――――――――――――酒を飲みつつ独奏曲。
昼休み、キンジはクラス中の質問攻めにあい既にグロッキー状態で俺はというと昼食という名の飲酒のために屋上へ向かっていた。屋上について売店で買った焼きそばパンを頬張りながら、ビールを飲む。
携帯灰皿を柵の上に置いて、煙草を食後に吸えるようにセットしておく。
「焼きそばパンうめぇ……」
俺の好物でもある売店の焼きそばパン。ビールと一緒に食べると最高だ。
そのため俺は焼きそばパンがまだ二つ残っている。
あの後神崎は普通に授業に戻ってきたが、授業中俺に目が合うと睨み付けてきた。
其の度に教室の中に冷たい空気が走ったのだが俺はなんとか遺伝に負けず、頑張った。
そんな感じでさっきの事を思い返していると、屋上に何人かの女子が喋りながらやってくる。
特に理由は無いが、なぜか物陰に隠れる俺……傍から見れば不審者だ。
「さっき教務科から出てた周知メールさ、二年生の男子が自転車を爆破されたってやつ。あれ、キンジじゃない?」
どうやらキンジの事を話しているらしい。
「あ。あたしもそれ思った。始業式に出てなかったもんねー」
「うわ。今日のキンジってば超不幸。自転車爆破されて、しかもアリア?」
三人、先ほどまで俺が食べていたところに移動して昼食を取り始める。
面白そうな話が聞けそうなので、悪いが盗み聞きさせてもらおう。
「さっきのキンジ、ちょっとカワイソーだったねー」
「だったねー。アリア、キンジのこと探って回ってたし」
アリアがキンジを探っている?なんで?ヒステリアモードの戦闘力を見たからか?
朝の屋上の後もう少しキンジに話を詳しく聞いたら、ヒステリアモードでUZI付きセグウェイ七機を七発の銃弾で一発で仕留めたとか言うじゃないか。確かにヒステリアモードのアイツであれば簡単だが、それはカッコつけすぎだろーっと思った。
「あ。あたしもアリアにいきなり聞かれた。キンジってどんな武偵なのとか、実績とか。『昔は強襲科ですごかったんだけどねー』って、適当に応えといたけど」
それが何よりもめんどくさいことを引き起こすんだよ君。あぁーキンジまじどんまい。
「アリア、さっきは教務科の前に居たよ。たぶんキンジの資料でも漁ってるんだよ」
「うっわー。ガチでラブなんだ」
此の場にキンジがいたら発狂物だろうな、連れてこなくて大正解。
「キンジがカワイソー。女嫌いなのに、よりにもよってアリアだもんねぇ。アリアってさ、ヨーロッパ育ちかなんか知らないけどさ、空気読めてないよねー」
「うん分かるわそれ、だからひおっちがアリア一回やってくれて結構スッキリしたわー」
ひおっちとは、何故か女子の中で俺の共通の呼び方として使われているあだ名らしい。
なぜ『っち』なのかがわからない、たぶん男には一生理解できない領域なのだろう。
「えぇー?けど灯央君ってちょっとやばくない?お酒とか煙草とかヤクやってるとか噂」
「え?ゆみ知らないの?ひおっち確かに煙草とか酒とかは本当だけど滅茶苦茶いい人なんだよ」
「そうだよ!この前渋谷で絡まれてた
あぁー、そんな事もあったな。
「まだあるよ!もう強襲科辞めちゃったけど、一年の時依頼失敗した同学年の確か……沢村を助けたんだって」
沢村?誰それ
「それにひおっちの行動は、煙草とお酒抜いてほとんど筋が通ってるし、言う事も正論で、結構優しいから、二年と三年女子の中でファンクラブもあるんだって‼」
は?初耳だぞ。ファンクラブ?
「へっへー、私も実は会員なんだぁー」
「「マジ⁉」」
「だってカッコいいじゃーん。真っ赤な髪の毛、咥え煙草、あの背の高さとかイケメンだし‼」
髪紅くして、煙草咥えてる背の高い奴は全員モテるのか?
不思議だ、女子とはいつも疑問を抱く事ばかりだ。
「あ、そう言えばこの前新宿で見たんだけど。ひおっちこの前ホストクラブにスカウトされてたんだよ!その時の私服がメッチャカッコよくて、あぁーそりゃあスカウトされるわぁって感じだった‼」
「マジで?すごーい」
「あ、そう言えば写メ撮った‼待ってねー…………あったあった。キャーー‼カッコイイ‼」
「ほんとだ、メッチャイケメン」
「ほ、ほんとカッコいいねぇ」
「お、ゆみもひおっちファンクラブの会員になる?」
「ええー、どうしよっかなぁー」
なんか、話がどうでもいい方向に向いたな。焼きそばパンもビールも話聞きながらいつの間にかなくなってたし、帰るか。あ、一服してから。その後俺は煙草を2本ほど吸って、屋上を出た。
なんか女子3人組は写真に夢中だったので俺が後ろを通ったことに気付かなかった。
初日の授業はラスト2時間神崎の視線に耐えつつ、休憩時間の喫煙でストレスを発散して無事に何もなく終えることができた。今日は装備科の仕事は何もなかったため、同じく何もないキンジと帰ることにした。
そして俺は今、キンジの部屋にいる。理由は単純に居たいから。
というより、俺と武藤、不知火はほとんど毎日キンジの部屋か、俺の部屋に集まる。
なぜ俺かキンジの部屋なのかというと、俺とキンジは何故か通常では四人部屋の寮を一人で使っているからだ。俺とキンジを同じ部屋にすればいいのに、武偵高はそう指摘しない為ありがたく使わせてもらっている。
「カァァッ!やっぱ美味いわビール最高!」
キンジはそう言う俺を横目に見て苦笑し、自分もコーラを飲む。
「お前も飲むか?キンジィ」
「それじゃ一杯だけ」
俺とこういう生活をしてきたからか、相当キンジも酒に強くなってきている。
ビールであれば蘭豹に及ばないが、8缶は楽勝だろう。
「おう」
俺は横に氷水の中に浮いて冷やしてあるビール缶を一缶取り出してキンジに投げる。
プシュッ!という炭酸が抜ける音が部屋に響き、それがまたいい雰囲気を作り出す。
現在の時刻は5時34分、そろそろ日が落ちる頃だろう空が徐々に赤くなってゆく。
「なんかなァ、こうやって静かに酒をお前と飲めるのは今日が最後に思えてくるんだよ」
「何言ってんだカズ」
「一つなぁ、予言してやるよキンジ」
「なんだよ」
「お前は……武偵は辞めない」
「…………辞めるよ俺は、絶対に」
そう言うキンジの顔は、これまでにない決意の表情を浮かべていた。
何というか……うん。俺達二年の初日に何酒飲んで部屋の中でシリアスして黄昏てんだろ。
第三者目線だと爆笑もんだぞ。
「ま、いいや。この話は終わりだ」
俺が6本目のビールを開けた時だった。
ピンポーン!
チャイムが鳴った。武藤と不知火か?今日は遅くなるって言ってたけど。……誰だ?
ピンポンピンポーン!
なんか予想できている俺が嫌だ。
ピポピポピポピポピピピピピピピンポーン!ピポピポピンポーン‼
それが引き金となり、キンジは玄関に飛び出して何の確認もせずドアを開ける。
「誰だよ⁉」
声だけが俺に聞こえる。予想はしているからな。
「遅い!あたしがチャイム押したら5秒以内に出る事!」
無茶言うなガキが。
「か、神崎⁉」
驚いて声を出すキンジ。
おい、そこはガチャンと扉を閉めるところだろう。
「アリアでいいわよ」
そう言えば神崎の名前であるアリアって結構珍しいよな。確か点けたがらない理由が……そうそう音楽でアリアは独奏曲って意味があるんだ。独りぼっちになる様な名前だな。現にそうなってるのだろうが。
バタバタ!と荒々しく部屋に入ってくる音が聞こえて、ついに俺のいるリビングへと突入する。
「あ、アンタは‼」
俺の方を向いて今まで以上の睨み付けという名の威嚇行為を俺に向ける。
俺はそれをビールを飲みながらスルー…………っとはいかない。最初は別に入るぐらい、と思ったが。
な ん だ そ の 荷 物 は?
神崎は只来ただけの様ではなく、まさか……
「まぁいいわ、この際ちょうどいいわ」
「あ?何のことだ、おいキンジ‼」
「ったく、なんだよもう‼」
キンジも相当イライラしているようだ、当然俺もだ。
たぶんキンジも酒が入ってるので今の気持ちに正直らしい。
アリアが夕日が落ちつつある真っ赤な、俺の髪と同じ真紅の空を
「―――――アンタ達、私の奴隷になりなさい‼」
「「ハァ?」」
間抜けな声を出してしまったのはしょうがないと思う、少なくともいきなり家に入られて奴隷宣言する輩の頭をひとまず先に心配する奴が俺であることは間違いない。なに?此奴Sなの?
「ほら!さっさと飲み物ぐらい出しなさいよ!無礼な奴ね‼」
騒がしい奴だ、身勝手で、自己中心的で、俺の一番キライな種族だ。
キンジを見ると、有り得んっとした顔をして呆然とアリアを見る。
アリアはそう俺等に
「コーヒー!エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ!砂糖はカンナ、1分以内!」
言っていることは分かったが、何故此奴が人の家でそんな態度を取っていられるのかが分からない。
そして流れる様にインスタントコーヒーを入れるキンジ、さっきの威勢はどうした。
コーヒーを入れた後にこつんと頭を叩くと、正気に戻ったようだ。
出されたコーヒーを神崎はくんくんっと犬のように臭いをかぎ、怪訝そうな表情を浮かべる。
「これホントにコーヒー?」
少なくとも俺ら日本人はコーヒーという認識だが?最悪種めが。
「それしかねぇんだからありがたく飲めよ」
そうだ、その意気だキンジ。強気に行け‼
「……変な味、ギリシャコーヒーに少し似てる……んーでも違う」
全然ちげぇよ、あまり飲んだことも無いくせに意気がんなクソガキ。マジイライラするな…………!
「味なんかどうでもいい、それよりだ」
俺は傍観者としてここに居よう、少し勘違いしてるところもあったら面倒だ。
「今朝助けてくれたことには感謝してる。それにその……お前を怒らせるような事を言ってしまったことは謝る。でも、だからってなんでここに押しかけてくる」
相当不機嫌な表情で問うキンジ。此処まで不機嫌なのはいつ以来だろうか。
それに対してアリアはカップを持ったまま、紅い、俺の髪と同じ色の眼だけを動かして俺とキンジを交互に見る。
「わかんないの?」
「「分かるかよ」」
俺とキンジの声が被る。
「あんたならとっくに分かってると思ったのに。んー……でも、そのうち思い当たるでしょ。まぁいいわ」
よくねぇよ、今のは心の声もキンジと被った気がする。
「おなかすいた」
ソファに手すりに身体をしなだれかけさせながら、話題を変える。
コイツの体では色気の欠片も無いが、キンジは反応してしまったようで顔が赤くなっている。
お前、マジロリコン?
「なんか食べ物ないの?」
「ねーよ」
あるとしたら俺のビールと煙草と、コーラとインスタントコーヒーしかねぇもんな。あと銃弾とか
「ないわけないでよ。あんた普段何食べてんのよ」
「食い物はいつも下のコンビニで買ってる」
「こんびに?ああ、あの小さなスーパーのことね。じゃあ。行きましょ」
「「じゃあってなにがじゃあなんだよ」」
また声が被る俺とキンジ。昔1年の時にさすが幼馴染息合い過ぎって先輩にからかわれてたもんな。
「バカね、食べ物を買いに行くのよ。もう夕食の時間でしょ?」
それからなんだかんだでコンビニまで買いに行く事になった。
そして武偵には気を付けなければいけないことが俺の中では3つある。
『弾切れ』『毒』そして『女』だ。弾切れは強襲科時代に元フロントの俺にとっては気を使う事だった。いつも弾がすぐ切れないようにCQCで弾数を減らしていた。
そして今回は女だ。その女事神崎はコンビニで『ももまん』という少し前にヒットした?所謂あんまんを7つも買った。俺はビール10缶と煙草を5パック、そしてから揚げ弁当と焼きそばパンを買った。
それを俺はキンジ宅で食べている。から揚げ弁当、焼きそばパン美味い‼
その間もキンジは美味しそうにももまんを食べる神崎を迷惑そうに「速く帰れ」というように睨むが神崎は何も知りませんというように、ももまん6個目を頬張る。
「……ていうかな、奴隷ってなんだよ。どういう意味だよ」
キンジが食事タイムの沈黙を破る。
「強襲科であたしのパーティーに入りなさい。そこで一緒に武偵活動をするの」
「何言ってんだ。俺は強襲科が嫌で、武偵校で一番真面な
キンジはこれだから。まぁそれが今の幼馴染で親友の心持ちなんだ。尊重させるのが友ってもんだろ。
「あたしには嫌いな言葉が3つあるわ」
「聞けよ人の話を」
駄目だキンジ、此奴に話を聞くなどという原始的な部分の知能は残っていない。
「『ムリ』『疲れた』『面倒くさい』この3つは、人間の持つ無限の可能性を自ら押し留めるよくない言葉。あたしの前では二度と言わない事。いいわね?」
「奇遇だな神崎。俺にも嫌いな人種が3ついる」
プライベートだからかさっきよりも睨みが強くなってるな。
「『身勝手な奴』『自己中心的な奴』そして『人の話を聞かない奴』だ」
「あたしに逆らうの?」
あ?なんだこの上から目線。
「いや、俺はそれだけ言えればいい。だが覚えておけ、今からでも俺はそういう人間を嫌悪する」
「ふんっ!キンジのポジションは―――そうね、あたしと一緒にフロントがいいわ」
フロントとは、俺もそうだったが前衛的なポジションで一番不詳率が高い場所だ。
「良くない、そもそもなんで俺なんだ?」
「太陽は何故昇る?月は何故輝く?」
まぁ、一つ欠けがある太陽と月だけどな神崎。こいつはキンジの『ヒステリアモード』の事を知らない。それを知るまでは完璧な太陽と月は生まれない。
「キンジは質問ばっかの子供みたい。仮にも武偵なら、自分で情報を集めて推理しなさいよね」
お前が言うな、自分勝手な高飛車女が……!
「そしてカズヒサは……バックね」
此処でキンジがこいつ分かってねーっと少し笑い顔になる。
それを神崎が見かねて
「何よ、文句あるの?」
「ああ、文句は大量にある。だからまずは早く帰ってくれ。俺は一人でいたいんだ、帰れよ」
そうはいかないのが現実だ。
「まあそのうちね」
「そのうちっていつだよ」
「キンジが強襲科であたしのパーティーに入るって言うまでよ。当然カズヒサもよ」
俺もかよ……ウゼェ。なんか自由を束縛されそうだ。
「でももう夜だ、帰れ」
「絶対に入ってもらうまでは帰らないわ、私には時間がないの。うんと言わないなら―――――」
「「言わねーよ」」
本日三度目、俺とキンジの声が被る。
「なら?どうするつもりだ?言ってみろ」
キンジが追いつめているようで逆に追い詰められている。可哀そうに。
「言わないなら、泊まってくから」
俺はハァ……とため息をつき、キンジは驚きでさっき食べた夕食のハンバーガーをリバースしかける。
「ない言ってんだ‼絶対許さん、帰れ‼」
「うるさい!泊まってくったら泊まってくから‼長期戦になる事態も想定済みよ!」
神崎がトランクを指さす、最初に俺なりに推理(笑)した通りどうせ宿泊セットでも入っているのだろう。
「――――出てけ‼」
これはキンジの台詞でも俺の台詞でもない、神崎だ。
「な、なんで俺が出ていきゃいけないんだよ!此処はお前の部屋か⁉」
「分からず屋にはお仕置き‼外で頭を「行くぞキンジ。こいつには話は通用しない」カズヒサ‼」
「キンジ、明日の学校の用意と俺のビールを持て」
「ああ。分かった」
キンジは諦めたようにため息を吐き、俺が持ちきれない分のビール5缶とカバンと制服、そしてキンジの愛銃であるベレッタ社の『ベレッタM92F』をホルスターに入れて持ってくる。
「じゃあな、ありがたく出て行かせてもらう」
「ハァ、マジ疲れる」
「ちょ、あんたたちどこ行くつ―――」
バタンと扉を閉じて……
「ダッシュだキンジ!俺の部屋に行くぞ!」
「分かってる!」
神崎が出てくる前に俺は姿を見られず俺の部屋に行くしかない。
あとで寮の奴らに俺の部屋を教えないように言わないとな。階段を二階降りて、俺の階に到着。
途中同じ階でたぶんキンジの部屋に行こうとしていた武藤と不知火をほぼ引き摺るように俺の部屋に入れて、一息つく。
「「はぁー、はぁー、はぁー……」」
「い、いきなりどうしたカズ、キンジ」
「そうだよ、一瞬構えちゃったよ」
「すまん、ちょいと悪魔に侵入されてな」
キンジが本当に的を射ている説明をする。……うん、確かに悪魔だな。
「ま、まさかアリアか?」
武藤が汗をながしながら恐る恐る聞いてくるのを
「ああ、その通りだ」
簡単に認める。
「マジかよ、女子たちの予想あたりだな」
「女子たちの予想?」
「ああ、アリアがキンジの寮室に侵入する予想」
「大当たりだな」
「まさか、神崎さんがそこまでするとわね、驚きだよ」
「だから俺達は逃げてきたんだよ、あ。お前ら二人もここの寮の奴らに俺の寮室ばらすなって手分けして言うぞ」
「「「了解」」」
寮の外から神崎が叫ぶ声をドアを閉めてシャットダウンして、俺達はいつもの焼肉パーティー今回は鍋だから鍋パーティーか……を始めた。
明日面倒なことになりそうだ。
「あ、キンジ。白雪にはどう説明するんだ?」
「げっ……」
白雪はキンジに恋しているのだが、これがヤンデレというやつで昔キンジに惚れてしまった可哀そうな女の子がいたのだが、白雪の根回しによってキンジへの恋愛感情が消えてしまった。
それは俺と白雪だけが知る話で、キンジも白雪がヤンデレっぽいとだけしか認識していない。
「やばいな……カズぅ~」
「わかった、分かったから気持ち悪い。白雪には俺から話しとく。だからお前は明日神崎と会った時の事でもシュミレーションしとけ」
「お、おう」
今から神崎に絡まれることに憂鬱になる俺たち二人であった。
今回はそこまでアンチは入りませんでしたが、やはりアリアの事は和久は嫌いです。
次話は、あの人との会話です。それではまた次話、お会いしましょう。
感想宜しくお願いします‼