緋弾のアリア~二丁拳銃の猛犬~   作:猫預かり処@元氷狼

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Re:EpisodeⅡ‐Ⅹ

――――――――――――霧雨に現る知の酒魁。

 

 

 

 

 

 

 

灯央と遠山の一族は昔から常に敵対していた。

妖怪退治、化け物退治もしていた遠山一族と妖怪を神聖視し、妖怪の血が流れる灯央は犬猿の仲といえば確実に納得できる関係だ。

そして灯央と遠山、その二家には小説で言うヒロインと言ったところか、それに星伽の姫がいた。

かごのとりの炎の姫。結局二家とも手に入れることは無かったが、まあその三家が古くからの付き合いだってことはわかるだろう。

俺がキンジと出会ったのはもう覚えてはいないが結構幼かったと思う。

記憶にある中では小学生入学の祝いをまたも星伽の家で開いた時か、今思えばあの時が白雪とキンジと俺が初めて三人で顔を合わせた時かもしれない。

幼い子供特有の単純な思考で、只々友達という関係になり自然と遊ぶようになった。

ある朝の事だった、白雪は神社で箒を手に持って落ち葉を払い、俺とキンジは木のぼりをしていた時だ……。

 

「なあ、カズ」

 

「なんだキンジ」

 

小学生ぐらいの少年二人が、木の上で話し始める。

枝がギシギシと揺れて今にも折れそうだった。

 

「カズはさ、守りたいものってあるか?」

 

小学生に入学したばかりの俺には難しすぎる問題だった。

また、そんな問題を口にしたキンジにも驚きがあった。

 

「そうだなぁ、キンジと白雪とお父さんとお母さん、叔父さん叔母さん、姉ちゃん兄ちゃん……」

 

「よくばりだなぁ、俺はな、俺のすべきことを守りたいんだ」

 

「すべき……事?」

 

「簡単に言えば自分のほこり、と行動にいつもマジになる、ってことだな」

 

驚いた、親友がとても難しい事を言っていた気がしたから。

まあ、その驚きは早くも崩れ去ったのだが。

 

「まあ、この前本読んでみた事だけどな」

 

「なんだよ」

 

あの時の俺はがっかりしてたけど、守りたいもの、というのを自尊心だとか責任だとかそう言う言葉に置き換えることを理解できたキンジがまぶしかった。

だから俺は、『守りたい者』を今までずっと考えてきた。

 

例えば、それを親に当てはめてみた。

父さんに聞けば自分が守るべきものは家族だという。

俺も含め、母さんも、義兄も血の繋がった家族は全て守り抜くと。

母さんに聞けば、それは自分が自分が守りたいものを正直に偽りなく守り抜くと言った。

キンジに似ているが、良く考えてみれば全然違う。キンジは自分のすべきことという行動自体を守りたいと言った。

だが母さんは守りたいものを、守る。ただ単純で、けど一番難しい事を言った。

もし、守りたいものが二つあり、その二つが対立していたら?

そう俺は母さんに聞いた。帰ってきた言葉は予想以上に強く、予想外で心がこもった言葉だった。

 

『どちらも助けない』

 

母さんはそう言った、守りたいものが対立しているという事は彼らにも何かしらの理由がある。それに私が介入するのはおかしいのよ。だから助ける。守なんてことはしない。

例えそれで両者が深い傷を負ったとしても、私が介入するよりは良い結果になるはずだから。

そういつになく力のこもった口調で母さんは言い、聞いていた俺は話す母さんがとても眩しく見えた。

俺も考えた、自分の守るべきことは何か、守るものは何にすればよいのか。

友達?両親?誇り?心?自分?そんな事を考えに考え続けた。もう少しで何かが見えそうな、小さかった光が掴めそうな時だった。

ある時何も見えなくなった、大切な人たちが俺の前から消えて行った。

その日の灯央本家は何時に無く静かで、夜空に浮かぶ満月が電灯無しでも明るいぐらいに輝いていた。

何時になく素晴らしい夜だ、素晴らしすぎるほどに幻想的で本家の庭を照らす月。

その月を背後に、一人の少女ぐらいの体躯の女性が現れ、瞬く間に棟を破壊しつくしていく。

何かに取りつかれたように、淡々と出会う灯央の人間は皆殺しにし、雇っていた人間も殺し……

 

「パトラァァァァァァアアッッ!!」

 

母さんだった、母さんは暴虐の限りを尽くすパトラ、と呼ばれた女に激昂し立ち向かい銃を手に取った。父さんは俺を安全な所だ、と言って部屋の隅に避難させ自分も妻がいるところに向かう。

それが、両親を見た最後だった。

家は崩れ落ち、俺は僅かに開いた隙間に救われた。

遠山金一、キンジの兄さんが俺を助けに来てくれて俺だけが生き残った。

 

「き、金一……さん」

 

「和久……」

 

「なんで、なんでだよっ!なんで、なんでなんでなんでですかっ!……なんでっ」

 

「すまない、俺がもっと早く来ていれば」

 

「あ、謝らないでくださいよ……き、金一さんは悪くないのにっ!……うぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

流した、一生分の涙と悲しみを。

残ったのは憎しみと付焼刃の復讐心。そして大切な人を失いたくないから、ただその原因を小さくても徹底的に踏みつぶそうと考えた。

それから俺は、梗という俺を救った少女と出会うまで只々自分が思う悪を潰してきた。

それが他人から悪だと思われようとも、どんなに乱暴な奴だと思われようとも大切な人を、これ以上失いたくないから……

 

『そんな寂しい人間』

 

孤独が嫌いで、一人は嫌だ。

一人にならないためだったら、親友を失いたくないから……

一時間以上泣き続けた俺の目は髪の色と同じように真っ赤に充血して腫れていた。

泣いた後に『信じられる』ようになったのはキンジと金一さん。白雪に叔父……それくらいだった。

家族を失った苦しみと忘失感には耐えられない。立ち直るのに相当の時間を要したし、その間に多く人を傷つけた。

学校の友人たちには心の先は全くむかず、いじめっ子になっていたわけではないが、クラスメイトの好意を踏みにじり、俺に関わらせないように恐喝じみた行動をしたり。

一人が怖かったのに、自分から遠ざけた。

キンジや白雪が離れて行ってしまえば、すぐに崩れるぐらいの脆い自分。

その自分を見たくないから、自分が自分だと思いたくないから必死で現実を遠ざけた。

周りから浮くという行動をとったことで、自分に近づく物はよっぽどの物好きか昔からの友だけ。

そんな偽りの繋がりに縋り付いていた俺は、今から見ればとても醜い存在だ。

 

 

 

 

 

白雪が失踪したという情報は、武偵校の生徒たち全員にすぐさま知れ渡った。

ケースD7の効果があるのか武偵校に来ている一般人には、裏の混乱は知られていない。

総合銃撃戦競技で疲れ果て筋肉痛で動けないはずの体も関係なく動いていた。

親友の、幼馴染が失踪した。それを意味するのは伊・Uが動いたという事だろう。

またそれが意味をするのはジャンヌ・ダルクが動いたという事になる。

 

「くそっ!」

 

道路のど真ん中に堕ちていた小石を蹴りつける。

怒りだった、今の自分に一番感じた感情は最大級の怒り。

よくそのミジンコ並みの小さな頭でも動かせばわかったことなのだ、綴と蘭豹が俺をソプラに出場させた理由は一つ。

魔剣からの保護、と監視、そしてもしもの時のために素早く対応できる環境。素早く制圧できる環境と聞かれれば野戦競技とも言っていいソプラに俺を出場させる事は十中八九間違いない。

それに気付けなかった俺の愚鈍さ、憎らしさ、それが全て怒りへと変わる。

白雪はキンジともう一人の幼馴染で、大親友だ。小さい頃は星伽の神社で遊んだり、俺の今は更地だろう実家で遊んだりしたものだ。

そんなかけがえのない存在をもう、大切な存在は失いたくない。失うという事はもう嫌なんだと。

 

「灯央、和久君だね?」

 

だが、その声には立ち止まった。

正確には立ち止まることを強要されたとも言ってもいい。

立ち止まり、俺に声をかけた奴を確認しろとでも俺の感が告げていた。

 

「誰だ」

 

背中を声の正体に向けながら、応える。

 

「人と話す時は目を見て、と両親に言われなかったかい?」

 

「…………生憎今俺はそんな暇はないんでな、何用だ?」

 

尋常ではない眼の量。

まるで無限の目線に晒されてるような、そんな気味の悪さ。

俺の行動を一手も二手三手先も見透かされている、お見通しだというような感覚が俺を包む。

 

「ははは、そんなに殺気を向けなくてもいいんだよ灯央君。私の名は――シャーロック、シャーロック・ホームズだ」

 

予想外に、めんどくさい相手が来たようだ。

俺はホルスターに手を触れ、何時でも拳銃を抜けるようにしておく。

 

「構えなくてもいい、僕は何も危害を加える気はないさ」

 

「信じられると思っているのか?」

 

眼は向けない、圧倒的な力量差かそれとも野性的な本能か。

とにかく後ろに目を向けて、目を合わせれば終わりな気がしてならない。

シャーロック・ホームズ、世界一有名な探偵と言ってもいいその男。

本当にこいつがシャーロック・ホームズなのかと聞かれれば何故か絶対にそうだと言えるぐらいの目の数。要するに俺の行動が幾つも幾つも知られている。

俺の幾重の未来を完璧に推理されてるような、そんな感覚。

 

「ん、どうだろう。灯央家の君だ、其処等の凡人とは違うはずだと僕は思っているけど、そしてそれはあながち――――いや、間違ってないと確信している」

 

「灯央家――――、やはりお前は伊・Uの関係者か」

 

「その通りだ。僕はシャーロック・ホームズ。伊・Uの№1でありリーダーというやつだね」

 

伊・Uの№1!?

 

「今日は君にある提案があって来たのだよ」

 

「……提案?」

 

次の瞬間、予想外の言葉に驚愕する。

 

「――――伊・Uに、来ないかね?」

 

瞬時に頭に血が上り、銃の引鉄に指が伸びそうになるのを必死に抑える。

俺が?両親を殺した、親父とおふくろを殺した奴が居る組織に行けと?

ギリギリと歯を擦り怒りを紛らわす。

 

「……何故」

 

「そうだね、君が必要だから……かな?パトラの事が気にかかるのかね?」

 

「…………」

 

「パトラは伊・Uにはもういない。彼女は元は№2であったが、灯央家の大虐殺もあるが行いが悪くてね、追放しているんだよ」

 

パトラが……伊・Uに居ない?

 

「善行をしているつもりか?」

 

遂に振り返る、目に映ったのは……今では150歳は越える年であるはずなのに顔に皺は無く、20代ほどの外見。

よく見ると目は薄白く濁っている、盲目なのか。

 

「善行……そうかもしれない。面白い所をついてくるよ君は。まあ、灯央家の人間であれば当然なのかもしれないがね」

 

完全に否定しないのは偽善だからか、どちらにしろ俺は許すつもりも組織に入るなんてこともお断りだ。

 

「灯央家について、知りたくはないかい?」

 

拒否しようとした口が固まる。

 

「灯央家……のことだと?」

 

「そう、灯央家だ。僕は君よりも灯央家について知っている、灯央家がどれだけ世界に影響を及ぼしているのかも、君の曾御爺さん楓延君とは知り合いでね」

 

灯央楓延、礼の南極で薄着でも生きられる人外。

ちょうどキンジの先祖である遠山の金さん。遠山金四郎影元とほぼ同じ時に生まれ1900年代前半を生きた真正の人外。

死んだのは確か1920年。ニコラエフスクで死亡したと言われる。

尼港事件と言えばわかるだろう。ヤーコフ・イヴァノーヴィチ・トリャピーツィンという赤軍パルチザンの幹部によってもたらされた大虐殺事件。それで楓延は死んだとされているが、実体は不明だ。

 

「曾爺を知っているのか?」

 

「ああ、知っている。数少ない長老仲間だったからね、僕と楓延君は」

 

まさかこんな所で神崎との共通点があったとはな……

 

「ちなみに楓延君は伊・Uの元№2だよ」

 

「――――なっ!?」

 

曾爺さんが伊・Uの元№2!?

まさかそれにパトラが関与していたんじゃ……

 

「君が考えていることはあながち間違ってはいない、私がパトラと話しているときに楓延君の話を出してしまったのがいけなかったのか、彼女は灯央家に対抗心を抱いてしまった」

 

自分の考えを読み取られたことへの驚愕ではなく、灯央家をパトラが狙った理由に呆然とする。

唯一人の人間の底辺の対抗心で一つの家系が途絶えかけたのだ。怒りを通り越して呆れ、そいつの頭を疑う。

阿呆か?糞か?畜生が!俺の父さんと母さんが死んだ理由がくだらない対抗心?先祖が敵だと認識している組織の元№2?ふざけるなッ!

コルトに触れていた俺の指はいつの間にか固く握りしめられ、爪が食い込み血が流れる。

興奮しているからか、若干送り者になりかけていた。

 

「懐かしいね、この感覚。この妖気、この熱気、楓延君を思い出す」

 

盲目であるが故か感覚で俺が送り者になりかけることを察すシャーロック。

 

「私としても楓延君とは友人関係であったからね、パトラの所業には許せないものがあった。彼自身一番大切に思っていたのは家族、ニコラエフスクで死にかけていた彼も息子を助けるために赤軍と孤軍奮闘していた」

 

その時に彼を伊・Uに誘ったんだけどね、と付け足すシャーロック。

空は曇り始め、細い線が空から流れ落ち俺の頬をつたる。

霧雨か、太陽の光が完全に覆っていない雲の隙間から差し込み、細かい雨に反射して宝石のように光る。

だがそんな光景に目を向ける余裕などない俺には、頬をつたる雨がたまらなく鬱陶しい。

 

「霧雨……か、鮮明に記憶しているよ。目が見えないから絵としての記憶には残ってはないないがあの時と似ている」

 

あの時――――当然灯央家が襲撃された日の事だろう。

パトラが本家を襲撃し、破壊しつくした後にその地に霧雨が降った。今とまったく似ている。

 

「Night of drizzle with which a full moon shines」

 

簡単な英語であの日の事を言うシャーロック。白く濁った眼を遠くに向ける姿は悔しくも幻想的で……満月が輝く霧雨の夜、ああそうだ。本当にあの日のことだ。

 

「あの日の事は僕からもお詫びする、本当に申し訳なかった」

 

イギリス人であるはずなのに東洋人と同じ漆黒の髪を強調するように頭を下げるシャーロック。その姿には最大の悔やみと苦難が籠っていた。

 

「許せるとでも……思っているのか?」

 

「いや、おもっていない」

 

あまりの正直さにずっこけそうになるのをその場の雰囲気のために必死で堪える。

不思議なくらいに、俺自身の怒りは収まってきていた。

 

「僕は楓延君の友人として君を保護したい、戦力という意味も無い事には無いがね」

 

「保護……ね」

 

今更……、今更保護?そんなの、別にいらない。すぐに拒否りたいぐらいだった。

――――だが、俺の選んだ言葉は……

 

「俺は――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、ジャンヌ=ダルクと遠山金一は相対していた。

既にその場にはダイヤモンドダストが舞い、ジャンヌの握る剣の刃をヒステリアモードのキンジが人さし指と中指だけで真剣白羽取りをして止めている。

ギリギリと歯ぎしりしながらジャンヌは剣の握る手に力を込める。

ただし、彼女の首にはキンジが空いた手で構えられたべレッタが付きつけられている。

 

「終わりだ、ジャンヌ」

 

「――――黙れッ!」

 

力を込めるジャンヌだが、次の瞬間その場の空気が凍りついた。

既に超能力を扱う力は残していないはずなのに、彼女はよく知る強大な力の片鱗を感じていた。

 

「キンちゃんに!手を出すなぁぁああああああああああああ!」

 

下駄の鳴らす音と熱気が広がる。

 

「――――緋緋星伽神――――!」

 

居合の様に白雪が刀を下から上へ抜くと同時に、まるで焼夷弾が地に着き爆ぜるが如く熱風と焔の渦が戦場と化していたその場に噴き上がる。

彼女が握っていたデュランダルの刃は断ち切られ、アリアがデュランダルが斬られたことにショックを受け立ち竦み呆然としているのを見逃さずに手錠をかけるその時だった。

何処からともなく轟音が室内を貫き、アリアは体が固まり、キンジのヒステリアモードが強制的にシャットアウトされ、白雪が震える。

 

「――――――――ジャンヌ君、退きなさい」

 

男の声……その声に驚愕を隠せないジャンヌは目を見開き、微かに口を動かす。

読唇術でキンジとアリアが読み取る。発した言葉は『何故貴方が』今の言葉の主がこの場に現れた事への驚愕では間違いない。

 

「分かり……ました……」

 

待て!と声に出そうとするが、キンジも体が凍った様に動かない。

アリアも白雪も同じようで、二つに斬られたデュランダルの刃を抱きしめ、こちらを一瞥してダイヤモンドダストに纏われる。

 

「さらばだ、武偵」

 

完全に白銀の風で見えなくなった瞬間、氷の渦は消えてジャンヌの姿も消えていた。

先程の空間を振動するような衝撃はおそらくジャンヌの仲間。

何者かは知らないが、やはり戦場に油断は命とりであった。

もし先程の衝撃がジャンヌに喋らせないための爆薬であったなら?完全に三人は命を落としていただろう。

 

「クソッ!」

 

やっと体が動くようになった時にはもう遅く、鼓膜が破れるかと思ったほどの大音響に耳鳴りが残る。それよりも信じられないのは、ヒステリアモードが強制的に破られたことだった。

原因は分からない、ヒステリアモードも全てを知っているわけではないのだ。

 

「取り逃がしたわね……」

 

悔しそうに口端をきゅっと結ぶアリア。

白雪も同様に肩を落として、『私が周りを見ていなかったから・・・・・・』と呟く。

想定外すぎる敵の乱入であったから、しょうがないと言えばしょうがない。そして気付かなかった自分にも非はあると白雪に言う。

戦場ではしょうがない、ですませることができない事が何度も起きる物なのだが。

 

「今から追いかけても会場に被害を被るだけだ、諦めよう」

 

時には諦めも肝心、無鉄砲に追いかけるというのは時には二次災害を引き起こすことになる。

それはアリア自身が身を持って体感しているはずだ。

 

「そうね……それにしても、カズヒサがこなかったわね」

 

「ああ、アイツの事だからすっ飛んでくると思っていたんだが」

 

携帯をポケットから取り出すが、見事に水没していた。

 

「はあ……これ必要経費で落としてほしいわ」

 

溜息をついて、出口を探す。武偵校の脳ともいえるスーパーコンピューターが置かれた子の一室は戦闘で無残に壊れた個所がチラホラと見える。

これは後から通信科(コネクト)情報科(インフォルマ)の奴等に襲われそうだ、と自分の待ち受ける未来に絶望する。

 

「また……失敗したわね」

 

「地上に出るぞ、まずは報告だ」

 

任務失敗、それは請け負った受理者からすれば厄介。

一度戦った者は次に対策を細かく練ってくる、次回また刃を重ねる時は、今日日より激しい戦闘になるからだ。

 

「チャンス……だったのに、ママ、ごめんなさい」

 

ぽろぽろと涙を零し出すアリアに、キンジと白雪は何も言えず無言でアリアの小さな背中を見る。

本当に大した女の子だ、母親の冤罪を証明するために17才という年齢で犯罪者と戦う。

本当に強い女の子だ。

地上に上がり、アリアが泣き止んだその後。キンジ達にある衝撃的な事実が綴から知らされた。

 

『灯央和久が行方不明』

 

親友が失踪したという霧雨の様に流れ落ちる無慈悲な報せであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は――――伊・Uに行こう。ただし、俺はあくまで情報収集という意味で行くんだ、俺はパトラを殺す。それができればいい」

 

それを聞いたシャーロックは、それも推理していたよ。と言うように笑みを浮かべる。

 

「君ならそう言ってくれると思っていたよ、わかっている。僕は君に復讐を止めろなんて姑息な偽善を諭しはしない」

 

この答えが、一番キンジや白雪を今を安全に過ごせる答えであり自分の復讐に一日近づける一歩であるから、そして自分の先祖が伊・Uに居たという安心感があったのかもしれない。

 

「それでは行こうか、既に準備はしてある」

 

最初から分かっていたように進めていくシャーロックが、改めて世界最賢の名探偵だという事に納得できた。

未来予知と言えるほどの多重推理、彼のその技能に見せられた、というのもあるかもしれないが。

次会う時は、キンジとは敵同士にならないといけないかもしれない。

それが一番の壁であることは間違いない。

 

 

 

7




御久し振りです、前話から二か月が経ってしまいました。申し訳ありません。
こんな作品ですが、完結まで見て頂けると嬉しいです。

実は、猛犬と氷の魔女編はこれでおしまいだったりして。

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