緋弾のアリア~二丁拳銃の猛犬~   作:猫預かり処@元氷狼

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Re:EpisodeⅡ‐Ⅴ

――――――――――――初恋にはレモン酒を。

 

 

 

 

 

 

さて、先程カフェから出た後に感じた異様な空気を追いかけているところだが俺にはこの人生でよく分からないことが一つある、それは『恋』だ。少女漫画的な感じで悪いが俺には恋、恋愛という物がよく分からない。人はなぜ人を好きになるのか、なぜ永遠の愛を誓おうと思えるのか……謎だ。

そもそも恋とは何か。簡単に言えば人が人と愛し合い、愛情を育む事と言っていい。

難しく言えば異性同士が常に出会いを覚え、性的な欲求を感じる事。

そして恋愛にも多々あるらしい、中世フランスではロマンス的愛という民衆的な愛とか。

フランスの小説家、スタンダールの恋愛論という本では『恋愛には情熱的恋愛、趣味恋愛、肉体的恋愛、虚栄恋愛の4種類があり、また感嘆、自問、希望、恋の発生、第一の結晶作用、疑惑、第二の結晶作用の七つの過程をたどる』と記されているらしい。

こう考えるとどんどん思考がややこしく、ゴチャゴチャになって行く。

スタンダールの事を文章的に言えば、恋愛とは対象に大きな何かを感じ取り、それに対して自分自身にその気持ちを問い、その意味を知り、恋へと発展する。そしてどちらかがその思いを伝え、愛が不完全だが生まれ、またその事に対して途中自分自身と相手に本当の恋愛が何かと疑問を覚え、最終的に疑惑を抜け出せば完全な愛となる。こんな感じだろうか。

 

少なくとも俺はそう考える、俺が最初に恋と言うものを感じたのは武偵高の一年のクリスマス。ある一人の少女が俺に思いを告げてきた。

その時に俺はとても途惑った、見たことも無い女子が俺に恋をしているのか?

俺は『スタンダールの恋愛論に当てはめれば今俺は簡単、自問、希望を飛ばして今に移るのか?そして今目の前で思いを告げている女子は情熱的恋愛か、趣味恋愛か、肉体的恋愛か、虚栄恋愛か。どれを俺に感じているのか』そう考えた。

今の未知の場面に出くわしている俺は、自然とスタンダールの恋愛論にその場の空間を当てはめて考えてしまった。その時の女子には『俺は恋という物がわからない、そのような状態で君と愛し合う(・・・・)ということなどできる筈が無い』そう答えた。

思いを告げてきた女子は一度涙を流した物の、何故か吹っ切れた表情になり笑顔になった。

その笑顔に俺は何故か心臓が締め付けられるような痛みを覚えたが、それがなんなのかはわからない。

ただ、その少女は今もすぐ傍に居る。俺に思いを告げてきた少女は『武藤貴希』そう、俺の戦妹であり、親友の武藤の妹だ。あれからも俺の傍に居てくれるし、頼りになる。

これで貴希が俺に寄せる恋と言う感情は消えているのか、なにも分からない俺にとっては考えれば考えるほど今俺の傍で俺の戦妹として生る(・・)貴希が消えてしまうような気がして恐怖を感じる。

だから俺は恋という物は生涯永遠の謎として残り続ける筈、そう筈だった。

 

「……あ……ぅ……」

 

いつも強気で、いや自分で強気でいるような俺にしてはか細い声が口から自然と出る。

俺はさっきまで何をしていた……?そうだ、俺は何かを追いかけていた。

なのになんで、俺はここで足を止めている?俺は何故10メートルほど前を見つめている?

 

「…………なんだ、コレ」

 

顔が熱くなり、心臓の鼓動が速くなる。

唯でさえ体温が高いために鼓動速度が速い俺の心拍が異様に早くなる。

凍土を思わせるような白銀の髪、宝石のように、サファイアのように輝く瞳。

その瞳は絶対に一般人にはないような、固い決意と心の強さが映し出されている。

 

「流石、灯央の犬といったところか」

 

その女が、何かをしゃべっているが俺には聞こえなかった。

違う、聞こえていた。彼女の声は聞こえていた。透き通った日本人にはない高さの声。

俺の鼓膜にその音色とも取れる声は張り付いて剥がれない。

 

「私にとっては三日ぶり、貴様にとってははじめまして、だな」

 

衝撃的だった、銀髪の彼女を見た瞬間俺は全身に鳥肌が立った。

恐怖とかじゃない、畏怖でも寒気でもない。『衝撃』だった。

 

「何か言ったらどうだ、灯央」

 

彼女がその青い瞳で俺を睨んだ瞬間、ようやく俺は金縛りの様な物から解放されて、声が出る。

 

「お前が……魔剣か」

 

出てきた言葉はそれだけ、言葉は出ても眼だけは瞬きもせず彼女の事だけを見ていた。

いつの間にか場所は路地裏の誰も通らないような小さな道になっていて、俺がそこに誘き出されたということも理解する。思考力が戻ってきた証拠だった。

 

「私は人に決められた名前は好きではない、私の名は……」

 

肯定、コイツは魔剣だということは確定だ。

しかもご丁寧に彼女は、いや魔剣は本名も教えてくれるらしい。

武偵的な意味から見ても、今俺の中で芽生えている感情からも彼女の本名を聞きたがっていた。

 

「ジャンヌ=ダルク。私の名はジャンヌ・ダルク30世……オルレアンの聖女の末裔だ」

 

「……は?」

 

思わず今の回答に口を大きく上げて絶句してしまったことはおかしくはないだろう。

何故ならば今この女は言った。『自分はかつてオルレアンを救い最後は魔女として火あぶりにされてしまったフランスの英雄的存在であるジャンヌ・ダルクの子孫だ』そう言ったのだ。

 

「ジャンヌ・ダルク……だと……‼ジャンヌ・ダルクは火あぶりにされたはずじゃないのか‼」

 

「影武者だよ、その言葉も世間知らずな者達に何度言われただろうな」

 

ふぅ、っと溜息をつき額に手を当てる魔剣。

影武者……確かにジャンヌ・ダルクの影武者説は学者の間では可能性が高いと言っているのを一般学科(ノルマーレ)で聞いたことはあるが……まさか本当に?

 

「目的は……何なんだ。俺の食い物に毒を入れたり、白雪に化けたりした理由は」

 

俺のその言葉に、ジャンヌ・ダルクはにやっと笑う。

 

「試しただけだ。リュパン4世が目を付けた武偵をな」

 

理子の事か……

 

「当初は星伽白雪だけだったのだが、リュパンがどうしてもというからな」

 

その言葉で俺は一気に心の錠が外れたような気がした。

先程まで星伽の家を疑ってはいたが、魔剣の正体がわかり白雪が裏切ってはいない。それだけでも良かった。

 

「幸いここは誰もいない場所だ。一戦、してみないか?」

 

何処からともなく取り出した等身大の大剣の剣先を俺に向ける。

剣を解放した途端に先程感じた寒気が俺とジャンヌ・ダルクのいる空間を覆う。

そして地面が、凍る。文字通り、今は初夏なのに地面が氷におおわれていく。

 

「超能力者か‼」

 

「そうだ、一応銀氷の魔女。なんていう名もつけられているらしい」

 

魔剣と言われた時よりはやや嬉しそうに彼女は言う。

 

「貴様も全力で来い、でなければ私とデュランダルの前で凍りつくされるぞ」

 

そう思えば真剣な剣士の目つきとなり、俺を睨む。

徐々にその場の温度も下がって行き、完全にここの路地裏の空間が隔離される。逃げ道も氷の壁でふさがれ、大ピンチってところだ。

だが俺は興奮していた、性的にじゃない。俺はキンジ程甘々な構造じゃないさ。

ただ、生まれて初めての彼女に向ける俺の感情が何かを知りたくてたまらなかった。それには戦闘することが一番……だとは言えないかもしれないが俺はそれが今できるベストな方法だと思った。

 

「いいぜ、やってやる」

 

『送り人』全開で、俺はこの気持ちが知りたくて溜まらねぇッ‼

だから、興奮している。だから俺は生まれて一番の『送り者』状態になれた。

いつもより血液の温度が高い、心臓の鼓動が激しい。

 

「ウォーンとは哭かないのか。残念だ」

 

「生憎俺は只の犬じゃねぇンでな、そんな子犬のような鳴き声はあげねえよ」

 

「そうなのか、だったら今から()いて聞かせてもらおうか‼」

 

バッとジャンヌは駆け出し、そのバカでかい大剣を冷気を纏わせながら振う。

ヴォン‼っと風を切る音が俺の鼻先10センチの所でなり、汗が頬をつたう。

俺はホルスターからコルト2丁を両方取出し、構える。

 

「良かった、2丁拳銃でなければ即刻刎ね首のつもりだったよ」

 

どうせ理子から俺の事はほとんど聞いてるんだろ。

だが、んな事はどうでもいい。俺は……

 

「この気持ちが知りたいんだよ、教えてくれ、これがなんなのか‼」

 

送り者になって活発化した血液を送る心臓に手を当てて、彼女の瞳を見る。

見続けていると、それだけでも酔ってしまいそうなそんな感覚に落される。

 

「何を言っているのかはわからないが、私で良ければ協力しよう」

 

チャキ、と刃を鳴らしながら

 

「戦う事で協力できるのであれば」

 

向かってくる。

俺はその冷気を纏った大剣の猛進をかわし、近距離戦に持ち込む。

こんな馬鹿でかい大剣だったら懐に入られれば振えないだろ。と思い俺は迷うことなくジャンヌから1メートルも無い傍に近寄り、鎧で纏われた体に拳を入れる。

正確には拳銃の握った拳で、それも使い方によればハンマーのような鈍器へと成り得るストライクガンをうまく利用した、トンファーの要領だ。

 

「フッ……!」

 

それに俺のコルト2丁は特別性でね、滅茶苦茶固いんだよ。

特殊合金でスライドをカバーしてあるから、ちっとやそっとの衝撃だと壊れない‼

双拳の連打をジャンヌに浴びせていく。それをジャンヌは大剣を身軽に扱い、時には刃で受け、そして大剣の剣戟で俺を突き放したりと、負けず劣らずの攻撃速度で俺と斬り、撃ち合う。

 

「だがなァッ!これは普通のトンファーじゃなくて……銃だってこと忘れてねぇか?」

 

俺のその言葉にハッとした表情で後ずさるが、もう遅い。

俺は持ち方を変え、銃口をジャンヌの方に向けて引鉄を2丁同時に引く。

パァッンっと乾いた銃声が鳴り、俺はジャンヌを見るが……

 

「今のは危なかった、あともう少しで足が撃ち抜かれていたな」

 

俺が放った2発の銃弾は字面から空を貫くように尖り出現した氷柱によって弾道を途中で阻まれていた。そしてその氷柱を割るように大剣の刃が俺の首を狂いもなく襲うのを俺は体を後ろに反らして躱す。俺の目の前に白亜の冷気を纏う刃が通り過ぎ、鼻先が冷たくなる。

俺は後ろに反転し、中で回転している途中にも発砲し、牽制する。

 

「クッ……」

 

ジャンヌもいったん剣先を地面へと向けて、後退する。

俺は胸ポケットから煙草を2本取出し、2つ同時に吸う。

いつもより多い煙が俺の顔を覆い、眼が煙に染みる。フゥーッ!と息を口の両端から吹き出し、煙も猛獣の熱い吐息のように息とともに吹き出す。

その煙に染みて紅く和久の髪色と同じように充血した眼と口から白い息吹を発す姿は『猛犬』と言っても過言ではない。

 

「ガァッ!」

 

獣じみた声と同時に俺はまた銃を逆手に持ち、言うなれば【トンファーガン】で構える。

構えた瞬間に足の筋肉に力を込め、跳躍する。と言っても超人の様に10メートルを飛ぶとかそう言う物ではなく、只前に進む。僅かコンマ5秒、それだけの時間で俺はジャンヌの大剣の防御を掻い潜り、トンファーガンで腹部を殴りつけていた。

 

「カハッ……!」

 

そして俺は、鎧の上からだがゼロ距離発砲。

俺のコルトと同じく特殊合金製であろうその銀の鎧との間に火花を散りながら衝撃を与えジャンヌが吹き飛ばされる。さながらショットガンの様。

 

「ガァルゥッ‼」

 

頭に血が上る、という言葉はこの状態から生まれたんじゃないかと思うぐらいに顔は紅くなり、血流がどれだけ早く流れているかも実感できる。思考能力も『送り者』の影響で薄れて喋る言葉は唸り声と咆哮のみ。

心成しか自分の刃も剣士の如く鋭くなっているんじゃないかと思えるぐらいにギリギリと口からは歯を軋る音がその低温空間に響く。まだ銃を発砲する、という思考能力が失われていないだけまともに戦闘できるという物だ。

 

「き、貴様……外見は違えど中身はもうブラドのようだ……‼」

 

ブラドという物は知らないが、俺はこの気持ちを知りたいだけなんだよ。

お前を見ると、何故か全てを奪いたいという感情に落される‼敵も味方も、今では灯央の家も関係ない‼

 

「俺はァ‼これが何がを知りたいんだよォッ‼」

 

そしてまた先程と同じように足に力を込めて筋肉の活動に神経を向ける。

普通ではありえないいじゅに血流を向けられた脚の筋肉細胞を悲鳴を上げて、足がちぎられるようなそんな痛みに歯を食いしばるが俺の頭には痛みという物は届いてはいない、ただ自分の自然的な防衛機能で歯を食い縛るという行動をしていただけだった。人間じゃあない、犬だ。

 

「ウガァッ‼」

 

ちなみにこの闘法は親父から受けづいたものだ。

親父が銃をトンファーに変えて闘う闘法を『旋棍銃(ガンファー)』と名付けていた。

スライドは剣や槍を回避するための盾。そして銃口から放たれる銃弾は最強の矛。

そして『送り者』状態の戦闘能力はその闘法と異常ともいえるほど合っていた。

なぜなら

 

「シィッ‼」

 

躊躇なく急所にあてるその精神。

普通の人間であればゼロ距離で銃弾を放つという行為は難しい。

現に先程ジャンヌ・ダルクはまさか武偵が『ゼロ距離』で銃弾を放つなど思いもしなかったために、反応が送れて銃弾を食らってしまった。そう、俺は武偵だ。武偵は人を殺してはいけない。

だから、俺の闘法を見た強襲科の先輩方が真似しようと『旋棍銃』を扱おうとしたが人を撃つ、という恐怖に耐えられなくなり誰もが断念した。

そしてまた、俺の拳がジャンヌの懐に侵入して、発砲する。

銃弾は籠手に当たり、右手がその衝撃で吹き飛ばされるように後ろにそれる。

 

「ぐっ」

 

無理な運動により、ジャンヌの右腕は痺れていた。

右手を握り、開きの動作をして機能を確かめるが完全に感覚は麻痺していた。

それを確認した彼女のとった方法は単純に左腕のみで身の丈ほどの大剣を構える。

方としても構える姿勢も一流の物だが、やはり両手剣としてこれまで使っていた彼女には体の重心の向きや力の入れ具合が不安定でバランスが大きく崩れていた。普通の主人公なら、物語に居る様な甘く、熱血の主人公ならここで「もう止めろ、俺とお前の差は歴然としている」とか幸福をするように言うだろうが生憎俺は主人公気質じゃなくてな。こんな風に

 

「その左腕ももらってやるよォッ‼」

 

まだ正常な左腕を集中攻撃するような奴なんだ。

だがこれは殺し合いだ、俺の母親は殺し合いの事を殺し愛と言って俺と愛を育もうとしてきたが、これは殺し合い。ただし俺は武偵として殺人が禁じられている。

だから殺さない程度の殺し合いを楽しむ。ワザと鎧があるところに、それも至近距離で銃弾を放つ。

 

「面白い、面白い灯央の犬‼」

 

ジャンヌも自分の中で最大級の力を使いこの場の空気をどんどん冷たくしていく。

現在のこの空間の温度は氷点下52度。南極の極地の温度より5度ぐらい低いだけだ。

だが俺はその場に立っている、しかも俺の体からは今では凍りついた煙草をくわえながらも、まだ白い湯気が立ち上っている。それくらい熱い『送り者』になっているという事だ。

 

「バ、馬鹿な‼」

 

悲鳴の如くジャンヌの口から発せられた言葉は驚愕と今自信が見ている光景への否定。

そりゃあそうだ、唯の人間が夏の格好。ワイシャツにジーパンで南極と変わらない空間に立っていられることがおかしいのだ。まあ俺の服は今では凍りつき、使い物にならなくなっているのだが。

 

「貴様、人間じゃ‼」

 

「ああ、そうだよォ……お前さっきから俺の事なんて呼んでる?」

 

俺等灯央家の人間は昔から国家や、高い権力者からには『灯央の犬』と呼ばれてきた。

 

「俺は犬、人間じゃあない。二丁の銃は猛犬の牙」

 

カシャっと、スライドを滑らすように移動させ銃弾を装填する。

その音にジャンヌは自分がさっきまで来ていたジャケットを紐代わりにして動かない右腕を無理矢理大剣の柄に縛り付け、両手剣に戻して俺を警戒する。

旋棍銃(ガンファー)』という闘法の中では銃から発す銃弾の事を『牙』そして銃本体の事を『身』と呼ぶ。牙は当然俺等灯央を表す犬の牙の事だ。だから俺が親父にこれを幼い頃に習ったときの掛け声は。

 

「牙を穿つ‼」

 

あえて撃つとは言わない。

と言ってもあまり意味はなく、親父曰くカッコいいから。

中二病という存在を小学校高学年に上がって、ネットに触れた時に知った瞬間は泣いた。

だが、今では親父から受け継いだのはこの『旋棍銃』と灯央の血だけ。

変えたいと1番思った事だったが、結局今の今まで変える事はしていない。

キィンと銃弾()がジャンヌの操る剣に当たる音が響く。そしてその時に散った火花がこの何もかもが凍り、乾燥し尽したこの空間の地に触れた瞬間。バチィ‼と静電気が目に見える状態となって地面から氷空に伸びるように発せられる。あまりにも凍結しすぎたこの空間にはほとんど水分という物がなく、帯電し始めたのだ。今の状況は危険だった。今この空間はほぼ密室となり、外の外気も侵入してこなく、さらに乾燥しすぎて帯電までしてしまった。簡単に言えば俺とジャンヌは積乱雲のど真ん中に居るという事だ。

何時俺とジャンヌとの戦いで発火した火花が鋭い雷となり俺等の身体が貫かれるか……

 

「凄いな……こんなこと初めてだ」

 

今の状況に、このパチパチと壁伝いに電流が流れる青白い空間にジャンヌは感服していた。

 

「……」

 

ただし俺はそんな光景を楽しむような精神の余裕はなく。

ただその光景をそのサファイアの瞳で見つめる彼女に全神経が向けられていた。

 

あァ……綺麗だ。

 

そして気付く、俺は今まで女を綺麗なんて思った事は無かった。

灰花梗や武藤貴希、蘭豹や綴といった俺と近く、そしてかかわりのある女性たちは確かに普通とは比べられないほどの美貌を持っているとは思うが。こんな神秘的な、俺の心に入り込んでくるようなそんな感情だった。フランスの英雄聖処女ジャンヌ・ダルクだと納得してしまうような。

 

あァ……そうか……俺は……

 

俺は構えていた力を抜いて両腕をだらんと下げる。

先程感じていた感情がなんなのか分かったからか、俺の『送り者』は解けていた。

 

俺は……ジャンヌ・ダルク。お前に

 

 

 

 

 

 

 

「恋をしたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

俺の戦闘意欲が消え失せ、驚きに満ちた顔を俺にジャンヌが向けるのはほぼ同時だった。

ああ、ゴメン。貴希、おふくろ、親父……俺は敵に、それも魔剣に恋しちまったよ……

 

 


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