大巫女は最上段よりアンジュ達を見下ろし、いきなりの物言いから始まった。蓮太郎はピクリと眉をひくつかせながらも片膝を付き、延樹も真似をして片膝を付いた。友奈と美森も同じく…、イオナと竜也…タスクも跪いたのだが、アンジュだけが立ったまま大巫女を腕を組ながら見上げ、不敵に笑った。

 

 

「前よりは平静でいる様だけど、わたし言ったわよね~、先ずは自分の名前を名乗れとっ!

いきなり跪けって、どんだけ偉いつもりよ!!」

「アッ、アンジュ、第一声で喧嘩売ってどうするんだよ!?」

 

 タスクは立ち上がりアンジュを止めて、せめて座らせようとするが反対に足の甲を踵で踏んづけられてしまった。

 

「タスクは黙ってなさい!

大巫女、今回わたしは迷い込んだ訳じゃない。貴女と話がしたくてこの世界に戻って来たわ。

貴女もアウラの民の長を自負するならわたし達に対し最低限の敬意をはらいなさい!」

 

 大巫女の台座をかためる巫女姫達はざわめいてアンジュ達に罵声を浴びせ始め、その中でサラマンディーネは苦笑いを隠し、仁王立ちで相手の出方を窺うアンジュを友奈達仲間はもう投げやりな表情しか浮かばず、延樹だけがアンジュに思い切りの良い啖呵に目を輝かせていた。

 

「オオッ、アンジュ格好良いぞ!」

 

 延樹にヨイショされて少々機嫌が良くなる彼女だが、サブリーダーである蓮太郎が立ち上がり延樹の頭をコツンと叩いた後にアンジュにも拳骨で頭を小突いた。

 

「蓮太郎痛いのだ!?」

「何すんのよロリペドッ!」

「誰がロリペドだ、くだらねえ意地の張り合いで無駄な時間使うなっつうんだよ!

先ずこの場では此方から名乗らなきゃならねえなら此方から名乗れ、業には業に従えだ。」

 

 アンジュは憎らしげに蓮太郎を睨むが…彼はサブリーダーであり自分はリーダー、此以上は確かに無駄な揉め事を呼ぶだけで其れはアンジュもまた本意ではなかった。そうであるならアンジュはリーダーらしくこの場をまとめる事と考え直した。…が、それは大巫女の方が早く転じ、白布の向こうから姿を現そうとしていた。

 

「…確かに貴様達の言う通りだ、時間の無駄遣いは此方も望まぬ。

我が名はアウラ・ミドカルディア、現アウラの民の長にして始祖の竜…アウラの直系である。」

 

 姿を見せて名乗りを上げた大巫女は何と外見は延樹よりも幼く見える幼女でかなり長いであろう髪の毛を両の頭上で巻いた可愛らしくも神々しい出で立ちであった。アンジュは随分と潔く名乗られた上に叱られ損となった為に苦虫を噛んだかの様にひねくれた表情を取り、サラマンディーネが座っているであろう段座を睨む。

 

(随分と良いタイミングでやってくれた…、もしかしたらサラ子の入れ知恵か!?)

 

 段座の布裏でサラマンディーネが不敵且つ悪戯っ気な微笑みを浮かべている想像をし、アンジュは更に顔を悔しげに歪めた。…実際、サラマンディーネは大巫女にアンジュが悔しがるのを知ってわざと高慢な態度を取らせ、アンジュが啖呵を切って仲間に怒られた後を狙い彼女の言い分を聞き入れる…と云う回りくどい芝居をお願いしていたのであった。

 まぁ、啖呵の後に誰がアンジュを説教するかどうかは運任せではあったが…。

 

(其処は其処、大巫女様ならば“アドリブ”を入れて下されたわ。)

 

 しかしそんなアンジュとサラマンディーネの張り合いなど関係なくハシャぐ者達がいた。

 

「オオッ、蓮太郎、大巫女はスゴくカワイイのだ!

妾は友達になりたいぞ!!」

「…延樹うるせえ…。」

 

 突然大はしゃぎを始める延樹に、大巫女をウットリと見つめる友奈は隣の美森の手を掴み取り、彼女に呟き聞かせていた。

 

「東郷さん、大巫女様カワイイ…。何だろう、スゴく抱き締めてあげたい気分…。」

「ゆっ、友奈ちゃん!?」

 

 美森は恍惚した顔の友奈を見て慌てふためき、大巫女は延樹と友奈の視線に気付き…身の危険を感じ取ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大巫女の広間では感情論ばかりを述べる巫女姫達がいる為に表面上はどちらも譲らずの交渉決裂を装ったものとなり、真の会談…密談は会議の間にて行った。アウラの民からはサラマンディーネと護衛としてラミアとカナメ、そして大巫女。更には巫女姫がもう一人…ファフニーネと言う人物が加わった。サラマンディーネを軍事責任者とするならばファフニーネは政治責任者になる。そして彼女等に対峙するのはアンジュと蓮太郎、美森が向かい合った席に着き密談が始まった。

 先ずは蓮太郎が自分達の世界…神世界樹の世界の状況とその日本土内の情勢を話し始めた。滅びかけた神樹の世界(友奈達の世界)より引き寄せられた同じく滅びに瀕した呪われた世界(蓮太郎達の世界)・霧の世界(イオナ達の世界)・魔法の世界(竜也のいた世界)…他にも未だ知り得ぬ世界が融合~具現化したのが神世界樹の世界である。そして日本土内は東北エリア~関東エリア~関西エリア~四国エリア~九州エリア(ミスルギ皇国を中心とした連立国家)があり、九州・四国以外のエリアは貿易関係を作りながらも対立状態となっており特に関西エリアは過去四国エリアに進軍したり、関東エリアへ攻め込もうと策謀している。その様な中で別の地球より現れたアウラの民がミスルギ皇国と全面戦争となれば日本土内は戦乱が荒れ狂う事間違い無しであった。美森からは神樹の世界で人類を滅亡へと導こうとした破壊神…バーテックスに関して説明し、ソレをこの世界で確認したと延樹とヴィヴィアンを証人として話した。二人は説明を終えて本題に入る。

 

「サラマンディーネさんにも既に話してはあるが少しでも貴女達と繋がりを持つノーマを匿っている関東エリアは対立状態の関西エリアに戦争の口実を与えたくない。

だから今暫くはバーテックスって奴を警戒しながらも自重をお願いしたい。」

 

 蓮太郎の話を聞き終えた大巫女達は沈黙し、蓮太郎達は出方を窺う。…しかし、次に大巫女が言った言葉に蓮太郎達は落胆する。

 

「残念だが妾達は…、其方等の思惑に乗ってやる事は出来ぬ。」

 

 彼女の返答に対し、アンジュは眉を寄せる。

 

「其処まで焦るのは何故!?

今貴女達だけでミスルギ皇国を相手してもアウラの救出なんて夢のまた夢よ!」

 

 アンジュの意見に大巫女はキッと睨む。

 

「此は妾達アウラの民の問題、共に歩めぬ以上は貴様とて我等が敵じゃ!

…口を慎め、野蛮人め!」

 

 しかしアンジュは止めずサラマンディーネに話を振る。

 

「…サラ子、貴女それでいいの、無駄死にするのが分かっててそれでもコイツに従うの!?」

 

 だが次の瞬間、サラマンディーネは鞘に納められた刀を瞬時に抜いてアンジュの頸動脈手前で止めた。アンジュは動かず、サラマンディーネと同時に蓮太郎は動き拳銃を抜いてサラマンディーネに銃口を向けた。サラマンディーネは表情に僅かな悲哀を見せながらも大巫女に対する忠義を優先し、アンジュへの友愛を退けたのだ。

 

「ごめんなさいアンジュ、でも…前もって言っていたわ。

私は大巫女様の言葉に従うと…。」

 

 アンジュとサラマンディーネは互いに視線を合わせたまま沈黙を守り、友奈やイオナ達が一切割り込む隙を与えなかった。…すると、ずっと黙っていた大黒竜也が小さな溜め息を吐いて口を開いた。

 

「交渉は決裂だな、此以上は無駄に時間が過ぎるだけだ。」

 

 冷たい言い方であった。友奈は彼の言葉に反対して声を上げた。

 

「駄目だよ、こんなの!

アンジュさんとサラマンディーネさんが可哀想だ、もっと戦わずにわたし達が出来る事がある筈だよ!」

 

 此に対して竜也はやはり冷たく…しかし友奈の意見を尊重して答えた。

 

「確かにあるだろう、考えれば幾らでもな。…だがその可能性を脇に寄せて彼女達は戦争を選んだ。

相応の理由がある筈だ。ならばその理由を越える対応策をお前達は出さなくてはならない。結城友奈、お前には其れを今直ぐに出せるのか?」

 

 それを聞くや友奈は竜也の威圧感に押されて口を噤んでしまった。…すると、アンジュの口元が歪み…口端が上へと上がると、彼女は突きつけられたサラマンディーネの刃を摘み遠ざけた。

 

「そうだったわ、わたし野蛮人だったわ。

…だったら、別にサラ子に寝返っても構わないわよね~。」

 

 サラマンディーネだけでなく大巫女、そして友奈達にイオナも竜也も驚きを隠せず、反対にタスクは呆れがちに溜め息を吐いて呟いた。

 

「また行き当たりばったりだな…。」

 

 そしてアンジュの肘がタスクの横っ腹へとめり込んだのであった。


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