――――――――――――朱き葡萄酒に染まれ。
伊・Uは完全とは言えないが裏の裏で、言ってしまえばそのまた裏で世界の組織を操っている。裏がばれても裏が、それがばれても……と深い闇に包まれている。
言ってしまえばマフィアの上層部と繋がる黒幕、が伊・Uといってもいい。何処の国家にも属さず、犯罪組織と認定されている伊・Uでは、どこぞの国家に支援要請なんぞできるはずもなく、そういう裏の組織の力を借り、そして伊・Uの保持する強大な力を代わりに提供するという契約をしているのだ。
世界のいたるところで、だ。
マフィア、日本の暴力団、ヤクザの上層部。アルカイダ系テロ組織。フリーメイソン。裏と名のつくすべての組織は伊・Uのある意味支配下といってもいい。
シャーロック・ホームズ、彼の存在が世界のパッシブセーフティーとなっているのだ。
そして、彼が真の意味で世界から姿を消した時。彼が全身全霊を持って準備してきたともいえる戦争、極東戦役……通称FEWが勃発した。
主にシャーロックが消えて解散となった伊・Uの
その中には妖怪、怪物。空想の物語でしかないと言われた化け物存在する、人知を超えた超越的な大戦争。それが極東戦役なのだ。
世界を裏で操っていた、ある意味陰謀論でもある伊・Uの存在が消えたことで乱れた裏組織の統一化……という目的もある。皮肉だが戦争でもたらされる技術の進歩による世界躍進は否定できない。
だがそれも極東戦役のごく一握りでしかない理由の末端の末端。真の真の意味の極東戦役の目的。
それは――――――――緋弾、であった。
極東戦役が始まる二か月ほど前に時はさかのぼる。
深夜のナポリの海に小船で侵入する五人の影。和久とジャンヌ。そしてAIDの三人だった。やはり朝の事が原因なのか、和久はAIDの三人には一歩足を引いた関係になっている。
実際和久が場を和ませようと常にニコニコしているアーレスの顔を「(目が笑っていない、やっぱりさっきの事を怒ってんだろ、そうなんだろ!)」と行ってしまえば被害妄想をしているからだけであって、アーレス本人は至って平常。目が笑っていないのは横で未だに罵り合っているアイラとデイヴィスの所為である。
一応、着岸した海岸周辺には人は寄せ付けないように手は回しているは回している。だがこの二人といえば痴話喧嘩ともいえないファックだのビッチだのチェリーボーイだの子供の耳障りな喧嘩としか思えない事を続けている。
一番個の五人の中でメンタルをゴリゴリやすりで削られているのはアーレスである。しかもアーレス本人は和久と話がしたいのだ、したいのに!したいのに!
「シタイノニ!オイ其処ノ二人、
堪忍袋の緒が切れてもしょうがない。
小柄で女性と見間違えるほどの細身の体から何処からそんな力が?と驚愕する和久を余所にアイラとデイヴィスの首を両腕で一人づつ持ち上げて投げる体勢に入る。
「「ゴメンナサイ!!!!!」」
「……あのね、二人とも。喧嘩するのはいいんだよ、血の気の多い馬鹿な奴等ばっかりの伊・Uだ。しょうがない、けどね。僕言ったよね?僕の目の前で喧嘩したら承知しないよ?って、僕これから生きていく間で何回これを言えばいいのかな?なぁ?なぁっ!!??」
あまりの変容ぶりに……と言いたいところだが、和久は既に修羅のアーレスを見ているために驚かずにどうか自分に矛先が向きませんようにとジャンヌの手を握って目を瞑っている。
ジャンヌは当然強く握られている和久の手の温かさを呆けながら体感中である。AIDの三人がいても和久の手があればいいやーという方向性に結論づける。
数分間説教が続き、仕切り直してすっきりしてようやく眼もキチンと笑っている笑顔を向けたアーレスはこれからの日程を話し出す。
「まず自己紹介を簡単に済ませようと思う。朝はちゃんとできなかったからね、本当は移動中にしたいけど早速ここの近くに伊・Uの退学対象が潜伏しているから、その拘束に向かわないといけないんだ。僕はアーレス・ユリウス・カエサル。一応、祖の血は大分消えているけれどガイウス・ユリウス・カエサルの直系だ。よろしくね」
「ああ、俺は灯央和久。よろしく頼む」
「和久と呼ばせてもらうよ。僕もアーレスとでも呼んでね、アルでも可!」
「お、OK。それじゃアーレスで」
「うん、これから結構長い旅になると思うから教授に任されたわけだし、フランクにね、行こう」
ニコリと女にしか見えない笑顔で言われる。横から何故かジャンヌが睨み付けてきたが、俺はジャンヌしか興味無いからって素直に言ったらバカって罵られた。なぜだ……俺嫌われたのか。
恋をすれば女は変わるとよく言うが、それは女に限った話ではないのだな、と実体感する。実際、俺の性格はジャンヌの近くだから、だけかもしれないが妙に積極的になっている。とりあえず、武偵高では卒業して、そのまま武偵になって、世界で動けるくらいの力を持った後で灯央家の事はしよう、だとかそんな考えだったが、今の俺は相当行動をしていると思う。
それは理子の思想であったり、平和と言われれば平和だった武偵高での日常に火矢を放ってきたアリアの事だったり、伊・Uという組織の事だったり、ジャンヌへの恋慕だったり、昔の俺。……望んでも、今の日常を壊す事の恐怖で前に薦めなかった俺が目指していた姿だった。
もしかすると……今の俺が俺であることは、今はもうナポリの海には姿が無いボストーク号。伊・U艦の自室で不敵に微笑んでいるだろうシャーロックの思惑だったのかもしれない。
「感謝するよ、教授」
「ん?どうしたんだい和久。簡単なミーティングをするから装備の確認を済ませておいて」
「ああ、了解した」
コートの内ポケットから煙草を取出し火をつける。和久のコートの内側は完全な銃器庫とかしている。500発分のマガジン、ギリギリコートの裾で隠れている両足のレッグホルスターも確認する。
「それじゃあ……準備はいいかい?皆、一仕事。するよ」
アーレスは背負っていたコントラバス用の革ケースを砂浜に置き、その中から取り出し始める。
「えっと……これじゃない……これだ。はい、アイラ」
「どーも」
何故だか最初に携帯ゲームが取り出され、それに続いてハンドガン、サブマシンガン。マシンガン……スナイパーライフル、ショットガン。何種もの銃器の数々がアーレスからアイラへと手渡せられていく。
結局、アイラの手に渡った銃器の数は12。ベレッタM8000、デザードイーグル。Bizon、H&K UMP。トンプソン……PK(カラシニコフ)、HK21……レミントンM700、ウィンチェスターM70。モスバーグM500……etc。
「傷ついてないだろーなー」
「最大限の注意をして運んだよ……はぁ、そんなに信用無いんだったら僕に預けないでくれる?」
「あいあい、ありがとーございまーす」
「はぁ……」
渡された銃火器をメンテナンスしながら、肩に掛けていく。唯でさえ一つでも重い銃器をいくつも持つのは細い身体では考えられないほどの筋力。そしてこのすべてを扱うであろう相当なテクニック、状況判断能力は相当なものだと推測できる。
「
「カラミティー・ジェーン?まさか……」
「いや、本人ではないさ。えーっと……」
「四代目よ。曾婆がカラミティー・ジェーンなの、ウチの事はアイラとでも呼んで頂戴」
そう言いながら手を差し出すアイラ。
カラミティー・ジェーン。西部開拓時代で活躍したと言われる女性ガンマンだ。
「ああ、よろしく」
ちなみに朝に彼女の本性?を見ているから現在の月のような冷淡としつつ妙に光輝な笑顔が偽りだという事は知っている。
「アイラ、灯央君は多分お前の本性知ってるから淑女ぶっても意味ないと思うぞ。てか意味ない」
「え……マジ?」
恐る恐る俺の方を向くアイラに、ぎこちない笑みで答える。
「くっそ!そんな事なら早く言えよデイヴィ!変に恥かいた気がすんじゃねぇか!」
「知らんわ、妙に可愛い子ぶるのが悪いんだろ。おっと、俺も自己紹介するか。デイヴィス・クロケット、19才だ。一応年上だけど、堅苦しいのは嫌いだから警護とか使ってくれるなよ?まあ、これからよろしく頼むぜ」
先程のアイラとは正反対の太陽のような笑顔で手を差し出すデイヴィスに、俺も手を出して握手する。年上の余裕、というのだろうか。一種のコミュ症……昔の事があってか初対面の人とはあまり仲良くできない俺を考えてくれたのか良い意味で馴れ馴れしいデイヴィスに、仲良くできそうだとホッとする。
「よろしく。俺の事も和久、でいい」
「OK、んじゃ俺はデイヴィ、とでも呼んでくれ。愛称みたいなもんさ。それと、教授から聞いたが和久って酒とか煙草とか好きなんだってな?俺も結構酒については語れるんだ、小さい頃の夢がバーテンダーだからな、今度好きな酒とかについてでも話そうや」
「ああ、そうだな」
すっかり打ち解けた、と思ったのかアーレスが「よしっ」と嬉しそうに笑顔を浮かべてガシャンと巨大な槍のようなものを装備する。
その光景は異常だ。世間体でよく言われる女性に容姿の似た男性の総称である男の娘、のアーレスが巨大な物体を笑いながら扱う姿を想像して貰えば分かるだろう。ジャンヌでさえ苦笑いを浮かべるほど、アイラとデイヴィの二人は既に見慣れているのか自分たちの準備に取り掛かっている。……いや、デイヴィに至ってはスマホで何かしているな。
「何をしているんだ?」
今から戦闘に入るというのにスマホで何をしているのか。メール?だろうか。
俺の問いにデイヴィは心底陶酔したように呟く。
「ギャルゲー、だ」
「…………は?」
聞きなれない言葉だ。いや、聞いたことはある。確か武藤に、昔のキンジが女の抵抗を付けるために貸してもらってたりとか、呼んでいる少女漫画に出てきたことがあったはずだ……。
「美少女攻略ゲームというやつだ。素晴らしいんだ、これは。キャラクターがキュートでね」
「へ、へぇ」
目を輝かせてギャルゲーについて喋る姿は、貴希の親友である樋山玲歌って子と同じような少し興奮している感じがする。ちょっと怖い。
「こんなんだけど、実力は保証付きよ。銃弾を指で逸らし、銃弾と銃弾をビリヤードの様にぶつけ合って軌道を操作するぐらいには」
「カナ姉さんのパクリさ」
アイラの褒め言葉に照れながら言うデイヴィスの言葉は、俺の耳に妙に引っかかる。
「カナ……姉さん?」
俺の伊・Uに入ったもう一つの目的でもある『カナ』。彼女の関係者らしい。
「師匠……みたいなもんかな、俺の愛銃はエンフィールド・リボルバー。シングルアクションだし、カナ姉さんとは最初に出会ったときに少し対抗心が合って一度勝負したんだけど惨敗。それから師として技を媚びて媚びて……」
「人に媚びてまで手に入れる姿は酷く滑稽だったわね」
「それほどまでに、魅力的だったんだ。カナ姉さんの銃技は教授にも劣らない……そういえば、カナ姉さんの弟が和久の友人だったな」
「今、何処にいるんだ?」
「分からない、突然潜水艦を降りて行ったからな……カナ姉さんを、探しているのか?」
カナが、生きているという事はもう確実と言っていい。
新学期が始まった時、貴希と樋山後輩と行ったときの依頼の意味。カナが、あの人が遠まわしに俺に関わってくることの意味、そして俺とキンジの前から姿を消して、キンジに深い傷を敢えて残した本意を。
「昔、世話になったからな」
「遠山金一、としてのカナ姉さんにか」
「……驚いたな、そこまで知ってるとは」
「そんなことは無い。大抵のカナに関わった人間は知っているさ。現に峰の奴が一悶着起こしたじゃんか」
そういえば、そうだ。カナの存在がハッキリし始めたのも理子の発言があったからなわけだし。ハイジャックの事件の時も冷静に考えれば、カナ――――金一さんが死んでいるという事は依頼の時に否定できたはずだ。
あの時はやっぱり混乱していたのだろう。理子には悪い事をした、日本で何かやってるらしいが、上手くやってるだろうか。
「さてと、準備はいいかい?そろそろ開始時刻だ、今回の作戦は強襲作戦になる。殺害は容認されてるからバンバンどうぞ。退学処分に記されているレッグ・マイフィート、トゥレイブ・デヒスローンの二人は拘束してもいい、暴れるようなら死なない程度に痛めつけてOK?」
『了解』
三人の確認の声。
大して俺はその殺害の許可、という事実に少し気圧されていた。
「和久は別に無理して殺さなくてもいいさ、作戦に支障が出るとめんどくさいから完全な無力化はしてね」
「……いや、大丈夫だ。やれる」
レッグホルスターに静かに在り続ける生涯の相棒だろう双銃に刻まれた灯央の家紋に触れながら、目を閉じ覚悟を決める。
何時かは来ると思っていた、『人を殺す日』。
人間ではない、他の生物を殺したことなどいくらでもある。けれど同類を殺すという事は絶対に慣れない、というより慣れてはいけないことに決まっている。
世界の暗黙のルールであり、それを破った時の人間としての心の代償は大きい。
「作戦は極秘に、慎重に行こう。今回の事が他の退学者にばれてしまえば計画に支障が出るし。それこそヨーロッパ旅行なんて言ってる場合じゃなくなるよ、敵の再索敵もとてもじゃないけど面倒、それは絶対に避けたいから、ここ一体にまず通信手段を遮断するためにジャミングを掛ける」
そう言ってアーレスがコントラバスケースから取り出したのは今、普及率が圧倒的に増加しているスマートフォンだ。
正確にはスマートフォンに似た妨害電波発信装置になる。それが四つ、用意されている。
「これを敵の潜伏地である空家の東西南北の四点に設置するのが最初の任務、これには僕以外の四人が同時に場所に向かい、同時に電波を発信しなければすぐにばれちゃうからね、これを使って確認を取りあおう」
またまた取り出したのはオーソドックスな通信機器だ。耳に入れて髪で隠す型の、ヘッドセットだ。
四人に配り終わり、自分でつけて「a――――ok?」と笑いながら言うアーレスに各自問題無しと伝える。
「さてと、本題の占拠地だけど此処から2kmほど離れてる。僕は逃走経路の確保、及び敵逃走経路の破壊を行う。ジャミングのやり方はデイヴィとアイラの二人が良く知ってるから。ジャンヌさんも大体わかるよね?」
「うむ、これの扱いはリュパンに散々教えられたからな」
「はは、そうなんだ。和久は三人と同じようにやればOK、これが東西南北のジャミング発散装置の置き場を記しているから受け取って……よし、それじゃあ僕は一足先に行ってくるよ。何か聞きたいことがあったらこれ越しにお願いね」
耳に装着済みのヘッドセットを軽くトントンとたたいてアーレスは巨大ランス(仮)をコントラバスケースに仕舞って走っていく。
相当重いはずなのにその奔る速さは相当なものだ。
ジャンヌもジャンヌでよく昔はこんな細身な体で身の丈ほどある大剣を扱っていたものだ。……体中に重銃機器を装備しているアイラにはもうツッコまないが。
「あ、そうそう。和久」
「ん?なんだアイラ」
「今度、ウチと御手合わせしてくれる?」
「御手……合わせ?」
「こ・ろ・し・あ・い・よ。というか、確定事項。灯央……ふーえんだっけ?貴方の曾御爺さん、凄い人だと聞いてるし楽しませてね?――それじゃあ、ウチは北担当でー」
いや、俺等仲間じゃねぇの?殺し合いとかどうしてするの?え?え?驚きで落してしまった煙草の火を踏んで消しながら絶句する。
そんな淡い疑問を無視するかのようにその重武装をガシャンガシャンと音をたてながら、走るアイラの姿をポケーと見ている俺。
苦笑気味に、呆けている俺に対し口を開くデイヴィ。
「アイラはなぁ……戦闘狂って奴なのかね。昔教授にまであいつ喧嘩ふっかけやがってな……痛い目に合わないと学習しないんだ。まあ、見返してやる!っていう復讐心は不思議と無いから助かってるんだが……昔ブラドと戦って大怪我負ったこともあったから心配なんだよ」
「ブラド?」
「ん?ブラドを知らないのか?現伊・U№2の化け物だ。アイツはやべぇ……再生能力やら特殊系の身体向上能力をぶった切る能力、カナ姉さんでも結構苦戦するはずだ」
「そこまでか……」
やはり俺の曾爺である楓延と同じ№の持ち主であるからには相当な物だろう。
慣れぬ眼鏡についた汚れを拭いて、ケースに仕舞い、元々入れたケースに入っていたサングラスを取り出す。
ジャンヌから任務遂行中は、眼鏡だけでなくサングラスを使い目を隠せ。と言われているのだ。敵は素人ではない。いくら退学者といっても天下の伊・Uで学んできた猛者だ。
髪色を変え、眼鏡を付けたようなイメチェン程度の変装であればすぐに見抜くことが可能だ。
それを見越して、サングラスをかけているのだ。
「さてと、んじゃ俺は南に行くぜ。二人とも、通信機をONにしとけよ。んじゃまた後でな」
「ああ、また」
ジャミング機を一つ手に取ったデイヴィは、片手でリロードを行うという地味に凄い技を披露しながら走っていく。言われた通り通信機のスイッチを俺とジャンヌはオンにしておく。
少しノイズが走っているが問題ない。
「灯央、私は東に行くぞ。西は比較的楽だからな、最初は様子見程度に……」
「ざっけんな、好きな女に楽な方を薦められて行くかっての。俺が東に行く、大丈夫だ。実戦を舐めてるわけじゃねぇ、一応これでも武偵やってんだ。まあ、そんなに心配なら送り者になるってのもあるが……興奮しねぇといけないしな……」
「……?…興……奮…………ふ、ふざけるなぁ!お前が言うのは、そ、その……性的…な……うぅ」
「俺って結構シャイだからな、たぶんキス位で大丈夫だと思うぜー」
「ぼ、棒読みで言うなっ!そ、それに初めて…なんだぞ……こんな所で……」
やっべ、興奮する。いや、しょうがないだろうに。ごにょごにょと顔を真っ赤にしながら初めてとか言われたら、興奮するわ。今なら少しだけだがキンジの気持ちが理解できなくもない。
もうこれで十分送り者になりそうだ。ジャンヌには悪い事をし……
「こ、これで我慢しろっ!」
チュッと音がした。
何処から?俺の頬から。
なんで?ジャンヌの唇が俺の頬に触れたから。
――――――その瞬間、俺の中で何かが弾けた。
一気に体の血流が早くなっていく、普通ならば即死物の血液循環に激しい頭痛が自分を襲った。
送り者になったのだ。体が熱く、ジャンヌが驚愕に何時も出さないような小さく悲鳴を上げた。そういえば、シャーロックは言っていた。性的興奮による送り者の身体強化は化け物並みと。
何故か犬歯が鋭くなっているが、気にしない。
何故か爪が凶悪になっているが、気にしない。
現在の俺の容姿は明らかに化け物だった。
「ひ……灯央?」
半ば確かめるように俺に問うたジャンヌは明らかに怯え、の声色だ。
実際、犬歯が鋭く吸血鬼の様になってるし怯えるのはしょうがないだろう。
「すまん、驚かせた」
「だ、大丈夫だが……ほんとに灯央なのか?」
「俺が灯央和久じゃなかったら誰なんだよ」
苦笑気味に言うと、安心したのか。ぎこちなく笑みを浮かべたジャンヌ。
「私が……き、キスしたから、そうなったのか?」
「分かんねぇな……俺も送り者についてはまだ全てを知っているわけじゃないんだ。こんなことになるとは、知らなかったし……」
あながち、送り者が進化すれば犬になる。という先祖から伝えられてきたことは事実であったのかもしれないと認識し始める自分の脳を疑う。
異常性に満ち溢れて、真面が判断をできずにいる俺達二人にアーレスからの通信が入る。
『なんか甘いことしてるなぁって感じだけど大丈夫?二人とも』
「あ、甘い……って、からかうなアーレス!だ、大丈夫じゃないが……大丈夫だ」
『よくわかんないけど、そろそろ位置についてね。始めるよ』
「分かった、んじゃ。ジャンヌ、俺は東に行くからな」
ジャミング機を即座に持つと、身体強化の影響が走行にも影響が出ているようで、慣れない身体にふらつかせながらも陸上競技の選手が目を丸くさせる様な速度で走っていく。
「んあ、ひ、灯央!――――全く、何がなんだかわからんな。後でちゃんと聞かないと……分かったな?」
通信機越しに既に背中が見えない和久の了解の声を聴くと、少し笑みを浮かべて自分もジャミング機を手に取り目的の西ポイントに向かう。デュランダル替わりの西洋剣を持つ事も忘れない。
全員が、目的地に到着し、ジャミング機をほぼ同時に起動。
最初の関門は乗り越え、ジャミングも正常に働いていた。
しかし、ジャミングがかかっているという事をいち早く気付いた退学生徒二人は逃走を図ったが既にアーレスの手によって逃走経路は遮断されている。
伊・U退学生と行動を共にしていた人間は元イタリアンマフィアで、離反者。といった感じの者ばかりだ。銃の扱いも相当下っ端だったのかランクCの武偵でも勝てるかというほどのものだった。
伊・Uの情報は何としても秘匿しなければならない。既に漏洩されている可能性はあるが、それを担当するのは他の奴等らしく、俺達はこれ以上の情報漏洩の阻止のため、全員を殺害した。
捕虜としてとらえても伊・Uに連れてこれるわけもないし、邪魔なだけだ。
結果、退学生は捕縛されアイラの手によって二人とも射殺され、退学生徒の処分第一回目は無事終了した。そしてその日、初めて灯央和久は人を殺めた。
不思議と殺すという事への抵抗感はなく、引鉄をただ引いて風穴を開ける。その程度の物だった。他の四人はそれに驚いていたみたいだが、薄々自分でも気づいていた。
自分はもう、あの日、あの時から
お気に入り登録数600越え!
ひゅーどろろぱふぱふ!!
本当にありがとうございます(´;ω;`)