緋弾のアリア~二丁拳銃の猛犬~   作:猫預かり処@元氷狼

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Re:EpisodeⅢ‐Ⅵ

クレモナ。ヴァイオリン造りで名を馳せ、絶えず匠達の調べが奏で続けられている。和久とジャンヌがクレモナの地に着いたのは深夜0時過ぎ。テロリストの一人としての肩身の狭さを流れる曲とともに染み染み感じている。

アーレスが予約していたという駐車場付きホテル…所謂モーテルに、乗っていたドイツ車を止めてチェックインを終えていた。モーテルといえば老舗の小さいホテル、ちょっと庶民向け。という感じもするが、モーテルは「そちらさん御用達」らしく見かけは貧相なものであったが設備も中の装飾も三ツ星ホテルぐらいには劣らない優美なものだった。

 

Grazie(グラーツィエ)。204号室だそうだ。どこにある?」

 

イタリア語で受付を済ませたじゃんぬはもらった鍵を俺に見せて、館内案内を指差す。200台ということなのだから2階なのだろうと思いつつ、二階の案内板を見るが乗っているのは105~203まで。三階も見るが204飛んで205~303だ。

 

「……ないな」

「……ふむ。何故だ」

 

他の階3~5階も確認するが、存在しない。というより100番台から500番台の4番部屋が無いのだ。104号室も、204も、304も……。

 

「俺等のような奴のための対策ってことはわかるが、これじゃあ部屋に行けないな。受付に――ん?」

 

先程までジャンヌがチェックインをしていた受付には人がいなかった。罠か?何故?アーレスが先ず罠を張る理由がない。あの三人はフェレンツェに向かっているわけだし、今頃任務中だろう。無駄な連絡は避けたいところだ。

まずこんなところで立ち止まっていたら、男として情けない話。

 

「とりあえずジャンヌ二階に――っ!?」

「なっ――――!?」

 

ガサッという着衣の擦れる音。俺とジャンヌが同時に音の方向に振り向き絶句する。一瞬だった。気配すらも気付けなかった!何時の間に、囲まれていた!?軍服を着ている少女たち、目を流すだけでおおよそ14人。魔女帽子を被った彼女等に気づけば囲まれていた。

そして何より驚くべきは、彼女らが掲げる軍旗だ。日本の神社を示す場合でも使われる卍に似た党章。卐――ハーケンクロイツ。国家社会主義ドイツ労働者党、通称ナチス党……!

 

「やぁ、お前がヒオウカズヒサだな? ヴァーミリオンの髪だと聞いてたけど、ゴールドじゃねぇか。まあ荒っぽい男ってのは概ね当たってそうじゃねぇか。荒々しいのは嫌いじゃないぜあたしは」

 

その少女たちの中から現れたのは、同じ軍服。神崎のような身長の小さいこれまた少女。眼帯に眼帯。黒髪をおかっぱにした彼女の手には漆黒のカラスが留まり、鋭い目でこちらを見ている。口角を釣り上げてニヤニヤと笑っている。

 

「か、カツェ……?」

 

カツェ、だと?カツェ・グラッセ、二つ名は厄水の魔女。確か……要注意凶悪テロ団体魔女連隊(レギメント・ヘクセ)に所属していた筈。武偵局でもかなり名を馳せて(悪人として)いる女だ。

 

「ジャンヌ・ダルク、久しぶりだな! 随分とアマアマになっちまったな、銀氷なんて呼ばれたお前がっ!」

「な、何を言っている。巫山戯るのはよせ、こんなところ(イタリア)で何しているっ!」

「いやぁ、長官に連隊連れてここに行け客人が来る。ってだけ言われて来たんだがなぁ。お前等が来るとは思わなかったぜ?しかしまぁ……お熱いこった」

 

同じように他人を見下すような笑みを浮かべるカツェ。嫌な笑みだ。不快感を逆撫でする、魔女と言われても納得できるな。白雪は名のとおり白魔女。こいつは黒魔女ってとこか。

カツェも理由はすべて知らないってことか、見た感じ敵対感情は持っていない様に見える。金ラメ塗りされたルガーP08をくるくると回しているのは少々気になるが……それより気になるのは。

 

「カツェ・グラッセ、だったな。今は武偵としての公務は見逃す……だが、行動によっては此方も然るべき対応というやつをしなきゃいけない。もう一回聞くぞ。何用だ」

「クククッ。おもしれーやつだな、灯央は。あたしも知らねーよさっき長官に行けって言われたから来たってちゃんと言っただろ?」

「そんなことは聞いている。俺は何用だ、と聞いているんだ。この、水は、なんだ」

 

目線で指した俺の真上。どろりとぬめりがある水がポツリ、ポツリと俺の後ろに垂れている。

 

「……保険だぜ? どこの国も、どの時代でも。保険は必要だからな。ヒオウカズヒサはこっちでは注意しとけって言われてんだ。なんてたって元No.2の曾孫だからな」

「……また曾祖父さんか。――――――そうか。まあいい、こっちは敵対するつもりは無い。部屋に案内してくれるんだろう? 早くしてくれ、酒が飲みたい」

「やっぱりオモシレぇ! よっし、来い! 魔女の夜会(サバト)を始めようぜっ!」

 

少女たちの歓声とともに連れられ、俺とジャンヌはほぼ連行のような形で部屋に向かった。

正直、嫌な予感をヒシヒシと感じている。『魔』、大抵その言葉に良い意味なんてものはないからな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

用意された部屋の204号室は、予想どうり隠し部屋だった。

物置部屋の扉を開けて、4~5人がはいれるスペースが、ホテルの入口でよくある回転式の扉になっていたのだ。ご丁寧に二階物置部屋の入口の扉の右上隅には「204」とナイフで削られた後が小さくあった。

おそらく各階に同じような入口があるのだろう。かなり広いスペースが設けられていて、五階まで吹き抜け式の構造だ。階段は螺旋階段、木造だがいたるところに金属加工がされている。火事対策は割とあるほうだろう。伊・Uの隠れ家としては、ミシェラン風で言えば二つ星。ってとこか。

 

勝利万歳(ジーク・ハイル)ッ!」

 

全員が隠し部屋に入り、一回の大広間に集合する。先程俺たちを囲んでいた少女たちに加えて総勢42名の少女たちである。所々成人らしき女も見かける。彼女らは素早く並び、隠し部屋に掲げたハーケンクロイツ。そしてもう一つの赤地に盾。盾には黒獣が描かれた旗。――おそらく魔女連隊の旗に顔を向けて手を突き上げ、カツェの言葉を復唱する。

 

「「「勝利万歳(ジーク・ハイル)!」」」

 

あんま、気分のいい響きじゃねぇわな。

 

「さて灯央。お前に先に言っとくことがある」

「……? なんだ」

「此処は今ダルク含めてお前以外は女子だ。こっちも一応ここでは不定期滞在ってことになってる。そっちも二、三日はここにいるんだろ?」

 

俺の代わりにジャンヌが口を開く。

 

「その通りだが……、それがどうかしたか?」

「どうかしたもこうしたも、ヒオウ以外女だぜ? 魔女連隊では異性恋愛罪(アンデレハフト)は重罪だ。長官にお仕置きされたくねぇーからな、いいかヒオウ。ぜってぇーに手出すなよ?」

 

魔女連隊の若干の「すんなよ糞が」的な軽蔑の目線とともに言われちゃあ、頷くしかないわな。まあ相手がノリノリでも俺は……。

 

「心配しなくていい。俺はジャンヌにしか興味ない、幼児体型に欲情するほど、馴染みみたいに変態でもないからな」

 

遠山のことか?とジャンヌは考え、幼馴染を変態と直球で言う和久に驚き。自分にしか興味がないという直球にまた面食らって羞恥に悶える。

 

「……チッ糞が。あたしは幼児体型なんかじゃねぇ……っ!」

 

胸を抑えつつ、「ま、まあ育ちは遅えけどよ」と一瞬ショボくれるが部下の手前。すぐに気分を引き締める。場も和み、緊張も失せてきたのでジャケットのポケットからタバコを取り出し火を点ける。

 

「ふーー……。酒あんのか?」

「まあ、色々あるけどよ。ワインか?」

「イタリアまで来たんだ。ワイン飲まねえと損だわな……、そうだな赤を貰おうか」

 

まかせろ。と部下に持ってくるようドイツ語で指示したカツェ。数分待つと少女たちが縦160cm、横70cmほどのボックスワインセラーをもってくる。底面には移動用の車輪がついている。移動ワインセラーとは初めて見た。今は無き灯央本山である実家にあるワインセラーは、裏山に洞窟を掘り、加工し作ったものだからな。男子寮にも少し配備検討するか。

 

「好きなの選べ。なぁに、毒なんか入っちゃいねえよ」

「結構イイ物もあるかと思ったが、ほとんど1990年代物か。まあいつもコンビニやらで買ってたもんよりは全然上等か」

「メーカーは少なくとも名の知れた物しか仕入れてない。まあこんなItalyの辺境近くにある小規模基地にそこまで金ブチ込む程馬鹿じゃねぇーよ。伊・Uは」

 

グラスを手渡され、コルクをポンッと良い音を鳴らしつつ開けたカツェが注ぐ。部屋の灯りに使われている白熱球独特のオレンジの光が、流れるワインに反射しきらきらと光る。透き通る宝石の、ルビーの如く紅い。真っ赤というわけではないが、まるで血液のような深みがある色だ。香りも……よし。日本で買えば5000近くぐらいはする逸品だろう。最近はコスト削減か、安物のワインだとコルクすら無いようになったからな。ネジ型の蓋をきゅっきゅと回して開けるワイン瓶なんて風情の欠片もない。

 

 

「ジャンヌも、飲むか?」

「うむ。貰おう」

 

グラスを渡し、カツェから瓶を手に取って注ぐ。

フランス人は美しさに厳しい。おそらくマナーや規律は見ているだろう。ジャンヌの前で、蘭豹のようにワイン瓶ラッパがぶ飲みなんて粗相のある飲み方は絶対にできない。

 

「「「乾杯」」」

 

三つのグラスが合わさり合い、高音の金属音が心地よく響き渡る。

 

「……ん、délicieux(美味しい)。良いワインだな。我が祖国にも負けず劣らずの良質さだ」

「ああ、中々だな」

 

喉越しもよく、サラッとした比較的初心者にも飲めそうな葡萄酒、という感想を抱くが味に深みがあり濃厚。ちょうどよい冷たさとアルコールと炭酸の刺激。久しぶりに高尚な酒を飲んだな、と率直に実感できた。チーズやジャーキーが欲しくなる。ジャーキーといえばワニの肉で作られたジャーキーはワインと合う。強襲科時代、オーストラリアに研修に行っていた三年の先輩からもらったジャーキーはうまかった覚えがある。臭みはビーフのよりきつかったが。

 

「つまみか何かないのか」

「ビーフジャーキーならある。食べるか?」

「戴こう」

 

そんなことを考えていれば食べなくなるのは当然。口の中が急に寂しくなる。カツェからもらったジャーキーを少し常人より尖った犬歯で噛み切りつつ、ワインで喉を潤す。

ジャーキーとはいい食べ物だと思う。白米やするめなんかもそうだが、噛めば噛むほど味が出る。俺の歯の鋭さ故に大抵の口に入れて咀嚼した食物は細かくなってしまう。そのためか、食べる物は肉類が多い。魚類なんてイカかタコしか食べないものだ。

 

「ジャンヌ。明日からどうする?」

「ふむ……予定が大幅に狂ったが、私のデュランダルの件はどちらにしろ片付けなければならないからな……だが」

 

ワインを楽しんでいるカツェをチラリと傍目で見るジャンヌ。

そう、予想外の存在であるチビ魔女グラッセをどう対処すればいいか。かなり悩ましい問題であることは確かであるし、AIDの三人が居なく連絡をし難い状況である今、自分たちで計画を立てなければならない。

魔女連隊……。今俺たちにシャーロックとしての伊・Uの後ろ盾があるから、揉めることはないはずだ。ある意味存在自体がタブーであるようなこいつ等に対して言うべき言葉ではないが、こちら側が魔女連隊としてのタブーに触れてしまうようなことがない限り。

先ず魔女連隊、グラッセは既に伊・Uを自主退学しているし余計なちょっかいは出すはずがないだろうし。

 

「……そうだな、今日は一先ず寝よう。長時間の運転で疲れただろ?」

「merci.心遣い痛み入る」

「何を今更」

「ふふっ、確かにそうかもしれないな」

 

デュランダルの修理は最優先事項だ。

なるべく、俺等二人の力でグラッセのことは片付けなければならない。自惚れやジャンヌに対しての恋の影響だからではない。これから二人で行動することが多くなるし、それに対しての行動力や経験を今のうちに動かなければいけないのだ。

ツーマンセルですら真面に動けないようでは、AID含め5人で動くことは到底難しい話だ。武偵校で強襲科でいたときのようにはうまくいかない。何故なら此処は日本ではない、同じ日本人と行動するわけではないのだ。人種それぞれに常識や、考え方があるわけでそれのすれ違いのせいで土壇場の時に失敗する。それが一番怖い、全部蘭豹がM500ブチ撒かしながら言っていた言葉だが。

 

「カツェ」

「あん?なんだヒオウ」

「部屋、空いてるか?」

 

ここにいる魔女連隊の人数は42人。部屋があったとしてもほとんど埋まっているに違いない。

 

「一部屋空けといたぜ。客人がくるってのは知ってたからな。だけど二人とは知らされてなかったから一人部屋だけドな」

「十分だ。ジャンヌもそれで、いいか?」

「う、うむ。問題ない」

 

ジャンヌにこの空気の流れを無視して和久と一人部屋とか、しかも二人きりとか恥ずかしすぎるとか異論は言えなかった。ジャンヌ・ダルクは流されやすかった。

 

「五階だ。来い」

 

イラつき気味のカツェに連れられ、階段を上っていく。

螺旋状になっている階段は、先程見えなかったこの隠し部屋の構造がよくわかるようになっていた。強襲された場合の即時戦況把握の為だろう。五階から見る一階リビングフロアはかなり高さがある。しかし、緊急用のポールなどがある。これを使って降りるのかと思うと膝が震える。

 

「ここだ。ゆっくり休みな」

「ああ、助かる」

「ヘッ、うるせえ馬鹿どもが」

 

踵を返し螺旋階段を下りていくカツェをなぜか背中が見えなくなるまで見送ったあと、おもむろに部屋の扉を開く。

 

「結構いい部屋だな」

「う、うみゅ」

「大丈夫か」

「も、問題にゃい」

 

何を緊張しているのかが全くわからない和久も和久だが、二人きりに慣れないジャンヌもジャンヌである。確かに和久の荒々しい告白以降波乱すぎる日々を何時の間にかヨーロッパの地で送っているわけだが……。それに部屋が部屋なのだ、ベッドは当然一人部屋だからシングルでひとつ。白いシーツのベッドに液晶TV、小さい冷蔵庫。洗面とシャワー室。まるでホテルである。それもカップルご用達のほうの。

 

「ベッドがひとつだけ、か。どうする?ジャンヌ使うか」

 

だが最低限の羞恥心を和久はもっていることにはもっている。確かに男女がひとつのベッドで一緒に寝ようなんて行為は性的な意味を持つわけであり、人間として性欲に対しての羞恥心はあるわけだ。

 

「い、いや。風邪をひくと今後の行動に支障が出るし、ふ、ふ、ふ、二人で…つ、使おうか」

「……い、いいのか。無理するなよジャンヌ」

「無理などしていない!私はお前と寝るのは嫌ではないのだ。やはり、二人で行動するからには互を信頼し合わなければならないわけだし何時までも二人でいることに羞恥心をもっていることはいけないことだそれに恋愛メドレーでもあったろうほら主人公の少女の家に思い人の彼が泊まりに来ることになり色々あって同じベッドで寝たら信頼感があがったとかそういう話がッ!」

 

怒涛の勢いである。

 

「ああ、確かにあったな。一理、あるな」

 

この場に武藤(兄)がいたらこう言うだろう「ねえよ」と。

 

「そうだろう!よし、寝ようなんだかんだで1時を過ぎた。寝るべき時に寝なければいざという時に力が出ないからなっ!」

「この格好で寝るわけにもいかないな。おそらく何処かに寝巻きがあるはずだがー……あった」

 

クローゼットのなかに男物と女物が揃えておいてあった。

男女どちらが来てもいいようになっている。

 

「シャワーもあるようだからな、汗を流してくる」

「しゃ、シャシャワァアアアアアアア!?ま、ま、まさか灯央貴様!ま、待て!まだそういうのは心の準備ができていないのだ。……あっいや、だからと言ってそういうことをすることを了承しているわけではなくてだな、如何せん私達は知り合って日が浅いだろう?だからな、そのだな、……ぐぁあああ」

 

顔を真っ赤にし、身悶えるジャンヌをよそに寝巻きをもってシャワー室に入る和久。大分扱いを覚えてきたというべきか。

 

 

――しかし、これが同棲というやつか。俺にはまだ早そうだ。

 

そう、和久はジャンヌを見つつ心の中で苦笑した。

 

 

 

 

 

翌日、ジャンヌが起床したのは11時過ぎの昼前だった。やはり疲れが長距離運転の疲労がたまっていたからか、緊張で寝れないということはなく(それでもベッドに入ってから1時間目が開いていたが)ぐっすりの熟睡できた。目を覚ました時に、和久は既に起きて1時間ほどジャンヌの寝顔を楽しみ、それから起きるまでの十数分を愛銃コルトの整備をしていたために起きたときの衝撃も少なかった。

 

「おはよう、ジャンヌ」

「ああ、おはよう」

 

昼だからか朝の日差しの煌びやかさは無く、落ち着いた抱擁感ある光が小さい小窓から差す。ジャンヌの銀の髪がきらきらと湖の水面のように輝いた。

 

「綺麗だな」

「……うむ。そうだな…………って、ハァ!?」

「いや、髪がな。綺麗だなと思ったんだ。銀は好きだ」

「あ、ああ髪がな……私もこの髪は気に入っているのだ。手入れが少し鬱陶しいがな。私も、灯央の緋髪は好きだ」

 

そう言って髪をかきあげる仕草は、うなじを露出しているからかとても和久の男心を刺激した。うなじというものは女性フェロモンが色濃く放散される(らしい)。それに好きだ、なんてそれとあわせて言われれば正直自制しなければ送り者になってしまいそうな気もする。少しだけ、キンジの気持ちがわかった気がしないでもない。

 

「――――っ。か、カツェが少し前に朝食を持ってきてくれた。トーストとベーコンエッグ、もう冷えているが……どうする?」

「……? 構わないぞ、食料を粗末にすることはいい事ではない。例え、調理師がナチスの小隊長であってもな」

「そうか。一応スープでも貰ってこようか?冷たいパンプキンスープはこんな日にはちょうどいいだろう」

 

部屋の外からは、魔女連隊が昼食を作っているのか香ばしいスープの香りが漂う。

 

「merci。すまんな」

「気にするな。こんなことで迷惑なんぞしない」

 

――――逆に嬉しいくらいだ。

 

自然と言葉に出そうになった気持ちに酷く幸福を感じた。

 

「洗面所で顔でも洗って待っててくれ。すぐ戻る」

「うむ」

 

和久が部屋を出て、言われたとおり冷たい水で顔を洗う。初夏の昼は少し暑く、寝ている間に汗をかいていたので備え付けのタオルを水で濡らし、汗を拭き取る。

そういえば、服はどうすればいいかなどについては全く考えていなかったな……。やはりモーテル暮らしといえど清潔さは一人の女として大事にしなければならない。それにアイラから貰ったあのシャツもあまり酷使したくはない。

 

「この後服屋にでも寄ってみるか」

 

せめて下着は数着用意せねばならない、上着は同じものを使い続けるのもありだが。

 

「ジャンヌ。貰ってきたぞ、机に置いておく」

「了解した」

 

まあ今は空腹を満たそう。日本に腹が減っては戦はできぬ、なんて言葉があるくらいだ。食事は何事にも耐え難い欲求の一つ。時間は……まだある。

 

そうして、和久とジャンヌのクレモナ滞在一日目が始まった。

 




ということで更新です。かなりお待たせして申し訳ございませんでしたぁっ!
長らく書いていなかったので、結構文章におかしいところが(´;ω;`)
大目に見てくださいお願いします。

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