緋弾のアリア~二丁拳銃の猛犬~   作:猫預かり処@元氷狼

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Re:EpisodeⅠ‐Ⅺ

――――――――――――蒼穹で飲む極上の酒。

 

 

 

 

 

 

 

全治二週間のため、俺は傷が完治してもなお病室で一人さびしく酒を飲んでいた。

医者も俺の回復速度の速さに驚いて、認めたくないらしい。まぁ酒が飲めるからいいのだがあと一週間と四日。病室で寝ているというのも嫌だ。

 

「あぁー煙草を吸いに行くか」

 

小さいテレビの横に置いてある煙草を取って入院衣のポケットに入れる。

ライターが切れかけていたので喫煙室に行くまでの途中の売店で買った。薬の投与も無いので、手ぶらで行動できる。

 

「ふー…………」

 

白い煙が俺の口から広がり、上の換気扇に入っていく。

 

「さてと、行きますか」

 

俺の入院衣の下にはコルトカスタム二丁が隠してあり、85000の時計もすでにつけてある。

 

「脱走だ」

 

ついに我慢できなくなった俺は、入院衣のまま病院の中を疾走。俺は武偵病院を脱走した。

まず向かうのは俺の愛車ナイトロッドのもと。最後に乗った時は女子寮のど真ん中、それを貴希が移動してくれて現在は武偵病院の駐輪場においてあるらしい。鍵もすでに持っている。

ちなみに。病院には50万の小切手を置いてきたので……大丈夫だろう。

ナイトロッドはすぐに見つかり、俺は急いでエンジンをかけてアクセルを踏む。

ブォォォォォォオッン‼と久し振りのエンジンの轟音が俺の耳に入り、テンションが最高潮だ‼

 

「ヒィッヤッホゥッ‼‼」

 

久し振りの外‼久しぶりのこのスピード‼気持ちよすぎる‼

その後俺は30分ほど学園島をツーリングして、男子寮に戻ってくる。

よく考えれば今の俺の格好は入院衣にヘルメット。なんとシュールな光景だっただろうか……

ヘルメットを外して誰かに見られないように寮室に向かう。

あれ……?そう言えば鍵……

ドアノブを捻ってみると……開いた。

 

「き、キンジー?」

 

中に居るはずのキンジの名前を呼ぶ。

…………返事はない。

リビングに入って、横を見るとキンジの死体が転がっていた‼なんて事も無く、誰もいなくきれいに整理されている部屋だ。

 

「ああー、眠い……寝るか」

 

俺はそのまま入院衣のまま寝た。久し振りの運動で疲れたのか数秒で眠りについた。

そして、俺は夢を見た。それは俺達の一族、『灯央家』がある女によって滅亡させられる夢……

その時俺は八才だった。その時既に俺達遠山キンジと星伽白雪の幼馴染三人組は結成していた。

昔から灯央家と遠山家は犬猿の仲、の様なもので例えば関ヶ原の戦い。この時は俺の家である灯央家が豊臣軍勢、西軍で遠山家が徳川勢の東軍だったり。そして灯央家の祖先は平家に位置し、遠山家が源氏に位置したりと昔から反対の道を歩んできた。だがそれも戦国の世、江戸時代まで。明治に入るにつれ、灯央と遠山は争いも無く只の中の良いお家同士となった。それが今の俺達だ……星伽家は星伽神社を守る家で遠山家とも縁が深い家と言われている。それは後にまた出てくるだろう。

灯央家は遠い昔、平安時代の時にある『怪の獣』と契約を交わしたという。その怪の名は『送り犬』山に入った人間の後ろに付き、其の人間が転んだりすると噛み殺すが、なにか献上品を差し出すと守ってくれるという怪。俺にはその怪の血が流れているのだ、とても強力な血が……そう親父はよく言っていた。

今思えば、その血がその夜の忌々しい魔女の手によって起きた灯央家断絶をまねいたのではないか、俺はそう思う。砂漠の黄金の砂を操るその魔女は片っ端から俺の親族を、俺の親父を、母さんを殺していった。そして俺は決めた。武偵になってアイツを殺すと……今ではそれもどうでも良くなり、装備科へ転科したが天の導きだろうか、俺を強襲科に戻してその魔女を殺せと言うのだろうか。

まだ夢は、あの日の夜の事が鮮明に、俺の実家や庭の池、その日満月でその月が煌煌と輝いていたことも鮮明に……砂に握り潰され血を吹きながら即死していく叔父や叔母、そして従兄の兄たち。…………武偵であった親父とおふくろが俺を守るように俺の前に立ち、銃を撃ち続けていたことも。

そして俺の目の前で、砂の剣に身を串刺しにされて死んだことも。

俺は、親父とおふくろに隠されていた砂で崩れた瓦礫の中。金一さんが、あの時まだ小学生だった金一さんに、見つけられるまで目の前で親父とおふくろを殺されたことのショックで、気を失っていた。

 

「ハァ……ハァ……ハァ…………‼」

 

目を覚ますと俺は汗で着ている入院衣が濡れて朝の涼しい風が肌に当たり鳥肌が立っていた。

 

「シャワー……浴びるか」

 

汗で濡れた入院衣を脱いで風呂場に向かう。リビングのドアを開けた瞬間。

 

「お、起きたのかカズ」

 

目の前にキンジが居た。

 

「おわっ‼ビックリさせんなよ、馬鹿野郎」

 

心臓とまるかと思ったぜ、帰ってきてるなら起こせよ……

 

「すまん、風呂入るんだろ?」

 

「ああ」

 

シャワーの温度を少し高めにして、汗を流す。

さて、終わったらキンジに聞いてみますか。昨日何があったのかを。

アイツは何か自分に衝撃的なことがあった時は異常に落ち着いている、それも分かるほど。

ヒステリアモードのときの様に落ち着いている、推理力が高くなるとか戦闘力は高くなるという物ではなく、只、落ち着いている。いつもならさっきの場合。

 

俺が扉を開けるとキンジが前に居た。

 

「起きたのかカズ!お前どうしてここにいるんだよ‼病院じゃないのか⁉」

 

で、俺が「落 ち 着 け」となるのだがさっきのキンジは「お、起きたのかカズ」だ。落ち着き過ぎにもほどがある。多分昨日俺が帰ってくる前に何かしら起きたのだろう。『神崎関連』の事が。

汗を流し終えて、シャンプーとリンスで頭を洗い体をボディーソープで洗ってシャワーを最後にもう一度かかり、外に出てタオルを腰に巻きつけてリビングに行く。キンジはキッチンで俺の代わりにカップヌードルを作っている。それにタオルで頭を吹きながら隣の部屋に行く。今日は私服だ、さっき携帯を見たら綴からメールが来ていた。内容は『いつもの場所に来い』だ。いつもの場所、挙げるには二つある。いつも蘭豹と綴と俺で飲みまくってる尋問室。そして六本木で経営している俺もよく煙草のまとめ買いに行く煙草専門店兼バーか。さて、これはどっちだろうか?推理したいが判断材料がないため俺は先ほど綴に返信した。

そして今「ヴーヴー」とバイブが鳴る。メールを確認すると『バー』とだけある。どうやら六本木の様だ。

私服に着替え終わり、もう一度『了解』とだけ返信してリビングのソファに座る。

 

「ん?カズ今日学校だぞ?はい、三分」

 

「ああ、知ってる。ん、どうも」

 

「んじゃなんで?」

 

「綴に呼ばれた、今日は尋問科(ダギュラ)の奴等天国だぜ?学園島にすら綴がいないんだから」

 

「お前……もうツッコまねぇよ」

 

「そうしてくれ」

 

そして二分待ち、早めにふたを開けて食べる。

俺の早食いが発動して一分で食べ終わり、割箸とカップをゴミ箱に捨てていつも通りホルスターを両足に付けて銃を入れる。そして煙草をファージャケットの左胸ポケットに入れてナイトロッドの鍵を取り、ヘルメットを持つ。そしてレインコートと黒い折りたたみ傘をバックに入れる。

 

「それじゃあ行ってくる」

 

「ああ、行ってら」

 

もう神崎に見つからないように移動するのも楽になり、駐輪場に向かう。

いつも通り暴風、防水カバーが掛けられているナイトロッドのカバーを外して鍵を挿入。エンジンをかける。

 

「カズヒサ、何してるの?今日学校よ」

 

甲高いアニメ声……捕まった。

 

「関係ないだろ、学校には連絡してある」

 

「…………あたし、今日ロンドンに帰る」

 

「あっそ」

 

「…………奴隷のくせに」

 

「なんだよ、俺に止めてもらいたいのか?だったら諦めろ。俺はお前に言う事もやることも一つもないさ。やるのはキンジ、アイツだ」

 

俺はついにその姿を確認せず、ヘルメットを装着しアクセルを踏んだ。

今日は風が強い曇り、だが朝から嫌な悪夢を見て心も曇りだ、強風付きの。

学園島を出て、六本木に向かう。煙草屋兼バーの場所はもうすぐだ。

こんな時間に此処にいるのは社会人か一般高校に通う学生だけだが、俺は気にせずナイトロッドを走らせる。すこし薄暗い路地裏に入り、ちょっとヤクザっぽい人たちに挨拶する。

一応ここ等を縄張りにしてるヤクザさんは知り合いとなっている。結構情報網広いから強襲科時代は情報を聞いていた。そのため挨拶をちゃんと返してくれる。

路地裏を少しナイトロッドを押しながら進むと、路地裏にしては明るい黒い建物が見える。これが煙草屋とバーを経営している名がないため『ジョン・ドゥ』と常連たちからは呼ばれている。

ナイトロッドを手前の駐輪場において扉を開ける、カランと扉の鐘が鳴る。

 

「……いらっしゃい」

 

出迎えるのは此のバーの三大名物の一つ、無口の店主。

 

「うっす、マスター…………いる?」

 

「……ええ、二階に」

 

俺はその言葉通り喫煙室である二階に行く。

其処には三人ほど男が積み重なり、それを足で踏みつけている綴が居た。

どうせナンパでもしようとしたのだろう、哀れな。

 

「何してんの、てかそいつ等……おい御三方」

 

「痛っっ……って」

 

「イテェ……って」

 

「すみませんすみません……って」

 

『和久じゃねぇか‼』

 

この三人はここ等を締めてるヤクザの幹部さん。

特徴的で一人は俺よりは茶色が入ってる赤い髪、そして青い髪、金髪がいる。

 

『まさか……コイツ和久の……すんませんしたァ‼』

 

三人は稲妻の如く速さで走って行った。

 

「なんだァ?あいつ等灯央の知り合いだったのかァ?」

 

「一応ここ等締めてるヤクザの幹部」

 

「へぇー……」

 

俺は煙草を取り出して、火をつける。

 

「ふー……で?分かりましたかな、綴先生?」

 

「あァ……、ワトソン家はちょいと危ないなァ」

 

危ない?

 

「灯央は伊・Uは知ってるかァ?」

 

「知らんな」

 

「そうかァ……そこは昔から危険だ危険だ騒がれてきた組織なんだよォ……」

 

「へぇー。そこにワトソン家は関係していると……」

 

「そういう事ォ……めんどくさいから厄介ごとは起こすなよォ?」

 

「どうだか」

 

危険危険騒がれてるんだったら、灯央家を殺ったやつを知ってたりするかもしれねぇしな。

 

「ハァ……まあいい後は……」

 

その後はバスジャック関連の事を聞き、今度飯食いに行く約束をした。

俺の預金がゼロになる事を予想したのは無理も無い。

綴が学園島に帰った後も、俺は煙草をそこで吸い続けて頭の中を整理する。

綴がバスジャックで予想したことは三つある。まず綴が注目したのは『金一さんの事件』だった。綴自身も遠山金一は知っていた。船で死んだことも、そしてこの船が事故では無いとも推測していた。理由は二つ、一つ目は『可能性事件』という物、『武偵殺し』が犯人であるかもしれないが、隠蔽工作によって事故とされている事件の事だ。

これは『浦賀沖海難事故』にも言いあてはめることが可能だという説があった。要するに金一さんが死んだのは武偵殺しの手によるという事。

二つ目は時期、もし今でも武偵殺しが今捕まっている神崎かなえではない場合、捕まった後に起きたシージャックは『武偵殺し』の手によるものだと証明できる。

 

「武偵殺し……」

 

そして綴は最後の一つを推理した、武偵殺しの法則性だ。

そもそも武偵殺しは最初はバイクジャック、次にカージャックと連続的に殺っていった。

もし神崎かなえが犯人ではないのならシージャックも武偵殺しの仕業となる。ここでまず武偵殺しは影をひそめた、あくまでこれは神崎かなえが犯人ではない場合だ。そしてまた始まった、キンジのチャリジャックだ。ここから俺達は巻き込まれた。次にバスジャック、俺等はこれを解決した。

ここで、一つの法則性に気が付く奴はいる。綴みたいな人外がそうだ。この武偵殺しのターゲットは徐々に対象が大きくなってきているという事だ。最初はバイク、自動車、船。で、俺達が関係してくる自転車、バスだ。そう考えると、武偵殺しはもう一度ジャックを起こすと推理できる。此処までが綴の推理だ、あとは自分で考えろと言われた。俺はもうわかってはいるが。

そのターゲットとは、武偵殺しに執着し、逮捕しようと暴れる女。そう神崎・H・アリアだ。神崎は最初から武偵殺しの掌で踊らされていた。何かしら武偵殺しは神崎に執着を持っているのだろう。

俺はそこで推理を止める、バーには相当長い時間いたようで時間は現在6時30分。

俺のポケットに入っている携帯がなる、電話だ。

 

「よう、キンジ」

 

「ああ、カズ。ヘルプだ」

 

「了解、今六本木だ。有料道路を通っても25分はかかる」

 

俺は上着を羽織り、ハーレーの元に向かう。

俺のハーレーにここらへんにいるのかはしらないが不良が集っていたので適当に蹴り飛ばして跨る。

 

「テメェ‼」

 

俺は銃を取り出してその不良の横を撃つ。

 

「人の愛車に触ってんじゃねぇよクズが」

 

ついでにもう一発。

 

「ここにくんじゃねぇぞ餓鬼が‼」

 

たいして年は離れてないけどなー

そしてその四人の不良は土下座する。

 

「「「「すんませんしたァッ‼」」」」

 

俺はそのままアクセルを踏む。

 

「芝浦ふ頭まで来れるな⁉」

 

『了解!』

 

武偵殺しは今日、ロンドンに帰る神崎が乗る綴が教えてくれた7時のチャーター便を狙って神崎を殺す!

携帯を仕舞い、ヘルメットをかぶり俺は路地裏を抜けて大通りに入り車の間を抜けて警察に追いかけられながら俺は速度を上げた。芝浦ふ頭についたのは6時40分。ギリギリってところか、キンジが先にいて俺が着いた瞬間後ろに乗る。

 

「行くぞ、ヘルメット無いからしっかり捕まってろ‼」

 

「おう‼」

 

さて、残り20分で便は離陸する。日本は外国みたいに遅れることはほとんどない。

今日はこれから台風が東京を襲うから台風が来ないうちに東京から離れたいと機長も管制も思ってるだろうしな。風もさっきより確実に強くなってきている、台風が近づいてきている証拠だ。

6時58分に俺のハーレーは羽田の駐輪場に付いた、盗まれるのは嫌なので一応鍵はしてある。

先に行っているヒステリアモードが解けているキンジを追いかける、途中の税関は武偵徽章を見せてスルー。そして神崎が乗っているだろう7時発のロンドン行きANA600便・ボーイング737-350、ロンドン、ヒースロー域に飛び込んだ。前にはキンジが強襲科を止めて減った体力を出し尽くしたのか息を吐いている。

そして俺等の後ろのハッチが閉まる。

 

「おい、キンジ」

 

「……ハァ、ハァ、なんだ」

 

「止められなかったのか?」

 

「ああ、これからロンドン行きだ。ロンドンで遊ぶか?」

 

そう言って苦笑するキンジの後ろに小走りで走ってくるアテンダント。

 

「か、神崎様のお部屋に。あ、案内します」

 

俺の方をちらっと見たアテンダントにキンジが仲間だと言うと、そのアテンダントは前を歩く。

周りを改めて見渡すとこの飛行機は普通の飛行機とは明らかに違う構造をしていた。

一言でいうと……豪華。ものすっごい豪華だった、一回は広いバーになっていて高そうなワインとかシャンパンとかが置いてある。飲みたいという衝動に狩られるがここは我慢してアテンダントに付いて行く。

そして着く、スイートルームだ。流石貴族の中でもDeamの称号を持っている貴族でシャーロック・ホームズの曾孫だ。その扉から豪華な扉を容赦なく開けるキンジ。

 

「……キ、キンジとか、カズヒサ⁉」

 

「流石貴族様だな、これ片道20万ぐらいするだろ」

 

「バッカヤロウ、20万で乗れるんだったら俺此処に住む」

 

「ちょっと黙ってろカズ」

 

「へいへい」

 

俺は手を上げてふかふかの椅子に座り、これから起きるだろう戦闘のため銃のメンテナンスをする。

マガジンはさっきハーレーの中からあるだけマガジンホルスターに入れてきたからえっと……12個か。

 

「――――断りも無く部屋に押しかけてくるなんて、失礼よ‼」

 

「「お前にその台詞を言う権利はないだろ‼」」

 

初めて会ってその日の夜キンジの部屋に押しかけて来たのは何処のどいつだ。

神崎はうぐっ、と怒りながらも静まる。だが獅子の様にむき出された犬歯は健在だ。

 

「……何でついてきたのよ」

 

「「太陽は何故上る?月は何故輝く?」」

 

さて、そろそろ本気で気持ち悪くなってくる。どうしてキンジと此処まで考えていることが一緒なんだ‼

 

「うるさい!答えないと風穴開けるわよ‼」

 

「「同じ状況になると我儘か、ハァ……」」

 

ちょっとトイレ行きたい。

 

「武偵憲章二条、『依頼人との契約は絶対守れ』」

 

「ついでに武偵憲章八条『任務は、その裏の裏まで完遂すべし』もだな」

 

俺もうそう言うと神崎は頭にハテナを浮かべた様な顔になる。

 

「オレはこう約束した、強襲科に戻ってから起きた事件を一件だけ、お前と一緒に解決してやる――――――武偵殺しの一件はまだ解決してないだろ」

 

「一応その約束には俺も巻き込まれてる」

 

すると神崎はさっきより鋭く鋭利な犬歯を剥く。

 

「帰りなさい‼あんたたちのおかげで私はよ――――――くわかったの。アタシはやっぱり『独唱曲(アリア)』なの‼「おい独唱曲侮辱してんじゃねーよ神崎」な、何を‼」

 

「お前が独りぼっちなのは我儘、自分勝手、人の話を聞かない、この三つがあるからだ。『独唱曲(アリア)』という完成した素晴らしい歌のパートでもなんでもない。お前は独りぼっちなんだよ‼」

 

「おいカズ‼」

 

「世界で自分が一番不幸な人間とか思ってんじゃねぇぞ‼お前のパートナーが務まる人間なんてどこにでもいる、お前は弱いよ。お前より強い人間は何処にでもいるんだよ‼キンジも、俺も、白雪も勝てるな、簡単に。赤子を捻るように‼」

 

一回ここで言ってやらねぇと気が静まねぇよ

 

「俺はな、お前が嫌いだ‼自分が世界で一番不幸と勘違いしてな‼自分をアリアと名乗るのは……もう少し成長して自分の事を見つめられるようになってからな?」

 

あの時、俺と神崎が初めて会った教室で神崎の頭を掴んだ時と同じ目で、俺は神崎を見る。

「ヒッ」っとその時の事を思い出したのか神崎は悲鳴を上げて後ろに下がる。

 

「いいか?俺がここに来た理由はさっき言った武偵憲章八条『任務は、その裏の裏まで完遂すべし』とキンジがいるからだ。俺は神崎・H・アリアという人間がどうなっても知らない。俺は武偵憲章を破りたくないだけだ、契約者が死んだらめんどくさいし、お前の家『ホームズ家』が俺等に目を付けたりすると厄介だからなァ‼」

 

俺は一度深呼吸し、落ち着く。

 

「いいか、神崎。今からお前は意見を、勝手な行動はするなよ」

 

「は、はぃ……」

 

神崎を抑え、俺は満足して煙草をくわえる。俺は時々興奮すると周りに関係なく、副流煙とかそう言う決まりを破って煙草を吸うことがある。今がその時だ、そしてその興奮は俺を鋭敏にさせる。

耳を貫く様な稲妻の音と、光りが俺をシルエットの様に浮かびその光景を見た神崎が……泣いた。

 

 

 


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