緋弾のアリア~二丁拳銃の猛犬~   作:猫預かり処@元氷狼

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Re:EpisodeⅡ‐Ⅷ

――――――――――――とある酒豪の怪談義。

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、俺は修羅場というやつを経験している。

目の前には鬼と魔女、そして憎らしい小悪魔的にクツクツと笑う悪魔が座っている。

場所はハンバーガーチェーン店ではなく、俺がよく利用している喫茶店『ジョン・ドゥー』だ。

 

「…………で?灯央」

 

底冷えた、氷の魔女と言われただけはある冷酷な声が俺に掛けられる。

 

「はい」

 

現在和久はビールを飲みながらソファに座っている。

何故か敬語で答えたのは、雰囲気の影響だとしか言いようがないだろう。

 

「少し離れてくれないか?」

 

「…………あ、ああ。別にいいが」

 

とりあえず机に置いてあるスマホと財布を持って和久は、『ジョン・ドゥ』の特別フロアの重い扉を開けて出ていく。残ったのは灰花梗とジャンヌ・ダルク。そして面白そうなものを見ているような眼の峰理子。

梗は一見なんでもなさそうに座っているが、内心相当震えていることは確か。

 

「え、えと……ジャンヌさん。ですよね?」

 

「そうだ。呼び方はなんでもいい」

 

ハッキリ言うと、伊・U側も一般人をそう巻き込みたくはない。

アトノ処理が面倒だからという点もあるが、妙なつながりが芽生えてしまえば和久が一番恐れていた事である『子犬が狼に食われる』なんてことも起きるかもしれないのだ。

実際今、その状況に言い換えれば灰花梗がいるともいえる。

 

「じゃ、ジャンヌさん。……で」

 

その不器用同士の話し合いを見ている理子が、くすくすと含み笑いをする。

 

「ねぇねぇジャンヌ、こんなことしててもなんも進まないよぉ~」

 

理子が二人をせかす様に、言葉を発す。

二人の方がピクリと痙攣したように動き……

 

「「あのだな(あの……)…………」」

 

二人の声が重なり、気まずくなったのかまた無言がこの場所を支配する。

その状況に理子が笑いを抑えきれなくなったようで、特別フロアの重い扉を開けて部屋から出て爆笑する。

流石峰理子、親友の修羅場でも自分のペースは崩さない。

理子自身も、あれほど色恋沙汰には現実では興味がないと思っていたジャンヌが和久に告られて赤くなっている姿に、相当驚きながらも自分が知っている和久との相違というのも面白く感じていた。

確かにジャンヌを応援したいという点もあるが、何故か自分が他者のに干渉することは余りしたくない。

昔であれば喜んでゴシップ系のネタであれば追求したものの…………

まあ、そんな事を考えながら理子は爆笑していた。

戻って、梗とジャンヌ。最後の邪魔ものとは言ってはなんだが、二人を邪魔する者はいなくなった。…………邪魔者であった。

梗の方は、先程理子が部屋から出る瞬間に耳元でボソッと実は言われていた言葉にK納得と戸惑いを抱いていた。その言葉の内容は『和久はジャンヌの事が好き』だった。

咄嗟に言われたために、理解の速度が追い付かなかったが落ち着いて考えて納得した。

いわゆる、和久視点で言うと修羅場だという事を。

わかってる、わかってはいた、梗は分かってはいたのだ。

 

『自分と灯央和久という男は釣り合わない』

 

ましてや

 

『自分と灯央和久という男が住む世界は違う』

 

ということも。

昔、梗が和久を追いかけていた頃に偶然街中で出会ったことがある。

いつもどうりに和久はスルーしたが、梗は一緒に買い物に来ていた友人を置いて、追いかけた。

街中で大声で呼びとめるという大技に出た梗に、和久は流石に反応せざるを得なかったのか、梗の手を持って今いる『ジョン・ドゥ』で対面した。

お礼と、メールアドレスだけでも交換したかった梗は口を開こうとしたが……和久が口から発した言葉はあの時は考えられない予想外の物。

 

『俺に関わるな、殺すぞ』

 

今梗の目の前に居るジャンヌという女性より底冷えた、何よりも狂気に満ちた声だった。

和久が出した一般人では真面に理解できない殺気に、梗は腰が震えて力が抜けてストンと座り込み持っていた……メールアドレスを交換しようとして出していた携帯を落としてしまった。

唇が震え、汗が溢れる。

あまりの殺気に梗は失禁し、本能的に『この人とはかかわってはいけない』と思ってしまう。

言うなれば……猛虎に出会った子犬。

それが、それがきっかけで一時自分の恋心を抑えつけて学校に通うとしたが……あまりの恐怖に、あまりの畏怖に、あまりの脅威に梗は家の布団に包まり一週間なにも飲まず食わず震えた。

だが梗は立ち直り、考えた末に和久を諦めることを諦めた。

あの恐怖に恐怖することを諦めた。止めたのではない、諦めたのだ。

だからその後必死の覚悟で探し、出会った時のあの殺気に耐え、和久の信頼……いや、護るべきものに成った。だけど、やっぱり……和久が恋をしたというジャンヌという女性を目の前にすると……自分の程度の低さが否が応でも思い知らされる。

【こんな美人に私が勝てるはずが?あるわけない、私は和久にとっては唯の友達だ。

私が恋愛対象に見てもらうなど……ある筈が無い‼】

そう思ってしまう、涙なんて出ない、でるのは……心の叫びだけ。

梗の最後の砦は、和久の本気の殺気に耐えたという根本的な精神の強さのみ。

それが崩れかけてはいるが、まだ和久を諦めるわけには、他を諦めて手に入れた己の生き標。

友人との交友関係、夢……憧れであった海外留学を諦めた。何よりも普通の人生を歩むことを諦めた。

その自分の全てとも言ってもいい、恋という物に自分の全てを諦めて賭けて手に入れた生き標を諦めるわけにはいかない。そういう心の強さが和久を諦めることを必死に遠ざけようとした。

必死に、震える手を足に押し付けて止めながらジャンヌのサファイアの目を見る梗の姿は、弱々しく、しかし凛々しく、そして強く見えていた。

ジャンヌの口が開かれる。

 

「はっきり言おう、私はまだ灯央和久という人間の全てを知らない」

 

「え?」

 

梗が驚きの声を上げる。

 

「私が初めて灯央に出会ったのは……昨日(・・)だ」

 

絶句する梗、当たり前だ。

自分は夢を、交友関係を、人生を捨ててまで和久と並ぼうとした。

それが、それが合って一日しか経っていない目の前の女に劣るとでも?そう心で叫ぶ。

確かに和久の心は既にジャンヌの前に向いているのかもしれない、和久の初恋?だ。確かにその心を支配する気持ちという者は大きい。だが、梗がこの半年の間で積み上げてきた、必死の思いで積み上げてきた繋がりよりはまだ影響力は小さい。

 

「灯央に思いを告げられた時ははっきり言って、意味が解らなかった」

 

静かに、いつの間にか震えが収まっていた手を握りしめてジャンヌの話を梗は聞く。

絶対的な、自分が積み上げてきた物の大きさと余裕を直に感じながら。

 

「そうだろうね」

 

今日、和久が言った。

お前はお前でいいと。だから喋り方は気にしない。

先程とは気迫が違うのか、梗の雰囲気にジャンヌは目を見開き驚くが次には穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

「なかなか芯の通っている小娘だ」

 

「貴方に言われたくない、小娘が」

 

ジャンヌが言わなくても梗にはわかっている。

確実に、和久にジャンヌは惹かれているのだということに。

思いを羞恥も無く語る灯央和久という人間に……梗も見てきて分かっている

灯央和久の馬鹿正直すぎるほどに、一本の道を行く性格を。

 

「……ほう」

 

ジャンヌの方も、やはり気付いている。

灰花梗が和久を好きだということに、当然自分が思いを自分が気づいたのは峰理子によってだが、確認して、今に至る時間よりは相当な大きさの時間で積み上げた思いを抱いていることに。

だがジャンヌは違う。

 

「恋は、時間じゃない」

 

「恋は、積み重ねる思いだ」

 

真逆、自分たちが言った言葉は明らかに反対。

 

「時間は今からいくらでも積める」

 

「積み重ねる思いは時間が解決しない」

 

またしても真逆、二人の口が徐々に吊り上がっていく。

 

「恋は時間をかけるものではない」

 

「恋は時間をかけて積み上げていく物だ。」

 

その時、笑った。二人は笑った、ああ、何も心配することはない。恋なんて人それぞれ。

芽生えた気持ちに嘘はない、最初は敵で、闘って芽生えた思いでも。助けられて、追いかけて追いかけて掴んだ思いでも……恋に嘘はない。

梗は梗だ、ジャンヌはジャンヌだ。

人それぞれに恋はある、自分でないのであれば恋の相違点などあるに決まってる。

それが苦労して、何かを諦めて手に入れた恋でも。

それが一目見て、衝撃的で何故か芽生えた恋でも。

互いの思う思いは同じなんてことはない、だから心配なんてしなくていい。

梗は怖かった、自分とジャンヌの格の差と和久との差に。

ジャンヌは怖かった、自分の思いと梗の思いの大きさに。

だけど梗は思い出す、和久の言葉『お前はお前だ』という言葉との恋との

だけどジャンヌは思い出す、和久の言葉『純粋にお前が欲しい』という言葉の意味に。

 

私達は恋をしている、それは自分の問題。

  他者が関わる、いや干渉する思いではないのだ。

 

他人の恋に自分の恋が劣る?

そんな馬鹿な、恋は等しい物……それが劣るとか他の者の恋より優れているなんてことは考えなくていい。

自分の恋は、自分の物なのだ。誰にも干渉なんぞされたくもない。

干渉することは弱者のする事、自分たちは強者だ。

恋も弱肉強食、諦めたら恋の大きさ自体に喰われてしまう。恋は怪物だ、私達はそれと戦うソロの戦士だ。

他の奴の事なんて考えてたら怪物()に捕食されてしまう、考えるな、周りの事なんぞ考えずに怪物()に勝て。逆に怪物()を食ってしまえ。

だが同じ怪物()を倒そうとする他の戦士どもとは認めた者であり、敵でもある。

自分はその戦士の前で、勝ち取った怪物()を思う存分食ってやる。

梗は思う、今は怪物()の心はジャンヌに向いているが、私はその心を何時かこっちに向けて見せる。

ジャンヌは思う、今は怪物()の心はこちらに向いている。だけどまだ食ってはいない、油断はするな。

二人の戦士は互いに競い、誓う。

『油断すれば食うぞ』

梗が油断すれば、ジャンヌは和久を食う。

ジャンヌが油断すれば、梗は和久を食う。

油断も隙もない、女の恋の戦争を繰り広げようじゃないか……‼

いつしか互いにお互いを認め合い、何も言わずともよくなった。

 

「マンガで恋が何かとは理解していたつもりだが、経験してみるとまだまだ謎が多い。けれど面白いな」

 

「そうだね、私もジャンヌも今は一人の乙女だ。遠慮はしないよ」

 

照れくさそうにその言葉を言う梗だが、その言葉には断固とした決意があった。

そして昨日和久と同じ、あの少女漫画の台詞を言った梗にジャンヌは驚く。

いつも凛として氷の様に鋭く、煌くジャンヌと言えどもやはり年齢的には女子高校生。

好みの物は日本の女子高校生と大差ない、ジャンヌが少女漫画を愛読しているのもやはり必然と言えよう。

まあ、親友である峰理子が少女漫画を伊・Uにいた時からジャンヌに薦めていたりしたために、その趣味の勢いが悪化?というより好みの大きさが大きくなったのだが。

その後は、二人とも女子高校生相応の雰囲気で好きな少女漫画誌などや、好みの服などの話をにこやかな笑顔を見せながら話していた。現在この会話を誰か男が見れば思わず呆けてしまうことは間違いないほどの外見の神々しさだが、実際二人とも話す中で悪魔の様に腹の探り合いをしていた。

武偵ではないはずの梗が、尋問科(ダギュラ)に負けず劣らずの誘導尋問を繰り出し会話中にわなをS駆けていく姿は特殊捜査研究科の灰花梗Sランクとも言われても驚かないほど。

その腹の探り合いを止めたのは、元はと言えば先程の状況を作り出した第二の犯人である峰理子だった。

部屋を出た時の勢いの様に、重い扉からひょこりと顔を出す。

 

「ねぇ~ジャンヌ。終わったぁ~?」

 

ニコニコといつものように笑いながら金髪のツインテールをふるんと揺らす。

気に入ってるのか、武偵高の改造制服で見えているうなじが何とも言えない色気を出しているが、此処には男がいないためにその標的になるものは生憎いない。

 

「ああ、終わったよ」

 

「そう?ぬふふふ……すっかり雰囲気も乙女になっちゃって……かぁーわい!」

 

「「そうだけど何か?」」

 

二人のその無表情の返しに豆鉄砲を食らった鳩の様に面食らう理子。

ジャンヌと言えば、少女漫画誌が大好きだが結構来いと言う言葉に敏感で恥ずかしがり屋だ。

少年漫画より実はエロいシーンが豊富な少女漫画を見ていつも顔を赤くしているほどだ。

昨日なんか、和久に告られたとあわあわと戸惑いながら足のすねを机の角にぶつけ、頭を床に打ち付けたりと面白い反応をしていた。だけど今のジャンヌは自分の完全に和久の事を意識した言葉にも動じない……

 

「な、なるほどぉ~二人とも大人の女になったんだね?理子憧れちゃう!」

 

「「あ、そう」」

 

ガクッと膝をつく理子。

重い扉を左腕で押さえて、右手で制服の襟を持って目元に持っていき、シクシクと嘘泣きする。

それを二人がツッコむ前に……

 

「おい、理子。まだなのか?」

 

和久が理子の後ろから声をかける。

それにこたえるために理子が出していた頭を巣に戻るリスの様にひょこっと戻して答える。

 

「終わったってぇ」

 

理子が今度は体全体をウサギの様にジャンプして入り、それに続いて煙草を吸っている和久も入る。

二人が先程まで見ている方が緊張して鼻血を出しそうな雰囲気であったことも露知らず、いつもと同じすこし見ている法を威圧しているような眼で入ってくる。

和久は鈍感ではない、まず和久は自分を好きな人と、自分が告白した人が合えばどうなるかなど理解することができない。そもそも恋愛というものがまだよく分かっていないわけで、先ほど言った二人の人間が出会えば険悪な空気になるなど分からない、ある意味鈍感なのかもしれない。

 

「あ、そうだ……逮捕」

 

理子の改造制服の襟をジャンプしている途中に掴む和久。

 

「げ……」

 

和久も一応武偵だ。

 

「ふ、ふっざけんじゃねぇよ‼不意打ちにもほどがあんだろっ……!放せぇ‼」

 

うがぁっと牙を剥きながらアリアと同じように威嚇する理子。

キンジから聞いていたが、どうやら理子は怒ったりすると男口調になるらしい。

この状況を見るにテンパったり、自分がピンチになったりするとこうなるのかもしれない。

 

「捕獲捕獲」

 

カシャンと音をたてながら手錠をかける。

 

「ギャー!ジャンヌ⁉ジャンヌ助けろ!」

 

目元をウルウルとうるませながら命令口調で言う理子に、ジャンヌはスルーして和久に言う。

 

「灯央、今から夕食に行かないか?時間も近い」

 

やはり遠慮はない。

先程ハンバーガーチェーン店で梗と和久と会ったときに確実にジャンヌは梗と和久はデートしていた。

まあ、高校生だし二人とも夜も一緒に食べる予定だったのだろう。

だが二人きりにはさせられない、自分の目が届かないところであればしょうがないが、自分の目が届くところであれば遠慮せず邪魔させてもらおう。

それには梗も予想していたようで、にこにこと笑いながら拳を握りしめてはいるが和久の言葉を待つ。

理子もそれにまた驚愕する、ジャンヌの顔は一人の戦士であって顔つきは戦闘時にも劣らない。

そして納得する――――――ああ、この二人ホントに大人になったんだ。と……

 

 

「ああ、いいぞ。けど梗ともいく予定だったし、四人で行くぞ」

 

「え?理子も行っていいの?やったぁ!お肉食べるぞぉ」

 

「あ、お前はサイコロステーキで我慢しろ」

 

「うぇー酷いよ、酷いよ。私を逮捕する代金だと思って奢ってひおっち‼」

 

「……はぁ、まあいいか」

 

「やったぁ!」

 

二人が理子と和久の会話で思った。

『『和久結構女たらしだ……』』

 

「そ、それではどこに行こうか?」

 

「ああ、それだったら任せろ。いいところ紹介してやる」

 

吸っていた煙草を机の上に置いてあった灰皿に擦りつけて、俺は携帯を取り出した。

書ける場所は今から行く場所だ。

 

「あ、もしもし?」

 

『あら、和久ちゃんじゃないの。どうしたの?』

 

耳を澄ませて聞いていたジャンヌと梗の耳がピクリと震える。

聞こえてきたのは20代後半の女性の声だったからだ。

和久であれば年が10代20代離れていても、関係なく惚れる人は惚れるだろう。

 

「今からそっち行くから席予約頼めますか?」

 

『いいわよぉ~、何席かなぁ~?』

 

「四席ですね」

 

もう一度梗とジャンヌ、理子を一瞥してから告げる。

 

『あ、いつものお友達ぃー?』

 

「今日はキンジ達じゃないです」

 

『そうなの。珍しいわね』

 

「珍しい……ですかね?」

 

『そうよぉー和久ちゃんあの子たち以外連れてきたことないもの』

 

「そう言われればそうでした」

 

『うんうん、楽しみ。待ってるわ』

 

「30分くらいで着くと思うんで」

 

『はいはぁーい、用意しとくわ』

 

通話を切って、三人を見る。

眉間に皺を寄せて思案顔でいるジャンヌ。

うぬぬぬぬぬ……と唸りながら考える梗。

ぬふふふふふ……と笑いながらこっちを見る理子。

 

「場所は新宿にある、行くぞ」

 

マスターに頼んだドリンクなどの代金と特別フロアの使用料金を払って、俺達は目的の場所に向かった。

――――――――三十分ほどで目的の場所に着いた。

四人がいる場所は新宿の路地裏にあるビルの二階の扉の前。

ひとけは無く、此処にホントに客が来るのだろうか?と三人は思うが、目の前にカランとベルの音をたてながら出てきた客の格好を見て納得する。

出てきた客は男……それも確実に裏に通じている雰囲気だ。

サングラスから左眼には傷がうっすらと入っているのが見え、体つきは筋肉質……如何にもっと言った感じ。

 

「お、和久か。久しぶりだな」

 

「久しぶりおっさん」

 

「そうだな、此処にくるのも久しぶりか?」

 

「いや、そうでもないな」

 

「そうか…………ふむ、なかなかに青春を謳歌しているようじゃないか。私はそう言うのにからっきしだったからな、私の分まで謳歌してくれ」

 

和久の後ろに控える梗とジャンヌと理子を見て、にやっと笑いながら言うおっさん。

この人は武偵だ。ロンドン武偵校を強襲科Sランク、諜報科Aランク、そして尋問科Sランクの過程を終えた俺が知る中武偵の中では一番親父に近かった。

名前はヴァン・R・ギリック。現在一番Rランクに近い武偵とも言われている。

 

「ん?よく分からないけど、謳歌してるつもりさ」

 

「そうか、それはよろしい事だ。それじゃあ、また今度会おう」

 

「ああ、じゃあな」

 

黒いコートを翻して去っていくその姿は、やはり歴戦の戦士を思わせる風情がある。

ちなみに昔の事だが、親父とチームを組んでいたらしい。

 

「それじゃあ、入るぞ」

 

おっさんが出てきた時の様に、カランと音をたてながら扉を開ける。

中は薄暗く、オレンジ色の光を発しているキャンドルがところどころ置いてあり、欧州を思わせる洋風の作りだ。7Mほどの茶色いカウンターがあり、中には金髪の髪をポニーテールにした、蒼い眼の生粋の女性イギリス人がバーテンダーの服に身を包み、こっちを見ている。

そう、ここはバーだ。それも武偵ご用達の……な。

 

「久しぶり、和久ちゃん」

 

カウンターの後ろのから声をかけてくる女性はイリーナ・カリヌ・ウルファ・クライアナ。

ここのバーの店長であり、元Rランク武偵。武偵連盟からつけられた二つ名は……『至獄の金狼(ヘル・イリーナ)』俺が知る中で、最強の武偵だ……そう言うといつも元、武偵よ?と訂正させられるが。

 

「久し振り、姉さん」

 

『え⁉』

 

そのイリーナの華麗さと、イリーナの存在を知っていたが故に固まっていたジャンヌと理子は驚愕する。

それもそうだ。イリーナ・カリヌ・ウルファ・クライアナは元ではあるが世界最高峰と言われる技量を持っていたRランクの武偵だ。

その存在を姉さんと呼ぶ和久にはさぞ違和感があった事だろう。

先程、店から出た武偵。ヴァン・R・ギリックも名の知れた武偵だ。

イリーナが店を経営しているということによって、ヴァンが着ていたということ納得できたのだろう。

 

「あ、姉さんと言っても血の繋がりはないぞお前等。姉さんが「姉さん」と呼ばないと駄目だとかなんとか言うから仕方なく読んでるんだ」

 

にこやかに笑みを浮かべている姉さん。

 

「銀氷の魔女、ジャンヌ・ダルクちゃんとリュパンの子孫さん……峰理子ちゃんね。なぜあなた達が和久ちゃんといるのかわからないけど、今は客として接待するわ」

 

一瞬警戒するジャンヌと理子だが、お前等なんて一秒も経たないうちに沈められるぞ。

俺もそうだったからな……。

 

「よろしくね、ジャンヌちゃん、理子ちゃん?」

 

「「よ、よろしくお願いします」」

 

姉さん――――イリーナ・カリヌ・ウルファ・クライアナがRランクだった所以が先程の情報能力と任務遂行の成功率にある。情報は現在すべての犯罪者を記憶し、任務遂行率は120%。

何故20パーセントオーバーなのかというと、この人は受領任務以外の任務数が受領任務の五分の一ほど多いから。簡単に言えばトラブルに巻き込まれる体質だという事だ。

 

「それじゃあ、姉さん。よろしく」

 

「わかったわ、今日は貸し切りにしてあげるからゆっくりしていきなさいね」

 

店内にはもう人はいない。

 

「それは嬉しい。ありがと姉さん」

 

「いえいえ、まさか連れてきた子が全員女の子だとは思わなかったけど……嬉しいわ、私」

 

「何言ってんだ」

 

その後は、なんでも出すことが可能な事が売りでもある店で梗がオムライスを、ジャンヌが寿司を、理子がステーキを10枚ほど頼んで喋りながら一夜を過ごした。

途中、何故か梗とジャンヌが競ってカクテルを飲みまくり、泥酔して終わり。

梗の家まで俺が付き添い、ジャンヌと理子を(理子もなぜか飲みまくった)バーから送ろうとしたが、既にいなく、そのあとも姉さんと酒を飲んで、バーで寝泊まりさせてもらった。

 

 




三人称視点での二人の和久に向ける恋の違いについての話でした。
なんとか書けましたが、なかなか難しい(苦笑
結構時間をかけて書いたので、感想など頂けると私のモチベーションが上がります(笑
基本この作品のメインヒロインはジャンヌです。
ヒロインの順位を上げるとすれば
ジャンヌ・梗・らんらん・貴希・エルです。一応メインヒロインの順位と言ったところで
サブに綴と理子を入れるかどうかの瀬戸際、ってところです。
何故らんらんが貴希より順位が高いのかというと、話は先になりますがらんらんがメインの章を出すつもりだからです。らんらんファンの皆様大興奮のストーリーになるのでは?と思うほどの物を書くつもりですのでお楽しみを。まだまだ先ですがね(苦笑
そんな感じで後書きも終わりたいと思います。
最後に、投稿遅れて申し訳ありませんでした。
感想、誤字報告待ってます‼

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