光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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約1年ぶりの更新にかかわらず、感想をいただけるとは。
ずっと待ってたと言っていただけて、感無量です。











最新刊、出ましたね。いよいよ原作もクライマックス。
そんな中、横浜アニメイトで水沢先生のサイン本をゲットしました。


なんと、先生公認のレア物。テイルレッド仕様(赤マジックでサイン)でした!! やったぜ。




眼鏡よりの無限渾沌(カオシック・インフィニット)の闇を、どうして破った?」

「お前が私の属性力も利用して、あれを生み出したことは想像がついた。ならば同じことをすればいい。お前の属性力を利用して、もう一度、ゲートを開いたのだ。幸い、やり方は二度も見れば分かる」

 光と闇。それは決して相いれず、しかしコインのように離れることのない裏表。

 闇が光を屠るならば、闇の中で一条の光は果てしなく輝きを増す。属性力の闇が蔓延るならば、それを切り裂く光もまた、力を増す。

「戯言を……もう一度、今度こそ甦れぬよう、眼鏡事象の彼方へと送ってくれるわ!!」

 吹き上がる闇が、再びナイトグラスターに迫る。

「甘い!」

 しかし、ナイトグラスターは闇と対極の光を使って、それを相殺した。

「今のは……眼鏡よりの無限渾沌(カオシック・インフィニット)じゃと!?」

「ふむ。一度コツを掴めば簡単なものだ。名付けるならば、正道成りし眼鏡秩序(コスモス・インフィニット)か」

「ええい! 人の技を盗んでいて何が秩序じゃ! 訴えるぞ! そして勝つぞ!」

「ふん、やれるものならやってみるが良い。敗れた後に、それだけの意志が残っていれば、な」

「吐かしおるわ!!」

 フォトンフルーレを再展開すると同時に、ダークグラスパーがダークネスグレイブを振りかざして飛びかかった。触れればただでは済まない死神の刃を、ナイトグラスターは紙一重で躱す。

「ぬうううん!」

「ふっ!」

 ブオン! と唸り上げて襲い来る切っ先を、フルーレの刃が受け流す。そこから反転して、刺突を繰り出す。ダークグラスパーも、それをギリギリで躱し、すぐさま反撃に転じる。

 幾度も火花を散らし、至近距離で打ち合う二人の姿に、テイルレッドらは息を呑む。

「すごい……あの距離でどちらも完璧に見切ってる。それにダークグラスパーのツインテールも乱れてない」

「いや、ツインテールとかいいでしょ、別に。それより、ナイトグラスターの動きが、変わった?」

「私にはよく分かりませんけれど……なんというか、すごく自然体の様に見えますわ」

 先刻までとは打って変わって、ナイトグラスターはダークグラスパーに肉薄していた。幾度かの激突の後、同時に二人が飛び退いた。

「なるほど……大層なことを言うだけの事はあるようじゃの。わらわの眼鏡に敵ったか。しかし、未だギアの出力で劣る以上、結末は自明の理。ただの悪足掻に過ぎぬわ!」

「そうか。それならば、こういう手はどうだ? 属性玉変換機構(エレメリーション)!!」

 ナイトグラスターは属性玉をセットすると、フォトンフルーレに強い光が宿った。

「そのような小手先の業で!」

「さて、どうかな?」

 横薙ぎに振るわれるダークネスグレイブを躱し、翻すと同時にフォトンフルーレが一閃する。それは鎌の柄で防がれるも、ダークグラスパーの表情が途端に険しくなった。

「ぐぅ……何じゃ、これは? 触れておらぬのにダメージが……!」

「まだまだ!」

「ぬうぅ!!」

 刃と刃がぶつかり合い、互いの装甲をかすめ合う。先程と同じく互角。だが、ダークグラスパーの顔が苦痛に歪み、動きが目に見えて鈍くなっていく。

「もらった!」

「があ――っ!」

 ついに、隙を晒したダークグラスパーを、ナイトグラスターの繰り出した剣先が完璧に捉えた。

「我がグラスギアの防御を、こうもやすやすと…何じゃこの能力は!? 貴様、なんの属性玉を使った!?」

「教えてやる。私が使ったのは”下着属性”の属性玉だ。この名に覚えがあるだろう?」

「下着属性……? まさか、フェンリルギルディの!?」

 

「え……フェンリルギルディって誰? 私、また忘れてる?」

「いや、俺も知らない。ていうか、そんなエレメリアンと戦ったこと無いぞ?」

「ダークグラスパーは知ってるようですけれど……?」

 訳が分からないツインテイルズは置いてけぼりだった。

 

「バカな、あやつ始末した筈。どうして、そのようなものが?」

「奴は眼鏡よりの無限渾沌(カオシックインフィニット)の奥底で、生きていたぞ。お前への憎しみを支えに、最終闘態にまで辿り着いてな。この属性玉は、ヤツからのお前への贈り物だ」

「おのれ、おとなしく消えておれば良いものを!」

 ナイトグラスターが動く。繰り出された高速の突きがダークグラスパーのグラスギアに叩き込まれる。その装甲を打ち抜いて、衝撃がダークグラスパーを貫く。

「下着とは衣服の下に纏うもの。下着属性とはすなわち、防御という衣の下に届く能力だ!」

「ぬっ……うう! 調子に乗るでないわ!!」

 ギラッ! と、ダークグラスパーの眼鏡が光る。瞬間、大地が爆ぜた。もうもうと上がる土煙を抜いて、ダークグラスパーが飛び出してくる。

「むっ。流石に攻め切らせてはくれないか」

 ナイトグラスターも、軽く飛んで間合いを離した。

「残念じゃが、切り札も使ってしまえばただの札よ! もはや、勝機はないと知れ!」

「切り札? 何を勘違いしている? 私はまだ、切り札など使っていないぞ?」

「なんじゃと?」

「これを見るが良い、ダークグラスパー」

 ナイトグラスターは懐から何かを取り出し、それをダークグラスパーに向かって突き出した。まじまじと見やったダークグラスパーが、やがて首を傾げた。

「何じゃそれは――壊れた、子供用の眼鏡か? そんなガラクタがどうしたというのじゃ!」

 ナイトグラスターが出したのは、壊れた眼鏡だった。フレームはあちこちにひしゃげ、レンズも割れてしまって無い。

「あれ、あの眼鏡ってもしかして……?」

 ブルーは、ナイトグラスターの持つそれに、わずかに記憶が揺さぶられた。そして不意に、ナイトグラスターと視線が交差する。

(え……笑った?)

「ダークグラスパー。お前にはこれが、ただのガラクタに見えるんだな?」

「それ以外、何に見えるというのじゃ」

 その言葉を聞き、ナイトグラスターは一度だけ深く、静かに息を吐く。

「それがお前の――邪道の限界だ、ダークグラスパー。その眼鏡を凝らし、見るが良い。正道の道之を!」

 ナイトグラスターの体から、強い光が放たれる。それは、数日前に見たことのある現象あった。

 共鳴し合い、溢れる程に増大した属性力。それを使いこなせないギア。ならばどうする。どうすれば良いか。その答えは――すでに示されていた。

『これは、テイルレッドと同じ光……!? まさか!』 

 観測を続けているトゥアールが驚嘆の声を漏らす。その光はナイトグラスターの手の中の眼鏡へと集束していく。一瞬、太陽にも見紛う程に輝いたかと思うと、それは新たな姿に生まれ変わっていた。

「あれって眼鏡……のフレーム?」

「もしかして、プログレスバレッタと同じように、変化したのか!」

 

「いくぞ! セット、ハーモナイズ・フレーム!!」

 

 生まれ変わった眼鏡フレーム〈ハーモナイズ・フレーム〉をテイルグラスの上から装着する。二つのフレームは、まるで元来一つであったかのように、ピタリと合体した。

「眼鏡の上から眼鏡を掛けるとは……外道か貴様は!」

「怒る基準が意味不明なんだけど!?」

 眼鏡ならざるブルーには、ダークグラスパーの沸点はさっぱり分からなかった。

 そうしている間に、ナイトグラスターの姿が輝いて―――さして変わらなかった。せいぜい、ダメージを負っていた装甲が復元された程度だ。

「これが新たなる姿――グラッシィチェインだ」

「あれ、特に変わっていないような?」

「いや、待て。ナイトグラスターの左腕。なんか大きめのガントレットみたいなのに変わってる!」

 よく見れば今までと違い、ナイトグラスターの左腕の、属性玉変換機構を備えた部分が変化している。その表面には手の甲に向かって逆三角形を形作る三つの窪みがあり、そこにはガラス上の何かが光っている。

「あ、ホントだ。……て、アハ体験並みに分かりづらいわ!」

「テイルブルーと同じ意見というのが癪じゃが全くじゃ。どうせならテイルレッドぐらい派手に変わらぬか!」 

「ふっ。今の私を見た目と同じと思わないことだ」

 それぞれの反応を、余裕の表情で受け止めるナイトグラスター。ダークグラスパーも、ダークネスグレイブを構える。

「面白い。ならば見せてもらおうか!」

 地を蹴り、大きく跳躍するダークグラスパー。鎌を大きく振り上げ、回転させて遠心力も加えた一撃を放つ。ナイトグラスターは、それを身を半歩ひねって躱す。ダークグラスパーも、振り抜いた勢いをそのままに、連続で振り抜く。だが、その尽くをナイトグラスターは躱す。大鎌という重武器を自在に振り回し、ダークグラスパーはナイトグラスターを追い詰める。

「どうした、口だけか!」

「っ……」

 

 加速するダークネスグレイブの一撃が、ナイトグラスターの前髪を散らす。バランスを崩したそこに、容赦ない一撃。それをなんとか躱すナイトグラスター。だが、更にバランスを崩し、ついには四肢で体を支えてしまう状態だ。それを刈り取るように、ダークネスグレイブが振り抜かれ――。

 

「甘い!」

 ナイトグラスターは地を叩くようにして軽く飛び上がり、その体を錐揉み状に回転させる。ダークネスグレイブの刃の上を、まるで転がるようにして躱してみせた。

「なんじゃと――!」

「隙だらけだ」

 攻撃を躱されて無防備を晒したダークグラスパーに向かって、フォトンフルーレが一閃する。

「ぐあぁっ! バカな! 一体、どういう事じゃ……!」

 たたらを踏んだダークグラスパーが、驚きのあまり目を見開いている。

「今の未来が見えなかったか? 私には見えていたぞ」

「な……!」

 ダークグラスパーには最後の一撃を見舞って、ナイトグラスターに大ダメージを与えるビジョンが見えていた。だが、ナイトグラスターは更にその先――攻撃を躱してからのカウンターを当てるところまで見えていた。先刻までと逆に、ダークグラスパーよりも先の未来を、ナイトグラスターは捉えていた。

 それはつまり、眼鏡属性としての力がダークグラスパーを上回ったという事だ。

「巫山戯るでないわぁあああ!」

属性玉変換機構(エレメリーション)巨乳属性(ラージバスト)!」

「ぬぅ! これは、リヴァイアギルディの属性力か!」

 眼前に出現した目に見えない壁が、ダークネスグレイブを弾き返した。

『待ってください! なんで使えるんですか!? 属性玉変換機構で使える属性玉には、相性があるんですよ!? 愛香さんが百回生まれ変わったって巨乳属性が使えないように、一万回生まれ変わったって貧乳でしか無いように!』

「あんた、未来永劫ぶっ飛ばし続けるわよ!?」

『ひいい! 終わりが無いのが終わりとか、地獄じゃないですか!!』

 いつものやり取りはさておき、トゥアールの指摘は的を得ていた。ナイトグラスターに巨乳属性に対する適性はない。本来ならば、発動できない筈だ。本来ならば。

「今の私に、使えない属性力はない。これこそ、グラッシィチェインの真の力だ」

 相性による能力の選別がない。それはつまり、攻撃手段が無数に増えたことを意味していた。

「ならば――!」

 ダークグラスパーはその場から大きく飛び退き、間合いを取る。背のマントを突き破り、背中のパーツが稼働する。そしてダークネスグレイブが大きな弓へと変形した。それはダークグラスパー最大の必殺技の発射モーションだ。

「どれだけ読まれようとも、最大の火力を前にしては無意味よ。我が完全解放(ブレイクレリーズ)で、眼鏡の一片すら残さぬほどに粉砕してくれるわ!!」

 矢が番われ、鏃に力が収束する。それはかつてツインテイルズの合体武装によって粉砕されてしまった時とは比較にならない程、その出力を上げてた。

「ちょ、イースナちゃん! それはあかん!、マジであかんから!!」

「まずいぞ、ナイトグラスターにはあれに対処する手札がない!」

 いくら全ての属性玉を使えるといっても、あれだけの大出力には対抗できない。

『総二様! 三つ編み属性で相殺を! あれが放たれれば周囲への被害が大きすぎます! もう、イースナ! 属性力が暴走しかてるじゃないですか!』

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

 周囲の焦りとは真逆に、ナイトグラスターに焦りの色はなかった。なぜなら、新たな力は(・・・・・)正しくこれから使うのだから(・・・・・・・・・・・・・)

「”上位属性玉変換機構(ハイ・エレメリーション)”、旗起(フラグメント)!!」

 いうや、左腕のガントレットの窪みから、強い光が放たれた。そして――ナイトグラスターの姿が変わった。

 四肢以外のアーマーが消え、変わって全身をコート状のスーツが包む。その手にはフォトンフルーレの代わりに、先端近くに布らしきものが巻かれた長大な槍が握られていた。

『こ、これは……! 眼鏡属性を使って、別の属性力で変身している(・・・・・・・・・・・・)!? ありえません、こんなデタラメ……!』

「これが上位属性玉変換機構――フラグメントチェインだ」

 テイルギアの変身は、使われている属性力と使用者の属性力が一致することが絶対条件だ。その絶対を飛び越えた変身は、テイルレッドとは別の意味で、トゥアールの科学力を超えていた。

「どんな姿に変わろうと同じ事よ! 消し飛ぶが良い! ダークネスバニッシャー!!」

 放たれる、闇色をした破壊の嵐。それは周囲を余波だけで吹き飛ばしながら、猛スピードで迫ってくる。躱そうとしても、防ごうとしても、最早間に合うものではない。

完全解放(ブレイクレリーズ)――!」

 槍が輝き、巻かれた物が解ける。広げられたそれは、旗起のシンボルが描かれた巨大な旗。槍の正体は槍旗(そうき)だった。

「そのようなもので――!」

 目前に迫るダークネスバニッシャーに向かって、ナイトグラスターは輝く槍旗――フラグメントスピアーを振り下ろした。

「バニッシュフラグメント――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……何が起こったのじゃ!?」

 ひときわ眩しい光が起こった。そしてそれが収まった時、にわかには信じられない光景が広がっていた。

「ダークグラスパーの攻撃が、消えた?」

『いいえ、これはそんな生易しいものではありません! 攻撃そのものがなかったことにされています(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)!』

 放った強大な一撃は、しかし跡形もなく消滅していた。吹き飛ばされた周囲の物も元のまま。ダークネスグレイブは、元の大鎌に戻っており、破れたマントも直っていた。最初から何も起きなかったかのように、全てが元通りになっていた。

『因果の逆転? いいえ、これは因果の消失です! 在ったことを無かった事に書き換える、因果律のコントロールだなんて!』

「どのような力だろうと、もう一度放てば済む話よ。完全解放(ブレイクレリーズ)――? なに? どうして動かぬ?」

 再びダークネスバニッシャーを放とうとしたダークグラスパーであったが、グラスギアは全く変形しない。

「バニッシュフラグメントは、防御に特化した完全解放だ。その能力は”攻撃フラグの消滅”。お前の完全解放の攻撃フラグは44秒の間、消滅している。その間、何があろうとダークネスバニッシャーを放つことは出来ない」

「っ………」

「そして、その隙を見逃すつもりもない。これで終わりだ、ダークグラスパー!」

 ナイトグラスターの左腕のガントレット、そこの窪み全てが輝きを放つ。

上位属性玉変換機構(ハイ・エレメリーション)――!」

 輝きが形を生み出す。ショルダーガードを備えたアーマー。胸部はに眼鏡のシンボルが輝く。左腕部のマントは背後に展開され、ショルダーガードと一体になっている。

「あれは――まさか、俺のライザーチェインと同じか!?」

「そう。これこそ本当の切り札。名付けてトリニティチェインだ!」

『あれは……眼鏡属性を使って旗起、加虐属性との同時変身です! 単純な出力なら、ライザーチェインにも負けていませんが、出力強化が全身に及んでいる分、強力と言えます。でも、掛かる負荷も相当な筈です!』

 大至急分析を行うトゥアール。あふれる属性力が三色の光となってアーマーから放出される姿はかつて、フマギルディを倒すために属性力を暴走させた際の姿を思わせた。だが、その時とは違い、全身に満ちる力は、ナイトグラスターの意志に抑えられている。

『わかりました。ナイトグラスター、気をつけて下さい。その状態は約66秒しか維持できません。それを超えたらギアが暴走して崩壊する危険があります! レッドのように途中でフォームを切り替えてリセットできない分、戦闘可能時間は短いと思って下さい!』

「それだけあれば十分だ。抜剣、トリニティフルーレ!」

 トゥアールの分析を耳に、ナイトグラスターが眼鏡から新たなる刃を展開させる。

 それはフォトンフルーレよりも幅広の、三つの光に満ちる剣だった。

 ナイトグラスターが地を蹴って飛んだ。だが、その姿は一瞬で消え、ダークグラスパーの正面に現れる。

「バカな――なおも速いじゃと!?」

「遅い」

 防御の間もなく、ダークグラスパーが吹き飛ぶ。先を見ることに長けたダークグラスパーの眼鏡に映ることさえ無く、その姿は背後に移動していた。

 かろうじて防御の体勢を取るダークグラスパーに、ナイトグラスターの縦横無尽の連撃が襲いかかる。まるで空中に縫い付けられているかのように、その体は揺さぶられ続ける。ダークグラスパーは背のマントを振るい、攻撃の連鎖を断ち切ろうとする。

「ぬううう……! 調子に乗るでないわ! ――がはっ!」

 しかしナイトグラスターは苦し紛れの反撃を安々と躱し、逆にダークグラスパーを光る足で盛大に蹴り飛ばした。廃工場の壁に叩きつけられたその体が、ズルズルと落ちる。

「こんな……眼鏡でわらわが、他者に遅れを取る筈が……ない!」

「言っただろう。それが邪道の限界だと」

「知った風な事を言うでない! わらわが、眼鏡属性の為にどれほどの心血を注いできたと思うておる!」

「お前は言ったな。『眼鏡属性を救うために、アルティメギルに与してる』と。だが、それは違う。お前は眼鏡属性を救ってなどいない」

「何を言うか。わらわがおったから、多くの世界から眼鏡属性だけは失わずに済んでおるのだ!」

「違う。お前はただ世界に”眼鏡属性だけを置き去りにしてきた”だけだ。眼鏡属性は、眼鏡だけで輝くものではない。色とりどりの人の心が、想いが、眼鏡を星々のように煌めかせるのだ。心なき世界に残された眼鏡だけの輝きなど、真の眼鏡ではない!」

 眼鏡を救ってきたと論ずるダークグラスパーと、眼鏡を救ってなどいないと反するナイトグラスター。互いに信ずる道は違い、それゆえにぶつかるしか無い。

「何が心じゃ! 眼鏡の輝きに余計なものなどいらぬ! わらわのやってきた事も間違ってなどおらぬ! 何故なら、わらわこそダークグラスパー。眼鏡の支配者じゃ!! 完全解放(ブレイクレリーズ)!」

 再び使用可能となったダークネスバニッシャーが、暗黒の輝きと共に、力を解き放つ。

「まだわからないのか! 天蓋の星々を誰も支配できないように、神にさえ、眼鏡を支配する事は出来ん! 完全解放(ブレイクレリーズ)!」

 全身の装甲が展開し、三色の属性力の輝きが放たれる。それは混ざり合い、虹色のグラデーションとなってトリニティフルーレに絡みつく。ナイトグラスターは光を纏った刃で、真正面からダークネスバニッシャーを迎え撃った。

「はぁあああ―――!!」

「まさか――!」

 新たなる閃光の刃は、闇の一撃を無尽に切り裂いた。まさか、必殺技を真っ向から斬り捨てられるとは見えなかったダークグラスパーが動揺の余り、無防備な姿を晒す。そしてそれは、勝負の決まった瞬間であった。

「オーラピラー!!」

 ナイトグラスターが指を弾く。瞬間、光の柱が噴き上がって、ダークグラスパーの体を拘束した。

「ッ―――ぬぉおおあああああああああ!? オーラピラーじゃと!? バカな、一体いつ!?」

 ナイトグラスターのオーラピラーは相手や空間に設置し、任意の瞬間に発動できる。最後に見舞った蹴りで、ダークグラスパーの体にオーラピラーを設置していたのだ。

 ナイトグラスターが、完全に動けなくなったダークグラスパーに向かって、地を滑るように飛んだ。

 

「イースナちゃん!!」

「メガ・ネ!?」

 

 その間に、メガ・ネプチューン=Mk.Ⅱが割って入った。その巨体を盾にしてダークグラスパーを守ろうとしたのだ。その見た目から頑強さが分かるメガ・ネプチューン=Mk.Ⅱであったが、今のナイトグラスターの一撃を受けて無事で済む訳がない。だが、止まるにはナイトグラスターは速すぎ、距離も短い。両者の激突は避けられない―――しかし突然、ナイトグラスターの姿が消えたかと思えば、メガ・ネの背後に現れ、そのまま駆け抜けていた。正道成りし眼鏡秩序(コスモス・インフィニット)でメガ・ネを躱したのだ。

 

「トリニティフラッシュ――!」

「ぐぁあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 メガ・ネが振り返った時にはすでに、三色の残光が爆発の中を貫いて天へと昇っていた。

「イースナちゃあああああああん!!」

 もうもうと上がる爆煙。バラバラと振ってくる砂利と、グラスギアの破片。残響が徐々に収まっていく中、二つの人影が顕になった。

 

 

 グラッシィチェインに戻ったナイトグラスターは、ダークグラスパーの眼鏡前に刃を突きつけている。

 ダークグラスパーは眼鏡以外には一糸まとわぬ姿となっていた。それはかつて、ツインテイルズの合体技〈フュージョニックバスター〉によって敗れた時と同じであった。

 しかし、あの時は武装を排除されただけでダメージはなかったが、今回は完全解放による物理的破壊。ダークグラスパーの体には不相ダメージが刻まれており、既に力はなかった。

「終わりだな、ダークグラスパー」

「っ………! まだじゃ、まだわらわの眼鏡は残っておる!」

 それでもまだ、ダークグラスパーは敗北を認めない。この戦いはどちらかの眼鏡が破壊されるまで、決着ではない。そうお互いに覚悟し、決闘の場にやってきたのだ。

「そうか。ならば――」

「っ……貴様、何を!」

 やおら、ナイトグラスターがダークグラスパーの眼鏡を外した。眼鏡属性の者にとって、それは死にも勝る恥辱であった。幸い、その姿は煙に隠されており、ナイトグラスター以外には見えていない。

「眼鏡の者が、眼鏡を汚していては格好がつくまい。そら、これで良い」

 ナイトグラスターはクリーニングクロスで、ダークグラスパーの眼鏡についた汚れを丁寧に拭き取った。武士の最後が汚れなき白装束であるように、戦いの中で泥にまみれたそれを、捨て置くことなど出来なかった。

「何故じゃ。何故、わらわの眼鏡を破壊せぬ?」

 返された眼鏡を掛け直し、ダークグラスパーは当然の疑問を投げかけた。

「言ったはずだ。眼鏡は誰にも支配できないと。ならば、どうして他者の眼鏡を壊すことができようものか」

 他者の眼鏡を破壊する。それはつまり、他者の眼鏡を支配するに等しい行為だ。そのような蛮行を今のナイトグラスターに出来る筈がなかった。

「わらわを邪道と揶揄しておいてか?」

「何事にも正道があり、王道がある。ならば邪道もまた、確かに道なのだ。ただ、その行く先に未来はない、というだけだ」

「………」

「ま、間違った道を行こうとする妹を止めるのは、兄の役目というものだろう?」

「っ!? だ、誰が兄じゃ! わらわは認めぬぞ!!」

「うん? だが、”姉より優れた弟はいない”のだろう? だったら”兄より優れた妹も存在しない”筈だ。つまり、俺が兄だ。違うとは言わせんぞ?」

「ぐっ……ぐぐ……っ!!」

 屈辱と恥辱で、イースナの顔がゆがむ。ぎりぎりと歯ぎしりして、本当に悔しそうだ。

「イースナちゃん! 生きとるか――!!」

 煙の向こうからメガ・ネの声が聞こえた。

「派手にやったから、心配をかけてしまったかな。立てるか?」

「そう見えるか? もう、エロゲーのメッセージ一つ、送ることが出来ん」

「つまり指一本動かないと? じゃあ、仕方ないな」

 仕方ない、仕方ないと言いながら、ナイトグラスターの顔が、愉しそうに歪んだ。

「まて、何をするつもりじゃ貴様。やめよ、やめぬか! ――下ろせ、こら!!」

 抵抗できないイースナを、ナイトグラスターはひょいと横抱きにして持ち上げた。華奢なイースナの体は、その腕の中にすっぽりと収まってしまった。

「なんだ、随分と軽いなお前。ちゃんと食事は摂っているのか?」

「やかましい! おかんか貴様は!?」

「いいや。お前の血を分けた実の兄だ。そら、お兄ちゃんと呼んで良いんだぞ?」

「ふざけるな! 絶対に認めぬ! 絶対に呼ばぬ! 図々しいにも程があろう!!」

 そうやって喚いている間に、すっかりと煙は晴れていた。

「イースナちゃん! 良かったぁ、無事やったかぁ」

「メガ・ネ! 貴様、この有様を見て、よくもそんなことが言えるな!」

 そう言われて、メガ・ネはまじまじと二人の様子を見る。そして結論を出した。

「………いや、仲良うなって良かったなぁ?」

「センサーが壊れとるのか!? ええい、さっさと下ろさぬか!」

「はいはい。じゃあ、メガ・ネ。イースナを頼む」

「はい、確かにお預かりします」

「わらわは小荷物か何かか!?」

 イースナをメガ・ネに託すと、ナイトグラスターは真っ直ぐ、彼女の目を見つめる。イースナもまた、真っ直ぐに見つめ返す。

「業腹じゃが、此度は負けを認めてやろう。じゃが、わらわは自分のやってきた事を間違っていたとは思わぬ」

「それを正しいというのならそれで良いさ。何度でも向かってくるが良い。いつでも受けて立とう。兄妹喧嘩も、そう悪いものじゃない」

「………」

「………」

「――いくぞ、メガ・ネ。基地に戻るぞ」

「え。もう良いの、イースナちゃん?」

 そっけなく指示を出すイースナに、メガ・ネはつい聞き返した。

「良い。もう、今日は終いじゃ」

 そう言ってイースナはぷい、と顔を逸してしまった。そしてそのままナイトグラスターに向かって、何かを投げつけた。

 それは以前に、テイルレッドも渡された事のあるメルアドのQRコードだった。

「光栄に思え。お前にもくれてやる」

「はいはい。ありがたく貰っておくよ」

 そっけない態度に苦笑しつつ、QRコードをしまう。

「それじゃあ、いろいろとご迷惑をお掛けしました」

 ペコリと頭を下げ、メガ・ネが背のジェットを噴出させる。その轟音の最中、誰にも聞こえないほど小さな声で――しかし確かに。

 

「さよなら………お兄ちゃん」

 

 と。

 

「元気でな、イースナ」

 遠ざかって行くその影に、ナイトグラスターもそっと返すのだった。




1年越しについに決着。後はエピローグを残すばかり。
この話が終わったら、また少しオリジナルなのを入れつつ・・・あの話ですよ。BとLの危険な奴等がスタンバってますw

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