緋弾のアリア~二丁拳銃の猛犬~   作:猫預かり処@元氷狼

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猛犬と緋の弾丸
Re:EpisodeⅢ‐Ⅰ


――――――――――――酒気帯びるは緋の犬。

 

 

 

 

 

 

 

武偵、灯央和久の周りは武偵高男子寮と変わらずにビール缶で溢れていた。

灰皿には煙草の吸殻が散乱し、彼の年齢を知らぬものがその惨状を見ればどこかの中年サラリーマンか、と答えるに違いないのでは、と思う。

もしくは、人生でストレスを多く抱えた新入社員や只飲酒や喫煙が趣味な成人か。

ある意味ストレスを抱えているというのは間違ってはいない。

彼自身、親友を裏切ったと言っても過言ではない今の状況を再考すればストレスがたまるというのは当然の事だ。

なにより親友や唯の家族を大事にする和久にとって、裏切りに近い行動はするだけ気苦労した。

 

「…………んあ」

 

ソファにだらしなく凭れ掛かり、右手に缶ビール左手に白い煙を漂わせる煙草を持つその姿が彼の今を写していた。

悲壮、後悔、懺悔、幾多の感情が彼の周りに渦巻いていた。

 

「灯央」

 

そして彼の横で散乱した缶を集める女性、ジャンヌ・ダルク。

彼に思いを寄せる彼女も、同じく彼に思いを寄せる少女、灰花梗を遠回しに裏切ってしまった形になったためになんとも言えずにいた。

その感情以上に、灯央和久という人間が犯罪組織に所属するという理由でさえ意味不明で混乱している。

 

「……あ?」

 

切れ目の目つきの悪さが目立つ、顔を数ミリほどジャンヌの方に向けて応答する灯央は、酒と煙草で紛らわした偽の優越感を邪魔されたことに腹が立ったのか、睨み付けていた。

彼が思いを寄せるジャンヌ・ダルクであっても、だ。

 

「っ……!」

 

煙草の煙の所為か、初めて彼と相対した時のあの状態、『送り者』を同じように和久の目は赤く、紅く充血していた。まるで眼球自体が緋色なんじゃないかというほどに変色した眼球に一瞬恐怖を覚えた自分が恐ろしかった。

 

「なんで、なんで来たんだ?伊・Uに来ればお前はあの武偵達と……」

 

「…………」

 

一か八かの賭け、核心に一気に踏み込んだジャンヌは聞いてしまった、と言った数秒後後悔したが沈黙に閉じられた和久の口から出た言葉は想像より優しい物。

 

「……知りたかったから」

 

「知りた……かったから?」

 

「ああ……灯央の、灯央家の事を」

 

その言葉がジャンヌの鼓膜を揺らした瞬間、彼女は息を飲む。

そう、灯央和久という人間は誰よりも家族を望み、僻み、愛した人間であるのに自身の家族について全くと言っていいほどに知らなかった。

ジャンヌ・ダルクといえばオルレアンの聖女と謳われ、フランスの大地を駆けた聖女として有名だ。知名度も高く、革命的英雄。

だが、灯央家というのは表の世界ではあまり知られない存在、日本史にも載らず、歴史から抹消されたという説が飛び交うほどにだ。

逆に裏に多くかかわれば灯央という家は多く聞かれる。それほどまでに徹底した情報管理は灯央の生き残りの青年にすら耳に入らない。

 

「俺は知らない、知ってることと言えば送り犬とのかかわりと創始者の存在だけだ」

 

ジャンヌ・ダルクと灯央和久は似てるようで全く似ていない。

先祖への敬意と誇りを色濃く受け継ぎ、それを伝承しているジャンヌと先祖というより両親従姉兄妹への愛と復讐のために生きる和久は似ているか?と言われれば言わずとも分かる事だ。

 

「復讐に近づくためには、自分を知らなくちゃならないから、だから一番灯央について調べられるここを選んだ」

 

「なるほど……な」

 

「ああ、お前と入れるっていう考えも無い事には無かったが」

 

「!?……お、お前はさり気無く……」

 

右手に持ったビール缶を置き、煙草を灰皿に擦りつけて捨てた和久の顔は少し落ち着いたようだった。少し笑みも入っていることにジャンヌもほっと一息つき、最後の言葉の意味に頬を染める。

 

「わ、私も……こ、恋……が、なん……のか」

 

「ん?」

 

「あ、あのだな。その……私も!恋が、なんなのか一緒に、学んでいけたらいいな……とか」

 

「…………」

 

顔を真っ赤にして言うジャンヌの顔を驚いたように見る和久。

 

「可愛いな、ジャンヌ」

 

「なっ!?」

 

恥じらいという概念が存在しない和久の直球爆弾発言に、体を震わすジャンヌ。

羞恥心の無さに、いきなり恋人同士になったかのような感覚に陥るが、何故か身を任せることはできない。

理由は明白だが、やはり灰花梗への背徳感が多くを占めていることは間違いない。

 

「……えっろ」

 

梗への背徳感と、和久の直球爆弾発言へのリアクションの交差に戸惑い、顔を赤く染めるジャンヌは普段性的感情を抱かない和久の嗜虐心を多いにそそった。

そして無茶な飲酒で少しほろ酔い気分……普通であればよって大暴れして間違いない飲酒量なのだが、少し自制が疎かになっている和久は、ジャンヌの唇や瞳、髪が妙に艶やかしく性的感情を催す。

 

「欲しい、ジャンヌ、お前が……」

 

「ひぁっ!?」

 

右手をフラフラと体を揺らしながらジャンヌの髪に伸ばし、空いた左手でジャンヌの顔の輪郭を撫でる。

 

「ジャンヌ……いいか?」

 

「ふぁ!?な、なにがだ?」

 

「――――キス」

 

此の場に峰理子が居たらさぞかし興奮するだろう、甘い雰囲気を醸し出す和久。

その雰囲気と、徐々に近づく彼の唇、そして甘い言葉にジャンヌは動揺を通り越し、羞恥で気絶寸前であったの……だが。

 

「……すぅ……」

 

あと数ミリで触れ合っただろう和久の唇は、崩れ落ちるように急降下。赤い髪が眼を瞑ったジャンヌの前を通り過ぎ、頬がジャンヌの太ももに密着する。

 

「……え」

 

空気が一気に底冷える。

冷徹な瞳でジャンヌは和久の瞑られた瞳を凝視し、頬が載せられた足を引き抜く。

支える物が無くなった和久の頭は床に落ちるが、爆睡しているからか起きる気配は全くない。

 

「全く……っ」

 

少し後悔している自分にも恥ずかしくなる、気持ちよさそうに目を閉じて寝ている彼は戦闘時のあの獰猛な雰囲気も、たまに見せる天然的な嗜虐行動も無く、眠る子犬の様な静けさだ。

 

「いつもからかって……こうしてやる」

 

お返しだ、と言わんばかりに和久の頬を傷一つない細い指先でつつく。

突くごとに表情に機微を見せる和久にジャンヌもまた嗜虐心が擽られたのか、次第に行動はエスカレートしていく。

頬をつついていただけのはずの指先は徐々に顎、鎖骨、胸板、と下がっていく。

 

「凄い……な」

 

男性特有の角ばった体つきは始めてよく見る。

少女漫画で見る様な逆三角形の体、胸板は厚いがごつごつとした暑苦しい雰囲気の厚さではなくコンパクトに筋肉がまとめあげられたようなそんな印象。

 

「…………ん……」

 

「うあ!?」

 

安心しきっていたジャンヌの腕が和久に引っ張られる。

不意の行動に対処しきれなかったジャンヌは、体の重心が和久の方に集中して先程まで観察していた胸板にダイブする。

 

「お、おい灯央」

 

「…………」

 

「や、やめっ」

 

抵抗する程に和久はジャンヌを強く抱きしめる。

 

「むぅ……」

 

反抗するのを諦めたジャンヌは、大人しく和久に抱かれ、自分も目を瞑る。

それからシャーロックが笑いながら二人を起こすまで、二人は抱きしめあい起きることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灯央家の起源は蝦夷の一派であり、東北を影で支配したとまで云われる豪族。

送り犬という怪の獣、所謂妖怪と古くに契約を交わし力を得た。なぜ契約を交わしたか、それはシャーロック・ホームズと灯央楓延が知る秘密。

送り犬という存在は妖怪の中でもそこまで地位や力は大きくない。

高位の妖怪と言えば有名どころで言えば九尾の狐、玉藻御前。知名度が高い妖怪ほど地位や力に関係してくると言っていい。

 

「ふむ」

 

シャーロック・ホームズは推理していた。

灯央楓延という友人ですら知らなかった送り犬と灯央家の創始者灯央山久之流延亥仙(ひおうやまひさのりゅうえんいせん)の契約の理由。そして灯央山久之流延亥仙(・・・・・・・・・)の生死について(・・・・・・・)

 

「コグニスを駆使しても知れぬ事、恐ろしいね」

 

導き出した推理はどれも確証の無い予想染みた似非推理ばかりだった。

昔から完全な推理ができない難問、世界最高の名探偵の頭脳ですら解明不可能。圧倒的な情報不足だ。

そのために、灯央和久という鍵を用意したのだが。

 

「残してはいけない……絶対に」

 

灯央家の情報は、パトラが灯央本家を破壊した時にほぼ失われた。

倒壊する直前に奪取したものもあるが、本家襲撃後すぐに日本政府によって灯央本家は閉鎖された。裏に関わりのあった灯央家だ。日本政府が規制するのは当然の事だと言えた。

逆に灯央家に近づけば近づくほどに日本政府や、武偵の存在が大きい米国、英国政府の管理下に近づくことになる。

組織の長をしている以上、無駄なトラブルは避けたい。

 

「しかし、緋弾の事もある。間に合わせればいいのだけどね……」

 

自分の曾孫娘の事を考える。

神崎・H・アリア。彼女がどう動くか、そして灯央和久。アリアと同じく緋を持つ存在が、灯央の生き残りがこの世界にどう関与するか、見物であった。

 

 

 

 

 

和久が失踪してからという物の、武偵高は荒れに荒れた。

不良や無法者が増えたという意味での荒れたのではなく、ただ単純に女性陣が沸いた。

蘭豹は自棄酒に溺れ、武藤貴希は残された灯央和久愛用ハーレーナイトロッドの整備に明け暮れ、灯央和久ファンクラブ団員たちは事情を知ってそうなキンジ、武藤兄、不知火に詰め寄り……強襲科は蘭豹の影響に苦労し、武藤兄が妹の情緒不安定に苦労し、和久が消えたことに一番驚いているキンジはストレスがたまっていた。

 

「ったく、どこ行ったんだ……」

 

「あはは、流石に僕もきついよ」

 

武藤と不知火が気苦労に悲鳴を上げるように食道の椅子に座る。

キンジも続くように無言で椅子に座る。キンジの瞳はどこか遠くを見つめているようで、ぼーっと気が飛んでいる。

 

「おい、キンジ」

 

「…………」

 

武藤兄が肩をゆすっても反応しない。重症だ。

 

「カズ君と一番付き合いが長いからね、いつも一緒に居た覚えがあるし」

 

「そいえば俺等がつるむようになった時も……」

 

不知火と武藤が過去に話が弾む。

そんな中、キンジは途方に暮れたままだ。

いつも共に居た和久が失踪し、帰ってこない。また笑いながら自分の前に姿を見せてくれるのではないか、と思うが何故か確証が持てなかった。

灯央和久が思っている以上に、遠山キンジもまた和久が自棄酒を煽るように自暴自棄になっていた。白雪は現在魔剣、ジャンヌ・ダルクについて詳しく聴取をうけている最中で、彼女も和久の事で少し心ここに非ず、状態でめんどくさいと聴取をしている綴が語った。

 

「おい、遠山」

 

「……はい?」

 

「ちょい、こっちこい」

 

無視するも無視できなかった存在がキンジ達の場所に来たことによって、キンジは意識を取り戻す。

声をかけた人物は蘭豹、東京武偵高の女帝ともいえる存在だ。

武藤兄と不知火はとばっちりを受けないように既にその場の席を離れている。

 

「…………」

 

「灯央の事や」

 

少し反抗気味だった目線は瞬時に穏やかになり、食堂から出ていく蘭豹をキンジは追いかける。

その切り替えを見て、武藤兄と不知火は呆れ三割、驚き七割の心持ちでキンジの背中を見送った。

蘭豹に連れられ、十五分程歩いて付いた場所は尋問科の、担当教師室だった。

既にその部屋には尋問科の女王と呼ばれる綴梅子もいた。煙草と酒のにおいで充満していて、ところどころに和久の持ち物が転がっていた。

 

「和久の……」

 

「せや、アドシアードで灯央がソプラに出る前までここに監禁……いや、保護しとったからな」

 

「……そうですか」

 

微かに聞こえた狂気の片鱗はなるべく触れないようにした。

今はそんな事を聞く前にだ、蘭豹が一生徒を連れだしたのだ、何か理由が、それも和久関連であるに違いない、とキンジは蘭豹と綴の方に顔を向ける。

 

「で?お話はなんですか?」

 

「固い固い、これ飲んで柔なれ」

 

「未成年ですので遠慮しときます」

 

「なんや、ウチの酒が飲めへんゆーのか?」

 

言葉使いは既に酔っぱらいのものであった。

驚いたことに、綴がその場は収めたが。

綴本人も焦っていたのだ、灯央和久は立派な武偵としての戦力と行ってもいい。

高校一年という年齢でSランク、任務を忠実にこなす教務科からすれば東京武偵高のポインターのような存在だったわけだ。

この前のアドシアードでも、武偵連盟が和久が優勝したことによって灯央和久に注目した。

そんななか、失踪。となるとややこしすぎる。

実際、綴や教務科の灯央和久と関係していた教師勢は武偵連盟に徴集され、灯央和久について可能な限りの情報を提出しなければならないなど、和久の影響は凄まじかった。

そんななか、失踪の理由として出てきたことも何より驚愕の理由となっていたのだが。

 

「まあまあ、蘭ちゃん。今はアイツの事だよー?」

 

「……ん、せやな。すまんすまん」

 

綴の催促に蘭豹が応じる。

 

「灯央の居場所を突き止めた」

 

「…………!」

 

「なんやその顔、ウチが灯央の事を調べるとか意外や!ゆー顔やな」

 

少し不満そうに言う蘭豹。

 

「すみま……せん」

 

なるべく早く情報を手に入れるために無駄な反抗はしない。

 

「現在の居場所、というより……まあ、静かに聞け」

 

「どこに、どこにカズはいるんですか……っ!?」

 

隠しきれない焦りで声が荒立つ。

 

「伊・U、魔剣の所だ」

 

綴が結局口を開く。

蘭豹が行ってしまった綴を情けない瞳で見つめる。

 

「ジャンヌの……!?」

 

「せや、お前等の話を聞くに伊・Uの存在は過去の偉人の子孫たちが多いと聞く。灯央もまた知名度は低いが英雄と言ってもいい存在や」

 

それはお前もしっとるやろ?と、付け足す蘭豹。

 

「そう……ですね」

 

何故、その言葉でキンジの頭が埋め尽くされる。

何故敵の所に?脅されて?誘拐?そんな妄想、いや推理で頭が埋め尽くされる。

 

「奇怪な事が、灯央自身が志願したということや」

 

「一台、武偵高通信科が訓練用に取り付けていた監視カメラに灯央が誰かと話している様子が映っていた。その相手は視界に入っていなかったが、和久が拘束された様子はなかった。最初は少し好戦的だったが」

 

綴が詳細を話す。常に煙草を吸ってボーっとしているような綴だが、尋問科担当教師と納得できるほどの記憶力がある。

武偵高の生徒全員の名前はおろか、世界中の犯罪者の経歴、出自、起こした事件などほぼ頭の中に入っている。蘭豹が力の人外であるならば綴は知の人外と言える。

 

「梅ちゃんが、和久の口の動きから伊・Uという言葉を確認した。その後の会話から色々と分かってな」

 

「会話の内容から『灯央家』について多く出てきた。動機も灯央家についてだった」

 

「…………」

 

灯央家、キンジ自身も知ってることは送り犬の事だけだ。

和久に問うもいつも自分は知らないと言われて話を逸らされる。

和久も嘘は言っていないのだが、自分の家の事を知らぬその家の血縁者などいるわけがない、という常識にとらわれ、今もその動機の意味が掴めなかった。

 

「灯央家については知名度の低さ故か、世界中探してもすべてしっとる奴なんぞおらんやろな」

 

「なんで……カズは、カズはそっちを……」

 

キンジも神崎・H・アリアという存在がいることで、混乱が大きくなっていた。

アリアがいなければ、和久も考えが合って行動しているのでは?と割り切れはしないが、冷静に考えられていたはずだ。

だが、アリアという母を救うために伊・Uと戦う少女がいたばかりに、冷静に自分の考えを判断として課すことができなかったのだ。

 

「俺が、俺がいけないのか?俺が……アリアを……アリアを……」

 

目を手で覆う。

涙はでない、自責の念と後悔だけで涙なんて綺麗な物は出なかった。

 

「俺が……アリアと……居たから……!」

 

その時、尋問科担当教師室の扉がキィとゆっくり開かれる。

 

「…………!」

 

扉の向こうに居たのは、呆然と立つ桃色の髪をツインテールにした少女だった。

 

「アリ……ア……?」

 

「……あーぁ」

 

綴がめんどくさそうに、そして面白そうに声を上げる。

蘭豹はすでに興味を失ったのか、ビール缶を冷蔵庫から取出しゴクリと喉を鳴らして飲んでいる。

 

「あたし…………ごめん、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」

 

「アリアッ!」

 

扉を閉めて走り去るアリアを追いかけようと、キンジが扉に手を掛けるが綴の手によって阻まれる。

 

「おい、遠山ァ……お前、今追いかけて神崎になんて声かけんだァ?ホモ臭くて気色悪いが灯央とォ、神崎とォ、どっち選ぶか決めないと駄目だぞぉー」

 

「お前、今ウチ等からしたら変態にしか見えへんわ。分かってんねんぞぉ、お前の力の秘密。教師舐めんなぁ」

 

力の秘密、とはヒステリアモードの事を指すのか、やはり人外は侮れなかった。

そして、心の奥底の迷いを指摘するだけあって、制服の内側に装備してあるバタフライナイフの如く鋭い。

 

「俺……は……」

 

「神崎の事は流石に知らんけど、大抵の事は酔った灯央から聞き出しとんねん、アホが。こっちまで泥酔するのに酔いまわるの時間かかるって酒に関しては人外やろぉ……」

 

妬ましそうに何処かを睨みつける。

蘭豹の睨む先には、昔強襲科時代に依頼時の証拠写真があった。

其処には足に爪先から緋色の頭のてっぺんまで灯央和久と蘭豹が隣り合わせで写っていた。

 

「まあ、そゆことや。考えとき、もしかしたら……」

 

「灯央と戦う事になるかもしれないからなァ」

 

「なあ、梅ちゃんさっきから被せて」

 

「なんのことぉー?」

 

「いいわ、なんでもない。酒飲もう」

 

人外たちのその場その場の臨機応変さには度肝を抜かれる。

綴と蘭豹、この二人を手懐けてきた和久にも驚くが、酒に強い、煙草趣味という趣味の共通点にもあるかもしれないのだが、趣味が一緒でもそれに対応できるほどの人間だという時点で和久の恐ろしさが感じられる。

 

「失礼……しました」

 

キンジは煙草を吸い始めた綴と酒を飲蘭豹に背を向け、男子寮に歩を進めた。

今日の夜一日かけて、考えよう。そう決めた。

 

7


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