――――――――――――聖夜の夜は葡萄酒を。
12月25日。
それは約2000年前キリスト教徒という宗教を生んだ親となった聖人キリストの誕生日。
今の時代は、何故かお祭り騒ぎの日。や恋人たちの日と化しているがキリスト教徒にとっては最も特別な日と言えよう。キリスト教徒でも仏教徒でもない俺は、家族と言えるものは一人しかいない自分の立場でクリスマスという日は途方に暮れた日だった。
……高校に上がって初めてのクリスマスである今日までは。
12月18日に強襲科での仕事を得た俺は報酬を教務科から特別ルートで支給され、親友と言える仲の男の一人である武藤剛気の実家へと他の親友たち、遠山キンジと不知火亮の三人で向かっていた。
武藤の実家は大阪にあるために新幹線での移動が必要とされたが、そこは趣味のたばこや酒を買ってもあまりある俺の持ち金で解決した。
新幹線ではなく、空飛んでいった方が早くね?
俺のその言葉により、羽田空港から伊丹空港のビジネスクラスを三枚買った。
武藤は先に実家に戻って色々と準備をしているらしい。
東京武偵高校初の冬休み、必要以上の単位を取り続けた俺は同じく優等生クラスの単位を取った不知火と、必要ギリギリの単位を取って早くも冬休み特有のだらだらモードへ移行した遠山キンジ。以下キンジは空の旅を終えて、伊丹空港国内線ターミナルから出てタクシープールへと移動する。
現在俺達の状況は財布と武偵憲章と銃、そして俺は煙草を含めたほぼ手ぶらの状態だったため飛行機が到着すると混むタクシープールに誰よりも早くつくことができた。
「大阪難波駅までお願いします」
不知火が運転手にそう告げる。
まだ誰もいないガラガラのタクシープールから黒いタクシーが動く。
動き出したのを確認した俺は車の窓を半開きにさせて煙草を吸う。
「ったく、カズも思い切ったな。まさか飛行機とは」
キンジが煙草を吸う俺に話しかける
「金があり余っていて困っているし、一石二鳥ってとこだ」
「ちなみに今日の依頼はなんだったんだ?」
「重要物資の護送」
「中身は?」
「知らねぇよ。金貰えれば俺はそれでいい」
もし、危ない物だったらどうするんだ。と口に出かけたキンジだったが煙草を呑気に吸いながらも常に何処かを睨んでいるようなその眼を見て止める。ふぅ、とため息をつく。
その後はキンジと不知火が談笑しながら時間を潰し、俺はあまり来たことがない大阪の街を走るタクシーかっら煙草を吸いながら見て時間を潰した。
「大阪難波駅です」
そう、愛想の欠片も無い無表情の運転手から告げられ俺は金を払ってタクシーを降りる。
此処で他の二人が自分経つも出す、とかめんどくさい事を言いださないのは八か月の付き合いだからだろうか。キンジに至ってはもう8年ぐらいの付き合いになる。
「さぁてと、武藤呼ぶか」
「呼んだか、キンジ?」
声が聞こえた後ろを振り向くと、結構高いと自覚している俺の身長以上の長身の男がよっ、と手を上げる。
「意外と速かったな、お前等」
「そりゃあ、空飛んできたからな」
「金持ちの気持ちは俺には理解できん」
苦笑しながら武藤は歩き出す。
家に案内するのだろう。
「あ、そういえばカズ」
「なんだ武藤」
「貴希の事、覚えてるか?」
「お前の妹だったか……」
「うお、覚えてたか。あまり周りの事を気にしない性格のお前だったら忘れてたかと思ったが」
「俺はボケジジイじゃねぇンだから。それにいきなりメアド交換してくれって突進してくるような奴を忘れるわけないだろ」
昔、武藤の妹である武藤貴希が風邪を引いた兄のために上京しに来たことがあった。
その時に色々と学園島から他の所に移動する時に俺の愛用ハーレーで移動していたことがあった。
最後に帰る時、なんかしらんが別れ際にメアドを交換してくれと言われたからした。
「で、その貴希なんだが……お前クリスマス空いてるか?」
「空いてるけど」
「そしたらよ、お前クリスマスまでこっちに居てクリスマスに貴希と出かけてやってくんねぇか?」
「は?なんで……別にいいけど」
「兄としては応援してやりたいこともあるんだよ、お前は信じられるからな。カズ」
俺の背中をドンッと叩いて、言ってくる武藤に兄妹愛?を感じて少し感動する。
クリスマスに出かけることを了承して、武藤家実家に着いた後。
俺は武藤の両親、武藤妹に年末お世話になるので挨拶をしてこれから年明けまで過ごす武藤の無駄に広い部屋の中で一息ついた。
そして今、時は流れ俺は今駅前のカフェでコーヒーをすする。煙草を吸いながら。
現在12月25日17時30分、武藤妹である貴希を待つ俺の周りにはここの近くの中学生なのか。派手なネイルをした手で俺の煙草を横取りし、持っていたライターで火をつける様な所謂不良が集まってきていた。
ただし相手は女のために下手に手を出すとこちらが不利になる。
……まあ、俺はそんな事は気にしないのだが。
只々冷酷な瞳をその不良たちに向けて、懐の銃に手を伸ばそうとする。
「おい、お前「和久ぁー」……等」
「ら?」
カフェの中に入って来た貴希を見て、怒りを堪える。
横目で不良女たちを貴希はちらりと見るが無視する。
「いや、なんでもない」
「そっかーおまたせ、和久」
一応先輩である俺に呼び捨てにする貴希に溜息をつくが、コイツはそういう性格の人間だった。とため息を吐く。
「人の顔見て溜息は酷いよ~」
「お前の存在に溜息をついたんだ」
「あ、そうなんだ。なら……よくない‼」
自分にツッコむ貴希の元気の良さを見て、カフェの中は暖房が利いていて暖かいが外の寒さを奔って来たであろう貴希の防寒力と生命力?の強さに溜息をつく。
「さっきから溜息つきすぎだよ?和久」
「すまんな」
「……もーぅ」
すっかり元気も無くなりツンとしだす貴希に、ちょっと嫌な態度を取ってしまったと反省する。
「ごめん、貴希」
「本当に反省してる?」
「ああ、反省してる」
「……許す」
「ありがとう」
そのやり取りをまた頭で再生すると、どれだけ馬鹿らしい会話だったか。
それを貴希も感じたのか、クスリと笑う。
女性にしては長身の貴希が笑うのは美少女が笑う、というよりは美女が笑う、という方に位置するので先輩でありながらもドキリとさせられる……時々コイツ怖いことに思い付くからな。
「それじゃ、行こ和久」
俺の手を握って店を出ようとする貴希の手を一回放して、財布から俺が飲んだコーヒー代をレジで払う。
ついでに先程俺の所に来て煙草を奪った奴の横をわざと通り過ぎ、少しお仕置きした。
お仕置きの内容はご想像にお任せしよう。決して性的な内容ではない。
先に店を出てマフラーに顔を埋めて、手袋を忘れたのか白い手にふーと息をかけている貴希の横に立つ。
「それじゃあ、今日はよろしく。貴希」
「うん!」
貴希の嬉々とした笑顔を見て、俺は貴希と手をつないだ。
12月25日のクリスマス。
それは恋する女子たちにとっては最高の一日となる事もあれば、最低の絶望を味わう日でもある。
私、武藤貴希は少なくとも今は最高の時間を過ごしていた。
今手を繋いで大阪の街を歩いている人物は灯央和久。
お兄ちゃん、武藤剛気の親友であり私が恋している人。
クリスマスの代表的な人物、キリストを抜いて言うとサンタクロースの赤い服装と同じ色の髪。
ボーとした顔だけど、自然と周りを威圧しているような凶暴的な眼。
最初見た時は怖そうな人だと思ったけど、本当はとても優しい人。
その優しさが、つないでいる手からじわじわと感じる。
自分でも気づかないうちに口がニヤニヤと笑ってしまうのも無理はなかった。
「和久」
「ん?」
「次はあそこ行こ」
テンションは最高潮。
彼氏ではないけれど、周りの女の子たちが和久を見て目を輝かせるのを見て私はこの人とデートしている‼と和久の腕をぎゅっと抱きしめてアピールした。
大阪の街は中学の友達と何回も言ったがまるで景色が違った。
彼氏持ちの女子が、彼氏がいると見える景色が一変するとよく言うがこれがそうなのだろうか?
ただ、そのひと時はこの世の物とは思えないほど幸せだった。
「もう7時か、そろそろ飯食うか?」
携帯の時計を見ると7時。
いつもご飯を食べている時間だった。
「うん、えっと……」
「金は気にすんな。好きな所行けばいい」
「いいの?」
「ああ、金は腐るほどある。これ言えばダメ人間だがな、実際その通りなんだ」
一つ上の高校生とは思えない発言だった。
灯央和久はお兄ちゃんと同じ、『武装探偵』略して『武偵』と呼ばれるものだ。
武偵とは簡単に言えば警察みたいなものだけど、フリーダム。
何でも屋、見たいなものだ。日常生活でも銃刀法を無視して銃を持つことができる。
一般人から見ると、命の危険がある危険な仕事。
だけど命を賭けるだけはあり、依頼を達成するともらえるお金はは普通の高校生がバイトする何十倍ももらえるという。かく言う私のお兄ちゃんも小さい頃から大好きな乗り物に触れるために東京武偵校車両科に進学した。そして私も東京武偵校に進学する予定だ。
親からの承諾も得ている、それに私自身もお兄ちゃんと同じように昔から車とか飛行機、ヘリコプターやバイクなどの乗り物は大好きだった。
私の好みの男性、という物も『乗り物を運転する姿がカッコいい人』であるほどだ。
現に今横に居る和久が愛用のハーレーを運転する姿はとてもカッコよく。
載らせてもらったときの風を切る音、エンジンを蒸かす音は最高だった。
ライダーズジャケットを着て、黒いヘルメットをかぶりハーレーを操る姿はネットの動画で見る様なバイク乗りとはかけ離れている、と言えるほど。
「それじゃあ、あそこ」
人差し指を向けた場所は最近友達の間でも噂になっているフレンチの店。
雑誌で取り上げられたらしく、親がお金持ちの子が行ったらしいけどすごくおいしいらしい。
「ほう、オシャレな所だな」
「……うん」
悪い女だ。
「よし、あそこにするか」
和久は絶対いいよ、って言ってくれると思ったからデートのコースもワザとここを通るようにしたんだから。私は他の女の子より大人っぽい所を見せたかった。
和久が私の家で、年末を過ごしに来ると11月、お兄ちゃんに聞いてから私は年末を楽しみにしていた。
そして18日、一週間前に和久とあともう二人の男子たちが来てから私は自分の家であるのに他人の家に居るようにドキドキと緊張していた。
和久の目の前で女の子っぽいところを見せようと、いつもはしない夜ご飯の手伝いとか家の掃除とかやってみたけど、緊張しすぎて失敗ばかりだった。
掃除機には何故か自分が着ていたワンピースの裾が吸い込まれるわ、料理中には何故か包丁を滑らせて家のタイルに突き刺さってお母さんに悲鳴を上げられるわ。散々な目にあった。
……これから家事をお母さんに叩きこんでもらおうと決心したけど。
「おい、貴希?」
和久の言葉で、ハッと思考タイムから解放される。
「あ、なになに?」
「何にする?」
和久はメニューをいつの間にか座っていた店の机に広げていた。
ここの店でも和久はことごとく女性の目を集めていた。
彼氏らしき人と二人でいる女性も和久の事を横目で見て、一緒にいる男の人が目線で殺さんばかりの殺気を送っていた。
「え、えっと……これにする‼」
咄嗟に私が指差したのはこの店で一番の値段を誇る高級牛のステーキコース。
和久も呆気にとられて、横に居たお客さんも絶句しているのを見て私はやってしまった。と顔を赤くする。
「ほう、嫌いじゃない。自分の欲望に忠実に生きる奴は」
笑いながら和久はそう言う。
その言葉に横の席の人に限らず、その店の中に居た全ての人が絶句する。
私も、まさかOKされるとは思っていなかったので戸惑う。
何故か、このコースの値段は8万6000円……そりゃあ絶句します。
結局、和久もその8万6000円のコースを頼んで現在消費したお金は17万2000円となる。
「あ、このワイン頼めるか?」
そして今のオーダーが引き金になったのか、和久はワインを頼む。
一応私はカズヒサがお酒を飲むことは知っている。
「失礼ですが、お客様年齢をお聞きしてもいいでしょうか?」
予想通りの返しだった。
厳格そうな眼鏡をかけた女性は先程ありえない値段の注文をした和久であるが、年齢はきちんと聞くようだ。
「16だが?」
呆気なく本当の事を言った和久に本日三度目であろう絶句する眼鏡店員。
「だ、出せるわけないでしょう?酒類は20才になってからとしらないのですか?」
「いや、知らないのか店員。俺は一応武偵なんだが武偵は酒は16才から許されるんだ。そりゃあ命かける仕事やってて一回も酒を飲めないなんて可哀そうだからな」
ありえない答えを和久は返す。
これには私もは?と声を出してしまった。
一応武偵を目指す私は武偵に関しての勉強は相当している。
だけど武偵憲章にはそんな決まりはなかった。
「ちなみに俺の国籍は日本国籍じゃない」
初耳だった。
「……かしこまりました。お持ちいたします」
「ありがとう」
店員は諦めたのか見せ奥に帰っていく。
「ね、ねぇねぇ和久」
「ん?」
「国籍、日本国籍じゃないの?」
「ああー、なんというかだな。俺の家、まあ灯央家は少し特殊な立場でな。国籍は決まっていないんだ、決めるのは20才から。だから俺の親戚はアメリカ国籍やらロシア国籍やらで溢れてる。…………もういないがな」
最後の方は小声で聞こえなかったけど、なるほど、と納得する。
けど、国籍って絶対はいらなきゃ……いや『特殊』だからかな。
その後、ワインを三瓶も開けた和久と、私は高級牛を楽しみ8時半。
一時間半の夕食を終えた。
「美味かったな」
「うん、美味しかった」
最後のレジでは、財布から二十万の札束を取り出した和久に眼鏡の店員が悲鳴を上げて終わった。
札束、となっている万札を見るのは初めてで私も深い感動を覚えた。
この半年後に私は100万の札束を見ることになるのは知らない。
すっかりおなかも膨れて、私と和久はイルミネーションが施された道を歩いていた。
人は多く、私はギュッと離れないように和久の腕に抱きついていた。
「綺麗だな」
「うん」
金、青、赤のイルミネーションが不規則に光るその道は夜とは思えないほど明るかった。
「ねぇ、和久」
「なんだ」
「私ね、武偵になる」
「そうか」
全然驚いていない和久に少し驚きながらも言葉を続ける。
「武偵になる、ってどういう意味を持ってた?和久は」
「あーそうだな、俺は両親が武偵でな。普通の学校、高校に進むという道は認識してなかった。と言ってもいい」
「へぇ」
「まあ、武偵になるってのは人それぞれに目的があるわけだ。唯の一般人がタダ銃を持ちたいからという理由で武偵になんてなれるわけがない。そんな勇気誰にもないからな。お前の兄貴、武藤も乗り物が好きだから、車両科に入った。あいつなりに乗り物というものはそこまでの理由になっていたという事だな」
スラスラと話す和久に、集中する。
「俺の目的ってのは、少し複雑でな。お前の兄貴と比べて銃が好きだから、ではない。結構難しい目的が交差してる」
「交差?」
「目的がいっぱいあるってことだ、まあ武偵になるってのは目的だ。普通に高校生になるってのとは全然違う。お前もうそうなんだろ?」
その言葉に私は歩を止めて、人ごみの中を立ち止まる。
後ろから非難する声がかかるが、私の耳には入っていなかった。
「こっち、きて」
「ん?お、おわっ」
人ごみを横切り、小さな路地裏に入る。
和久の温かい手を握り、走る。
「おい、貴希?」
私の走るスピードにすぐ追いついた和久が私の横に並ぶ。
しばらく走った。路地裏を抜けて、また目の前の道を渡って路地裏に入って走る。
三分で目的の場所についた、一か月前。友達とこの町ではぐれた時に見つけた場所。
ビルとビルの真ん中にある小さな噴水がある公園。
人はいない、噴水の水は下から照らされるライトでキラキラと光っている。
「はぁ、はぁ」
いつもは人がいないってことはない。
けど今日は誰もいなかった、当然だ。私が貸切にしたのだから。
ここの公園は市の物ではなかったのが幸いだった。
囲んでいる一つのビルの中にある会社が所有権を持っていた。
建築デザイン系の会社らしく、此処は公園のデザインを元にして作られたモデルらしい。
其処の会社に頼んで、貸し切りにしてもらったのだ。
ここの社長さんが女性で、訳を話したら喜んで貸してくれた。
「貴希?」
すっかり戸惑ってしまっている和久。
胸が高鳴る、頭がおかしくなりそうだった。
「顔赤いけど、大丈夫か?」
「だ、大丈夫」
全然大丈夫じゃない。何、これ。おかしい、胸が、苦しい。
声を出そうにも、和久、と言おうにもドキドキと胸が高鳴るせいで言えない。
「か、和久……」
「なんだ?」
「私、私ね……」
「おう」
ひとこと言えばいいんだ、『好き』って。
それだけだから、私。
『ひと思いに言っちゃいなさい』
デートの待ち合わせ前に友達とのメールで言われた言葉を思い出す。
言うよ、玲歌。言うよ、私。
「私、和久の事が好き。胸に抑えきれないほど、大好き」
これが、私。武藤貴希と未来『血犬の灯央』なんて二つ名を付けられる灯央和久との物語の始まりの瞬間だった。告白の答え?そんなの気にしない。
一日遅れですが、番外編です。
クリスマス・アフターですね。はい(*ゝω・)てへぺろ☆