アンドロイドは電気羊の夢を見る   作:KAZUYOSHI

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何も知らないアンドロイド

覚醒すると、はじめに目に入ったのはコンクリの天井。目だけをぐるりぐるりと動かすと、照明とベッドの枠。

少し頭を持ち上げると、裸の体、またベッドの枠。そして壁とモニター。

彼は理解出来た、自分が起動したのだと。世界が衰退してるのだと。次に理解したのは自分の名前だった。

それ以外はわからなかった。否、知らなかった。何故自分は作られたのか、何故世界が衰退していってるのか、何故誰も居ないのか。知らなかったが、今の彼は知ろうと思わなかった。

彼の名前はブルー。アンドロイドである。

「おはよう、世界」

 

彼は外へ飛び出した、空を見たかった。太陽の光に当たりたかったのだ。階段を駆け上がり、勢いよくドアを突き破り、ゴミ箱や椅子などはかなぐり蹴り倒し、外に飛び出した。空は青かった、太陽の光は、暖かかった。同じ、自分のデータベース、脳の情報と同じ。彼は機械ながら、そのことに感動した。

裸だったが、何も気にはならなかった。自分が『生』を受けたのだ、世界にはありのままの自分を感じて欲しかったのだ。建物は寂れ、蔦や苔に覆われていた。もう何十年も、誰の手にも触れられていないのがブルーにもわかった。

けれどそれが彼の足を止める理由にはならなかった。彼は走り回った、無意味だったが、実に有意義だった。

しかしふと、彼は足を止めた。彼は、ジッと物陰を見つめた。そこには、自分以外に動くものがいた。猫だ、猫が瓦礫の小さい山にちょこんと座ったのだ。彼はまた感動した、自分以外の動くもの、それもこんなに生き生きとした猫に出会えたのだから。彼はそっと近付いた、怯えてないとわかると手を伸ばし、触れようとした。すると「触るなよ」と言葉を放った。

彼にはこのことが理解出来なかった。触れようとした手が止まって、動かない。所謂フリーズだ。彼は自分のデータベース、脳の中を駆け巡った。隅から隅まで、駆け回った。そして答えにたどり着く。『こういう時は、聞けばいいんだ』

「ねぇ、何で喋れるの?猫は、喋れるの?」ブルーは、ひっそりとした声で聞いてみた。猫は欠伸をしながら答える。

「いいか僕ちゃん、想いは力なんだよ」

そして猫は瓦礫の小さい山から降りて、西に歩き始めた。

「想いは…力…」

ブルーはそっと呟いた、そして猫の後を追い掛けた。猫は言った。

「旅は道連れ、世は…情けない。とりあえず服でも着たらどうだい、情けない。」

猫に情けない、と言われ、ブルーは初めて裸であることを恥じた。


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