緋弾のアリア~二丁拳銃の猛犬~   作:猫預かり処@元氷狼

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Re:EpisodeⅢ‐Ⅱ

――――――――――――恋よ恋よ美酒と共に。

 

 

 

 

 

 

 

伊・Uに入って二週間が経つ。

和久の存在は伊・U全体に広まり、彼がシャーロック。教授(プロフェシオン)のお気に入りという尾も付き、ある意味組織内での注目を浴びている。

東京武偵校の生徒であり、長く伊・Uに所属している者達からすれば、元№2であった灯央楓延の曾孫であるわけだし、灯央楓延を知らないものからすれば、先輩達がどうしてそこまで新人に興味を示すか不思議でもあった。

灯央和久、その事に関して何かひと騒動起こる事は安易に想像できた。

その為か、シャーロックはその予防として和久に伊・Uの生徒として活動する上での、チームメイトを信頼できる生徒から選んだ。

 

「ということでね、僕からお願いしたいんだがいいかい?」

 

四人の男女。それがシャーロックが選んだ生徒たちだ。

 

「えー、僕は構いませんよ」

 

「ウチはいいですけど……」

 

「あーはい。私も大丈夫っす」

 

女二人、否一人。男二人の三人のどちらかと言えば幼さが顔に残る外見の少年少女たち。

一人目はアーレスという少年。今年で15になる、クリーム色のショートカットの髪、背中には大きい槍の様なものを背負っている。顔を見るだけでは完全に美少女、所謂男の娘というやつだ。

少年……アーレスは故意でそう言う身なりをしているわけではないのだが。ある意味三人の中で一番目立っている。

 

「それはよかった。少し心配だったのだがね」

 

二人目の少女と言うよりは女性はアイラ。金の髪、蒼い瞳。黒いTシャツにホットパンツ。

伊・Uの中でも一番『銃』に対しての愛着が逸脱している彼女は、カラミティー・ジェーンと呼ばれる西部開拓地時代、平原の女王と謳われた女性ガンマンの血を継ぐ。

その為か、銃の扱いは熟知している。

 

「教授、一つ質問というか条件なんですが」

 

「なんだね、アイラ君」

 

「灯央とやらは強いでしょうか」

 

そして彼女の性格は戦闘を好む。

血沸き肉躍る戦い、が何よりの快楽とも言っていい。戦闘狂、というやつなのだ。

 

「……そうだね、彼はまだ弱い。だが強い、人を殺すという事に対して抵抗が無いほどには……ね」

 

もし、武偵に殺人を禁止する法が無かったとしたら。

今頃灯央和久はあらゆる殺人に手を染めているだろう。そう言う意味では伊・Uという『非合法』の組織に来たというのは恐るべきことなのかもしれない。

 

「だけどまあ、人を殺した後は……どうなのかはまだ分からないね」

 

「…………」

 

茶髪の青年が口を開く。

 

「灯央楓延殿の曾孫さんだとか」

 

「その通り。彼は楓延君の曾孫だ」

 

伊・Uで生まれ、伊・Uで育った三人目の男。デイヴィス・クロケット。アメリカの国民的英雄デイヴィット・クロケットの子孫であり、アイラの幼馴染だ。

白いワイシャツに、ブラウンのチノパン。シルバーのフレームの眼鏡。白ワイシャツの胸ポケットには和久と同じように煙草の箱が入っている。チノパンのベルトに携帯灰皿がストラップの様につけられているところを見るに、彼が喫煙者の中でも相当蒸す人物だと分かる。

 

「アイラ、期待できそうだよ」

 

「楓延って誰よ」

 

「…………十数年前まで伊・Uの№2だった日本人さ、教授(プロフェシオン)の友人だ」

 

「強いの?」

 

「はぁ……もう亡くなってるよ。アイラはいつも人の事を聞けば強弱を気にする……悪い癖だ。それ以前にさ……№2ってとこで察せバカ」

 

「馬鹿って何よ殺すわよ」

 

「はいはい」

 

やり取りからするにこの二人は相当距離の近い関係にあると分かる。

簡単に言えば幼馴染、であり親友だ。男と女の関係というわけではなく、友人関係の方だ。

 

「これが灯央君のプロフィール書だ、一応目を通しておいてくれたまえ」

 

渡したのは厚さ数センチはある紙束。事務系が大嫌いなアイラはうへぇ、と眉を寄せて絶対にデイヴィスに押し付けようと決めるが、これは人の事に関してである。

ましてや無定期間共に行動する一応仲間であるために、押し付ける事は無意味だと知る。

ぱらぱらと流し読みしたアーレスは、やはり灯央の血縁は凄い……と感服する。

 

「灯央君、人殺してるんじゃないですか?」

 

「どうだろう、全てを知っているわけではないが僕の推理だと殺人は犯していない。と考えるよ」

 

教授の推理がそうならばそうなのでしょう。とアーレスが呟く。

 

「で、灯央君は今どこに?」

 

「ジャンヌ君と一緒におそらくこの時間帯だ、寝ているとも思うよ」

 

「そりゃこの時間だもの、ウチだって寝たいわよ……」

 

「おいアイラ、教授に対して失礼な言葉使いをするなっ!」

 

「ははは、別に構わないよ。私も年だ……上にいるには少し年を取り過ぎたのだ」

 

近々起こるだろう何か、に向けてシャーロックは準備を進めている。

早く灯央家についての真相を全て、解明しなければならない。次の世代に引き継いでいいという物ではないのだ。灯央家はもしかしたら世界の秘密を握っているのかもしれない。はたまた世界の鍵となるべき存在なのかもしれない。そうなれば『緋弾』に大きくかかわってくるはずだ。

危険であり、謎である。シャーロックは心の奥底で恐怖していた。

 

「人間、止められないものだね」

 

「は、はぁ……?」

 

何も知らぬアーレスがその言葉で途惑うのも無理は無かった。

和久が来ると言われた指定された部屋に来たアーレス・ユリウス・カエサルのチーム。

彼ら三人の名前の頭文字を取った『AID(エイド)』は、伊・Uの中でも比較的マシな人物たちに構成されている。

アーレスの特徴といえば、彼が常に手入れをして背に背負っている槍のような得物。その正体は最近流行っていた彼が大好きなゲームの怪物狩人。略して怪狩に出てくるガンランスという武器だ。銃槍、本来モンスターを狩る武器として作られたそれは、対人戦だと相当扱いが難しいはずなのだが、アーレスにとってはゲーム内での操作をすれば割と強い。と結構変人の部類にあたる。

 

「AIDにHが付くね」

 

「そうだな……A hidってとこか?」

 

「どういう意味よそれ。Aが隠された?」

 

「Aには人それぞれの捉え方があるってことで」

 

この場に和久がいるのであれば、A。それはaria……アリアの事が一番先に思い浮かぶに違いない。ゲームをよくしているアーレスは隠しエリアを思い浮かべた。アイラはabhor hid隠したことを嫌う。そしてデイヴィスはably hid。巧みに隠された。

まあ、適当である。アリアの事がここ最近強く印象に残った和久とゲーム好きのアーレス。隠し事が嫌いなアイラ。隠仕事が多いデイヴィスの性格が強くでている。

そう言う意味では面白いのかもしれない……かもしれない。

 

「まあ、いいわ。それでいいでしょ」

 

「僕は大丈夫だよ、なんでも。形だけの物でしょ?」

 

「まあ登録されるとかそう言うのじゃないしな。適当でいいだろ」

 

「まずなんでいつもそう言うの決めたがるのよデイヴィー」

 

「ノリ、もしくは癖だな」

 

デイヴィー、とはデイヴィスの愛称の様なものだ。

アイラやアーレスは特にないが。

 

「OK、変人ね」

 

「なんだその結論は、訂正しろビッチ」

 

「……黙れチェリーボーイ。お前は一生変人のレッテルを張られてシリコン製のダッチワイフとファックしてろ」

 

「……チェリーはお前もだろうが。処女(ヴァージン)の癖に……お前こそバイヴとファックしてろよお嬢ちゃん(チェリーガール)?」

 

「ぶっ殺すぞゴラァ!?」

 

「お前こそ蜂の巣にされてぇのか?……もーう我慢ならねぇ、今日だけはもう許さん!」

 

「こっちの台詞だド変態が!テメェのア〇ルに銃弾ブチ込んでやろうか!?」

 

「変態趣味のお嬢ちゃんは一人でコソコソ銃オナでもしてろ」

 

「ぶっ殺す」

 

徐々に激化していく喧嘩。

二人が銃に手をかけた瞬間、真横で火薬が爆発した音が待機していた部屋に轟く。

カチン、と石化したように固まる二人と。巨槍を天井に向け、その先に大きな穴を開いた少年。彼の額には怒りで皺が寄っていた。

 

「ちょっと……煩いよ二人とも。撃ち合い(sex)するんだったら射撃場(ベット)に行ってきなよ。狩りの邪魔なんだよね……それとも何?僕に狩ってほしいの?なんなの?」

 

「わかったからそれ(得物)下げてくれ、いや下げてください!」

 

「それよりいう事があるんじゃないの?僕に」

 

「ごめんなさい」

 

即座に頭を床に擦りつけるデイヴィス。

 

「アイラは?」

 

「……ハッ!ウチは何も悪くないわよ謝る事なんて……」

 

「ねぇ、アイラ。狩られたいの(・・・・・・)?」

 

「…………ゴメン…ナサイ」

 

口は大きく吊り上がって笑っているのに目のハイライトが無いアーレスを見て、咄嗟に謝罪するアイラ。そう、アーレスは例え一番マシなチームであってもリーダーを任せられる人物なのだ。彼がマシ、な人物であるわけがないのだ。

要はアーレス・ユリウス・カエサルは狂人である。

そして、カチャリ、と扉が開く音が部屋に響き……赤い髪の青年が顔をのぞかせる。

 

「あ、あー……スンマセン。間違えました……っと」

 

ガチャン。扉が閉まる。

プロフィールで写真を見ていた彼ら三人は、今の人物が灯央和久だという事に気づきそれぞれ得物を仕舞う。

これで決まった、ああ。灯央和久の頭には三人が危険人物として認識されてしまった。

 

「ああああああああああああ!!!???まった灯央くぅぅぅううううん!!!!」

 

「ぎゃああああああああ!?え、なにぃっ!?俺なんか気に障るようなことしたかぁぁぁぁああ!!!???」

 

この後、伊・U艦内で和久は迫りくる修羅のアーレスから逃げるため、爆走した。数時間後……ジャンヌが騒ぎを聞きつけ和久を落ち着かせるまで続いた。

これが、いづれ『HiELDaM《ハイエルダム》』と名を変え武偵チーム編成で優良チームとして名を馳せる彼らの出会いだった。

ちなみに彼らの本拠地が、エジプトのアスワンになるのは相当先の事でありハイエルダムは特に関係ないのである。

 

 

 

 

 

 

シャーロックの意向により、俺はある少人数のチームに入ることになった。

名前はAID。助け、という意味のそれはなんとも犯罪組織、非合法組織の仲のチーム名としては真面な物である。

シャーロックからも、そのチームの三人は比較的マシな人間らしいし大丈夫だろう。

身の危険はないはずだ。……まあ、そんな期待は軽くぶち壊されたのだが。

行先であった集合ポイントとして指定された伊・U艦の一室に向かっている途中、大爆音が廊下に響き渡る。爆発である、床が揺れたのだ。

すぐさま音が聞こえた部屋を除くと……修羅がいた。咄嗟に部屋を間違えたのだ、と強引に今見たことを処理した俺は……逃げた。そして逃走中感じたこと。伊・U艦内は広い。

現在はジャンヌの部屋に非難中である。

 

「……ったく、灯央は……少しは落ち着く事を覚えないか!」

 

「じゃ、ジャンヌ今回は俺の所為じゃねぇって、断じて!爆発っ!修羅っ!追いかけてきたっ!わかる?わかりますー!?」

 

「な、なんで敬語……ハァ、まあいいが。これから私もいつもそ、そ、傍にいるわけじゃなくなるわけなんだからなっ……!」

 

「え、そうなの?」

 

「ああ、明日から少し用が合って艦外に出る」

 

「今度は何処に出るんだ?」

 

「地中海らしい。イタリアだ」

 

イタリアか……そういえば俺は海外旅行と言われたら、モスクワに海外履修で一度依頼を請けたぐらいで行ったことなかったな。

今の時点で日本の外に出ているわけなのだが。

非合法であり犯罪組織でもあるここは当然入国手続きや出国手続きなんてことはしなくていい。既にシャーロックの情報によれば、俺は伊・Uの一員という事になっていて、政府の目に捕まれば即逮捕。というのは確実なはずだ。

またまたシャーロックの情報によれば武偵連盟の連中が俺を捜索なう、捕まえた場合豚箱行きにしろー!という状況らしいし。

 

「安易に外出ない方がいいって言われたけど、ずっと海の中ってのもな……」

 

「ん?な、ならば一緒に……行くか?AIDの奴等も誘えば来るだろう」

 

「いっその事ヨーロッパ旅行行くか」

 

「え……。そ、それは……」

 

は、ハネムーン!?と心の中で叫び、旅行中の二人を妄想するジャンヌ。

えへへーとその妄想での幸せが顔に現れる。当然そんな事を考えているとは知らない和久なので、えへへーと顔をにやけるジャンヌがとても可愛く見えた。

 

「ドイツとかベルギーのビール飲みたいんだよなぁ……本場だ本場」

 

「ふむ、行先で使うのに身分証明書を作るのだが年齢を変えておくか?」

 

「ああ、そうしてくれると嬉しい」

 

「灯央は基本高校生には見えないからな、疑われることも無いだろうが……念のためだ。それに行き先の泊り先で融通が利く…………くっ、やはりAIDの奴等には伝えないでおこうか……」

 

グゥッと拳を握りしめ、AIDが付いてくることを疎ましく思うジャンヌ。

絶対にあの三人が来れば、カオスと化すに違いない。ついでに心の中で悪態をついておく。心の中である。

 

「とりあえず、教授(プロフェシオン)に言いに行こうか」

 

「いや、シャーロックはどうせ……」

 

トントン、と扉を叩く音が響く。

 

「失礼していいかな?僕だ、シャーロックだ灯央君」

 

予想通り現れた事に対し、ほらな。とジャンヌに呟き部屋の扉を開ける。

 

「君もジャンヌ君についていく。それは推理していたよ……身分証明書、パスポート。免許証も作っておいた。活動資金はこのカードに入っている。好きに使ってくれたまえ」

 

「おお、太っ腹だな。だが――――なんか条件はあるんだろ?」

 

「ふむ、流石灯央君だ。だがそう言うのも僕は推理していた」

 

「だぁ、わかってるから!で?どうなんだ……」

 

クスッと笑ったシャーロックに、狙って言った発言と分かりイラッとなる。我ながら短気だ。

 

「条件、それは簡単な事だよ。伊・Uでも、少し抑えの利かない我儘な生徒たちが居てね……パトラ程ではないけれど……その者達を捕縛してほしいのだ」

 

懐から紙束を取り出し、渡すシャーロック。

最初のページには、顔写真。名前、性別、年齢、伊・Uでの経歴が載せられていた。

その後のページも流し読みするが、全ての紙およそ64枚に同じように伊・U生徒のプロフィールが記されてあった。

そしてどのページにも中央に赤い印字で『EXPULSION』……退学処分と押されている。どうやら此奴等がシャーロックの言う捕縛してほしい奴。ということらしい。

捕縛する理由は当然伊・U内の情報の漏洩の阻止。といった所か……

 

「ああ、わかった。まかせろ」

 

教授(プロフェシオン)、これはAIDも?」

 

「そうだね、あの三人にも当然同行してもらうことになる。君とジャンヌの戦力では特に護衛という点では必要ないだろうが、一応灯央君のチームという事になっているからね」

 

「ああ、あの女二人と男二人の……」

 

「何を言ってるんだ灯央、あのチームは男二人女一人だぞ」

 

「え?いや、あの追いかけてきた女と金髪の女で二人だろ?」

 

「その灯央を追いかけていた奴が男なんだ、アーレス・ユリウス・カエサル。れっきとした男子だ。」

 

「ハァ!?あれが?あの顔で!?」

 

微かに胸の辺りに膨らみを見たのは見間違いだったのか?いや、だが一人称は僕だったし……いやいや、女子の中でも一人称が僕という女子もいるはずだが……

 

「え、マジ?」

 

「マジだ」

 

「本当だよ灯央君、僕が保証しよう」

 

人間の神秘というやつを間近で経験した。

へえ、男ってあんな顔で生まれてこれるんだな。不知火も大抵女顔に近かったが、あそこまでの素の女顔がいるとは……驚愕である。

……カナの女装、それで少し耐性はついていたようで、理解する時間は然程かからなかった。

 

「16時間後、ナポリの海岸……といっても沖だけれど浮上する。今回外に出るのは灯央君とジャンヌ君、そしてAIDの三人だ。伊・U生徒として行動することを忘れないでくれたまえ」

 

「分かった」

 

「それと、先程渡した身分証明書でもパスポートでもいいのだが、これからの行動中。灯央君、君はジェイル・スカーレという人間だ。無闇矢鱈に本名は言わないようにしなさい……それと、念のためにこれを……」

 

シャーロックが渡したのは髪染めスプレーだった、

ちなみにカラーはゴールドだ。

 

「その緋髪は目立つからね、染めておいてほうがいい」

 

「分かりました」

 

自分の髪は好きだ、緋色という珍しい髪色だが灯央家の遺伝であり父から受け継いだ大切なものだ。だがだからといってその所為で豚箱行きというのは流石に勘弁だ。

 

「後で私が染めてやろう」

 

「お、サンキュな」

 

「後は特にない……いや、一つだけ。一つだけ伝えておくことがある」

 

「なんだ?」

 

「おそらく、君達は船外に出た後数カ月は此処には戻らない筈だ。少なくとも僕はそう推理している。其の数カ月の間私にも未だすべて何が起きるかという事は不思議と分からない。おそらく何かが、あるのだろう。私のコグニス……『条理予知』を越える何かが、何かが起きるんだ。そうなると君とこう落ち着いて話している時間は今だけなのかもしれない。だから告げる…………すまないジャンヌ君。一度席を外してもらえるかな?」

 

「分かりました。――――髪染めの準備をしておく」

 

「ああ、ありがとうジャンヌ」

 

シャーロックから渡された髪染めスプレーを手に部屋を出ていくジャンヌを見送ったシャーロックは、即座に扉の鍵を閉め、注意深く部屋中を見渡す。目は見えない筈なのに本当にどうすればそのような動作ができるのか、不思議としか言いようがない。

数秒間のそれが終わると同時に、シャーロックはソファに腰を掛ける。

 

「灯央君も、座りたまえ」

 

シャーロックに言われるがまま正面のソファに座り、対面する俺。

こう落ち着いて見直すと、やはりシャーロック・ホームズという人間から発せられる異様な雰囲気は人間とは思えない異常さがある事に気づく。

 

「飲むかい?1887年の物だ。122年の間、大切に保管して何時か楓延君と飲もうと思っておいていたのだが……彼は逝ってしまった。ならば君と飲んでおきたい」

 

またも何処からか取り出したワイン瓶とグラスを机に置く。

1887年……そんなもの飲む機会なんて無いだろう。

 

「ああ、いただくよ」

 

「ありがとう、老いぼれの酒に付き合ってくれて有り難い」

 

グラスにワインを注いでいく。葡萄色の液体が透明なグラスに注がれ煌く。

グラス同士を重ね、心地よい音が響き香り、味、色。そのすべてを感じながら喉を鳴らしていく。とても綺麗な事だ。……とシャーロックが言った。

決して俺はそんな堅苦しい事はしない。味、香り、それは飲んでいれば自然と分かる事だからな。

グラスをシャーロックが置き一息ついた時、シャーロックは口を開いた。

 

「さて、灯央君。『緋色の研究』、それを知っているかね?――――――」

 

その言葉から始まった長い話は、ワインを飲みながらおよそ2時間弱続いた。

途中シャーロックはパイプを蒸し、俺は煙草を吸いながら……

俺はシャーロックにすべてを聞いた。シャーロックから聞いた全ては俺の人生を180度変えるもので、そして最高にイカれた話だった。

そして灯央の秘密。まだ完全に解けていないが故に『あともう少しで解けそうなんだ、あともう一つピースがあれば完全に埋まるのだ。』そう言ったシャーロックの目はとても悔しそうだった。

他にも『主戦派(イグナティス)』と『研鑚派(ダイオ)』の伊・U内での二つの派閥。これから起きる新たな戦いの存在、伝えられることは全て伝えた。と喋り終えた後の安心したような顔は生涯忘れられないだろう。

 

「僕は……僕と同じ時を駆け、僕の思いに賛同してくれたワトソン君に並ぶの友人の孫である君がとても気にかかっていた。少ない時間だったが、とても有意義だった」

 

「ああ……」

 

「伝えることは一つではなかったね、すまない。僕はそろそろ消え去る頃だ、最後に一仕事しなければならないがね」

 

「――――緋弾……か」

 

「灯央君、君には灯央の謎という物がある。僕の個人的な事で支障をかけたくない。だから絶対に、絶対に伊・Uにもう一度帰ってきてはいけない。君は優秀だ、楓延君の血を引いているだけある……最後に送り者について少しアドバイスをしよう」

 

「アドバイス?」

 

「そう、送り者。それは楓延君はもちろんのこと灯央家の血縁の者は大抵扱えるものだ。ただし男子だけだけどね。興奮状態に陥った時に動体視力が向上し、アドレナリンが多量分泌される状態の事をいう送り者には一番強力な状態があってね、それは性的興奮によって得られた送り者の状態だ。要は女性と性的な行為をするという事だね。そして初体験を終えると不思議な事に能力も向上する。ただし性的興奮での興奮度が高すぎると周りの女性を無差別に犯す、なんていう事もあり得る危険なものだ。女性の心を踏みにじる行為は男として最も卑劣で最低な事だ。だが、初体験を終えればその暴走もなくなる」

 

「…………何が言いたい?」

 

微妙に俺の頬が熱を帯びているのはしょうがない事だと思う。

 

「ジャンヌ君とはどこまで進んでいるのかね?私の推理ではまだ接吻もしたことが無いと推理しているのだが……どうなのかね?」

 

「いやいやいやいやいや!?アンタには関係ないだろう!?」

 

「女性とは結構寂しがり屋な生き物でね、思っているより関係の上昇を深く望んでいる。ジャンヌ君は血の元がああいう存在だから少し難しいかもしれないがね。……まあ、君はよく小説の主人公にある無意識に女性を惹いてしまうようなタイプではないからね、関係性が上がるのは時間の問題……」

 

「あああああああああああああああああああ!!??わかったから、もうわかったからっ!お願いだから黙ってくれシャーロック!それでも世界一の探偵かっ!」

 

「世界一の探偵の僕でも推理できないものはあるのだよ……それが何か、わかるかい?」

 

知らねーよ、んなこと。と返す。

シャーロックはクスリと笑い、こう笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

「――――――若い男女の甘い甘い恋。これだけは僕もいつまでも初心でいられるのさ」

 

 

 

 

 

そう言ったシャーロックの顔は()()()()()()()()()()()()

これが、シャーロック・ホームズと灯央和久の最後の会話だった。

8




ヨーロッパハネムーン編(伊・U灯央編)開始です。
今回オリキャラ投入です。
活動報告で昔行ったキャラ達です、まあ結構変更点ありますけどね。
それではまた次話でお会いしましょう。

今更ですけどこの小説内でのイ・ウーは船名の伊・Uで通します。
それには深い理由が……ごめんなさい、無いです。

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