光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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俺ツイ、最終巻到達してしましましたね。

最後までギャグと熱血ヒーローを貫いた、最高の作品でした。




「おばさん、おはようございます!」

 と、かつてのような感じで愛香がアドレシェンツァの入り口を潜った。キッチンでは未春が朝の仕込みを行っているところだった。

「あら、おはよう。総二はまだ寝てるわよ」

「今朝はトゥアールが大人しかったですからねー」

「大人しくというか、昨日のままなんじゃないかしらねー?」

 昨日、見事に天井にハマったトゥアールは、未だに抜け出せていないようだ。それは朝も静かだろう。

 愛香は勝手知ったると、店を抜けて家の中へと入る。ササッと靴を脱いで階段を上がっていく。

 これだ。これこそあるべき日常の朝だ。トゥアールが……アルティメギルが現れる前まではこれが普通だったのだ。

 それが今年の春から、日も昇らぬ早朝からベランダから飛び込んだりしなければならなくなったのだ。

 すっかり懐かしくなってしまった日常を思いながら、総二の部屋のドアを開けた。

「総二、朝だ……………よ?」

 開けた先には、やはり日常が無かった。シーツから覗く赤い長髪。つい先日も同じものを見た気がした。

「そーじ……あんた、また変身したまま」

 愛香がシーツを引っ剥がす。そして固まった。

 そこにいたのは、一糸まとわぬ総二――もとい、ソーラ・ミートゥカであったからだ。

「そんな……せっかく元に戻れたっていうのにそーじ、あんた、なんでそんな事になってるのよ……!?」

 冗談じゃない。こんなにポンポンと女になられたら、自分はどうしたら良いのだ!? 今度はいつ戻れるようになるんだ!?

 混乱、動揺、困惑、焦燥。色々と入り交じる感情を思わず拳で放ちたい衝動にかられていると、後ろでドアが開いた。

 

「おい、愛香。暴れるなら外か基地でやってくれ」

「暴れること自体は止めないのか」

 

「え、そーじ……!?」

 振り返った愛香の目に飛び込んできたのは、パジャマ姿の総二の姿だった。すぐ後ろに鏡也の姿もある。

「え、なんで……どうして、そーじが……?」

 ありえない。だって、ベッドに居るのは総二だ。見間違える筈がない。でも、いま入り口に立っているのも間違いなく総二だ。

 何がどうなってるのか。さっぱり理解できない愛香。そうしている内に、ベッドの方で衣擦れの音がした。

「ん……っ」

 赤いツインテールを揺らし、長いまつ毛を湛えた目蓋がゆっくりと開いていく。

 その姿に気がついた総二と鏡也も、揃って驚きの表情を浮かべた。

 

「……?」

 

 そして、ソーラ・ミートゥカもまた、首を傾げていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「……さて、どうしたものか」

 鏡也は入口近くのカウンター席に座って、深い沈黙に支配された店内を見渡した。総二と愛香は同じくカウンター席で揃って頭を抱えている。

「あの……えっと、何がどうなっているのでしょう? なぜ、観束くんがここにいるのにソーラ・ミートゥカさんがいるのでしょう?」

「俺が知りたいよ。なんだってこんな事に……!」

「それはあたしのセリフよ。なんで今度は分裂してんのよ、あんたは……!」

 緊急事態と駆けつけた慧理那も、想像以上の事態に困惑しきりだ。後ろに控えている尊も、この事態に困惑の色を隠せない。

「どうせ増えるなら、どうして男で増えない。これでは婚姻届を出せないではないか」

 訂正。全くぶれていなかった。結婚の前には人間が分裂する謎など些末な事らしい。

「はい、コーヒーどうぞ。いやー、久しぶりに入れたもので、上手く行ってなかったらごめんなさいね」

 そしてもう一人、この状況でもぶれないのが未春である。トゥアールも流石に、この事態には真面目に対応しており、調査用の機材を使って、分裂した総二――ソーラを調べている。

「なるほど……これは」

「何か分かったのか、トゥアール?」

「ええ、このソーラ・ミートゥカは………人間ではありません。肉体を構成しているのはエレメリウムという物質です」

「なんだって?」

「エレメリウムというのは、エレメリアンや属性玉を構成する物質です。つまり彼女はエレメリアンと同質……いうなれば【セミ・エレメリアン】、ソーラギルディとでも呼ぶべき存在なのです」

「………」

 余りのことに、総二らは言葉を失う。口にしたトゥアールですら、未だ半信半疑と言った感じだ。

「人型のエレメリアンって……ありえるの、そんなの?」

「私だって信じられないですよ。でも、こうして存在する以上は……」

 愛香の疑問も当然だ。今まで現れたエレメリアンは人とは一線を画する怪物だった。それが人間の、ソーラの姿をとっているなど、信じられない話だ。

「……なあ、総二。一つ良いか?」

 ここまで沈黙していた鏡也が口を開く。

「なんだ?」

「お前、ちょっとテイルレッドに変身してみろ」

「え、なんで?」

「ちょっと確かめたい事がある。ほら、はやくやれ」

「わ、分かったよ」

 いきなりの事に戸惑いつつも、総二はいつものようにテイルブレスを構えた。

 

「テイルオン!」

 

「………」

「……え?」

「やっぱり、そういう事か」

 いつもならテイルブレスが起動し、総二はテイルレッドに変身している筈だった。だが、今そこにいるのは観束総二のままだ。

「なんで……どうしてだ!? おい、鏡也! お前、何を知ってるんだ!?」

 ただでさえ、ソーラの一件で混乱している中、更に混乱を巻き起こす事態が起こり、総二の頭は限界を迎えかけていた。故に、この事態を予測していたのであろう鏡也に詰め寄るのも仕方ないことだった。

「知ってるわけじゃない。ただ、意識して”見た”だけだ」

「見たって何を?」

「彼女がどうして誕生したかはわからないが、一つだけ分かることがある。それはお前とソーラの属性力が同じツインテールだってことだ」

「いや、それは……俺、というかソーラそっくりだし、そうなんだろうとは思うけど」

 総二はチラリとトゥアールを見やる。それに小さく頷いて返すトゥアール。

「同じ属性力なのが問題なんじゃない。エレメリアンが属性力の塊のような存在だとすれば、ソーラを構成する属性力は”何処から出てきたのか”ってことが問題になるんだ」

「それって、つまり……?」

「そうだ。ソーラはお前の属性力から生まれたってことだ。そして変身できないということは、属性力を奪われた状態に近いようだ」

「そんな……俺はツインテールを……!?」

 総二が慌てて愛香のツインテールに触れる。手の中でつややかなツインテールが踊る様に、総二は恍惚の表情を浮かべる。

「ちょ、そーじ……ダメだって」

「ああ……やっぱりツインテールは最高だぁ……」

「どうやら観束くんはツインテールへの想いを失くしている訳ではないようですね。それでは……ソーラさん? は、何か言うことなどありますか?」

 慧理那がソーラへ問いかける。ここまで一言も発していないソーラに、あるいは言葉を話せないのではないかという考えも過ぎる。

「あ、喋っても良いの?」

 

「普通に話せるんかい!!」

 

「いや、黙ってた方がミステリアスで雰囲気出るし、何となく喋らないほうが良いかなって」

「いらん気の使い方するな!? で、結局のところ、あんたは自分が何者かとかわかってるの?」

 愛香が聞くと、ソーラは少しだけ考える素振りを見せる。

「そうだなぁ……何となく、自分が人間じゃないってのは分かるし……でも頭の中には昨日までの記憶もあるし……」

「なんだか口調もそーじそっくりね」

「自分の中じゃ違和感あるけど、どうにもこうじゃないと喋れなくて」

「むしろこっちはその方が違和感ないけどね」

 総二から生まれた存在だけに、その影響が大きいようだ。そんな事を考えつつ、鏡也はソーラに向き直った。

「しかし、ソーラ自身は自分がどうして生まれたのか、その理由は分からないか?」

 エレメリアンの誕生。それはある意味、とてつもない情報だ。アルティメギルの兵力は未だ未知数。それらを打倒する道筋が明らかになるやも知れないからだ。

「っ……! そ、それは……よく分からない」

 途端、ソーラが鏡也に背を向けてしまった。誤魔化すようにして出されたコーヒーを啜る姿は、普通の少女のようだ。

「それで、俺のツインテールはどうなるんだ?」

「総二様のツインテール属性は完全に無くなったわけではありませんし、どうやら少しずつですが戻ってもいるようです。今日一日あれば元に戻るのではないかと」

 検査機器をしまいながら、総二の疑問にトゥアールが答える。

「さてと。それじゃあ、ソーラちゃんは何かしてみたい事ある?」

 未春の突然の言葉に、ソーラ達は目を瞬かせる。

「え?」

「いや、母さん。何を言い出してるんだ?」

「だって、今日一日しかいられないんでしょ? 総ちゃんはどうせ今日一日は変身出来ないんだし、せっかくだし、ね」

 そう言って微笑む未春。それは何か悪戯めいた事を思いついている顔だった。

 ソーラは少し考える素振りを見せ、そして口を開いた。

 

「――じゃあ、デートとかしてみたい……かな?」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「デート、ねぇ」

 私服に着替えた総二は何とも言えない表情で唸っていた。自分のツインテールから生まれたらしいソーラが、まさかそんな事を言い出すとは。

 言うが早いか、未春は早速ソーラを連れて家の中に引っ込んでしまった。そして今、総二達は駅前にいる。

「にしても、なんだっていちいち待ち合わせなんて……」

「それはもちろん、デートだからですよ。まあ、私でしたらどこに行かずとも、総二様のお部屋のベッドの中で一日過ごすのもありですよ」

「同じベッドの中なら病院のベッドに送ってあげましょうか?」

「ひぃ! ベッドを叩きつけるバーサーカーみたいな事を言い出してるんですけど!?」

 愛香とトゥアールのいつものやり取りを尻目に、総二はソーラを待った。そうしていると、向こうからやってくるツインテールの気配。通り過ぎる人たちは、その見事なツインテールに見惚れ、振り返っているのが分かる。

少し大きめのショルダーバッグと、白とピンクのツートンカラーの∨ネックワンピースを着た、ソーラがついにやって来たのだ。

「いよいよ、か」

 複雑な面持ちで総二はソーラを見送る(・・・)。そう、デートの相手は総二ではない。

 

「お、お待たせ……で良いのかな?」

「ああ……いや、大して待ってない」

「いや、一時間ぐらい経ってるし……」

「まあ、それもそうか。えっと……じゃあ、行くか?」

 

 そう。デートの相手として指名されたのは総二ではない。鏡也であった。二人は何処と無くギクシャクしながら、連れ立って歩いていった。

「うーん、流石にぎこちないですね。総二様、総二様が私とデートする際は無理をなさらずお部屋の中でじっくりと、具体的にはベッドの中で一緒に過ごすというのもありな選択肢だと思いますよ?」

「ベッドで過ごしたけりゃ一人で過ごしなさい。具体的には病院のね」

「ああああ! 容赦ない暴力がじっくりと体を侵食していくぅうううう!!」

 ギリギリと関節がありえない悲鳴を上げていくトゥアールを余所に、総二は二人の後を追う。と、そこに声が掛けられた。

「すみません、遅くなりました」

 現れたのは慧理那と尊だった。慧理那は制服から私服に着替え、尊は当然いつものメイド服だ。

「会長……と、桜川先生。あの、今更なんですけど良いんですか、二人まで学校をサボって?」

「大丈夫。今日は病欠ということで連絡を入れておきました。ついでに皆さんの事も、尊が適当に理由づけして置きましたから、安心して下さい」

 学校をサボることを安心して良いのかどうかは疑問だが、こういう時に担任が内情を知る相手だとありがたい。

「礼は要らん。ただ、この婚姻届にサインさえしてくれればな」

「おっと、急がないと見失っちゃう。みんな、移動しよう」

 嫌な予感をツインテールから察した総二は、さっさと鏡也達を追跡した。

「おい、ちょっと待て。スルーは流石に傷つくんだぞ!?」

 

 ◇ ◇ ◇

 

(しかし、なんで俺がデートの相手に? ツインテール属性なら総二じゃないのか?)

 鏡也は今更ながら、疑問を抱いた。実際、総二もそうだと思っていたようだった。しかし、ソーラが選んだのは鏡也だった。

「それで、デートと言ってもこっちも素人でな。どうしたものか」

「え~? そこは嘘でも『今日は最高のデートを約束するぜ、ハニー』とか言うところじゃないの?」

「お前の中の俺は一体どういう立ち位置なんだよ!? そんな事言ったことないわ!」

「あはは! それじゃ、何処か遊べる場所が良いかな? いい場所ある?」

「………。はあ、それなら一つ、行ってみたかった場所があるから、そこにするか」

「良いよ。じゃ、行こう!」

 言うや、ソーラは鏡也の腕に自身の腕を絡めた。突然のことに鏡也も慌てふためく。

「ちょっと待て、腕を組む必要ないだろ!?」

「デートなんだから必要よ。ほら、早く!」

 グイグイと引っ張るソーラに気圧されて、鏡也は成されるまま引っ張られていった。

 

「そーじ、大丈夫?」

「……胸が痛い」

「総二様、それはいけません。さあ、私の胸に頭を埋めてお休み下さい!」

「そんなに埋めたいなら自分の頭でも埋めときなさい」

「ちょ、首はそんなに曲がらな……!!」

 セルフ立ちおっぱい枕という前人未到の偉業へと強制的に挑戦させられるトゥアールを余所に、総二らは鏡也達の後を追った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 湾岸部には春にオープンしたばかりの大型アミューズメント施設がある。夏休みに入れば総二達を誘って行ってみようと鏡也は思っていた場所だ。

「流石に新しいだけあって、広くて綺麗だな。それに平日のせいか、人もまばらだ」、

「うわぁ、色々あるね。さぁて何処から攻めていこうかな~?」

 案内板を見れば昨今の流行りか、ビデオゲーム的なものよりも、実際に体を動かすアスレチック的なものが多いようだ。

「じゃあ、この【突撃!コズミックウォーズ!!】ていうのやってみよう」

 案内板の一箇所を指差すソーラ。どんなものなのかと、鏡也は入り口で貰ったパンフレットを開く。

「えっと、これは戦闘機に乗って敵を倒す……シューティングゲームみたいだな」

 戦闘機型の箱物に乗り、スクリーンに映る敵を撃って倒す。というゲームのようだ。なかなか面白そうだと、早速エリアに向かうことにした。

 

 

「鏡也くん達、早速なにか遊ぶようですね」

「総二様、私達もせっかくですしなにか遊びませんか? 監視は愛香さん達に任せて、ほら、あちらに丁度良く二人きりになれる暗がりが」

「暗がりが良いなら、この場でしてあげるわよ」

 いらない事を言ったせいで、一人暗闇と言うなのフェイスクラッシャーを喰らい沈むトゥアール。

「さ、気付かれないように追いかけるわよ」

「いや、これ絶対バレてるだろ。こんな派手に音立ててんだし」

 

 

「……あいつら、あれで尾行のつもりか?」

「にぎやかだねぇ。さ、気にせず遊ぼう!」

 後ろの騒々しさを気にすることなく、ソーラは進んでいく。

(――だんだん、言葉遣いが変わってきているな。時間が経ったせいで、総二らしさが消えてきているのか?)

 鏡也はその変化がどのような意味を持つのか思案する。しかし、不明な事が多すぎる今の状況では、考える意味はないと、脳裏に浮かんだ疑問を振り払い、ソーラの後を追った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 陽月学園では変わらぬ時間が過ぎていた。夏休みを直前に控え、暑さが日々増していく中、鏡也らのクラスも黙々と授業を行っていた。

(あーあ。ソーラたんが転校してから退屈だな~)

 熱狂とも狂騒とも取れた時間を振り返りながら、その生徒は何となくスマホを手にした。

 教科書を壁にして、Titter(チッター)というSNSアプリを起動する。誰でも気軽に発信を行えるツールとして瞬く間にユーザーを増やしたそれは、退屈な時間を潰すには十分だった。

 画面をスライドさせていく。タイムラインには多くの投稿が寄せらていたが、その内の一つに彼は指を止めた。

「………は?」

 

【街ですっごいツインテール美少女発見した! モデルか? 芸能人か?】

 

 添付されているファイルを開く。果たしてそこに写っていたのは、しばらく前に学校から姿を消した陽月学園のアイドル――いや、もはや女神であった。

「な、なんじゃろおおおおおおおおおおおお!?」

 驚きと興奮の余り、若干言葉がおかしくなる。

「おい、どうしたんだよ?」

「これ見ろ! ホラ!」

「あ……あぁあああああああああああああああ!?」

「こっ……こら、お前ら! 今は授業中だ! 静かにしなさい!」

 教師が注意するも、興奮しきっている生徒には通じない。それは瞬く間に教室中に伝播していく。

「これ、ソーラちゃんか!?」

「嘘だろ!? 祖国(くに)に帰ったんじゃなかったのかよ!?」

「ちょっと待て。こっちにちらっと写ってるの……御雅神じゃねーか!?」

「はあ!? アイツなんで……まさか、ソーラたんとデートするためにサボりやがったのか!?」

「なんだって!? 御雅神マジ許せねぇ!!」

「ヤロウ、ブッコロシテヤルェ!!」

「ここ、駅前だな。よし、行くぜお前らぁ!! カーニバルだぁ!!」

 

「「「ウエーイ!!」」」

 

「ウエーイ! じゃない馬鹿者がぁあああああああ!!」

 教室から、丸めた教科書で頭を思いっきり叩いたような音が響きまくった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ああ……夏。それはアツい心の叫び。夏。それは溢れ出るパッション」

 深緑の世界を見下ろし、潮風に揺られながら、”それ”は空を飛んでいた。

「ああ……いい。夏こそ我がゴールデンタイム!」

 ”それ”は異形の存在。人ならざる侵略者。すなわち――エレメリアン。

 

 

 テイルレッドを欠いたツインテイルズに、しかし魔の手は待ってはくれない。




次回でエピソード完結………です。
できるだけ早くあげます。

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