卒業式前日。夕方、学校、2年の教室。幼馴染。

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初投稿です。オリジナルです。寛容な目で見ていただければ幸いです。

名前を付けていないのはデフォです。

凄く短いですがよろしければ。


幼馴染>自分

 もともと自分の発言に責任をまったくと言っていいほど感じないタイプだ。

 頭に浮かんだワードをつなげて口からアウトプットするだけ、それが自分にとっての会話の全てだった。

 

「行けって、どうせ会えるのも今日で最後かもしれないんだから。明日後悔しても遅いんだよ。今だよ、今。」

 

 こうやって人の背中を押す言葉ですら、なんら意味のない声にすぎない。そもそも他人の恋愛になんてまったく興味がないのだし、コイツが先輩にこっぴどく袖にされようが俺には関係のないことだ。落ち込んだコイツを後でファミレスなりカラオケなんかで励ますだけで済むことなんだ。

 

「おえぇ、緊張しすぎて吐きそうだよ。やっぱり私に告白なんて無理だよ。」

 

 永いこと同じ時間を共有していると良くある意思のすれ違いで、いつの間にかコイツは先輩を好きになっていて、俺はコイツが好きになっていた。俺がコイツの恋愛に関係ないのは、永いこと幼馴染でいたコイツの眼中に俺の存在なんて少しもなかったから。

 

「吐くな、吐くな。 かと言って先輩の前で吐いたら望みなんてないけどな。」

 

 俺の言葉にはいつもながら意思の重さがない、むしろ空気よりも軽いヘリウムガスのような言葉。止めろとか、先輩なんかより俺を見てくれだとか、それこそ歯の浮くような言葉が口から出せていれば、きっと今の関係だって違う方向に進めていたのかもしれない。

 

「イジワル言わないでよ、ダメダメ絶対吐いちゃうよ私。」

 

 泣きそうなでも少し笑ってる表情が、あぁコイツは今幸せの一歩手前なんだろうなと、それで何で俺はこんなにも悔しく感じさせられるのだろうと俺を考えさせる。幼馴染という道を、親友という道をシナリオ通りに真っ直ぐに進んできたのは、紛れもなく自分自身であった。それを間違いだと思ったことは何度だってあるけれど、それと同じ回数この道でよかったとも思えた。普段なら安っぽいと馬鹿にしているラブソングの歌詞みたいな気持ちに、あぁ今珍しく言葉を選んで喋っている自分に気がついた。

 

「なあ、もうすぐ先輩たち帰っちゃうぞ。お前絶対あとで後悔するだろ、長年一緒にいた俺が言うんだから絶対だ。」

 

 ひとつひとつの言葉を、間違えないように紡ぐ。少しでも間違えれば今まで抑えていた感情が決壊して口から出そうになる。

「そんな先輩やめて、俺と付き合っちゃえよ。」

 違う。

「さっさと振られて帰ってこい。」

 違う。

「振られたら俺が慰めてやるよ。」

 違う、そういうことが言いたい訳じゃない。きっと今言わなければいけないことは、いや言っちゃいけない思いはわかる、これだけはダメだ。

 言葉に詰まった俺を不思議そうに眺めてくると、あぁやっぱりコイツのことが好きなんだなと思えた。自分のこと以上に俺はコイツのことが好きなんだと思えた。

 

「お前は俺と同じ惨めな気持ちになっちゃいけない。」

 

 やっとのこと口をついて出た言葉は、今までの人生で一番重たい台詞だった。それでいて一番心からの言葉だったと思う。

 少しの間が空いて、夕方のチャイムが学校中に響く。今まで俺たちを取り巻いていた緊張した空気が一瞬解けた気がして、

 

「そら、行ってこい。」

 

何か言おうとして口を動かしているコイツの背中を廊下に向けて押し出す。

 

「OK貰えるまで帰ってくるなよ!」

 

 そこからは何時もの自分に戻っていた、口から出るのは責任も誠意も嘘だって含まれてない言葉で。

 

 それでもいままでの、これからの道を期待して浮ついている自分がいる。

 




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@SisyamoBrain


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