光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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いよいよ、第二の戦士が登場です。




 満開の星空。少し肌寒い風が頬を撫でる。

「綺麗だね。さすがは北海道。都心じゃ、こうは行かないな」

「………」

 車を降り、星の天蓋を見上げる男女。だが、女性の瞳には何も映っていない。まるで魂が抜け落ちてしまったかのように、ただそこに在るだけであった。

「……天音」

 彼は妻である彼女の名を呼ぶ。天真爛漫で、太陽のような笑顔を振りまいていた彼女は、もう帰って来ないのかもしれない。

 幸せの絶頂からの転落。失ったものは大きく、二度と取り戻せない。無力感に歯ぎしりし、空を再び見上げる。

「……あ、流れ星だ。何か願い事をしてみよう」

 出来る限り明るく努めて、彼は言う。天音はただ星を見上げながら、やがてポツリと零す。

 

「あの子を……私の坊やを……返して」

 

 それは決して叶わない願いだ。喪われたものは帰って来ないのだから。

 空に再び、流星が走る。だが、それはいつまでたっても消えなかった。それどころか、その輝きを増しているようにさえ見える。

「なんだ、星じゃ……ない?」

 瞬きはどんどんと強くなり、ついには二人の真上を切り裂くようにして飛んだ。そして、地平線の彼方に地響きを起こした。気が付けば、その場所に向かって車を走らせていた。

 もうもうと上がる土煙。大地を抉って生まれたクレーター。周囲は汗ばむ 程の熱気を帯び、隕石落下の威力を物語る。

 ドクドクと、心臓が早鐘のように鳴る。突発的に起こったこの事態に、言い知れない興奮を抱いていた。

「っ……!?」

 突然、天音が走り出した。そのままクレーターを滑り降り、土煙の向こうへと消える。

「天音!」

 すぐさま後を追いかける。夜風のせいで熱は徐々に薄まってきているものの、そこはまるでサウナだ。

「天音……! 何処だい!」

 目を凝らし、妻を探す。そうしてやっと、人影らしきものを見つけることが出来た。

 風が、煙を晴らしていく。妻は服が汚れるも構わずと座り込んでいた。いきなり走りだした時はどうしたのかと思い、男は安堵の溜息を吐いた。

 

 ――おぎゃあ。おぎゃあ。

 

「えっ……!?」

 唐突に聞こえたそれは泣き声だった。それは正面――妻の腕の中から聞こえるような気がした。

「すえつぐさん……! すえつぐさん……!!」

 顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、自分の名を何度も呼ぶ妻。その腕の中には生まれて間もないだろう、赤ん坊が抱かれていた。

「かえってきた……! 帰ってきた……!! あの子が……私達のもとに!!」

 それは奇跡なのか。はたまた星の見せた幻だったのか。ただ、事実が一つだけあった。

 

 その日。流星と共に一人の赤ん坊が、御雅神夫妻のもとに現れたということだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 アルティメギル再襲撃の翌朝。空は雲一つない快晴であった。御雅神家のダイニングテーブルには朝食が並べられていた。

 白いご飯にお味噌汁。ぬか漬けにされた胡瓜と株。納豆。焼鮭。炒めたウインナー。そしてシラスのかかった大根おろし。

「納豆、なっとう、NATO~♪」

 一体どういう歌なのか、天音はグルグルと納豆をかき混ぜている。

「奥様。どうぞ」

 お手伝いの有藤香住(ありとうかすみ)が、天音のかき混ぜるのを終えるタイミングで砂糖壺を差し出す。

「ありがとう香住ちゃん」

 それを受け取り、さらさらと納豆に掛ける。そしてもう一練り。天音いわく、砂糖の粒の感触が残っている方が美味しいらしい。

「鏡也。大根おろしをくれるかい」

「――はい」

「ありがとう」

 末次は大根おろしを受け取るとスプーンで数杯取り、それとウインナーを合わせて食べる。末次曰く、こうして食べると脂がサッパリとなって美味しいらしい。

 鏡也自身、このシラス掛けおろしは好物である。特にピリッと来る辛いものが好ましい。逆に甘いのは苦手だ。

 テレビでは、昨日のテイルレッドの映像がニュースで流れている。しかも堂々のトップだ。特集だ。一昨日のとは比較にならない鮮明な画像。恐らくは件の生徒たちに撮られたものを提供されたのだろう。

「あら、この子。鏡也のこと、助けてくれた子よね? すごいわね~。あんなに小さいのに、あんな怖そうなのやっつけちゃうんだもの」

「……そうですね」

 その子は、あなたもよく知る観束さん家の総二くんですよ。と、教えてあげたい衝動を味噌汁で奥に封じ込める。

 テレビでは凛々しかった幼女が女子高生に囲まれて、アワアワしながら揉みくちゃにされている映像が流れていた。姉だの妹だのお着替えだの、狂気の沙汰としか思えない光景である。

 しっかりとテロップに【謎のヒロイン! その名はテイルレッド!!】と書かれてる。情報管理はしっかりしたいものだ。

 今頃、総二の家ではどんな事が起こっているのだろうか。きっと愛香が総二に詰め寄っていることだろう。なにせ、テイルレッドは女子高生のおっぱいに顔をうずめているのだから。

 さっさと食べ終えようと、一気にかっ込む。行儀は良くないが、天音はむしろそういう粗野な所に男の子らしさを覚えるのか、ニコニコと笑っている。

「……さて、もう少し時間があるけど」

 どうしようかと悩んでいると、テレビから不吉な言葉が聞こえた。

 

『警視庁では今後もこの少女の情報を求めていくと共に、動画サイトに上がっている別の動画に映っていた男子学生が何らかの関わりがあるものと見て、事情を聞く方針です』

 

「………」

 ピンポーン。と、チャイムが鳴る。同時に携帯が音を鳴らす。送信者は総二だ。

「……もしもし?」

 応対には香住が出ているので、鏡也は電話に出た。

『鏡也! ニュース見たか!?』

「あぁ、見たよ。………で、悪いけど俺は今日、学校に行けないっぽいから」

『……え?』

 鏡也はリビングのガラスドアから見える、覆面パトカーを見ながら言った。

「総二……俺に前科がついたら、全部お前のせいだからな?」

『え? ちょ、鏡y』

 ブツリ。と、電話を切る。リビング入口には、中年の男性と若い男性。どちらも普通よりも剣呑な空気を身にまとっている。

「御雅神鏡也君だね? 自分はこういう者なんだが……ちょっと、話を聞かせてもらえるかな?」

 そう言って出されたのは――警察手帳だった。誰だ。日本の警察は仕事が鈍いと言ったのは。

 心の中で毒づきつつ、鏡也はこの後が無事に終わることだけを願った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「あー。疲れた。腹も減った。この辺はビルばかりで店なんてなさそうだしなぁ」

 昼も大きく過ぎもうすぐ夕方という頃、鏡也はやっと自由の身となった。そもそも、任意の事情聴取であり、断ることも出来たのだが、それはそれで後から面倒が増える気がしたので従ったのだが、その結果がこれである。

 家には既に連絡を入れてある。天音が凄い勢いで捲し立てたというべきか、はたまた嘆き叫んでいたというか。とにかくテンションがおかしい方向に振り切れてしまっていたので、きっとこの後恐るべき甘やかしモードが入るだろう。

「はぁ、気が重い」

 ともかく今は飯を食おうと、鏡也は歩き出す。空腹を少し満たせば、気持ちも軽くなるだろう。そう考えれば足取りも軽くなる。

 

「フハハハ! 俺の名はバットギルディ! お前たちのストッキングを尽く! 尽く!! 尽く堪能させてもらおう!!」

 

 そしてあっという間に重くなった。鉄球付きの足かせでも嵌められた気分だ。

 曲がり角を曲がった途端、何故にアルティメギルの襲撃現場に居合わせなければならないのか。ついでに言えば何故、尽くを三度繰り返したのか。鏡也は考えることさえ億劫になった。

 今度の変態(エレメリアン)はストッキング属性の持ち主のようで、積極的にOLさん達をモケモケ共に追い掛け回させている。

 すぐにテイルレッドが駆けつけるだろうが、自分はどうするか。戦うにしてもアルティロイドを倒せる禁じ手は自分の身が危険。その上、丸腰だ。

 鏡也は数瞬考え、とにかく時間を少しでも稼ぐことに決めた。武器になるものはと探り、誰かが落としたであろうボールペンを見つける。

 それをすくい取るように拾い上げ、鏡也は一番近くのアルティロイド目掛けて、真っ直ぐに突き出した。

「モケー!?」

 横っ面を激しく打たれ、アルティロイドが悲鳴を上げて倒れる。その声に他のアルティロイド達も一斉に鏡也の方へと振り返った。

「ペンは剣よりも強し……とは行かないか」

 一撃で砕けてしまったペンを捨て、鏡也は拳を握る。剣がればある程度の対処が出来るのだが、この状況はやはり不利だ。

「む、キサマは……!」

 OLのストッキングを堪能していたエレメリアン――バットギルディがその名通りのコウモリに似た体を揺らしてやって来るや、鏡也の顔を見て、その赤い瞳を見開いた。

「くっくっく。まさかこんな所で会えようとはなぁ……他の連中には悪いが……キサマの属性力、根こそぎ狩り尽くさせてもらうぞ!!」

 隠す気もない敵意が、鏡也に向けられる。それはまるで、不倶戴天の敵にでも出会ったかのようだ。

 鏡也は戸惑った。その言葉は聞き様によれば、『敵は自分を狙っている』とも取れるからだ。何故、狙われるのか。その心当たりが無い鏡也には推測するしか出来ない。

 リザドギルディの仇か。だが、それならテイルレッドの方が相応しい。

 ならば、ツインテールの少女達を逃したからか。それも、結局はテイルレッドがリングを破壊して奪った属性力を解放したのだから、自分に怨恨を向けられる理由としては薄い。

 だが、一つだけハッキリしている点がある。バットギルディの狙いは、OLのストッキングから自分にシフトしているという事だ。

 鏡也は敵の一挙一動を見逃さないように注視する。敵の強さは身にしみている。わずかの隙が命取りだ。

 

「――待ちやがれ!!」

 

 その時、天より響く声。それは紅き正義の体現者。世界最強のツインテール馬鹿。

「テイルレッド! ……やっと来たか」

「――て、鏡也!? 何でこんなところに?」

 テイルレッドはビルの屋上から華麗にジャンプし、鏡也の前に降り立った。

「それをお前が聞くか? そんな事より、後は頼んだ!」

「おう、任せろ!」

 テイルレッドにその場を任せ、鏡也はその場を離脱する。

「おのれ! こうなればテイルレッドを先に倒してから!!」

 背後から聞こえる声に、鏡也は振り返りそうになる。だが今、足を止めることはテイルレッドの不利になりかねない。背に届く戦いの音に押されるように、鏡也は走り続けた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 まさかの遭遇以来、鏡也が三度アルティメギルの襲撃に出くわすことはなかった。というのも、アルティメギルの出現が日本だけに留まらなかったのだ。

 

「総二様、エレメリアン反応です! 場所はアメリカ!」

「くそ! 今日こそは来ないと思ってたのに!!」

「急いで総二!!」

「そして何で普通に家にいるんだよ愛香!?」

 

「総二様、エレメリアン反応です! 場所はフランスの凱旋門広場!」

「こんな夜中に!? 冗談だろ!?」

「時差の関係上、向こうは夕方ぐらいですから。とにかく出撃を!」

「それはともかく、なんでベッドの下から出てくるんだよ!?」

「己は何しとんじゃ――――っ!」

 

 そんな日々が続いた結果。

「………疲れた」

 朝の教室。一人の男子高校生が燃え尽きていた。今や世界的規模で有名人となったテイルレッドこと観束総二である。

 海外にも出現したエレメリアンを追い、昼に夜にと世界中を飛び回れば、時差を気にしなくて良いといっても、体には堪える。

 ただでさえ総数不明の相手と戦い続けなければならないのだ。これ以上の心労は勘弁して欲しかった。

「しかし、随分と充実してきたな。二日目にはできてた数件のファンサイトが今やその百倍以上。イラストサイトには続々とイラストが投稿。3Dモデルを使ったダンス動画まであるぞ」

「考察ページにBBSのまとめページ。そーじ、あんた……」

「言わないでくれ。皆が女装した俺を持ち上げていくんだ。俺はそっとしておいて欲しいのに……!」

 二人は机に突っ伏した総二に苦笑いする。テイルレッド=観束総二の頭痛の種が絶えることはない。

 そしてもう一つ。

(あれ以来、アルティメギルに出くわしてないが……本当に、俺が狙われたのか? あのバットギルディの言葉がどうにも気にかかる。あれが、ヤツ一人のことであったり、ただの考えすぎであるなら良いのだが)

 考えるにしても材料が無さすぎる。だからといって、また遭遇するなど御免被りたいものだが。

 ともあれ、実害がこれ以上ないなら考えるだけ無駄というもの。鏡也はそう割り切ることにした。

 

 その日の放課後。またしてもアルティメギル出現の報が入る。総二はすぐに出撃。そこは人気の少ない郊外の花畑だった。

「何でお前らは毎日毎日、律儀に一体ずつ出てくんだよ―――!!」

 到着早々、テイルレッドは叫んだ。目の前には狐を連想させるシャープな出で立ちのエレメリアン。

「あぁ、テイルレッド。やっとお逢い出来ましたね。私はフォクスギルディ。リボンに魅せられし者。どうぞお見知りおきを、麗しき女神よ」

「誰が見知りおくかよ! ブレイザーブレイド!!」

 姿に似合わぬ美声の自己紹介に、テイルレッドはフォースリヴォンを叩いて返す。

 紅蓮の剣を抜いたテイルレッドに、しかしフォクスギルディはまるで恐れを抱かない。

「なんと美しく力強いリボンだ。よもや多くの同胞を倒した剣が、そのリボンより生まれしものだったとは……運命を感じずにはおれませんねぇ」

 フォクスギルディはその手にリボンを取り出すとクルクルと手の中で回し、テイルレッドに向かて放り投げた。一瞬、警戒するテイルレッドだったが、リボンはそのまま周囲を回って再びフォクスギルディの手の中へと戻った。

「な、なんだ?」

「――ゴファ!!」

「本当に何なんだよ!?」

 いきなり大ダメージを食らったフォクスギルディ。戸惑うテイルレッドを余所に、ガクリと膝をついたまま、口元の血を拭うフォクスギルディ。

「ま、まさかこれほどのものとは……流石です。なればこそ――結晶せよ、我が愛!!」

 リボンがクルクルと周り、二つに分かれる。それがテイルレッドのフォースリヴォンと同じ姿をとった。

「お?」

「さぁ、ここからですよ」

 テイルレッドは己の不覚を悟る。幾度も繰り返されてきた戦いに悪い意味で慣れを抱いてしまっていた自分に。

 この時こそ、フォクスギルディを倒す唯一の好機であったのだと。

 

 ◇ ◇ ◇

 

『うぐぁああああああああ!!』

 モニターに映る、苦悶するテイルレッド。フォクスギルディの恐ろしい攻撃が、精神を蝕む。

『ふふふ。せっかくお風呂に入ったというのに、しょうがない子ですねぇ』

『あぁああああああ! 想像で何してんだテメェは―――!』

 それは恐怖からの絶叫だった。敵は恐るべき攻撃をテイルレッドに仕掛けてきたのだ。

 フォクスギルディはリボンと人形の二つの属性力を持つエレメリアンであった。

 最初に仕掛けたリボンでテイルレッドの属性力を結び、人形の力でそれを具現化させた。生み出されたのは等身大のテイルレッド人形。フォクスギルディはそれを使って、妄想劇を繰り広げだしたのだ。

 人形遊び。一言でいえばそれだけだ。だが、ただそれだけが今、まさにテイルレッドを地獄の淵へと誘っているのだ。

「うわぁ、キモい……」

 基地でそれを見ている愛香も、生理的嫌悪に顔をしかめた。

「総二様! 属性玉変換機構(エレメリーション)を使ってください! 属性玉変換機構は今まで手に入れた属性玉を自分の力として使用できる機能です。リザドギルディの人形属性を使えば、あの人形を無力化できます」

『属性玉変換機構……! ――ダメだ! 俺にはできない!!』

「「えぇ――!?」」

 ガクリと膝をつくテイルレッド。

『俺には……俺にはできない! 人形でも、悪意に満ちていても、それでもツインテールに罪はねぇんだ!! それを壊すなんて俺にはできない!!』

『ふふふ。やはりあなたは本物だ。これはただの人形。ですが、最強のツインテール属性……この世界で最もツインテールを愛するあなたにはツインテールを滅することはできない!!』

『ぐっ……!』

 ツインテールを愛するがゆえに、テイルレッドは天から延びた蜘蛛の糸をつかめない。

 ツインテールを愛するがゆえに、テイルレッドは更なる地獄へと堕ちていく。

 戦意を失いし者に訪れる末路。それは蹂躙という名の生き地獄。

「そーじ!」

『うわぁああああ! 服を脱がすな!! 裸はやめろぉおおおおお!』

「総二様……!」

 スピーカーからテイルレッドの絶叫が響く。

「トゥアール! 何とか出来ないの? こっから撃てるミサイルとか!」

「そんなのはありませんよ。ですが……背に腹は代えられません」

 トゥアールは強く結んだ唇から血を滴らせる。苦渋の決断を迫られている。愛香にも感じ取れた。

 そうまでして、躊躇することは何なのか。愛香は無意識に唾を呑んでいた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 マウンテンバイクが街を疾走する。

「ハァ、ハァ……! これはどうにかしてもらった方がいいな……!」

 アルティメギルが出る度、いちいちこうして急がなければならないのは手間だ。トゥアールになにか良いアイデアがないか聞いておこうと、鏡也はペダルを漕ぎながら考えた。

 戦うことの出来ない鏡也には基地に行く意味は無い。だが、総二が戦っているのを放置して、自分だけ安穏としている事もできない。

 何か出来ることがあるかもしれない。そう思えば、足は自然と基地へと向いた。

 アドレシェンツァに到着すると、店のドアを勢い良く開け放つ。

「あら、鏡也君」

「こんにちわ! 奥に入ります!!」

 一礼し、カウンター脇からキッチンへと入る。冷蔵庫のスイッチを叩き、エレベーターへ乗り込んだ。

 高速で基地へと降りていく中、鏡也は息を出来る限り整えた。やがてドアが開き、基地内へと足を踏み入れるや、再び駆け出す。

「トゥアール、状況――っ!?」

 飛び込むようにオペレータールームへと入った鏡也は、その光景に息を止めた。

 

「うわぁあああああああああああ!」

 

 バラバラだった。割れた窓ガラスからバタバタと風が吹き入り、部屋中に血が飛び散り、手が、足が、首が、まるで人形を分解したかのように、全てがバラバラだった。

「あ……あの。さすがに……それは死にます」

 間違えた。それは先日やったサスペンスゲームのワンシーンであったと、鏡也は改めてその惨状を見やった。

 特殊素材で出来た床が砕け、トゥアールはその床に顔をめり込ませていた。

 なんとも凄惨で酷たらしい光景だった。

「まだ、温かい……。一体、誰がこんな酷い事を」

 遺体はまだ温かい。つまりトゥアールが襲われたのはつい、今しがたということだ。

 この基地の存在を知るものはごく限られた者たちだけだ。つまり犯人は――

 

 A この中にいる

→B まだ、現時点では断定できない

 

「くそっ。情報が少なすぎる……!」

「……いや、それは……おかしい」

 脳内で雪山に閉ざされたペンションでバラバラ遺体を見つけてしまった大学生のような曲が流れる。

 

『そこまでよ、変態!』

『何者です!』

『あたしはテイルブルーよ!』

 

 死体は背後から強烈な力で叩きつけられている。だが打撃痕がないことから、殴りつけたのではない。

 つまり、トゥアールは投げ落とされた可能性が高い。

 そういえば、愛香の家の流派である水影流柔術の技の中に、受け身を取らせず、相手を地面に叩きつける技があるというのを鏡也は思い出した。

 

『あぁ、あなた何ということを!? 何の躊躇いもなく人形を破壊するとは! あなたの仲間を模したものなのですよ!?』

『仲間? 仲間ならここにいるじゃない?』

 

 この状況。そういえば愛香はどこに行ったのだろうか。愛香がここに来ていない筈がない。

 鏡也の脳裏に最悪が幻視する。

「まさか、愛香の身にも何かが……!?」

「あ……の……ちょっと……?」

 

『オーラピラー! エグゼキュートウェイーブ!!』

『ぐぁあああああ!!』

 

 鏡也は必死に考えた。

「犯人は……犯人は……!」

 

 A 僕だ

→B 真理だ

 C 当然、僕でもなければ真理でもなく……

 

「真理って誰ですか!? ていうかさっきから態とやってますよね!? ――がはっ!?」

「トゥアール!? 大丈夫か、トゥアール!! トゥア―――――ル!!」

 さいごのちからを使ってしまったトゥアールが、今度こそ力尽きた。

 

 

 

『あたし、やったよトゥアール……!』

 

 モニターでは青い髪の戦士が、握り拳を固めて勝利を亡き人に捧げていた。




ブルーの活躍はみんな知ってるからカットしてもも問題ないよねっ

青「エグゼキュートウェイブーーー!」

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