――――――――――――酒貌梗花は歓喜する。
綴に俺と白雪が『
忠告を受けた日に白雪はキンジの部屋に引っ越した。そして俺は魔剣の捜索に力を入れていた。
当然戦妹の貴希とツーマンセルを組むわけでもなく、ましてや装備科の担当教師のレイラ先生に言う訳でもない完璧な独断行動という訳だ。
と言っても一日目はほとんど情報収集で、武偵高から動かなかったのが現状。
そして、魔剣の情報が何一つ入らなかったという現実に打ちのめされ確かに情報科の女子たちが『ひおっち魔剣なんて信じてるの?居るわけないじゃーん』と笑われたのも頷ける。
そして行動二日目の今日は愛用のハーレーに乗り、武偵高の学園島を離れ六本木へと向かう。
当然行先は『ジョン・ドゥ』だ、昨日イライラしすぎて二桁ぐらいの箱を開けて吸ってしまったために自分の記憶がある中での煙草の在庫は消えた。その為の煙草補充って言う理由もあるが今回は少し違う。
いつも『ジョン・ドゥ』に集まるそこの地域のヤクザさんに用があるのだ。
予め携帯で俺が午前10時に行くことをつたえて、女マスターにも連絡して特別フロアを開けてもらった。
特別フロアは何かと宴会などに使われるのだが、今ではヤクザの巣窟となったバーにはだれも近寄らなくなり、逆にマスターは一定の収入が確実に得られるから、と嬉々乱舞していた。
既に俺とは違いオートバイがずらりと並んでいる駐輪スペースにハーレーを置いてバーに入ると……
『おはようございますっ‼和久さンッ‼』
特別フロアに向かって道を作るように立っている100名ほどのヤクザが俺に頭を下げて挨拶する。
「おーう、おはよー」
俺も慣れた感じで来ていたライダーズジャケットを放り投げると、その中の一人が受け止めてハンガーに掛けて上着の専用スペースに掛ける。
ここのヤクザはほとんど極道の下っ端の一派だ。その極道の名前は『鏡高組』東京一帯を仕切ってる極道だ。そのヤクザの一派でも『ジョン・ドゥ』に集まる奴等は腕利きが多い。
「和久さん。おはようございます」
そして今度は特別フロアから革靴特有のフローリングを歩いた時に鳴るカツンカツンという音を鳴らしながら近づいてくる。顔つきは親友の不知火亮に似た女にモテそうな好青年。
「おはようございます笹宮さん」
「おはよ、和ちゃん」
にこっと笑顔を浮かべながらこちらに歩いてくる凛さんに瓜二つの美女、しかしその顔の裏には強烈な殺意が込められている女性幹部
「おはよ、さっちゃん」
俺もそう返し、付いてきてと手招きされた方である特別フロアに向かう。
特別フロアと言っても頑丈っすぎだろ、とツン混んでしまいそうな重たい扉を開けて中に入ると。
「久しぶりだな、カズ」
名前は特にないが、ここのヤクザを実質支配している鏡高組を離縁して現在ここにいる男。
「久しぶり、義武叔父さん」
そう、この人は俺の叔父。
と言っても灯央家は全員死んで消えてしまった。要するに俺のおふくろの兄貴だ。
最初は俺を見た時に殴り飛ばしたが、今はだいぶ関係も穏やかになってきていると俺は思う。
後、母さんの実家、鬼頭家の人間も義武叔父さん以外に生き残りはいない。
それはなぜか、理由は不明だが母さんの実家にも灯央家が隠れているとでもパトラが思ったのだろうか。
いまだによく分からないのが現状だ。
「何時ぶりだ」
そう簡潔に告げる義武叔父。俺のたった一人の血のつながりがある人間。
「そうだな……三カ月ぶりくらいか」
「…………」
「…………」
黙り込んで、下を見る義武叔父さんに俺も無言になるが次の瞬間……
「寂しかったぞォォォォォォォ義武叔父さん寂しかったぞぉ――――――ッ!」
俺に抱きついて号泣するおっさん。
……そう、この人。俺を嫌ってるんじゃない。
言いたくないが俺を溺愛している人。最初に殴り飛ばしたのも俺が生きていたことへの嬉しさで殴ってしまい、後から2000万ほど医療費として送ってきたり。最近は武偵として活動しているから仕送りは止めてもらっているが、時々顔を見せに来いと頻繁にメールを送ってくることがある。と言った感じの一種の親バカ。
「はいはいはいはい、よっさん落ち着いてー」
それを見ていた幹部の凛さんが馬鹿叔父を俺から引きはがす。よっさんてのは単純に義武から取ったあだ名だ。それにしてもナイスタイミングだった、俺は男なんかとファーストキスはしたくねぇぜ。
微妙に馬鹿叔父の唇がおかしな方向に向いていたことに恐怖していた俺は一気に解放されて溜息をつく。
「ご、ごほんっ!……何用だカズ。今日はお前の言った通り全員集めたが」
さっきとは態度を一変させて腕を組みソファーに座る馬鹿叔父。
「簡単に言う、パトラの情報へと繋がる鍵を見つけた」
俺のその言葉に、ピクリと眉を震わせる義武叔父さん。
やはり自分の溺愛していた妹や、家族。そして弟分である俺の親父を殺されたことに関しては興味、いや……殺意の情の上下が激しい。席を立って、行ったり来たり往復を繰り返して歩き出す。
「で?」
横目で俺を見る。
「今から話すことは武偵間だけの機密事項だ。絶対に漏洩させてはいけない、此処の部屋にも盗聴器、裏切者がいることはないかな、義武叔父さん?」
「それは大丈夫だ、安心しろ……対策は完璧だ」
叔父が目で合図すると、二人の男が手に三つほど何かを持ってこっちにくる。
「盗聴器……」
六つの小型の機械は盗聴器だった。それも最新の
「範囲は?」
「50Mってところか」
半径50Mの盗聴器……それも多分相当な性能だろう。
今は無力化は終わらせている。
「もう無理か」
「俺等も見つけた瞬間に探したが手がかりはこれだけだ」
叔父さんが机の上にとん、っと置いたのは香水だった。
「こ、これは……」
白雪が使っている香水と同じ銘柄……
ふたを開けて臭いを嗅いでみても、確かに白雪のつけている香水だった。
「知っているのか?」
「……そうだな、今回集めた理由を話す。今回集まってもらったのは今一部の武偵で話題になっている『
「魔剣?」
「そう、それが何故パトラに通じるか。そしてパトラは少し前に魔剣と同じ組織に居た」
俺のその言葉に目を見開く義武叔父さん。
「伊・Uか⁉」
知ってたのか……
俺が少し睨むと
「す、すまん。話す時期を考えていたらいつの間にかお前は……」
っとごにょごにょと呟きだしたので無視する。
「まあいいけど。俺はそいつに少し聞こうかな、って。もう一人俺とは別の目的で逮捕しようとしている馬鹿が居るんだが、そいつより早く見つけたい」
ふむ、と考え始める義武叔父さん。
「なるほど、となればだ」
義武叔父さんの中では協力することは前提らしい。
ありがたいけどな。
「ちなみに、狙われているのは俺と白雪だ」
「星伽の嬢ちゃんか⁉」
「ああ」
星伽神社に足を踏み入れていい男子は灯央と遠山の血族のみ。
そしてその灯央と遠山に嫁入りした家の中で許可されるのは一人の男のみ。
叔父さんはそれに選ばれたからはいったことがある。
「よし、行動は早くするべきだ。笹宮姉弟!」
「「はい」」
さっき挨拶してくれた笹宮姉弟が義武叔父さんに指名されて立ち上がる。
「先程こいつを見つけた場所へカズを案内しろ。次に信号共……は、六本木でうろうろして情報集めだ」
「「「そんな御頭!俺等も諜報活動したいです!」」」
息の合った信号頭の三人組は叔父さんに意見する。
「お前等はその息の合ったコンビネーションで六本木
「「「よっしゃぁ‼」」」
あれ、あんま内容は変わって無い気が。諜報って入れただけだぞ、単純な奴等だ。
同じようにその部屋に居た幹部たちに指示を出して、最後には俺と叔父さん。そして俺を案内する笹宮姉弟だけ特別フロアに残る。
「カズ、俺の感だとお前はここからはもう戻れんぞ」
いつものふざけた顔つきではなく、さっき指示を出す時よりも眉間にしわを寄せて俺を見る義武叔父さん。
「重々承知してるよ、てか感ってなんだ。義武叔父さん灯央じゃ……」
「長年の感というやつだよ。お前よりは俺は三倍は生きてるんだ、人生経験もある」
そう言って馬鹿叔父は内ポケットから札束を取り出す。
「もってけ、泥棒」
「いらねぇよ馬鹿叔父」
「ちぇ」
ちぇ、ってなんだよ……これで50過ぎの中年野郎だから信じられん。
まあ俺の中で一人だけの血の繋がった家族だからな……
「そう言えばカズ、灰花の嬢ちゃんとはどうなんだ?」
ニヤニヤと笑いながら聞いてくる馬鹿叔父。
「どうってなんだ、梗とはなんもねぇよ」
「そうかそうか、名前を呼び合う仲なのか。そうかそうか、俺としては武偵と武偵より武偵と一般人の方が浪漫が合っていい物だと思っているわけだよ」
「はぁ、だからなんもねぇから」
そう言う俺をまだニヤけながら見てくる馬鹿叔父の目線は俺の後ろを向いている。
俺もそれにつられてみると……
「は……?」
黒いショートカットの髪、顔はそこらを歩けばスカウトされること間違いなしの整った顔。
しかし首から下は絶壁で身長は貴希と同じくらい高い眼は吊り目気味の……まぁ美少女である灰花梗。
「ひ、久しぶりだな。か、和久」
「お前、寒くないのかその格好」
今日の今の格好は、英語で有名な洋楽の歌詞がロゴとして描かれている黒いTシャツの上に、肩を片方出している薄いカーディガン。それもTシャツは片方の肩が露出していて、下はテニスをやっているからか綺麗な足も露出しているホットパンツ。見るからにいくら初夏でも風が寒そーっと思ってしまう格好だ。それにこの特別フロアは冷房がよく効いている。
「久しぶりに会った時の第一声がそれか⁉」
なんかわかんないけど手を床に付けて落ち込んでいる梗。
「なんかすまん。で?なんでお前こんな所にいんだよ」
「だって今日ここに和久が来るって義武さんがメールで教えてくれたんだ!」
「おい馬鹿叔父」
「反省も後悔もしていない‼」
ふふん、っと誇らしげに胸を張っている叔父に溜息をつき、梗を見る。
「お前はどうしてそこまで俺に会いたがる?」
「私だから‼」
「説明になってねぇよ…………ったく、これじゃあ会わなかった意味が無ぇ」
「なあ和久」
「あ?」
「うっ、そう言う眼は怖いから止めてほしいぞ」
「……す、すまん。な、なんだ?言ってみろ」
いつの間にか目つきが悪くなっていたようだ、ダメな癖だ。
強襲科時代は余り人付き合いも多いって程じゃなかったし、先輩と不知火、キンジ以外とはあまりコンビ組まずにソロでやってた方が多かったからな。
昔依頼の派遣先で眼つき悪くて90歳ぐらいの爺さんに人殺しの目だ。って言われた事があったりなかったり……キンジの爺さんにも言われた。そのじいさん程じゃなかったけど「お前は人を殺したことがあるな」こうとだけ、ボソッと本当に穏やかに真顔で言われた。
「い、今から時間空いてる?」
上目づかいで言う梗。
すまないがそれは貴希に鍛えられているもんでな。
「すまん、今から仕事があるんだ。また今度な」
「そ、そうか、そうなのか。それじゃあ仕方がないな」
さっきまで笑顔だったのに一気に暗くなる梗。
あまりの態度の変化に俺は「うっ」と自分がこうしたという事実に睨まれるような感覚になる。
「い、今はダメだが今度何処か行こう……はぁ、メアド」
「え……」
「だからメアド交換…………ほんと何の為に今まで隠してきたんだか」
最後の方は途端に笑顔になってバックの中から携帯を探す梗には聞こえなかったらしく、安堵のため息をつく俺。さっきから溜息ばっかだぜ。
「あ、あった‼そ、それじゃあ和久。赤外線……だよな?」
「俺は文明人だ、それくらいわかるさ」
「そうかそうか、へへへ」
ポケットからスマートフォンを取り出して操作していると、ジーっと俺のスマホを見てくる。
「どうかしたか?」
「う、う~……」
「おい、梗」
「な、何‼」
「なんか俺のスマホ変か?」
「ち、違うんだ。その……だな……」
今度は自分の普通と俺のスマホを見比べ始める。
「前に、友達に言われたんだ。灰花の携帯古いな、って。けど父さんと母さんは贅沢言うなって」
そんな事かよぉ‼っと絶叫したかったが眼が真剣だ。どうやら本人は相当気にしている感じだな。
「ったく、んな事で気にすんなよ馬鹿。そうだな……今度遊びに行くときにでも買いに行くか。確か今下取りキャンペーンがどうとか言ってた気がするし」
「け、けど私お金ないし……アルバイトのお金も今月はまだ三週間も先だし……」
「武偵舐めんな、それくらい買ってやる。下取り料金1万ぐらいだろ?まあ貯金も相当ある……はず」
「け、けどなんか悪いな。買わせたみたいで気が引けるぞ」
またしょんぼりと顔を俯かせる梗。
久し振りに会ってわかった事は、コイツが重度の情緒不安定人間という事か。
「まあ、これまで俺を探したのかは知らんが苦労させた詫びだと思ってくれ」
「う、うん……」
赤外線通信が終わり、メアドが交換される。
俺はメアドの登録者名に『梗』とだけ入れて終わらせる。
いつも登録する時は名前で登録しているからな、というか交換する人は大体覚えてる人たちだし。
大人とか依頼主とかは当然名字だけど、綴は綴で、蘭豹はらんらんで。
だって蘭豹って先生だけど先生の様な人間じゃないし、19才で20才にもなってないし『らんらん』でいいだろって感じだ。
そう簡単に決めた俺だが、梗の方は「うー」とまた唸りだして考え出す。
「単純に灯央か和久でいいだろ。俺も梗で登録したし」
「そ、そうなのか?」
「俺はそうなんだ、まあ好きにしろ……俺はそろそろ行く。メール夜にでも打ってこい。そしたら返せる」
「わかった‼」
「ふぅー……それじゃあ凛さん、さっちゃん行こうか」
「「はいよー」」
ニヤニヤしながらこちらを馬鹿叔父と同じ目線で見てくる笹宮姉弟。
「……なんだよ」
「「なんでもー?」」
その反応にまた溜息をついて煙草をポケットから出す、馬鹿叔父にも一本渡して火を付ける。
「どうも、甥っ子に煙草の火つけてもらうとは、思いもしなかった」
ふぅーっと白い煙を吐きながら言う叔父。
「それは俺の成長ってこった」
「煙草に厳しいあの愛しの
まあおふくろは煙草はあんま好きじゃなかったからな。
世界中の煙草吸うのを趣味にしてる親父の煙草コレクションをいつも気にしてた。
俺はあのころまだ吸ってなかったけど、今は燃えて無くなった灯央本家には珍しい煙草も置いてたんだろうな……親父と一緒に吸ってみたかった。
「親孝行はしてるつもりさ」
「果たしてそうかね、少年漫画でよく言う復讐なんてしなくていい!ってあいつ等思ってるかもしれねぇぞ?」
「例えそうでも、俺はあいつを許さない。絶対に殺す」
俺のその答えに煙を吐くのと同時に溜息をついて分かったと頷く義武叔父さん。
その煙が梗の顔にかかって咳込む。
「お、すまんな……まあ、今は好きにやっとれ。だが、死ぬなよ和久」
「家族一人残して逝けるか馬鹿叔父が。せめて俺より先に死ね」
「そうだな、お前より後には死にとーないわ。俺が先に愛すべきバカ妹に会いに逝く」
「まあ死ぬときは連絡くれ、最後看取ってやるよ」
「お前が生きる最後に見れて死んだら妹の膝枕か……スゲェ最高」
「自重しろシスコン。親父に殺されるぞ…………ぷっ」
俺の頭に馬鹿叔父がおふくろの膝枕で寝ているところに親父が『送り者』状態で襲い掛かって八つ裂きにするイメージが流れて煙と共に吹き出す。
「舐めるな、これでも現役時代は極道の幹部やってたんだ。歯一本持っていく」
「歯一本だけか、もっと頑張れよ」
「うるせぇ、これで精いっぱいだ」
使い終えた煙草を机の上に置いてある灰皿に擦りつけて火を消して、俺は笹宮姉のさっちゃんが持ってきたジャケットを羽織る。
「それじゃあまた今度な、馬鹿親父」
「……ククッ。おう、また顔見せろや?馬鹿息子」
特別フロアの重い扉を開けて外に出る。
外で待っていたのは先にオートバイに乗っている笹宮姉弟。
「どこだ?50M以内だろ?」
「ここの後ろ側よ」
さっちゃんが指差したのは『ジョン・ドゥ』の目の前にあるアパート。
なるほど、回って行かなきゃいけないわけか。
「それじゃあ行こう」
ヘルメットを付けてナイトロッドのアクセルを勢いよく踏んだ。
久し振りに血の繋がった家族に会えた安心感か、心が穏やかになっていた俺だった。
今回は唯一の血の繋がった家族である叔父と梗の登場でした。台詞が多いですねー……自分でもわかります。台詞多いか少ないかと言われると自分の文章は少ない方が多いのでしょうか?
あと、灰花梗のイメージモデルは『はがない』の夜空をもうチョイ背を高くした感じです。あくまで一般人ですから。(当然髪は短い方です)