――――――――――――原酒より衝撃的な物。
「恋をしたんだ」
俺はそうジャンヌに向かって言う。
「な、何を言った。き、き、貴様‼」
「いや、だから。俺お前の事好きになっちまったみたいだ」
今俺は目の前の彼女のことを好きになった。
ただし、恋愛感情がどのように人を買えるかというのかは全く予想していなく。
「ふ、ふざけるなぁ‼」
顔を真っ赤にしながら、今の積乱雲と同じ状況であるこの空間の事も気にせず俺に斬りかかってくる。
頭にまっすぐ落ちてくる刃を二丁拳銃を重ねて、スライドで耐えた瞬間さっきと同じように火花が散る。
そして遂にその熱に溜まっていた電気が通電して、バチィッ‼っという音が空間に鳴る。
常人ではその速度を目視不可能である電流、ましてや今では『送り者』も解けている状態。
だが、俺は体が反射的に動いていた。
「ガァッ‼」
何故か俺は、目の前の彼女が電流に貫かれるイメージを抱いた瞬間。
彼女の本当は処女相応のか細い体を抱き寄せ、反対方向に飛ばすという芸当をやってのけた。
幸か不幸か、通常の積乱雲から発す稲妻の電圧はおよそ10億ボルト。
異常な回復力を持つ俺でも当たれば即死だろう。今回の電流は
全身が火傷したように、いや。燃えている‼
「き、貴様⁉」
自分を庇ったことを驚くジャンヌ。
電流は収まり、俺の体には火傷の跡が刻まれている。
着ていたワイシャツは熱でこげて、何故かジーパンはほぼ無傷だった。
可笑しくも感じたが、ある意味奇跡として受け取っておこう。
告白?をした様な状況で半裸は流石に変態としか言いようがないからな。
ワイシャツが火傷した場所に当たって痛いために、しょうがなく脱ぐ。
「わ、わぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
俺が脱いだ瞬間、目の前に居る彼女は顔を隠す。
「き、貴様⁉い、今こ、こ、こ、告白したような奴がいきなり相手の前でよく、ぬ、ぬ、ぬ、脱げるな⁉」
ピリピリとまだ痛む、そしてその電流でのショックが驚くことに少ない俺。
まだ人外じゃないはずだ、蘭豹とかだったら1億ボルト喰らってもぴんぴんしてるはずだ‼
「いや、火傷跡がこすれて痛かったから」
「な、ななな⁉コ、告白したんだぞ、今貴様は‼な、なんでそんなに平気な顔していられるんだ‼」
「いや、好きという感情に羞恥も何も……ないだろ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!なんでそんな平然とそんな言葉をっ‼」
「真実だし、隠すほどの事でもないだろ」
俺は能力をジャンヌが解いたことによって徐々に溶けかかっている氷のつららをへし折り、火傷している場所にあてる。沁みるがやらないよりは化膿を防いでくれるし。
「痛いな、体もまだ麻痺してやがる」
「電流に打たれてよくそんな平然としていられるな……これがカナが言っていた灯央の回復力というやつか」
まただ、またでてきた。
『カナ』
だが俺は今自分に一番影響力がある人物の前でも、目の前のジャンヌの事を考えていた。
今の俺はスタンダールの恋愛論で被せるとどの位置にいるのだろうか。
感嘆か?いや、俺は好きという気持ちをすでに認識しているから恋の発生なのだろうか。
そう考えると、先程の戦闘は自問であるのか……
「どうだ、お前の心境に何か変化はあるか?」
自分が言った言葉でありながらも、内心おかしいと思いつつジャンヌに問う。
恋愛を学ぶために色々な映画や、ドラマを見てくたが告白した直後に相手の心境をうかがう当人なぞいなかったなおさら自分がおかしいと理解している俺がおかしいとは思うが、何故かいまだに恋という物に鈍感?な俺なのは確かだった。
たぶん今振られてもさほどショックは受けないのではないか?と思うほどだった。
「そ、それはあるが……は、ハッキリ言うと何が何だか……」
「まあそうだろな、さっきまで敵だった奴がいきなり好きだと言ってきたらな」
「あ、ああ……」
なんていうのだろうか、こう悩んで必死に言葉を探している彼女がものすごくかわいいと思える。
魔剣とか銀氷の魔女とかそう言う物は関係なく、一人の女性として喜怒哀楽の感情を持っているような気がする。
「そ、その……私が好きって……具体的にどんな?」
「ん?……まあ、グッと来た。お前を見た瞬間、目が離せなくなった。なによりも……人間の根本的な所で、これは性欲に部類するのかは知らないがお前が欲しいと願った」
照れの表情も一切浮かべずに言う俺に絶句するジャンヌ。
「最初は只、ジャンヌ・ダルクという女性をこの世に存在するものだと認識できなかったというのもある。銀氷の魔女の名の様に白銀の凍土を思わせる髪、サファイア……美しい海の如く青い眼。女神かと思ったさ」
「な、め、女神なんて」
「だがお前と
「ほ、欲しい」
遂に対切れなくなったのかジャンヌは顔を両手で隠して座り込む。
「欲しいという感情が本当に恋なのかは知らない……いや。俺は恋をしている、お前の事を考えているときは何故か敵味方以前に両親の復讐でさえ忘れられたからな。不思議だった、なぜあれほどまでに執着していた復讐を少しでも忘れることができる感情がある事に不思議でならなかった」
今まで、ほとんど武偵を続けてきた理由を占めていた理由であるパトラへの復讐。
途中装備科に転科したのは気の迷いだったか今でもよく分からないが、いや。相当自分でも一年の頃の強襲科時代は無理をしていたのかもしれない。
その中でもひと時も忘れることができなかった灯央の家の事。
それを忘れるということは自分にとって相当、いやこれまでの生き方を否定するぐらいの出来後だった。
ただ我武者羅に強襲科時代を貫いてきた今と、装備科となり今の落ち着いた環境で煙草と酒を過剰に摂取する生活。その中でも新たに見つけた恋と言う道はとても魅力的なもので、自分が煙草と酒以外で現実から目を逸らせられる物だった。
「だから、俺は決めた。一回この感情に身を任せてみる」
「わ、私の意見は⁉」
「犯罪者に人権も糞もあるか、馬鹿め」
にやっと笑いながら俺は言う。
「ひど「ひどくない」……」
いや、ホントさっきまで敵だったのだが……
これが愛の力というやつだろうか?…………今の無しだ、言ってて恥ずかしくなった。
「さて、一先ず恋の事をは置いておこう」
此処まで恋愛ごとを割り切れる人間は俺しかいないのではないだろうか?
「パトラの事について詳しく聞かせてくれないか?告白したされた関係のよしみで」
「ああ、パトラは今――――って……それとこれとは話が違う‼……と、というか。貴様は返事を求めないのか?」
「んー……そうだな。よく分からん、今俺は自分が今相手に思っていることを素直に全て述べた。それに対する返事はあまり望んでいない。逆に俺が好きと言ったことへのお前の気持ちが知りたくないと言えば嘘になる。先程俺も言っただろ?『お前の心境に変化はあるか?』と」
「心境に変化があると言えばある。だ、誰だって告白された直後はそう思う……」
顔を赤くしながら言うジャンヌ。
「例えばどんな?」
俺の遠慮のない追及心と質問に再度絶句する。
「え、遠慮という言葉は貴様にはないのか……?」
「そもそもこの感情への追及に羞恥心とか俺は感じていないからな」
絶句。この言葉もついに概況しなくてもよくなったな。
「あ、あの本とは全然違うぞ……⁉どうなっているんだ四世?」
「あの本?」
「い、いやなんでもないんだ‼…………少女漫画という物はあてにならないな。面白いけれど」
「少女漫画か、俺も昔勉強のために読んだことがある。メルヘン過ぎて伝わらなかったが……」
「き、聞こえていたのかっ⁉」
「そりゃもうばっちし」
「もう、ダメだ。生きていけない」
「天下の魔女様が何を言ってやがる。そうか、今は一人の乙女なんだ!って感じか」
俺がそう言うと驚いたように顔を上げる。
「あの漫画を知っているのか⁉」
あの漫画、今俺が言った台詞「今は一人の乙女なんだ!」は俺が恋の勉強のために読んだ少女漫画『恋愛メドレー』の主人公である女の子が好きな男子の前で叫んだ名言だ。
今ではコミックスは34巻、連載は9年ほど続いている大人気漫画だ。
ただし、少し話の内容が好き嫌いにわかれる内容となっていて興味がない人にとってはなぜかずっと続いているただ長い少女漫画という認識だ。俺も貴希にその作品の事を話したら『え、あれ面白い?』と言われて落ち込んだこともあった。まあ、その漫画が好きな奴は結構少ないという訳だ。
それでも連載が終わらないのは、その少数の熱狂的信者ともいうべき少数の熱心な読み手(俺も含め)がいるからだろう。確実にアンケートを取って人気を獲得しているこの作品も編集者的にも終わらせたくないのだろう。
「まあな」
「は、初めて同じ趣味の人に会えたぞ……!」
「そう考えると俺もこの作品好きってのは、お前が初めてだ」
「というより、男も少女漫画を読むものなんだな……」
「最初は勉強のためだと思って書店の眼も気にしながら買ったが、今では普通だ」
俺が書店でコソコソと少女漫画を買う様子でも想像したのか、くすくすと笑うジャンヌ。
その動作に俺もつられて笑う。
「面白い奴だ、初対面の私にいきなり告白してきて……男なのに少女マンガ読んでて……恋が何かとか言うおかしい奴だ」
「で、少なからず俺の事は意識してくれているのか?」
単刀直入とはこの状況の事を言うのではないか。というほど直入に聞いた俺に対してジャンヌはくすくすと笑っていた顔をピタッと硬直させ、体をプルプルと震わせる。
「だ、だから貴様は……」
「ん?」
「だから貴様はどうしてそこまで遠慮がないんだぁぁぁぁっ!」
「うおぉっ⁉」
路地裏に置いてあった横幅70センチほどのビール瓶を入れるプラスチック製の箱が飛んでくる。
咄嗟に腕で顔を庇い、箱が地面に落ち他のを確認してまえを見た時には既にジャンヌの姿は無かった。
「……き、嫌われた⁉」
魔剣という犯罪者を逃がしたという事より、初恋の女性に去られたということに気を落とす俺。
「カズ君?」
その時、左から男の声が耳に入る。
「し、不知火か」
「さっきぶりだね。不自然な寒気を感じたから何かと思ったらカズ君が項垂れていて驚いたよ」
ザ、優男不知火亮。
何だろう、俺の不幸を笑いに来たのか、コイツ。アハハハハハハ……
「ちょ、大丈夫カズ君⁉目がおかしいよ⁉」
「ああ、大丈夫…………たぶん」
「こ、これは思った以上に重傷だね…………「ちょっと待て、お前まさか⁉」うん、みたよ。まさかカズ君が恋しちゃうなんてね、どんな娘だい?」
あれ?此奴もしかして……
「銀髪が綺麗な子だったよね」
よ、よかったぁぁぁぁあ!こいつジャンヌが魔剣だってことは知らないようだ……
「あ~……なんというかだな、俺もよく知らないんだ」
「一目惚れってやつかな?」
「そうそう、それそれ。一目ぼれしたんだ」
「へぇ……これってあの二人にも「言うな」あはは、了解」
あの二人とはキンジと武藤兄の事だろう。
「あ、分かってるだろうが他の奴等にも言うなよ?」
「分かってる分かってる、だからカズ君そんな殺気を僕に向けないでっ!」
いつも笑顔の不知火らしくない俺の殺気に汗を流して、眼が笑っていない顔。
「それにしても、なんで上半身裸なの?」
すっかり忘れていた。
現在俺は火傷がいたいから上のシャツを脱いでいる状態。
そして不知火が俺に向ける認識は『人通りの少ない路地裏で恋した少女に去られて項垂れて何故か上半身裸の友人』……どんな変態ですか俺。
「俺の事を見限らないで…………ッ!」
挙句の果てには泣いて不知火の足に縋り付く。
「だ、大丈夫だから。うん、全然『ああーカズ君って結構ムッツリなんだなー。いや、むっつりというより変t……ごほん』なんて思ってないから大丈夫だよ!」
「ああー止めた。もう嫌だ」
綴に劣らぬ状況変換能力を発動し、俺は腰に巻きつけているところどころ茶色く変色している白シャツ基茶ブチシャツを着る。焦げた場所は穴が開いているところもあり身なりは最低だ。
「不知火」
「はいはい、どうぞ」
不知火は自分が来ている夏用の薄い上着を渡す。
「どうしたらそんなに傷つくのかはわからないけど、あまり追及するのも後が怖いから止めとくよ」
「そうしてくれ」
「それにしても……あの銀髪の子、綺麗だったね。フランス人っぽかったけど」
ジャンヌ・ダルクはフランスの英雄だからな。
……いや待てよ、シャーロック・ホームズとかルパンとかジャンヌとかの末裔がいるんだったら他にも英雄とか言われてる人物とかもいるのだろうか?キンジの先祖である遠山の金さんは英雄?って程名も知れてるわけじゃないし……俺としてはガイウス・ユリウス・カエサルの子孫とかいたら嬉しいのだが。
「ああ、フランス人らしい」
「へぇ、そこまで聞けたんだ」
「途中まではいい感じだったんだがな……ッて何を言わせる⁉」
「いやぁ、恋愛ごとに疎いカズ君がねぇ……恋……かぁ」
「もうそれはいいから、というか止めて。よく分からないけどすごく心に沁みて痛い」
人を恋している人物をいじるとものすごく辛そうにするのはこういう感情があるからだろうか。
なんというか、恥ずかしいというより自分が恋をしているという事をこの場の題材にされているということが辛くてたまらない。もしかしたら先程ジャンヌが逃げたのもこれに耐えきれなくなったからだろうか?
「うーん、少し寒いなぁ」
つい十分ほど前まではここ南極並みの気温だったからな。
妙に肌寒くなるのは当然だ。氷が解けて水たまりがいっぱいできてるし。
「よくよく考えたらなんでこんな所で思いを寄せている女性と話すことになるのかな」
「お前は鬼か⁉」
追及はしないと宣言した直後の追及に俺は絶句を通り越して絶叫した。
その後は不知火と街中の警備を手伝い(宝石店の脅迫と予告の警戒)その後次の日に梗と出かける事を言ったら何故か不知火に静かに怒られて、俺が一目ぼれしたの亜興で約束をしたのは昨日だと言うと溜息をつかれて、明日のための用意を協力してもらった。
ちなみに、怒っているときに不知火は鬼ではなく悪魔だと思う。
その頃の次の日にデートがありワクワクしている恋する少女はというと……
「こ、この服がいいかなぁ?う、う~……す、スカートはやっぱり恥ずかしいなぁ。いつものホットパンツで行こうかなぁ」
恋する対象が別の女性に恋愛感情を抱いたということも露知らず、明日のデートのための服を用意していた。顔は武偵校の人外にも劣らぬ恋する乙女の顔。
「お、おかぁさぁーん」
「なーに?梗?」
「明日出かけるって言ってたでしょ?その時の服装……」
恋する乙女の母は自分の娘の顔を見てニヤニヤする。
「貴方が今夢中になってるっていうあの、武偵さんとだっけぇ?」
この前のハイジャック事件の時に遂に、和久に恋しているという事をばれた。
その時の父の狂いようは尋常ではなかったが、母は相変わらずニヤニヤと面白そうな笑みを浮かべていた。
「う、うん。そうだけど……」
「そうねぇ、娘の初恋は応援しなきゃいけない物よねぇ」
「いや、応援はしてくれなくてもいいけどね」
「そーぉ?母としてはあの男の子カッコイイしちょっと目つきが悪いけどお金に不自由して無さそうだし……くっついてもらいたいのよ」
どうやら恋する乙女の母の男性に対する認識は顔と金らしい。
本当に母の遺伝がそのモデル顔負けの美人顔で良かったとしみじみ思う。
私だって普通の人よりは顔が整っていると思うし。
「私はお母さんとは違って顔とかで決めないの!」
「そうなの?けどあなたこの前クラスメイトの男子に告白されたそうじゃない」
「な、何故それを⁉」
「ママ友の情報伝達能力をなめないでほしいわね。貴方あの男の子とイチャイチャして子供作ったらわかるわよ。ものすごく便利。ママ友関係最高!よ」
いやぁ、親指立てて40過ぎの母に「てへぺろっ」をやられても反応に困るだけなんだけど。
使い所少し間違ってるし。だけどこの母、ファッションやおしゃれの類は侮れない。
あまり昔の事は話してくれないけど、お父さんに聞いたら昔雑誌にも載ったことがあるらしい。
年齢的には40過ぎているけれど、外見は20才前半と言われても疑わないほどの容姿。
昔小学校の授業参観で友達にあの人梗ちゃんのお姉ちゃん?と聞かれた時はとても困ったものだ。
「よぉーし、可愛い愛娘のために一肌脱いじゃうぞ、私!」
「え?」
「よし、出かけるわよ梗!」
「いや、ちょっと待ってお母さん。今10時……っ!」
「いってらっしゃい、二人とも。父はもうあきらめたよあの小僧なら娘を託せると思えるようになったのだ。どうだカッコいいだろう亮太」
書けている眼鏡をクイッと動かしながら言う父。
それに
「父ちゃんカッケェ!」
共感したのか目を輝かせるバカ弟。
はぁ、日本海溝よりも深いため息を吐く私だった。
――――――――――恋する乙女の日常は混沌です。
ちなみに途中にカエサルの子孫という文がありましたが、男のオリキャラとして出す予定です。カエサルの子孫となると紀元前の人物なのでものすごい代になりそうですケド
女のオリキャラ(ヒロイン)は梗だけです。出すにしてもカラミティ・ジェーンというアメリカ西部開拓時代の女性ガンマンでしょうかね。