緋弾のアリア~二丁拳銃の猛犬~   作:猫預かり処@元氷狼

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Re:EpisodeⅢ‐Ⅶ

和久が思っていたよりはクレモナの町は活気に満ち溢れていた。やはりヴァイオリンの聖地だということもあってか、その筋の音楽家たちや楽器を販売する店の関係者等が多いのだ。イタリアの辺境、といってもいい場所にあるそこでは先ず見ることはないと思った人混みに少し面食らっていたのも束の間。人混みからはすぐ離れ、地図を見つつジャンヌに手を引かれて辿り着いた場所は小さなカフェのような場所だった。

少し他の場所より熱気を感じるのは、まあつまりそういうことだろう。此処が鍛冶師の工房だ。

 

「人気はないな。外に出ているのか?」

 

「そんなはずはない。一応今日来ることは伝えてアポイントをとってあるのだ」

 

それにしては静かだ。

表はヴァイオリンの工房をしているのは店外から見える様子からして分かる。一見こんなところで時代遅れの戦士たちが扱う刀剣類を鍛えているとは思わないだろう。

おそらく考えられるのは、ここは裏口のようなもので店主がずっと目を通しておくことが困難な場所だというものが自然だ。大抵隠し通路というのは排水管につながる入口を模してカモフラージュしたようなものが多い。特にコンクリートが集中しているところ、だ。しかしまあ、そこまで大層な隠し通路など一鍛冶屋にあると考えるのは少し的外れに思える。

 

「呼び鈴でも鳴らして反応を見る……か」

 

見かけは普通の木造二階建て、おそらく地面が石造のところもあるところから地下室もあると分かる。至って普通の家だ。

 

「うだうだしていたらそれこそ日が暮れる。入るぞ灯央」

 

「おう」

 

こういう時、ジャンヌの性格でもある良く言えば引っ張り気質、悪く言えば強引性というものには助けれる。チームとして行動する場合、個人で動くわけではないために色々な意見や行動が生まれる。その中からどの意見、行動がベストなのかを決めるのはとても難しい。優柔不断な結果が失敗を生むことなんて学校の依頼でも少なからずあったことだ。そういう点から見ても、ジャンヌはチーム行動。特にリーダーとしての適正がある。

和久自身、あまり頭を使うことは得意じゃない。実際、強襲科所属の武偵に戦略、戦術規模の頭脳は必須というわけではない。それこそ情報科(インフォルマ)探偵科(インケスタ)などの後方情報技術支援(コンバットサポーター)の連中に任せればいい。

 

「失礼する。ミリアン・クァールメルク殿はご在宅だろうか!『Phantom』の者だ!」

 

「ファントム?」

 

「うむ。教授――プロフェシオンから言われた合言葉だ。どちらもPから始まるだろう?」

 

「なるほど」

 

そんな確認をしていると、店奥から物音が聞こえた。金属を散らす音で、おそらく散らかっているのだろう。金属の擦れる音が鬱陶しさと共に首筋に鳥肌を立たせる。

店の扉を今度は逆にベルのカランコロンという心地よい音を鳴らしながら開けたのは……小学生ぐらいのガキ坊主だった。

 

「J・DとH・Kだね。待っていたよ、そろそろ来る頃だと思ってた」

 

「……ジャンヌ、このガキが、その、鍛冶師なのか?」

 

「……わからん、教授からは外見の特徴は聞いていないのだ」

 

見た目の割に堂々とした態度の少年は、和久の態度に不快そうに身をよじり顔もついでに歪ませる。一発で見分ける。こいつくっそ生意気な神崎タイプのガキだと。

 

「フン、ボクはミリアン・クァールメルクじゃあない。ボクはクァールメルクの弟子だ、それに歳もお前等よりとってるんだぞ」

 

んなバカな。女みたいに高い声からして声変わりすらしてない子供が俺より年上だと?有り得ん。……と、またもや一笑に付すような和久の態度に更に眉を釣り上げて怒りに顔を真っ赤に染める少年。

 

「ボクの名はセイ・クローバー!今年で23になるオトナだ。灯央和久、君はファントムから今年で17だと聞いているが?まさか組織の昔Nо.2だったあの灯央の曾孫であろうキミが年上を敬わない非常識な人間だったとはね!」

 

なんとこちらの神経を逆なでする煽りか。こちとら伊・Uに来てから曾祖父さん曾祖父さんと比べられまくってイライラしてるのに……!しかしまあ、今は細く絶えてしまいそうな灯央だがご先祖様の名に傷をつけるわけにはいかない。ここは謝るのが無難……「全く、こんな野蛮な男と共に行動しているなんて、フランスの英雄も地に落ちたね」……Nope(いいや), kill after all(やっぱ殺そう)

 

「こんの糞餓鬼がッ!」

 

「ひ、灯央!や、やめっ私は気にしていないっ!こんなのバカな世間知らずの糞餓鬼がほざいてると思えばいい事なのだっ!」

 

ジャンヌもジャンヌで和久がバカにされたことは、逆燐に息を吹きかけられてるぐらいキているので言い方に容赦も遠慮もかけらすらない。

 

「ぐぬぬぬ……!着いてこい、師匠が待っている!」

 

煮え切らない様子だったが、店に入っていく糞餓鬼。

 

『師匠!ファントムの者共が来ました!』

 

『居間に通しなさい』

 

イタリア語での会話だった。師匠と呼ばれた男ミリアン・クァールメルクの声は年を感じるよく響く低い声だった。叔父、義武にとても近い声だ。そういえば、義武叔父さんにも何も言わずに出てきてしまったな……凛さんと優さんは元気にやってるだろうか。

 

「日本の事でも思い出していたか?」

 

「ん?ああ、まあな」

 

よくわかったな。と驚いたことが顔に出ていたからか、クスリと笑ったジャンヌは当然だとでも言うように和久の頬をつつく。

 

「伊達にお前に愛されてる女をやってるわけじゃあないぞ」

 

「……っ。からかうのはやめろ」

 

最近、ジャンヌが前より積極的になったと思うのは気のせいじゃあない筈だ。流石に気恥ずかしい。

 

居間。やはり部屋の中は工具や貴金属の欠片などで散らかっていた。ある程度礼儀を語るからには礼儀を弁えているようで、散らかっていた工具を慣れた手つきで片付けて、人二人が座れる程度の少し小さめのソファを引きずって持ってきたセイ(糞餓鬼)は、『ここに座って少し待ってろと』ソファを指差し奥に消えていった。

店の中は当然ヴァイオリンで埋め尽くされていたが、一つ一つの作品に寄せられた作者名はSAY CLOVER。なるほど、ヴァイオリン造りとしてのこの店はあのガキが表向きやっているのだろうか。なんて部屋の中を観察していると、ガキが先程消えていった方からガタイのいいオッサンが出てくる。

 

「待たせたな。オレがクァールメルク、日本語は堪能ではないので許してくれ」

 

少しまだ発音が異国癖が抜けてないが、充分だ。というより最近日本語ができる奴等が多いんだが、何時の間に日本語が世界標準語になったのだろうか。

 

「俺は灯央和久だ。慣れない日本語をさせてすまない」

 

「ジャンヌ・ダルクだ。この度は急な申し出に応じて頂き感謝する。我が剣をよろしくお願いする」

 

「ああ、どちらも気にしないでくれ。シャーロックのやつには世話になっているからな。こんな銃なんてもんが溢れてるご時世。商売続けてられるのも彼がここを宣伝してくれているのもあるからな」

 

気にするな、と振ったゴツゴツとした手は所々、火傷のような傷や切り傷でいっぱいだった。歴戦の戦士と言われても納得できる。実際、戦時(と言っても西暦3桁以上の大昔の話だが)では鍛冶師は若い頃は戦士として戦場を駆けたという話もある。実際の戦場を駆け、数多の武具を目に収め自身で使うことによって造る武具の質をあげる……というものらしい。

 

「早速だが、得物を見せてもらいたい。場合によっては刃の質も変わってくるからな」

 

「了解した。……灯央」

 

「ああ」

 

預かっていた白い布に包まれた魔剣デュランダルをクァールメルクに渡す。デュランダルということは知っているのか剣の扱い方は慎重。布を開いて真っ二つ、という言葉を形容している様なデュランダルを見て呻くクァールメルク。魔剣、という普通の剣とは違う物を見ているからか、目はかなり険しい。

 

「見事に斬れてるもんだ。何があったらこんな業物が真っ二つになるってんだ……殺りあった敵はかなりのヤリ手だな。それこそかなりの高音で熱した斬鉄剣なんて幻剣ぐらいじゃあなきゃ……」

 

チラリとクァールメルクが見たジャンヌは、正にその通りだった事への驚きと焦りで引きつった笑みを浮かべていた。

 

「ま、マジか。流石日本というべきだ……実に興味深い」

 

日本の、日本の海外からの認識がおかしくなっていく……!

確かに白雪は白雪で人外化していってるな。単純火力と技法的な意味ではかなりの技量として在るだろう。

 

「おっと、何も出さずすまないな。セイ、コーヒーを淹れてくれるか。砂糖入れるかい?」

 

「ああ。頂こう、私はスプーン二杯ぐらいほど入れて欲しい。苦いものは苦手だ」

 

「俺は無糖で頂こう」

 

師の言葉は絶対なのか文句言わずコーヒー豆から専用の機器で淹れる。静かにしていれば大人しい頭の良さそうなガキなんだが――

 

「お待たせしました……ッ!」

 

俺のやつだけ思いっ切り机潰すぐらいの勢いで置くなよガキがッ!溢れてないから気にしないが!気にしないがっ!こいつクァールメルクさんが目を離している時を見計らってるし……!

 

「いただきます」

 

「どうぞ。良い物ではないがセイはコーヒーを淹れるのは得意だから気に入ってくれる筈だ」

 

クァールメルクは目は剣の断面図に向けたままだが、自信を持って勧める。白いマグカップに入ったコーヒーは香りが良い。若干甘い香りがするが無糖を頼んだし豆本来の香りなのだろう。横で早速コーヒーを飲んでいるジャンヌも気に入ったようだ。カップに口を付け、火傷しないようにゆっくりと飲むと、ほんのりとコーヒー独特のこれでもかというほどの尋常じゃあない甘さと共に砂糖らしき固形の物体が口に……

 

「甘ッ!おぇ、口がっ!渇くッ!喉に砂糖がっ!」

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!ひーーーーっ、ひーーーーっクククククッおぇっうぇうぇへへへへへ」

 

俺の絶叫と糞餓鬼の笑いの狂騒曲。

 

「ど、どうした灯央君!?おいセイ!何をした!?」

 

「ちょっとこいつ生意気だったんでネオテーム(砂糖の厄一万倍の糖度)ブチ込んでやりました師匠ってイッタあああああああああ!!!!????」

 

「客人になんてことするこのバカ弟子がッ!」

 

中途半端に混ぜてるから正方形の角砂糖の名残か、角ばったネオテーム糖が口を支配する。吐気しか生まれない舌からの味覚情報に頭がおかしくなってしまいそうである。そもそもネオテームなんてもんはそのままの状態で食べるものではなくて、それが常備してあること自体おかしいのであってだなっ!

クァールメルクの一喝をよそに俺はあまりの甘さ、いや一周回って辛さに悶絶する。これは、やばい。

 

「クァールメルク殿っ!調理場をお借りするぞっ!」

 

「どうぞ使ってくれ……こんのバカ弟子ガアアアアアアアアアアアアア!」

 

「師匠!Perdona mi(もうしないから許してっ!)!」

 

この時はジャンヌがいち早く対応し、台所から水を入れたグラスを飲ませてくれたために大事にはならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

数十分後。

悪魔(ネオテーム)の甘さからやっと解放され、クァールメルクの激昂も収まった時は既に日が暮れかける時間になっていた。そのまま工房に案内された俺とジャンヌは、デュランダルが本来の身の丈ほどある大剣に戻す事は刃の斬味、強度、質などが大幅に下がる。何より古い剣であるために完全修復には至らないとのことだった。

 

「そこで何だが、この真っ二つに折れちまった剣先の部分は、よく使えなくなった業物でしているお守りみたいなものなんだが、溶かして球体にしてネックレスにでも加工したい。そこの馬鹿弟子が慣れてるからうまく作れるはずだ」

 

「ほう、いいな。頼む……そうだな、そのネックレス。二つ作れるか?」

 

「ああ、問題無いが?」

 

「それじゃあペアルックにしてもらいたい……灯央の、分もな」

 

予想外の提案に驚く和久。

 

「ハッハッハッ!最近の若いもんは恋愛ごとに疎いと聞いたがそんなことはなかった。いいぞ、形などに希望はあるか?ネックレスだから限度があるが、ある程度型は揃っている」

 

「は、ハートはあるか?」

 

「あるぞ。そうだな、片割れハートにしようか。ハートが半分に等分されて、二つ合わせれば一つになるってやつだ」

 

ニヤニヤと笑いながら提案するクァールメルクはなにやらノってきたっぽいぞ。

 

「それがいい!灯央も、いいだろう!?」

 

「お、おう」

 

俺が狼狽えてるうちに話はどんどん進み、デュランダル自体の件は無くなっている。それからまた二十分ほどネックレスのことで話があり、日暮れが完全に終わり窓から見える外は真っ暗になっている。夜の肌寒さが目立ち始め、冷たい夜風がジャンヌとクァールメルクを現実に引き戻した。

 

「っと、話混んじまったな。彼氏君もすまんな、久々の客だから年甲斐もなくはしゃいでしまった」

 

「いや別に、気にしてもらわなくてもい」

 

正直、糞餓鬼と二人アウェーな感じになるのはきつかったが。

 

「さてと、話を戻すがデュランダルに関してだが柄も作り直し、全く別の剣として叩き直さなければならない。その場合だが大剣にするには鋼が足りない。付け足すのはもってのほかだ」

 

「他の西洋剣となるわけか」

 

「そうだ。この鋼の量、そして作ったあとの利用性を考えれば一番は鎧通し――〈パンツァーシュテッヒャー〉系の武具にしたほうがいい。レイピア、スティレット、代表的なものはこういったものだが、一番作り直したほうがいい剣種は……エストックだな」

 

エストック。知名度は然程ないがレイピアに似た「突き」を主体として作られた武剣だ。レイピアは貴族階級の御飾り、としての認知されているがエストックは主に雑兵に与えられた量産性のある武剣だ。しかし、貴族が見た目重視と言わんばかりに進化したレイピアより、エストックは攻撃性……戦いでの信用度は大きくレイピアを上回る。

 

「ふむ、問題ない。スタイルを変えねばならないが、今の状況を考えれば細身の剣のほうがいいだろう」

 

確かに、大陸を駆け巡る中アーレスの様に自身の大型武具をカモフラージュしつつ動くのは困難だ。武偵には帯銃、帯剣許可があるために公に持ち歩けるが、今の俺たちの立場はテロ組織の一員。要はテロリストだ。ジャンヌなんかは一般人には知らされていないが、武偵内では日本でのあの大立ち回りの一件以来武偵連盟IADA、国際刑事警察機構ICPOが少し動き始めているのもあって最新の警戒が必要だ。英国に近いこともあり、SISの軍事情報部第六課――通称MI6にも目を付けられない様気をつけなければならない。

 

「よし。それじゃあエストックの微調整希望要項はこれに書いてくれ。長さ、刃渡り、重さ、柄の色、刃の反り度。色々あるが、感覚で書いてくれて構わない」

 

「了解した。ふむ、細かさが分かる日本語でこれも書かせてもらうぞ」

 

「あまり難しい言葉や漢字は使わないでくれよ。翻訳サイトにヘルプする羽目になっちまう。ほら、ペンだ」

 

「心得た」

 

やはり剣を扱う者として希望したいことは多いのか、達筆な文字で書かれる要項は細かく書かれている。専門的な言葉が日本語で書かれ、和久自身日本人のハズなのに読めない文が多い。

 

書き終えた時間は思ったより短く、しかし紙いっぱいに書かれた希望要項紙をクァールメルクに渡す。

 

「よろしく頼む」

 

「ああ、任せろ。出来上がるのは早くても今日火を跨いで二日、明々後日になるだろう。それまでこの街を観光でもして待っていて欲しい」

 

「この街はいい街だ。時間など何時の間にか経っているさ」

 

俺のその言葉に、ジャンヌから手渡された紙をたたみ作業着の胸ポケットに入れたクァールメルクは笑顔と思案顔を浮かべる。

 

「嬉しいことを言ってくれるな灯央君。…………ふむ、そうだな……セイ。お前明日お二人の観光の案内役をしろ」

 

「は、はぁ!?な、何を言っているのですか師匠ッ!?」

 

「あれだけ迷惑をかけたんだ。これくらい謝罪としてやれ」

 

このガキが渋々観光案内するのを観るのも面白そうだと思った俺は性格が悪いのだろうか。

 

「ぐ、ぐぅ…………わかり……ました……」

 

『ぐぅの音も出ない』とは、まさに今のこのガキ事だろう。悔しそうに歯を食いしばりこちらを睨んでくる糞餓鬼君をスルーし、ありがたくこの申し出を受けることにしよう。

 

「それはありがたいな。地元の住人で案内していただけるのは貴重な体験だしな」

 

「ヴァイオリンしかないこの街だが、面白いものは地元民の目から見ても色々あるはずだ。海外、特に日本という文化も何もかも違う土地から来たのであれば特に楽しめる筈だ。私も大昔、刀の製法を勉強しに日本へと渡った時もワクワクしたものだからな!」

 

やはり鍛冶師からすれば刀の構造、製法などは知りたいものなのだろう。

 

「それじゃあ二日後。また寄らせていただく」

 

「おう。得物の方は任せな、責任持って完遂しよう。観光案内の方はセイをそちらの宿泊先に向かわせる。確かモーテルは『MASCHERA』だったな、11時に着くよう行かせよう」

 

「merci。楽しみにしている」

 

店から出た後は、すっかり夜になっていたこともあり街は煌びやかな電飾などの灯りではなく、淡い白熱電球のオレンジ色の光が街を照らす。東京ではあまり見ることができない昔ながらの中世から続く街並みに非常に合っている。

こういう現地人からすればそれがどうした、ということでも海外旅行者からすれば興味深く、面白いものだと感じる時はとても有意義な時間だ。

 

モーテルに戻った時は既に20時を過ぎていたため、そこは小隊でも軍隊の末端であるからか魔女連隊の女たちは夕食を済ませていた。風呂上りだったからか、隠れ家は変に甘酸っぱい香りで充満していた。

 

「帰ったな二人共。随分と遅かったなぁ?」

 

「飯はあるか?」

 

「残してやってっから早く着替えて居間に来い。ビーフシチューが冷めちまうぜ?」

 

こういうところは仲間意識があるのだろう。一つ屋根の下で共同生活しているわけで、今は俺たち二人も魔女連隊の一員、ってことか?なんか武偵としても俺自身としても複雑だ。

ふむ。あとおそらく三日ほど、このクレモナの地で何が起こるのか。

 

――――――何か少し胸騒ぎがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今年で高校二年となる少女、灰花梗の最近の日々はとても面白くないものである。突然消えた思い人のこともあるが、それよりも和久たちと過ごす日々と比べて一般高校の普通さ。に飽き飽きしてきたこともある。

銃声と、硝煙香る非日常に徐々に汚染されてきているのだ。和久が多少でも危惧していたことだった。

 

「ネーチャン。最近どうなんだカレシとの進展!」

 

「ん?お前には関係ないことだろう爽太」

 

「いやぁー、だってさ。和久ニーチャンってこの前のハイジャック解決に尽力!だとかで、前めちゃくちゃニュースに出てたじゃんか」

 

キラキラと目を輝かせて私を見る弟は、友人がアイドルを見るような憧れのようなものがあった。確かに灯央和久という武偵は、最近世間からの認知度も上がってきている。ハイジャック解決で画面に映った日からファンが沸いた。特に女性ファンの量は格段に増えた。

 

「なぁー、なぁーネーチャンから言ってサイン貰ってくれよー。クラスのやつから頼まれんたんだ」

 

「爽太、私は和久と知り合いだってこと極力伏せてくれ。って言ったよな?」

 

弟の両即頭部を握り拳でグリグリする。

 

「イテテテテテ!ネーチャンイッテェよ!」

 

「ふんっ。これに懲りたら知り合い自慢はやめなさい」

 

和久……一体今何処で、どうしているんだ。――会いたいぞ。

 

「梗、もうすぐ修学旅行でしょう?何処に行くんだっけ貴方」

 

「ああ、ヨーロッパ。――――――――――――フランスだよ」

 

何かが……、何かの歯車が良からぬ向きで、動き始めていた。

 




徐々に正妻の威厳と余裕を魅せる聖処女()

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