Century of the raising arms   作:濁酒三十六

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久し振りの更新、13話です。


孤独なスパイは何を思うのか…

 アウラの民を束ねる巫女姫であるサラマンディーネとその側近…ナーガとカナメがアンジュ達を見つけてから凡そ一時間、サラマンディーネはアンジュや友奈達の話を聞き、深く思考を巡らせ…ナーガとカナメは不安な表情で主の言葉を待つ。

 

「アンジュ、そして異界…関東エリアの皆さん、私個人は貴方方の意見に賛同致します。

確かに“あの日”に受けた奇襲により我々の戦力はかなりの打撃でした。そしてアンジュ達ノーマが関東エリアに保護され、その関東エリアは関西エリア…仙台エリアと睨み合いによる拮抗状態。…そして同盟を組まれた筈の四国エリアとは連絡が取れず、関西エリアの後ろとなるミスルギ皇国…エンブリヲが関西エリアと同盟を結ぶ可能性が高くなっている。

…そんな状況下であれば私達アウラの民がミスルギ皇国に強襲をかけるのは玉砕と何ら変わらず、更に貴方方世界の日本と云う国内の全面戦争への火種ともなりかねない。それは私自身不本意です。……しかし…。」

 

 サラマンディーネは口隠り、彼女の懸念を見透かしたアンジュは彼女の代わりに不安の種の正体を口にした。

 

「アンタ達の“大巫女”ね?」

 

 サラマンディーネが頷き、ナーガとカナメが話に入った。

 

「我等が大巫女様の言葉は絶対…、あの方が全勢力を投じると言うならば我々は喜んでその戦いに身を捧げるつもりだ。」

「わたしは…、サラマンディーネ様と貴方達が正しいと思うけど…、アウラは大巫女様の実母であり…我々の母でもあるわ。

だから、どんな事をしてでも我等が母を取り返したいの!」

 

 お互いの事情が絡み、今のままで彼女達の現長である大巫女を説得するしかなかった。そして友奈と美森が一番懸念しているバーテックスの件についてサラマンディーネは何やら含みのある言い回しをし、アウラの都へ着いた時に話そうとだけ言われたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アウラの民が住まう都に着いた一行は一時サラマンディーネ…ヴィヴィアンと別れ、ナーガとカナメに客間へと案内された。竜也とタスク以外の全員が椅子に座ると二人が客間を出、扉が閉められた時に鍵の音が聴こえた。友奈と美森、延樹が困惑して立ち上がるが、蓮太郎が三人に落ち着く様に言った。

 

「気にするな、閉じ込めたのは勝手に城内を歩かせない為だ。

そう簡単に俺達の全部を信用なんざしやしないさ。」

 

 其処に壁に体を預けた竜也が一言付け加える。

 

「反対に言うなら簡単に全てを信用されては対応に困る。

付かず離れずの方が余計な感情を入れずに済む。」

 

 彼はどうも冷たい言動が多いと美森は感じた。自分達とも親しげに話してはくれるが後一歩の境目を見極めて手前で此方の様子を見る様な少し不気味な何かを隠している気がした。

 

「そう言えばヴィヴィアンさんは何処に行っただろ?」

 

 友奈はこの城に着いた時に別れたヴィヴィアンが気になり口に出すとやはり椅子に座り寛いだアンジュが教えてくれた。

 

「ヴィヴィアンなら“実家”。

ドラゴンに変身してスーツ破いたから母親の居る家に服を取りに行ったのよ。」

「そうか…、ヴィヴィアン…お母さんがおったのだな。」

 

 延樹が少し寂しげに…、しかし年不相応のとても落ち着いた微笑みを浮かべて言った。蓮太郎はそんな延樹の顔を見ようとはせず、その表情を曇らせた。そんな彼等をイオナは不思議な気持ちで見ていた。

 

(お母さんとは母親…、子供を産む存在…。

父親と対となる存在、父親とは番で…夫婦の関係…。)

 

 其処で彼女が思い浮かべたのは千早群像であった。初めはアドミナブルコードにある命令に従い千早群像と出会い、“彼の船”として“霧”を裏切り、彼の傍に居るに連れて自身の感情を自覚し、仲間への想いも深まった。…そして、群像への思いも…。

 しかし、イオナは以前から自分達…“霧”の存在に疑問を持っていた。本来なら人類を滅ぼす為の兵器である自分達に何故人の姿が必要なのか、何故愛しむ感情が必要なのか、考える度に謎は深まるばかりである。

 

「我々は何者なのか、そして何処へ行くのか…?」

「イオナさん…?」

 

 イオナが何気に呟いた言葉を聴いた友奈は彼女の表情に少し陰りを感じて尋ねた。イオナは“何でもない…。”と言って普段のポーカーフェイスに戻った。

 そして二時間程が過ぎただろうか、二度ナーガとカナメにヴィヴィアンが訪れた。

 

「皆様、大巫女様との謁見の御用意が整いました。さっ、此方へ。」

 

 カナメが笑顔で案内するのとは反対にナーガはアンジュ達に睨みを効かし注意を施す。

 

「いいか、大巫女様に対して無礼な態度と物言いは絶対に許さぬからな!

…分かっているな、アンジュ殿!?」

「何でわたしだけ名前を上げるのよ!?」

 

 アンジュの文句に彼女の左後ろにいたタスクがぼそりとツッコミを入れた。

 

「“前科”があるからだよ。」

 

 次の瞬間、アンジュの左肘がタスクの溝内にヒット。…小さな悲鳴を洩らしタスクは体をくの字に曲げた。

 

「一言多いのよアンタはっ!」

 

 そんな二人のやり取りにヴィヴィアンと延樹は大笑いをし、友奈と美森はタスクを見て苦笑する。蓮太郎は騒がしいと言いたげに呆れ顔となり、イオナは不思議そうに首を傾げた。イマイチ緊張感に欠ける一行ではあったが、皆の後ろに付いて歩く大黒竜也は目を細め、彼等を見る。その眼孔は仲間としての感情は一切見受けられず…その思考は彼等とは違う任務に対して実行の是非を自身に問いていた。

 

(もしドラゴン達が関東エリアの意向を受け入れなかった時の俺の任務…、

“それはドラゴンの現在の長…大巫女を捕らえ、関東エリアに連れ帰る事”!)

 

 この任務は魔法協会日本支部管轄国防軍より受けた秘密任務である。アンジュや蓮太郎はおろか、融合世界にて報告を待つ聖天子ですら預かり知らぬ特殊任務…、つまりは魔法協会日本支部独自の謀略である。結果的には目的の交渉を成立させる為の人質としてではあるが、場合によってはミスルギ皇国に対しても通じる“カード”として手元に置く為でもあった。

 彼…大黒竜也が何を思い、この策略に組みするのかは解らないが、彼が国防軍に所属している以上は拒める立場ではないだろう。

 そしてその天秤を傾ける存在はアウラの民の長である大巫女…アウラ・ミドガルディア只一人であった…。

 


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