Re:EpisodeⅠ‐Ⅰ
――――――――――――――物語は酒から始まる。
俺、灯央和久の朝は常に酒と煙草の臭いに包まれての起床となる。
寝ているソファの横にはビールの空き缶と煙草の空き箱、そして灰皿に大量において少しはみ出してしまっている吸殻が置かれている。部屋の中は酒の臭いと煙草の匂いで溢れ、如何にも健康に悪いを象徴する様な部屋と化している。
そんな学生である彼の部屋としてはおかしい部屋には後二つ、在ってはならない物がある。
それは拳銃、黒い銃が二つ灰皿の横に無造作に散らばった銃弾と一緒に置かれている。
もう一度言う、俺灯央和久は学生……今日から高校二年の何処にでもいる青年だ。
しかし高校二年と言っても俺は少し特殊な高校に通っている。
――――――東京武偵高校、それが俺の通う高校。
武偵高校とは何か、それは簡単に言えば『何でも屋』難しく言えば『近代凶悪化する犯罪に対抗するために政府が新設した国家資格』だ。
武偵は略語で正式には武装探偵と呼ばれ、武装探偵の資格を得た者は武装を許可され、逮捕権を有するなど警察とほぼ同じ行動が可能になるのだ。
東京武偵高校はその武偵の育成を任される教育機関、『犯罪者を狩る猟犬の訓練場』という訳だ。
武偵高は東京の他にもニューヨーク、ローマ、ウィンチェスター、香港など世界中に存在する。
「頭が……痛い」
昨日酒を飲み過ぎたからか、頭が痛む。
彼の横にはビール缶が20本ほど、少なくとも20缶は確実に飲んでいるようだ。
「…………水」
ふらつく足に神経を集中し、冷蔵庫に向かう。
開けた冷蔵庫には水が入っているペットボトルが数十本とビール缶が50缶ほど入っていた。
その中から俺は一本ペットボトルを取出し、一気に飲み干す。
すっかり眠気も覚め、二日酔いもだいぶましになって意識が覚醒していく。
時間を見ると7時30分、学校行きのバスは7時58分発……あと28分。
IHコンロの横に山積みになっているカップラーメンの一つを手に取り、やかんに水を入れてお湯を沸かす。お湯が沸くまでの間に、武偵高の制服に着替えて最近購入した液晶テレビの電源を付ける。
『7時半になりました、今日の天気は全国的に晴れです。降水確率は東京は10%、大阪は15%、名古屋は…………』
お湯が沸騰し、水蒸気が隙間から流れ出る高い音が二本目の水を飲む俺の耳に聞こえ、IHコンロの熱を止める、カップラーメンに熱湯を注ぎ冷蔵庫にマグネットで張り付けてあるタイマーを3分に設定して割り箸を蓋の上に載せてソファに持っていく。
『昨日午後5時頃、東京の渋谷の銀行で強盗が発生しました。犯人はその場にいた武偵に取り押さえられましたが、元米軍所属で銃を所持していたため、一人武偵が負傷しました。幸いにも命の別状はありませんでした』
そう、武偵とはそう言う物だ。命の危険や負傷など日常茶飯事。
依頼の中にはマフィアとの抗争に介入する物、暴力団からデッカイお屋敷を守るという依頼もしょっちゅう出てくる。その反対に猫探しなんてものもある。
『武偵はねぇー、私は反対なんですよ。成人ならまだ分かりますが小学生の武偵もいるというのは社会的に見て如何なものかと思いますけどね』
こういう認識の人もいる、というより日本の教育委員会要はPTAだが、その連中は武偵反対者がほとんどを占めている。理由は『未来ある少年少女を犠牲にする行為だ』との事。
俺等武偵からすれば迷惑極まりない行動だ、俺等は好きでやってるんだ。余計なことすんな、である。
テレビを見ている間に時間が来て、カップラーメンの蓋を開ける。
割箸を口で割り、一気に麺を口に吸い込むような速度でたべていく。俺の特技の一つでもある早食いだ。いつもの朝食、いつもの朝、それが何よりも充実している。
「美味い」
僅か1分と20秒ほどで食べ終えて、カップラーメンと割箸をゴミ袋に捨てる。
そのゴミ袋には同じように入れられた容器と割箸が30個ほど詰められている。
俺はそのまま歯を磨きながら机の上の煙草の箱を制服の内ポケットに入れて、そして両足にホルスターを付ける。机の上に無造作に置いてある二丁の拳銃、どちらともコルトM1911A1のカスタム銃だが一丁目はCQCカスタム『コルトコンバットコマンダー』そして二丁目が同じくコルトM1911A1のガバメントカスタムである『コルトガバメントM1911A1』だ。
其の二丁の拳銃をホルスターに入れてバッグを持って、二年登校初日の準備は完了した。
時間は現在7時35分、まだ時間は23分あるが初日早々遅れたくはないため俺は最後に冷蔵庫からビール缶を5本取出しバックに入れて、家を出てバスが来るバス停に移動する。その道中
「あ、カズ君?」
後ろから声を掛けられたので振り向いてみると、純白のブラウス。臙脂色の襟とスカート。
沁み一つない武偵高のセーラー服を着て、俺の方を見ている。
――――――――――星伽白雪。俺の二人いるうちの一人である幼馴染だ。
「白雪か、おはよう」
「おはようカズ君。早いね、バス来るまでまだ15分もあるよ」
「いいんだよ、早く来るのが趣味なんだ」
そう言って俺は制服のポケットから煙草を取り出して加えてコンビニで買ったライターで火をつける。
「コレも吸えるしな」
ふぅーっと白雪に副流煙が当たらないように煙を吐く。
「もう‼カズ君ダメだよ、未成年なのに煙草を吸っちゃ‼」
「なんだ?心配してくれてるのか?」
「当然だよ!幼馴染だもん……私カズ君には長生きしてもらいたいし…………」
「お前に言われなくても俺は元気に過ごしてるから、ほら。キンジの所に行くんだろ?」
キンジ、とは俺の白雪ともう一人の幼馴染である親友でフルネームは遠山キンジ。
白雪が恋している相手で、元俺の相棒だ。
「あっ!そうだった、ゴメンねカズ君。また学校でね」
そう言って男子寮に小走りで向かう白雪の背中を見つつ、入れ替わりで寮から出てきた男子二人に手を振る。二人も「おぉー!」と手を振り返し、こちらに向かってくる。
「おっす、カズ。昨日は飲んだなぁー」
武藤剛気、東京武偵高車両科二年所属の乗り物馬鹿である。
「おはようカズ君」
そしてもう一人の優男が不知火亮、東京武偵高強襲科二年所属の優等生。
「ああ、おはよう」
俺は煙草の煙を吐きながら、答える。
ちなみに武偵高には学科という物があり、一般教養の他に12の学科と2つ特別な学科が存在する。
俺が所属する
「朝から吸って、お前肺大丈夫か?」
「この前
何故だろうか、俺は高校には行ってからほぼ毎日のように煙草を吸い続けているが、健康調査ではいつも合格ラインを軽く超える診断を受ける。神からの授け物だろうか……
「「へ、へぇー」」
二人も呆れたように俺を見る。
「あ、そう言えばお前。今日は愛車じゃなくてバスなんだな」
愛車、というのは俺が乗っている相棒。ハーレーVRSCDXナイトロッドスペシャルカスタムの事である。当然免許はとっている。
「現在調整中だ」
一本目が終わったので、吸殻を携帯灰皿に押し付けて火を消して二本目に火をつける。
「俺が調整しようか?」
「いや、お前の妹に調整したいって頼まれてるんだ」
武藤には妹がいて、今日から一年に入学する。名前は武藤貴希、170㎝を越える長身でシャープな顔立ちをしている美少女というより美女の部類に入る後輩だ。
昔武藤の家に遊びに行ったときに会った。
「あいつが?……ったく、マジでご執心だな」
「そうだね」
「何が?」
「「いや、なんでもない」」
貴希がどうかしたのか?
まぁ、いいか……
「酒飲みて~」
「カズ君、昨日何本飲んだ?」
「20近く」
「だったら我慢しなよ……」
苦笑気味に言う不知火。
「嫌だね、酒は俺の生甲斐なんだ。我慢なんて……と思うが蘭豹に目を付けられたら面倒だ。ここは我慢しよう」
蘭豹とは、武偵高の女教師で不知火の強襲科担当教師である。
「お前この前、蘭豹に目付けられて酒飲みまくって酔ってお前が送っていったとか。あれホントか?」
「うん、それ強襲科でも噂になってる。あの蘭豹が生徒に飲まされたって」
まぁ、今の会話の通り蘭豹という教師は無茶苦茶だ。
アイツを表す四字熟語は……『無茶苦茶』だ、うん。
「ホントっちゃあ、ホントだ」
「マジかよ⁉」
「ああ、結構酒に弱いんだな蘭豹。12で沈んだぞ」
「カズが強すぎるんだ‼―――って、マジかぁーカズに逆にマーキングされたぞ蘭豹。クソオッ‼俺にもっと酒耐性ついてればモテるのに……轢いてやる‼」
「カズ君は大人殺しだからね」
「うっせ、モテとらんわ」
二本目も切れたので、灰皿に捻じ込み三本目に火を付ける。
ちなみに前テレビでやっていたのだが、たばこの煙に含まれる環境煙草煙、通称ETSにはニトロソアミン類という発癌性の物質が含まれるのだが、その煙は喫煙者が吸う煙、主流煙より。着火部分から出る煙、副流煙に多く含まれるらしい。要するに、どちらにしろ煙草の煙は周りの人間にあてるなっていう事だ。現在は風が人がいない方向に向いているため吸っているが、風向きが変われば俺は喫煙を止める。それが俺の決めているルール。
不知火と武藤の後ろに目を向けると、既に男子寮から続々と生徒が出てきている。
携帯で時間を確認すると、現在7時55分。あと3分だ。
「ふー…………」
最初煙草を吸ったときはなにこれ美味しいの?って思った俺だが、一日一回、吸い続けているとなぜかうまく感じてきた。慣れとは味覚まで変えるのか、そう感じた瞬間でもあった。
其れから俺はヘビースモーカーになってしまったが。
「あ?」
俺が目を列に向けていると、オロオロと白雪が寮から出てくる。
俺はこちらに目を向けた白雪に向かって手を振って、来るように言う。
「どうした白雪、キンジは?」
「き、キンちゃんは遅れてくるって。間に合うかなぁー?」
現時刻7時57分。バスが来るまで……ってもう来たよ。
「なんだ、キンジ初日から遅刻か?」
武藤がキンジの部屋の方を向いて言うが、あいつが寮室から出てくる気配はない。
「っぽいな」
「き、キンちゃん呼んでこようかな?」
「おい白雪、行くなもうバス着てる」
東京武偵高直行のバスがバス停に止まり、プシューという音を出してバスの扉が開く。
バスの中での喫煙は流石にやめた方がいいため、まだ吸えるが灰皿に押し付け火を消して入れる。
女子寮は男子寮の前なのでバスの中には女子生徒が既に座っている。車内にほぼ引きずるように白雪を乗せて、一番後ろの席へと向かうが、其処にはすでに先客が座って―――いや、寝ている。
「おい貴希。起きろ」
武藤貴希、武藤の妹だ。スピード狂の兄同じくの乗り物馬鹿。
「んにゃー…………ん?うわぁっ!和久‼」
堂々としたため口である、俺の方が一つ年上なのに……
「避けろ、場所取りご苦労さん」
「……髪、髪大丈夫かなぁ」
「髪は後ででいいから避けろ」
「は、はいはい」
貴希が俺が通れるように移動して、まず俺はひとつ前の席に白雪を座らせたあとに、一番後ろの席の右側窓側に座る。そしてカバンの中からビールを取り出す。
一番後ろの席には武藤兄、不知火、貴希、俺の四人が左側から座っている。
「おまっ、何朝っぱらから」
武藤がビールを飲む俺に向かって驚きの声を上げるが、俺は気にせず飲み続ける。
「ねえねえ、和久」
貴希が俺に話しかける。
「ああ?」
もう俺は貴希に敬語を求めるのは四か月前にあきらめている。
「この前私が入学したら
「あぁー、考えとく」
「…………断られなかった、断られなかった、よしっ」
何故喜ぶ?あぁー一応装備科Aの俺の指導を受けられるからか?わかんね。
一本目が無くなり、防弾性のカバンから二本目を取り出す。
ちなみに、東京武偵高の制服は全て防弾加工してあり、ネクタイは防刃製だ。
プシュっ!っと蓋を開ける音が鳴り、泡が溢れてくる。
「っと」
溢れ出る泡をこぼさないように一気に飲む。
「あぁー美味い。最高だ」
それが、俺、『灯央和久』の物語の始まりだった。
という事でアンケートで圧倒的投票数を獲得した緋弾のアリアss『二丁拳銃の猛犬』一話でした。
少し投稿が不安定になりますが、週二で投稿していくつもりです。
感想宜しくお願いします。