緋弾のアリア~二丁拳銃の猛犬~   作:猫預かり処@元氷狼

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Re:EpisodeⅡ‐Ⅸ

――――――――――――紅灯緑酒の銃撃大会。

 

 

 

 

 

 

 

梗とのデートから三日が過ぎ、連休も終えた今日はアドシアード当日。

何故かだが俺はアドシアードの競技の一つである『総合銃撃戦競技(ソプラヴィヴェンツァ)』の選手に選ばれた。

総合銃撃戦競技とは、使用する銃火器の制限無しでサバイバル形式で武偵達が戦う競技の事だ。

ナイフ、ライフル、手榴弾、クレイモア……何からなにまで使用可能の超危険な競技。

毎年参加者の半数が重傷を負うというこの競技だが、毎年参加者が絶えない。

何故かというと、ソプラヴィヴェンツァに出場して優勝した場合は武偵としての道が国際武偵連盟から相当支援されたりするのだ。

当然金も貰えるし、参加する価値はあるかないかと言われればある方だ。

だけど俺は少なくとも志願して出場したくはない。

最近では見ることは無くなったが、この競技での死亡者が昔はいた。

それはそうだ、クレイモア地雷が指定域に数十か所に参加者によって仕掛けられ、C4爆薬も壁に取り付けられていたりと戦場と言っても過言ではない。

当然火薬の量は少なめだし致死量を入れる事は出来ないが当たり所によっては死に至ることも珍しくはない。

だから総合銃撃戦競技(ソプラヴィヴェンツァ)に出場する選手は、東京武偵高現三年生か、一年になってこの前俺に強襲科で喧嘩行ってきたような自惚れ野郎。それか相当自身があり、尚且つ実力を持っている二年生だろう。

それにこの総合銃撃戦競技では、海外の武偵校生徒も参加する。

ロンドン、上海、香港……そして国内では札幌……などなど。

特に常に優秀な武偵を派出しているロンドン武偵校は、やはり武偵の元となった存在というべきシャーロック・ホームズの故郷であるが故か、相当難敵だ。

神崎に聞いてみたところ、東京武偵高とロンドン武偵校では格が違うのだという。

俺は分からない、と言っていたが確かにロンドン武偵校の名の知れ様は尋常じゃない。

今年も変わらずに二、三名出場するらしいが、一番厄介な敵になるに違いない。

他にも上海武偵校も相当な物だ、上海武偵校は根っからの弱肉強食主義。

強ければよし、の力絶対主義が校風として知られている。

単位を取ればいい自由な東京武偵高とはこれまた格が違う。ハッキリ言って怖いです。

 

「いやだ、でたくない。なんでなんでなんで⁉」

 

蘭豹と綴に引きづられながら俺はその指定区域へと連れて行かれる。

流石の俺も綴と蘭豹の怪力による強制移動には反抗できない。

 

「ちょっ、マジで⁉らんらんなんで俺が出場するの、なんで俺は連行されてるの。おかしくないですか?おかしいだろ!」

 

「らんらん言うな‼」

 

「うごはっ」

 

肘を腹に入れられてうめく俺。

綴も変わらず手巻きの煙草を吸いながら生気ない眼で俺を引き摺る。

この時にこの前病院で会ったとき喫煙室での綴は綺麗だったのになー……と思ったが言う余裕など皆無だった。多分言ったら半殺しにされるだろうしな。

ちなみに今も地面と蘭豹の拳で半殺ししかけているが。

 

「いや、マジで説明頂戴。なんで俺がソプラに出場しなきゃいけないのか説明プリーズ!」

 

ソプラ、とは普通に総合銃撃戦競技(ソプラヴィヴェンツァ)の略称だ。

他にもデスゲーム、ソヴィンツ、馬鹿が集まる競技。など色々と愛称(笑)がある。

…………今はもう笑えないが。

 

「お前なんもアドシアードで出てない、今日でるはずやったソヴィンツ東京武偵高代表が急病で出場できひんくなった、流れで教務科(マスターズ)では何も出てない灯央を出場させることに決定、わかるか?ボケナス」

 

ボケナスって……くそぅ、こんなんだったら拳銃射撃競技(ガン・シューティング)に出場すればよかった……。今更遅いが嘆く俺。

 

「まあ、死ぬなよォ、灯央。期待してんだから」

 

最後に綴に吸っていた紙煙草を強制的に加えさせられて投げ飛ばされる。

投げ飛ばされた場所は入学試験で使われる専用棟の一室。

周りには銃火器がいくつも揃えられてある。

見てみると、木の机の上に俺の家紋が刻まれたコルト二丁も置いてある。

 

「いつつ…………なんなんだよ、もう」

 

既に蘭豹と綴はいない。

俺はため息をついて、流石に武装しないのは気が引けるため、コルト二丁を両太ももにレッグホルスターに入れて刃が潰れているサバイバルナイフを鞘に入れてベルトに挿す。

こうなったのも四時間ほど前の事だった。

先にアドシアードの準備があるために家を出たキンジを見送って、いつものように後から愛車で武偵高に通学した俺だが、途中武偵高の本校舎入り口で待ち構えていた蘭豹に捕まった。

そして拉致、拉致された場所は綴の尋問科専用棟の部屋。綴も煙草を吸って俺を見張っている。

完全に何が何だかわからない俺は、手を後ろで縛られているために動けないが綴に問いかけたが反応が無い。そして拉致され、監禁された4時間後……今俺はこうして武装させられているわけだ。

 

「死にたくないから、できるだけ本気だすが……あまり大衆の眼前で『送り者』も使いたかねぇしな」

 

よく見るとコルトに弾が入っていなかったため、弾が入っていないコルト二丁のマガジンに.45ACP弾を装填して、カシャンとコルトのスライドを引く。

綴に去り際に咥えさせられた紙煙草を口から取って息を吐くと、白い煙が部屋の中にこもる。

 

「何が何だかわからねぇが、やれるだけやってみますかねェ……!」

 

紙煙草をもう一度咥えて、俺は準備体操を始めた。…………意外と準備体操は大事なんだ。

柔軟をして体をほぐさないといざって時の反応が鈍る。

1秒……いや0.1秒の世界になると、そんな誤差が勝負を決める。

首を左右に振ると、ボリボリッと音が鳴る。

 

「ああー首イテェ」

 

綴と蘭豹に襟を掴まれて移動させられたために俺の首は悲鳴を上げている。

 

「ったく、もっと丁寧に扱えよ怪物共め」

 

実際、綴も蘭豹も日頃のストレスを先程の和久で発散したと言ってもいいだろう。

綴と蘭豹のストレス発散に耐えられるモノは、和久ぐらいしか見当たらないからだ。

 

『それでは【総合銃撃戦競技(ソプラヴィヴェンツァ)】を開始します。今回の参加人数は50名……50名のバトルロイヤルとなります、使用装備は現在選手の方々が待機しておられます部屋にある度の物を選んでくださっても結構です』

 

まあ、大丈夫だな。

そこまで計画的に撃っていかなくてもどうにかなるだろう。

死ななければいいんだ。

 

『では、開始です』

 

無感情なアナウンスの言葉が終わったのと同時に、目の前の扉の鍵がガチャンと音をたてて解かれる。

どうやら此処を出たら本格的に銃撃戦開始となるらしい。

 

「さてさて、行きますか―――――――⁉」

 

俺が腰を掛けていた椅子を立ち上がると、遠くから銃声が四回聞こえる。

 

『4名、脱落』

 

無慈悲なアナウンスが室内に流れる。

 

「――――は?」

 

間の抜けた声が俺の口から出たのはしょうがない。

今の四回の銃声で四人が脱落したのだ、それも俺が聞く限りでは同じ銃声。

一人の参加者が開始早々に四人を脱落させたのだと推測できる。

 

「じょ、冗談じゃねぇぞ」

 

こんな狭い室内で扉をあけられたら逃げ場もねェ……!

心で叫ぶ。とりあえずホルスターに最初からそこまで使うことはないとしまっておいたコルト二丁を構えて、扉を開けて飛び出す。

まずはこの試験棟の構造を把握すること、ここはそれこそ一年の試験の時ぐらいしか使わない。

微かに覚えていることは覚えてはいるが完全に把握は出来ていない。

 

「ッ――――――――――――!?」

 

その時、また銃声が響く。今度は近い、銃声は……二回だ。

思わず足を止めて物陰に隠れる。アナウンスを待つが、何もない。

ふぅ、っと溜息をつくと同時に白い煙草の煙が通路に流れる。

 

「あ、煙……」

 

口から洩れる白い煙は、確実に俺を狙ってくれといってるようなものだ。

急いで綴からもらった紙煙草をコンクリートの地面に擦りつけて火を消す。

名残惜しいが、死にたくはないからな。まだまだ吸えたのに…………可哀そうな煙草くん。

 

「めんどくせぇなぁ、もう!」

 

俺の声が聞こえたのか、向こうから足音が聞こえる。

結構消されてるが、まだまだ甘い。

 

「そこに居るのは分かってんだよ、クソ野郎!」

 

物陰に隠れていた俺は、なんとも相手に失礼な暴言を発しながら飛び出してコルトを撃つ。

 

「ガッ……!」

 

胸に当たったのか、防弾チョッキに当たっても吹き飛んだのは外国人の青年だ。

ロンドンか、アメリカか。

 

『一名、脱落です』

 

アナウンスの声、どうやら一発でも銃弾を当てて何かしらのラインを越えた場合失格になるのか。

俺に撃たれた外国人はいつの間にか現れたスタッフか何かに連れ去られて行く。

俺の銃撃が引き金となったかのように、先程の外国人が見えなくなった瞬間重機関銃特有の連続した銃声が聞こえる、バリン!とガラスが砕け散る音も聞こえる。

 

「うわぁ本格的に乱戦状態じゃねぇか」

 

手榴弾の爆発音も聞こえ始め、大乱戦勃発だ。

そして俺がいたところにも銃弾が飛んでくる。

 

「うおっと!」

 

慌てて後ろに跳び退いて、銃撃を回避する。

もういっその事銃弾に当たってリタイアしたいとも思うが、防弾制服でも当たれば痛い。

自分から痛い物に当たりに行く馬鹿なんていない。

 

「もう、ウゼェ!」

 

こちらに向けられている銃撃が一瞬止まったのを見計らい、俺はダッシュで走り出した。

なんとしても勝つ!そう意気込みながら……

 

 

場所は変わってキンジ達はというと、大会のメインともいえる総合銃撃戦競技を専用モニターで見ていた。

開始早々穏やかではない始まり方だったが、二年A組のクラスメイト達は和久が出場していることを知って、総出でモニターを見ていた。

 

「なぁ、なんでカズが出てるんだ?」

 

武藤が不思議そうにモニターを見る。

それには現在総撃破数二位に位置する和久が写っている。

 

「さあ?俺も知らないな、不知火は聞いてないか?」

 

キンジもいつも変わらないめんどくさそうな顔が思案顔となる。

 

「僕も聞いてないね、貴希ちゃんは?」

 

不知火も分からない、と手を上げて和久の戦妹である武藤貴希を見る。

 

「わかんない、和久から何も聞いてないもん」

 

心配そうにモニターを見る貴希。

やはり自分の戦兄であると同時に思い人がある故に心配であるという事もあるのだろう。

モニターを見ると、たった今も和久が一人を撃破した所で、ふぅ……と安堵のため息を吐く。

 

「もう、何も教えてくれないなんて……和久のバカ」

 

可愛らしく頬を膨らませる貴希をみて、キンジ、武藤、不知火の三人は苦笑する。

 

「まあ、カズだからな。しょうがない」

 

「そうだね、昔からそうだから。カズ君は」

 

武藤と不知火がそう言う。

キンジも深くうなずいて語り始める。

 

「アイツは昔からそうなんだ、いつも俺に何も言わずに何でも解決したりする。もっと頼ってくれてもいいのに」

 

「いや、一番和久を苦労させてる原因はキンジだと思うよ」

 

ツッコんでほしくはなかったところを貴希に直球で貫かれたキンジは「うぐっ」とうめく。

確かにこれまでもキンジは和久に助けられたりしてきた。

この前のハイジャック然り、アリアの暴動然り……だ。

 

「おっ」

 

キンジがそう声を上げる。

モニターを見ると、和久が連続二人撃破をしていた。

それを見ていた他の二年生たちが『おおォォォォ!』っと声を上げる。

和久のファンクラブの三年女子から二年、一年女子もモニターに向かってだが応援している。

 

「やっぱカズは人気あるなぁ……くそっ、帰ってきたら轢いてやる!」

 

「それは逆恨みにもほどがあると思うな、お兄ちゃん」

 

「…………」

 

武藤の逆恨みを冷めた目で見る貴希に、武藤が沈黙する。

 

「それにしてもカズ君強いね、流石元とは言え強襲科Sランクだよ」

 

不知火がモニターから目を離さずにそう告げる。

確かにこの中では和久の戦闘能力は桁違いだ、キンジはヒステリアモードになっても送り者状態になった和久を倒せる自信はない。

 

「そうだな……だがコイツが気になる」

 

キンジが指を指したのは現在撃破総数一位の上海武偵校の生徒だ。

既に18人倒しているその少年は、見つけた敵を素早くロストしていく。

動きが速い、さながら家を闊歩する鼠の様。例え方が少し難があるが本当にそう見える。

一人一人を一発の銃弾で仕留めていくその姿は、素早く動き小さいが毒のある歯で齧りつく鼠。

 

「上海武偵校代表か、速いな」

 

敢えて武藤は『速い』とそいつを表現する。背丈は小さい、中学一年生とも言われても信じられる。

だが一番最初にそいつが沸かせたのは、開始早々の四回の銃撃で四人を仕留めた時だった。

会場内が静まり返り、モニター越しで見ていた俺達も驚愕するほかなかった。

何故俺達がその少年の事をこいつ、そいつと言うのか。

それは単純に読めないからだ、流石東京武偵校生徒。一般高校も絶句するほかないほどのバカ集団だ。

 

「残るのはカズ君とこの子になりそうだね」

 

不知火は読めているだろうが、周りを気にしてか名前で呼ばない。

 

「ああ…………それにしてもカズもよくソプラにでたな、本当に出場した理由が分かんねぇ」

 

ソプラ――――総合銃撃戦競技と言えばデスゲームと言われるほどのアドシアードでは、最恐の競技。

そんなめんどくさ……否、危険な事に和久が自分から首を突っ込むような人間じゃない。

それは一年間、キンジに至っては生まれてからの付き合いである三人とプラス一人が一番よく分かっていることだ。

 

「やっぱりあれか?単位」

 

「馬鹿か、カズがお前みたいにめんどくさがって単位を逃すはずないだろ」

 

「そうよ、キンジなんかと和久を一緒にしないで」

 

「お、お前等!じ、事実なんだがもうちょいオブラートに包んで言ってくれないか!?」

 

少し泣そうな表情で言うが武藤と貴希はそれに動じずモニターを見ている。

キンジは不知火に助けを目線で乞うが、不知火もモニターをガン見してスルーする。

 

「お、お前等!」

 

「うるさいなぁ、黙ってよキンジ」

 

「…………はい」

 

貴希の叱責によって、黙るキンジ。

 

「まあ、キンジみたいな単位が足りないとかそう言う馬鹿な理由ではないとして、他は何が考えられる?」

 

「強制的に出場させられた……とかかな?」

 

「そういえば、朝から和久見なかったね」

 

「教室にも着てなかったな……」

 

うーむと悩みながらモニターを見る三人。

その時また和久が一人撃破して周りが沸く。

 

「おいおい、今のスナイパー死角から撃ったのによくカズ回避できたな」

 

「たぶん鏡があったからスコープの反射した光が見えたんじゃないかな?カズ君の視線もそっち向いてたし」

 

「に、人間かよ。自分の親友でありながらいつも驚かされるな……強襲科の時より全然腕衰えてないじゃんか」

 

武藤が冷や汗を流しながらカズの動体視力に驚く。

それに気づいた不知火も不知火だが。

 

「いや、カズは人間じゃないな。ああ」

 

武藤が自分で納得する姿に疑問を抱いた貴希が武藤に聞く。

 

「なんで?お兄ちゃん」

 

「良く考えてみろ、いつも蘭豹と綴のお世話係をやってんだ。できる時点で人間やめてる」

 

和久自体は人間やめたくないといつも蘭豹と綴を見て言っているが、どうやら周りから見ればすでに和久も十分人間やめているらしい。

何故和久が人気があるかと言ったらやっぱり蘭豹という怪物を抑えてくれるという点からだろう。

普通ファンクラブまでできている男に同性からの支持は圧倒的に少ない。

校内でも女子生徒から人気がある不知火だが、例えば不知火が生徒会長に立候補した場合、やはり男子の票は集まらないだろう。だがもし和久が生徒会長に立候補したとすれば男女問わず相当な票を獲得して当選することは間違いないと、誰もが思っているはずだ。

特に強襲科と装備科の信頼度は厚い。教師達からの信頼も結構あるほうだ。

 

「まあ、応援するしか俺等はできねぇしな」

 

武藤の少し残念そうな言葉が他の三人の頭に響いた。

 

 

 

そして場所は戻り、和久はというとたった今残り9人のうちの一人をコルトのスライドを首筋に打ち付けて気絶させた瞬間だった。これで和久が倒した数は16人目だ。

 

「ふう、16っと」

 

そろそろ敵も少なくなってきた頃だ。

銃撃戦の銃声や爆発音も少なくなってきた。

 

『一名、脱落』

 

今の戦闘で尽きたマガジンを変えて、スライドを引く。

確認したがマガジンはあと5つだ、慎重に使っていかないと弾が無くなる。

これからは逆に戦闘も激しくなるはずだ、人数が少ない分遭遇したときの戦闘の規模が激しくなる。

サバイバルナイフが残ってはいるがそこまで刃物の扱いに慣れていない俺はきついだろう。

 

「さて、そろそろ本気だしますか」

 

銃の持ち方を変えて、俺の十八番である『旋棍銃(ガンファー)』の構えをする。

体力も相当消費されているし、短期間で決着をつけたいところだ。

 

「怖いのがいんだよなァ……」

 

俺が現在一番脅威だと感じているのは最初に四射四撃破をして、この空間の空気を掴んだ奴だ。

銃声からベレッタM1934だと推測し、それを使った撃破には常に耳をすませて聞いていたが、そいつは絶対に一度の射撃で撃たれた銃弾で一人を脱落させている。

ベレッタM1934の射撃音が三回聞こえれば、次のアナウンスで三人脱落する。

この参加者の中で一番気を付けなければいけない存在だろう。

そして、銃声がまた聞こえる……ベレッタM1934だ。それも二発。

 

『2名、脱落です』

 

つらりと背中に汗が流れる。予想通り二名の脱落だ……今までの脱落数を換算すれば既に残りは4人。

しかも聞こえた銃声は近かった。

 

「マジ怖い、久しぶりに怖いわ」

 

この前のハイジャックの着陸の時の方が怖かったか。

いや、でもこの恐怖はなんというか、また違った恐怖だ。

 

動くか……それとも、動かないか。

 

ここであのベレッタの奴が残り二人を撃破して一騎打ちに持ち込むか。

それとも俺が残り二人を撃破して、一騎打ちに持ち込むか。

意表をついて他三人をこちらにおびき寄せて四人の乱闘に持ち込むか。

……やはり、安全性は前者だが、そんな女々しいことはしたくない。

 

――――二人を撃破する。

 

「まあ、その二人の中にベレッタの奴が居れば万々歳なんだがな!」

 

階段を下り、壁に耳を当てる。

微かにだが右方から走っている足音が聞こえた。

そいつを狙うことにした俺はいったん階段をもう一階下がって、先程足音が聞こえた方向に走る。

そして途中で一発銃弾を放つ。これで、この付近でで銃撃戦が起こると周りに伝えるのだ。

いったん物陰に隠れて耳を澄ませる。

空気の流れがこちらに向いている、こちらに向かっている足音は二つ。もう一人は?

不穏な空気を察しながらも、俺は移動を再開する。

 

「ッ!」

 

バリンッと俺の後ろのガラスが破れる。

連続で銃弾は来ない、スナイパーか……なるほどね、動いてないのはスナイパーでしたか。

お願いだから跳弾をいともたやすくやってのける様なレキみたいなスナイパーではないように祈る。

……どうやらレキみたいなのではないようで、スナイパーが繰り出してくる銃弾の数々は俺がいた0.8秒後の場所を貫いていく。だが結構命中精度は良い。

気を抜けばやられる、あっちはサイレンサーも付けているようで銃声は響かない。

しかしそんなに銃弾撃って来れば、流石にスナイパーが潜んでいるところぐらいわかる。

14M先の瓦礫が崩れているところだ。

 

「舐めんなよ……!」

 

うまく壁と、瓦礫を利用してスナイパーの死角を突いて接近する。

スナイパーの弱点その一、接近戦は完全に不利で負け確定。

銃剣(バヨネット)みたいにされればやれる奴もいることにはいるが、狙撃手って大抵接近戦苦手だからな。あのレキだって近接戦まで天災とはいかないしな。

レキと接近戦で戦えば五秒で終わらせることだって宣言できる。

遠距離戦だと逆に五秒でやられるだろうが。

 

「フッ――――!」

 

壁から体を出して、スナイパーを射撃する。

二丁拳銃から跳んだ二発の銃弾がスナイパーを襲い、ガラッと瓦礫が崩れる音をたてながら転がる。

 

『一名、脱落。残り三名です』

 

よし、あと二人……。

スナイパーを倒した俺は周りを見渡す。

サーっと瓦礫から出た砂埃が辺りを風と共に漂う。

 

「キツイな、やっぱり最近動くことが多くなったとはいえ……本格的な長時間戦闘はきちぃわ」

 

腕を回すと、関節が擦れる音が骨をつたって響く。

砂埃が多い所に居るからか、眼も充血して痛い。

 

「やっぱり、強襲科に戻った方がいいのかねぇ…………はぁ」

 

そしてやっと理解する。

何故教務科が俺に出場させたか、それは強襲科に俺を戻す為。

お前がいるべきところは強襲科なんだよ、ってか。

そして銃声が響く、今回はベレッタではない……ベレッタじゃない奴か。

 

「そろそろ終わりだな」

 

銃声が聞こえた方へ走る。

移動している間も、銃声がいくつか聞こえる。その中にはベレッタM1934も入っていた。

銃撃音に近づいて、見てみると二人が戦っていた。金髪の男と、黒髪の中国人だ。

 

「ベレッタの方は、黒髪の方か……」

 

中々にチビだ、だがその小柄さを活かしてか……速い。

金髪の方もなかなかにやれる。

 

「すまんが、面倒だ。やられてもらう」

 

だが空気を読まずに俺は二人に二丁拳銃の照準を合わせて……引き金を引く。

 

「「ッ――――――!」」

 

俺が撃った銃弾に、二人は吹き飛ぶことはなかった。

間一髪、俺の存在に気付いたのか二人して後ろに跳んでいた。

 

「わーお、これはヤベェ」

 

仕留められなかったことに汗を流す。

 

「戦闘中に横やりを入れるとは、流石黄色人種だよ。下種め」

 

「黙れよライミー、黄色人種は僕の国も貶めていることになるんだ……あれは野蛮な猿だ」

 

その言葉にカチンときた俺はこう告げる。

 

「うるせぇ、どちらとも古さが取り柄の国の癖に」

 

「「なんだと?」」

 

目の前の金髪と黒髪目線がきつくなる。

最初に銃を向けたのは金髪のイギリス人、俺の胴を思いっきり狙って撃つ。

それが引き金になり、俺は横に飛んで回避。そのまま接近戦に持ち込むために銃を逆手持ちに切り替える。

俺の十八番『旋棍銃(ガンファー)』の構えだ。

 

「珍しい構えだね」

 

黒髪の少年も銃を捨ててナイフに切り替える、ダガーナイフだ。

それを見た金髪も腰に挿していた剣を抜剣する。

三人が接近戦で乱闘状態と化す。

俺もそれに合わせてサバイバルナイフにする……ということはしない。

俺の接近戦スタイルだからな。

 

「フッ――――!」

 

黒髪がダガーナイフを細かく繰り出す。

それを身体を逸らして避けていく。その隙に俺を金髪が沈めようとレイピアに近い細身の剣を俺に突く。

形からしてフェンシングか……。

 

「だがそんな規則正しい動きじゃ、戦闘では意味をなさない」

 

俺はその刃を左手に持つコルトガバメントのスライドで弾き、体を回転させて今度は右手に持つコンバットコマンダーで金髪の腹を殴る。

 

「ガハッ⁉」

 

そして体をふらつかせた金髪の胸におまけに二発撃ち込んでおく。

 

「まずは一匹」

 

ギロっと目を次は黒髪に向ける。

 

「なるほど、なかなか強いじゃない――――っ⁉」

 

「喋ってる暇があるなら手を動かせ、足を動かせ、何よりも頭を使え小僧が」

 

連続で銃撃を浴びせていく。

途中隙ができれば銃で殴りかかり、距離を開けられれば銃弾を穿つ。

 

「牙を穿て」

 

「舐めるなよっ……!」

 

黒髪の少年の方もダガーナイフで応戦するが、如何せん拳銃とナイフだ。

それもこちらは銃を使った近接戦法。どちらが上かなど使い手にもよるが……一応親父から引き継いだものだ。そうとう俺も鍛錬はしてんだよ。

終わりも早かった。

 

「最初から勢いづいて結構恐怖したが、そこまでじゃなかったな」

 

「黙れっ!」

 

「お前がな‼」

 

ついに黒髪の腹を捉えた銃弾……牙が腹を抉る。

黒髪の腹に尋常じゃない衝撃が遅い、膝をつく。

もし、これが任務で敵の鎮圧であれば両足を撃っていたところだが、これはあくまで競技だ。

望んで怪我人なんぞ出したくない。ましてやそれが自分の手によるものであれば尚更だ。

カランっと薬莢がコンクリートの床に落ち、勝敗は決した。

 

「褒めてやれる点は一つだ、お前の行動速度は目を見張るものがる。そこを伸ばせばもっと伸びるさ」

 

「くっ……‼」

 

黒髪が歯をギリギリとならして悔しがる。

だがそれはアナウンスで消える。

 

『二名、脱落。優勝は東京武偵高代表装備科所属、灯央和久』

 

ブーという終了の合図と共に、俺が勝利したアナウンスが試験棟内に流れる。

コルトをホルスターに仕舞い、腕を伸ばす。

その後は優勝者としてトロフィーみたいな物を武偵連盟から貰い、優勝賞金である2000万を口座に振り込まれた。

 

「あー……疲れた」

 

現在装備科のロッカー室で横になっている俺。だらんと力なく垂れている右手の先には缶ビールがある。

久し振りに神経を張り巡らしたか、頭が痛いわ腕は痛いわで最悪だ。

――――――だが、現実はそう待ってはくれないのが現実だ。

ロッカーに置いていたスマホから着メロが流れる。

 

「ん?」

 

画面を見ると、キンジからだった。

とりあえず、でてみる。

 

「なんだ?キンジ、今俺は滅茶苦茶疲れたから休憩中なんだが」

 

『ケースD7だ‼白雪が、白雪が』

 

ケースD7。

ケースDはアドシアード内で決められた武偵高内で事件発生を意味する言葉。

だがケースD7になると【ただし事件であるかは不明確で、連絡は一部の者のみに行く。なお、保護対象者の身の安全のため、みだりに騒ぎ立ててはならない。武抵抗もアドシアードを予定通り継続する。極秘裏に解決せよ】という風に変わる。

 

「落ち着け、白雪がどうした?」

 

『白雪が――――――――――――――失踪した』

 

予想はしていたが、キンジの口からその言葉が聞こえたのと同時に自分の未熟さを呪う。

 

俺を蘭豹と綴が何故総合銃撃戦競技に出場させたのかも。

そしていつの間にか俺は自分の親友でさえも忘れてしまう愚かな人間であったということにも。

 

 

 




はい、今回はアドシアード編でした。
総合銃撃戦競技《ソプラヴィヴェンツァ》の方ですが、完全なオリジナル競技です。
戦闘描写が苦手なので、上手く書けているかは不安ですが投稿速度が戻ってきたようなので、其処は嬉しいです。あと二話で二巻の内容も終了して三巻に移りたいと思います。

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