緋弾のアリア~二丁拳銃の猛犬~   作:猫預かり処@元氷狼

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Re:EpisodeⅠ‐Ⅻ

――――――――――――穿て酒入りの銃弾を。

 

 

 

 

 

 

 

台風が東京湾を直撃した。さっきの事がトラウマとなっているのか神崎はベットでプルプルと震えて聞こえる稲妻の音を聞こえないように塞いでいる。

 

『――――お客様にお詫び申し上げます。当機は台風による乱気流を迂回するため、ロンドン・ヒースロー空港への到着が30分遅れると予想されます』

 

さて、このままジャックが無く俺達は神崎とヒースローまで飛ぶのか、否途中ジャックが起きて武偵殺しと対面するのか……その瀬戸際に居る俺達は昔からキンジのおじいさんの影響で見ていた、キンジの先祖である名奉行、遠山の金さんの時代劇にチャンネルを変える。

 

『――――この桜吹雪、見覚えがねぇとは言わせねえぜ――――――‼』

 

彼も、ヒステリア・モードを所持していて今では即逮捕の露出狂で肌を露出すると知力、体力が向上したらしい。その事を昔キンジと話してたら、俺は変態的な能力だがお前は妖怪の血が流れているかもしれないってかっこいいなっ!とかキンジに言われた。

 

「ほら、これでも見て気を紛らわせ」

 

「……うん」

 

さっきの雷と俺に恐怖していた神崎がベットから出てくる。

俺の方を、なんかチラッチラッと見ながら。

 

「気にするな――――とは言わないが。普通でいろ」

 

「――うん」

 

ほんとにいつもこんなに素直だったらいいのに……!

今の神崎はキンジの制服の裾を掴み、怖いという雷に対してか弱く目元に涙を浮かべている。

表すなら『ハイエナに囲まれた子犬』そのハイエナの中に猛犬の俺がいるわけだが……

その神崎の手を、キンジは自分の手を添えてその震えを止めようとする……が。

 

パン‼ パァン!

 

渇いた銃声がこの600便の機内に響いた。

俺等はすぐに武装して狭い通路に出ると、其処は今の銃声を聞いた人々が混乱して今の銃声は何か、何が起きているのか、と騒ぎ始める。銃声がした方は、コクピットの方を確認すると、そのコクピットに通じる道は解放されて、中からさっき神崎の部屋に案内したアテンダントがおそらく機長と、副機長だと思われる人間を引き摺ってくる。その二人は眠らされているのか、殺されているのか引き摺られても微動だにしない。

 

「――――動くな、武偵だ……」

 

俺はコンバットコマンダーを両手で構える。

それに並行するようにキンジもベレッタM92Fを抜く。

 

Attention Please(お気をつけください)でやがります」

 

そういうとおそらく武偵殺しである彼女?はカンを放り投げる。

床に付いた瞬間、プシューッと中に入っていたであろう白い煙が機内を覆い始める。

 

「みんな!部屋に戻って扉を閉めろ!」

 

キンジがいまだ通路に出ている乗客たちを煙を横目で見ながら部屋に戻す。

そして機内は暗闇に覆われ、俺だけが通路に出ている。白い煙が俺を覆うがキンジが心配していた毒ガスではない、呼吸もできる。武偵殺しは何処だ、何処にいる?

俺はコンバットコマンダーを構えながら少しづつ移動してく。

 

「こっちだぞ、でやがります」

 

フッとさっきの女の声が俺の耳元でかけられる。

最近どこかで聞いたことがある声……

 

「――――――ッ!」

 

振り向いて構えるがそこには誰もいない。

 

「出て来い、武偵殺し。今此処にいるのは俺だけだぞ?」

 

「一階のバー、でやがります」

 

また俺の背後からの声……

俺はその言葉に乗せられるように一階のバーに向かう。

居たのは……さっきのアテンダント。しかし容姿は少し違った、今の要旨は武偵高の改造制服。これを着ているのは一人しかいない、武偵殺しの犯人は。

 

「バラ園ぶりだな、理子」

 

峰理子、俺達が神崎の情報を聞いた張本人。

 

「バラ園ぶりだね、ひおっち!」

 

さっきのおどおどとした弱気なアテンダントの性格は消え失せていつもの性格に戻る。

俺は煙草を一つ、取り出して火をつける。

 

「初めに聞く、お前が金一さんを殺したのか?」

 

「うん!」

 

「…………そうか、なら俺は。お前を()レル……!」

 

金一さんの……仇だ‼

俺はもう一つの銃、ガバメントをホルスターから抜き。コンバットコマンダーのもう一丁と共に。俺が昔『双銃(ダブラ)灯央(ヴィシャス)』と呼ばれた所以である二丁拳銃で構える。

構え方は、銃口は斜め向かいに合わす。俺の口からは猛犬が興奮したように煙が、煙草の煙が沸く。

 

「フゥーーッ!フゥーーッ‼」

 

顔が熱くなり、頭に血が上っているのがわかる。

これが灯央家の遺伝と言われる興奮作用『送り者』と言われる物。

ヒステリアモードとは違い、一時的な一種の興奮で目覚める物、怒り、確かに性的興奮もあるが大抵は怒りや殺意などでなる事が多い。その効果は戦闘力や知力に影響はしない、ただ単にその怒りや殺意に身を任せて行動する事。昔これを正常に使う事が出来なかったときは興奮中に小便をいつの間にか漏らしていたり、自分の体が傷ついていたりと大変だった。戦闘力には影響しないと言ったが、違うかもしれない。俺が『送り者』となると、戦闘力が未知数になる。その怒りや殺意の度合いが高くなれば高くなるほど出せる力も大きくなる。しかし、その怒りや殺意が大きすぎた場合は……俺は手が付けられない狂犬と化する。

 

「遺伝かァ……案外良いものだよなァ⁉理子‼」

 

二丁拳銃の照準を理子の腹に向けて――――――撃つ。

撃った直後に俺は高速で接近して、理子の腹をコンバットコマンダーのマガジン底で殴りつける。

そのままガバメントの銃口を腹に押し付けて撃つ。

俺のガバメントはストライクガン着用だ、弾が打てないなんてことはないさ。

 

「カハッ!」

 

理子が唾を吐き、腹を抑える。

そのまま俺は理子に追撃をかけようとするが……

 

「舐めるなァ‼」

 

理子もワルサーP99を二丁構えて俺の腹部目掛けてに撃つ!

ハンマーで殴られたような感覚が俺の腹に響くが、生憎俺の今の状態は『送り者』。

お前を黄泉という監獄に連れて行く送り犬なんだよ‼そんなんで怯むか‼

 

「ガァッ!」

 

威力に吹き飛ばされそうになる腹部の腹筋に無理矢理力を入れて、そのまま体を置き去るように理子の目の前に現れて拳銃をメリケンサックの要領で持ち、殴る。その時に理子は体をずらしたため、腕に当たったが威力は健在。腕が吹き飛ぶように宙に上がるがその時に撃った銃弾が俺の頬を掠り血が頬を流れる。

 

「血だ、血だァァァァァァァァァァァァァァァァッッ‼」

 

口で力強く咥えているため、くしゃくしゃになって中身の葉が口の中で拡散している。

それをまだ治っていなかったのだろうか、いとも簡単に俺の口に流れてくる血反吐と一緒に飛ばす。

コルト二丁を理子に向けて引き金を引く。

そして至近距離に侵入し、マガジンが無くなるまで撃つ、撃つ、撃ちまくる‼

銃弾が切れ、空になったマガジンを自重で落してマガジンホルスターに入れてある残り6つのうちの二つを挿入する。カシャンとスライドを引いて銃弾を送る。

理子がワルサーP99の銃口が放つ9mmパラベラム弾が俺を襲うがそれを俺は腕を交差させて防いで、ただ進む。接近して足をかけて背中を思いっきり地面にぶつけて肺の空気を強制的に吐き出させ、俺は理子の腹目掛けて引き金を引いた。

 

「ゴフッ……」

 

ついに血を吐いた理子が息も絶え絶えになり俺に目線を合わせる。

 

「さ、流石灯央家の人間……パトラの宿敵……‼」

 

その言葉に俺は驚き、『送り者』が解ける。

『送り者』は極めて純粋で、その心にまた違った感情が入るとすぐ解けてしまう。

それにこれを発動した後は筋肉が軋みほとんど動けなくなる、俺はその状態の発動時間が少なかったために今はそれほどでもないが過去1時間発動していたら三日間寝込んだ。そんなめんどくさい能力だ。

それより……

 

「理子、テメェ……パトラを知ってるのか……?」

 

「知ってるよ、バッチリ……ね‼」

 

倒れていた理子が再度ワルサーを構えて俺の左脚を撃つ。

その威力に負けて俺は足がだるま落としのように後ろに跳んですっころぶ。

 

「痛――――――ッ!」

 

「パトラ、ひおっちの御家をぶっ潰した張本人。砂礫の……魔女」

 

「ねえ、和久。伊・Uに来ない?」

 

「……俺は、犯罪集団の仲間入りするつもりはない」

 

なるものか、俺の両親や従兄弟たちを殺した犯罪組織の一員になど。なるものか……!

 

「そう……残念!…………自分の力でここまで来たことに感服して一つ教えてあげる。理子はね、理子の本名はね『理子・峰・リュパン四世』」

 

リュパンってまさか、コイツ。フランスの大怪盗アルセーヌ・リュパンの子孫だって言うのか⁉

あ、あぁー。そういうことか、納得いったよ。推理が終わった。コイツ、理子・峰・リュパン四世は……

大怪盗と対を成す名探偵、シャーロック・ホームズの子孫である神崎になにかしら対抗意識がある。ってところか……

 

「けどね、家の人間はみんな理子を『理子』とは呼んでくれなかった。お母様が付けてくれたこのすっごい可愛い名前を。呼び方がおかしいんだよ」

 

呼び方?

 

「四世、四世、四世さまぁ‼いつも私を家の皆はそう呼んでた。使用人までも、ひっどいよねぇ……」

 

そうか。理子は……

 

「あたしは数字か⁉アタシは理子だ、ただのDNAか⁉あたしは理子だ‼数字じゃない‼」

 

自分を見つめてほしい、ありのままの。峰理子という女の子を見つめてほしい只の女の子ってわけだ。

アルセーヌ・リュパン四世として生まれてきたが故に峰理子というリュパン家の名に縛られない、可憐ないつも笑顔を見せると言っても大馬鹿者の『自分』を見てほしかった。

だから――――

 

「だから私は今日曾おじい様を越える‼越えなければ一生私が私じゃなくなる‼『リュパンの曾孫』として扱われる‼」

 

けど、すごいプライドは高くて誇りは持ってて。

そのプライドが、自分を追い詰めて……リュパンという世界中の誰もが知るという知名度が故にその鎖は異常に硬くて。

 

「だからイ・ウーで手に入れた力でッ‼捥ぎ取った力で‼――――あたしは掴み取る‼あたしがあたしたる為に‼」

 

スゲェよ、理子。

 

「百年前、曾おじい様……アリアとあたしの曾おじい様たちの対戦は引き分けだった。だから、アリアを倒せば私は曾おじい様を越えられる‼」

 

俺はお前に惚れそうだ、マジで。

 

「そんな事言われたら、惚れちまうだろうが理子。応援せざるえないじゃないか」

 

今も撃たれて痛む左足を我慢しながら起き上がる。

 

「俺はこの前峰理子と、『理子』と友達になった灯央和久だ。よろしくな『理子』」

 

「……え?」

 

「めんどくせぇから、一発神崎と撃ち合ってこい。キンジも出るかもしれねぇがそこは勘弁な」

 

「ひ、ひおっち?」

 

「よろしく頼むよ『理子』終わったらどっか遊びに行こうか、『理子』」

 

「ふ、ふぇ……」

 

「ってことで、俺は寝る。頑張れよ『理子』」

 

「うん!」

 

最後に俺敵になんで応援してんだ、と悪態を心の中で付き俺はその場で気を失った。

どうやら久し振りの『送り者』の使用で精神的に疲労してしまったらしい。

だが、理子の本当の笑顔が見れた気がしてよかった。いつも学校で見せているような作り物だろう笑顔じゃなく、心の底からの笑みを。見れたような気がした、アレが嘘だったらアイツの本当の笑顔はどんなに可愛いんだろうな、そう気を失ってもなお考えていた。そして俺の意識は完全に切れた。

 

「――――おい!起きろ!」

 

肩を揺すられる。

 

「――――おい、カズ‼」

 

「ん……?」

 

目を覚ますと其処はワイン瓶が散乱する一階のバーだった。

紫色のワインが俺の真っ白のワイシャツを紫に染める。

 

「お前絶対『送り者』使っただろ?アレ俺のヒステリアモードよりヤバいんだから使う時は気を付けろよ‼」

 

ハッと意識を覚醒させる。

まずは状況確認、俺は理子との対戦で『送り者』を使った。

それで精神疲労して……寝たんだっけ

 

「で?今の状況は?」

 

「本格的にハイジャックの開始だ。武偵殺しだった理子……まあ知ってるだろうけど、アイツは俺達の対戦後に此処の壁を爆弾で破壊して逃走した。逃走方法は、あの改造制服……パラシュートにすることも可能だった。そして理子はあの後嬉しいことにミサイルも撃ってくれたよ。四つあるエンジンのうち、翼の内側が一基づつやられた。今は『アリア』が麻酔銃で眠らされた機長と副機長の代わりに操縦してしてる!」

 

「了解。それとキンジ、今。なってるな(・・・・・)?」

 

「ああ、なっているさ。人生で一番熱いヒステリアモードに……」

 

「神崎とキスでもしたか?『独唱曲(アリア)』とも呼んでいるあたり……」

 

じとーっとキンジを見る俺。

 

「あ、ああ。まあ……な」

 

頬を搔きながら顔を赤くするキンジに吐気を覚えながら、俺はくらくらする頭を押さえながら立ち上がる。

 

「コクピットに行くぞ。無事にこの機体を着陸させて……武偵としての役割を果たす」

 

「ああ、重々承知だよカズ」

 

俺等は走ってコクピットに向かった。

操縦桿は小さいながらも神崎が必死で抑えていて、600便の飛行体勢を平行に維持している。

さっき理子が爆弾で開けたであろう穴から見ると、外の天候は最悪。

視界も悪く、視認ではほぼ確認は不可能。

 

「遅い!」

 

犬歯を剥きながらそう言う俺に、今回は調子に乗るなよ、とは言えない。

というよりそんなコントを繰り返している暇はない。

 

「おい、神崎。お前飛行機操縦したことあるのか?」

 

一番確認したかった事だった。

 

「な、ないわ。セスナならあるけどジェット機何て操縦したことすらない」

 

俺の姿を見てヒクッと顔を引きつらせる神崎を横目で見て苦笑しながらも俺は煙草に火をつける。

すまないが、俺は煙草を吸わないと落ち着けなくてな。

 

「ふー…………。羽田コントロール(管制)との連絡は?」

 

「今来た‼」

 

『――31――で応答を。繰り返す――こちら羽田コントロール。ANA600便、緊急通信周波数127・631で応答せよ。繰り返す、127・631だ。応答せよ――――」

 

俺はその計器盤に備え付けられたマイクをONにする。

 

「――こちら600便だ。当機は先ほどハイジャックされたが、今はコントロールを取り戻した。現在乗客全員安全を確認したが、機長と副機長が負傷した。現在は乗客の武偵3名が操縦している。俺は東京武偵高所属灯央和久、他二名は遠山キンジと、神崎・H・アリアだ」

 

俺はそう言い終わるとキンジと通信相手を代わる。

今はヒステリアモードのキンジがリーダーを務めた方が効率がいい。

 

「東京武偵高所属、遠山キンジだ……」

 

さて、俺は……っと。先ほど通り過ぎた時に機長のポケットから借りた衛星電話を手に取り操作する。

この衛星電話は、一度人工衛星を通して地上の電話と繋ぐため、何処からでも、どんな速さでも繋げることができる。その電話回線もスピーカーに繋いでキンジに聞こえるようにする。

 

「誰に電話してるの?」

 

俺はその問いを無言でスルーし、コールする。

そして、繋がる。

 

『もしもし?』

 

「武藤か、俺だ。灯央和久だ、変な番号からですまんな」

 

多分この番号から携帯にかかってくるのは人生最後だろうな。

 

『か、カズか⁉今どこにいる‼お前の親友とその親友の彼女が大変だぞ!」

 

「安心しろ、俺もその大変な所に居るところだ」

 

武藤兄だ、俺のキンジを抜くと数少ない男の親友。

 

『ちょ、おまっ!何やってんだよ……とは言えないくも無いな。キンジの事となるとバカみたいに必死になる馬鹿だもんなお前は、本当にこんな親友が居てキンジは幸せ者だ』

 

表現が妙に苛立ち気持ち悪いことは置いておいて……

神崎がキンジの彼女と言われて赤面してキンジに口を押さえられてさらに顔を赤くするのも置いといて。

 

「もう知れ渡ってたか……乗客の誰かが通報したな?――――――チッ」

 

今の舌打ちは当然この事件が終わった後の事についての苛立ちだ。

 

『……ANA600便、まずは安心しろ。そのB737‐350は最新技術の結晶だ。残りのエンジンが二基でも問題なく飛べるし、どんな悪天候でもその長所は変わらない』

 

管制の声に少し安堵する。

 

『それよりカズ、破壊されたのは内側の二基だって言ったな。燃料計の数字を教えろ。カズは場所知ってるよな?』

 

「ああ、お前に酒飲ませたときに嫌というほど聞いたさ」

 

俺はEICAS(アイキャス)、中央から少し上についている四角い画面で二行四列に並んだまるいメーターの下の三つの目盛の真ん中のTotalというところを見る。其処が武藤曰く燃料計だという事らしい。

それは、結構まずかった。

 

「540、少しづつ減っているな。クソが」

 

『ああ、やばいな。盛大に漏れてやがる‼』

 

「どれくらいもつんだ武藤?」

 

キンジが武藤に問う。

 

『残量はともかくとして、漏出のペースが速い。言いたかないが……15分てとこか』

 

15分、短いな。

 

「カッ!流石最新技術の結晶だな」

 

後で絶対に管制に愚痴ってやる。

 

『羽田に引き返せカズ。もう呑気に煙草を吸ってる暇なんてねぇぞ』

 

何故わかったと聞きたいが後にしよう。

 

「まぁ、元からそのつもりだ。な?神崎」

 

「そ、そうよ……」

 

随分と俺に対してはまるくなった神崎、結構気持ちがいいものだ。

 

『――――ANA600便、操縦はどうしているのだ?自動操縦は決して「もうとっくに切れてるわよ馬鹿管制‼」す、すまない』

 

どうやら他人に対しての威勢はまだ健在のようだ。

 

「――――という訳で、着陸方法を教えてもらいたいんだが。やるのはキンジだが」

 

『すぐに素人が同行できるようなものではないのだが……現在、近接する航空機との緊急通信を準備している。同型機のキャリアが長い機長を探して……』

 

「時間がないんだ、近接する全ての航空機との通信を同時に開いてほしい。できるか?」

 

『い、いや、それは可能だが……どうするつもりだ」

 

「手分けさせてキンジに教えろ‼武藤、今のキンジはあの気色悪いキンジだ‼わかるか⁉」

 

『気色悪い……あぁ、あのキモいキンジか‼』

 

キンジは少々涙目である。

そしてキンジは言葉通り、聖徳太子の如く同時に喋る11人の言葉を聞きどんどん飛行機の着陸方法から計器の読み方まで軽く使えるようになった。

現在の高度は1000フィート。東京タワーより低い高度を飛んでやがる。

燃料が持つ時間は後10分。

 

『ANA600便。こちらは防衛省、航空管理局だ』

 

野太い声が聞こえる、日本政府の登場だ。

 

『羽田空港の使用は許可しない。空港は現在、自衛隊により封鎖中だ』

 

『何言ってやがんだ‼』

 

即座に怒鳴り声を上げたのは武藤だった。

僅かしかない燃料では羽田以外の空港への着陸は不可能と意見したが『防衛大臣の決定だから』という理由で却下される。そして、俺の窓の横からコォォォ……とこの600便とは違うエンジン音が聞こえる。キンジも聞こえたようで、俺と反対の右を、俺は左の窓を見ると……

 

「おっとォ?アンタのお友達が居るんだけど、これはどうしてかなァ?」

 

『それは誘導機だ、誘導に従い千葉方面に「行ける筈ないよな?お前等は俺達に黄泉に行けとでも言うのか⁉」…………安全な着陸地まで……』

 

俺はそれを聞いた瞬間防衛省との通信を切断する。

此奴等クソだぜ、俺等を殺そうとしてんだからよォ

 

「ちょ、ちょっと和久何切ってるの⁉」

 

「いいんだよ、お前も少しは推理しろ。そこのイーグルちゃんは俺等が海に出た瞬間ミサイルでドッカーンするつもりだぞ」

 

「なっ⁉」

 

「キンジ、何かいい案あるか?」

 

「武藤」

 

『なんだ⁉』

 

そわそわしているのが通信越しでもわかる。そりゃあそうだ、この機体はあと七分で燃料が尽きるのだから。俺が煙草を吸ってたらすぐ起きる時間だ。

 

「滑走路はどれくらいの長さが必要だ?」

 

『ボーイング737‐350エンジン二基なら……まあ、2450Mは必要だろうな』

 

「今の風速は分かるか?」

 

『風速?レキ、学園島の風速』

 

『私の体感では、五分前に南南東の風・風速44.02Mです』

 

さすが天外、遂に風速測定機も必要なくなったか。

尊敬通り抜けて狙撃科のやつは崇め始めるぞ。

 

「武藤、風速41Mに向かって着陸すると?」

 

段々とキンジの考えていることがわかったぞ。

 

『まぁ……2050ってとこだ』

 

「おいキンジ、お前もしかして……」

 

「ああ、その通りだよカズ。当機は人口浮島の『学園島』ではなく『空き地島』の方だが……。人口浮島の形は、南北二キロ、東西500Mの長方形、対角線を使えば2061Mまでとれる」

 

「もうその頭脳に気持ち悪さを感じるな」

 

「それは、本当にやめてくれ」

 

「それじゃあ、貴希を呼べ武藤」

 

『貴希?なんでだよカズ』

 

「いいから」

 

さて、貴希には……

 

『変わったよ、なに?和久』

 

「貴希、お前俺の戦徒(アミカ)になりたいって言ってたな」

 

『……うん』

 

「それじゃあ試験だ、今から5分以内にその空き地島に車でもなんでもいいから誘導灯代わりにあるものを置きまくれ、それ俺が落ちて死んだら試験は失格。生きてたらアミカにしてやるよ」

 

「そ、それプレッシャーヤバくないか?」

 

キンジが何か言ってるが知らん。

 

「俺の戦徒になるんだろ?それくらいやって見せろ、武藤も手伝えよ。というか武偵高の奴らほとんど手伝え。死んだら一生恨む、お前等がニコ中になるように呪ってやる……できるな?貴希」

 

『……あったりまえじゃん!やるよ、お兄ちゃんも、車両科の皆も‼』

 

おおー‼っと武偵校にしては珍しい統一性を見せている生徒たち。

 

『しくじったら、轢いてやるからな‼』

 

電話越しでわかる、コイツ泣いてるぞ。

 

「気持ち悪いからせめて女子の泣き声を聞かせてくれ」

 

『轢いてやる‼』

 

そして通信は途切れた。さて……

 

「キンジ、やれ」

 

「プレッシャー掛けるなよ」

 

「ったく、こんな所で心中したくないしな。俺にはやるべきことがたくさん残ってるんだ」

 

「それは俺も同意だ、今日は興味深いことも聞いたしね」

 

多分、理子が金一さんの事を言ったのだろう。ということは金一さんは生きている可能性が高まった。それだけで二人の生きる精力は確実に上昇していた。

 

「さて、この真っ暗の闇の中どうやって着陸するか」

 

俺が言った任務は、まだかかっているようだ。

 

「あと一回だけ、旋回できそうだか『和久ァァァァァァァァァッ‼』あ?」

 

電話回線では貴希の大人びた声が俺の耳に直接入る。

その瞬間、キラキラと光が、米粒のような光だが闇に道が灯される。

 

「いいじゃん、綺麗じゃねぇか。よくやった貴希‼お前が俺の戦徒になるまであと50%だッ‼」

 

「行けそうだッ‼」

 

操縦桿を握るキンジの手が震える。

 

『装備科から一応アイラ先生から許可貰って馬鹿デッカイ懐中電灯と、車両科からあるだけモーターボートをパクって来たよ!これで失敗したら和久の墓蹴り飛ばしてやるんだから‼アイラ先生はカズヒサのロッカーに入ってる金盗るって‼』

 

「おいおいおいおいおい⁉この放送絶対蘭豹とか綴とか聞いてるよなァ‼」

 

俺の金が……人外に食われた。

 

「もうすぐ着陸だっ‼どっかにつかまれカズ‼立ってるとした噛むぞ‼」

 

俺はその言葉通り、折り畳みの椅子を開いて座ってシートベルトを二重にしてかける。

締め付けすぎて逆に痛い。

 

『和久とか、キンジが死んだら泣く人がいるんだよ‼私はキンジがどうなっても知らないけど、和久が死んだら墓蹴るよ‼』

 

何ちゅう信条だよ貴希。

 

『あ、見えてきたぁ‼』

 

どうやらあちらさんからも見えたらしい。……一応言っとくか

 

「やっぱり言うわ‼俺がもし死んだら煙草は綴に、酒は蘭豹にやる‼金は……好きに使いやがれ‼通帳は……自分らで見つけろや‼」

 

「『……………………』」

 

一瞬で応援などで騒がしかった回線が静かになり、キンジと神崎もええーという顔になっている。

そんなグダグダな雰囲気のまま、ANA600便『空き地島』に強行着陸。

機内を途轍もない揺れが襲い、危うく舌をかみそうになった。

 

 

 




次話から二巻の『燃える銀氷《ダイヤモンドダスト》』に入ります。
章名は『猛犬と氷の魔女』です。

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