光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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お待たせして申し訳ありません。
待っていてくださった方、お待たせしました。




 ナイトグラスターとダークグラスパー。御雅神鏡也とイースナ。

 二人の間に紡がれた縁が明らかとなった。しかし、最早それは二人が止まる理由にはならない。同じ属性でありながら、在り方も、選んだ道も相反している。その両者の間に、戦い以外の決着などない。

 仲間に見守られ、決闘の第2ラウンドが静かに鳴る。

「ふっ――!」

「ぬっ――!」

 ぶつかり合って火花を散らす刃。だが、それは拮抗することなく――ナイトグラスターが弾き飛ばされた。体勢を崩されたナイトグラスターに向かって、ダークネスグレイブが翻る。マントが切り裂かれるが、紙一重で躱せた。

 ダークグラスパーの猛攻が続く。ナイトグラスターはただひたすらに受けに徹することしか出来ない。幾度も攻撃を繰り返され、ついに直撃を喰らってしまう。

「なによ、一方的じゃない!?」

 まるでわざとやっているんじゃないかと思うほど、受けに徹するしかないナイトグラスターの様子にブルーが叫ぶと、ダークグラスパーがそれに答えるように振り向いた。

「それは当然じゃ。あやつのテイルギアとわらわのグラスギアではそもそもの性能が違う。スピードに特化させているが、基本スペックが低いのじゃからな。だが、そればかりでこうなはらぬ」

 もともと、技術的な問題によって機能を十全に使えないテイルギアtypeGであったが、鏡也自身の成長とシステムのアップデートによって強化されている。ここまで一方的にはならない。

「癪にさわるが、この戦いの中でわらわの属性力は今迄にない程、高まっておる。それ故、ギアの出力も高まっているのじゃ」

「でも、それはナイトグラスターにも言えることでは?」

「確かにのう。だが、忘れた訳ではあるまい。グラスギアは眼鏡属性のために作ったギアじゃ。だが、ナイトグラスターのテイルギアはそうではあるまい。同じ様に高まった属性力をギアが反映できぬ……既に其奴は頭打ちじゃ」

 ダークグラスパーの言葉に、誰もが息を呑む。戦いの中で彼女は更なる力を得て、ナイトグラスターはこれ以上は強くなれない、と。つまりこの戦いにナイトグラスターの勝機は0%だという事に。

「――好き勝手言ってくれるものだ。頭打ちだと? 笑わせるな。属性力に限界などない!」

「だが”見えておらぬ”じゃろう? わらわの見ているものが」

「――ちっ」

 ナイトグラスターが舌打つと、ダークグラスパーの口元が不気味に歪んだ。否発せられた言葉の意味が分からないテイルレッド達は困惑する。その様子がおかしいのか、ダークグラスパーはますます、笑みを深めた。

「わらわの見える世界はナイトグラスターの更に先。つまりどれだけ動こうともわらわの眼鏡からは逃れられぬ! 躱そうともその先を斬り捨てるのみじゃ!」

ダークグラスパーの刃が再び、騎士を襲う。その切っ先が吸い込まれるように、あるいは自らが飛び込むようにして、ナイトグラスターが捉えられる。

「ぐあ――!」

 鎧が砕け散る。その欠片の向こうで死神がほくそ笑む。最早、盤面は決した、と。

「これで、終わりじゃ!」

 闇色の輝きをまとった一撃が、銀の輝きを飲み込む。吹き飛ばされたナイトグラスターの体が、力なく地面に落ちる。

「ナイトグラスター!?」

 レッドの悲痛な叫びが響く。さしものブルーも声をなくした。イエローも顔を青ざめさせている。この場にいないトゥアールも、モニター越しにこの光景を見て呆然としているのかもしれない。

「ぐ……ぅ」

 何とか立ち上がろうとするナイトグラスターだったが、その体に力が残されていないことは誰の目にも明らかだった。

「貴様はよく戦った。わらわの属性力もこれほどまで高まるとは思いもせなんだ。じゃが……それも此処まで」

 ダークグラスパーの眼鏡に、闇が収束する。

『いけません! あれは……あの技はカオシック・インフィニットです!』

「属性力の闇へと堕ちて行くが良い。永劫、上がることの出来ぬ深淵までな! 眼鏡よりの無限混沌(カオシック・インフィニット)!!」

 ∞の軌跡を描いた闇が、一瞬でナイトグラスターを絡め取る。

「ヌゥううう……!」

「無駄じゃ。今の高まった属性力より放たれたそれは、テイルレッドに使った時よりも遥かに強力! あがく暇も与えぬわ!」

「ぐぅうう……ぁあああああああ!!」

 闇が、光を呑み込んだ。その後には墓標のように突き立った、フォトンフルーレだけが残されていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「あー。………あれ?」

 気がつけば、俺は駅前の大通りにいた。さんさんと振り付ける日差しにでも当てられたのか。意識が朦朧とする。何か、あった気がするが……。

 周辺を見回すが、特になにもない。………うん、誰も彼も平和な眼鏡だ。

 

 

 ……平和な眼鏡?

 

 

 何か、おかしなフレーズだったような……。街行く人たちは”何時も通りに眼鏡を掛けている”。そう、誰もかれもが眼鏡を掛けている。

 遥か昔から――それこそ、遺跡に刻まれている程の時代から、だ。

 宇宙から地球外知的生命体が原始人に与えたとか、竜殺しの英雄が掛けていた知性の象徴とか、様々な説がある。そして今、世界中に眼鏡が溢れている。眼鏡とはファッションの象徴であると同時に、アイデンティティの証。世界とはすなわち眼鏡なのだ。

 

 ――おまたせ。

 

 ”彼女”の声が聞こえて、俺は振り返った。”彼女”は赤いフレームの眼鏡を掛けている。俺が誕生日に贈ったもので、”彼女”も気に入ってくれている。

 

 ――どうしたの? 

 

 ボケっとしていたせいか、”彼女”が怪訝そうな顔をする。足まである長いインテールを揺らして、こちらの顔を覗き込んできた。

 いいや、なんでもない。と答える。折角のデートだっていうのに、何をやってるんだか俺は。

 

 ――ほら、行きましょ。 

 

 ”彼女”が俺の手を取って、少しだけ強く引っ張る。初めて出会った時のように。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ――あのさ、今日……家に誰もいなんだよね。

 

 初夏の陽気漂うある日。初夏の陽気よりも遥かに熱気を帯びてしまいそうな言葉が、俺の脳内を灼熱の大地よりも熱く煮えたぎらせた。

 それはどういう意味だ? いや、子供の頃からの仲だし、家には何度も行っているけど……わざわざ、それを言うってことは……?

 黙り込んだ俺を、赤ら顔で見つめる彼女。その意図を察せられないほど、鈍くはない。………うん、大丈夫だよな?

 いつもなら何やかんやと喋りながらの帰り道を、今日は沈黙して歩く。バクバクとうるさい心臓の音に耐えながら、やがて彼女の家の前に着く。着いてしまった。

 

 ――ちょっと待ってて。

 

 そう言って、彼女は先に家の中に入っていった。日差しとは違う熱気に、思わず襟を緩める。

「………ん?」

 ふと、俺は隣をみやった。彼女の家の隣には昔、喫茶店があった。夫婦でやっていたけど、旦那さんが亡くなって店を畳んでしまったのだ。今は取り壊され、空地になって―――いや、待て。何か……おかしい?

 だって、あそこには――。

 

 ――おまたせ。……どうしたの?

 

「………いや、なんでもない」

 何かが引っかかった気がしたけど、何だったんだろうか?

 

 ◇ ◇ ◇

 

 家の中に入っても、どうにも会話が続かない。いや、そりゃ弾まないわ。だって……なぁ。その、あれだ、そういうのは……経験ないわけだし。いや、誰に言ってるんだ?

 

 やがて、どちらからともなく身を寄せあった。唇が触れ合い、互いの吐息が、鼻腔をくすぐる。薄手の服はすぐに脱げて、シンプルながらフリルの付いた下着が露わになった。いや、うん。改めて見ても……ないなぁ

 

 ――今、なんか思ったでしょ? 怒らないから言って?

 

「あたただだだだだ! 頭が! こめかみが! ギシギシ悲鳴を上げてるぅううう!!」

 エスパーかこいつは! いきなり両手で頭蓋骨を潰しにくるとか!

 

 ――あ、待って。

 

 彼女は俺を制して、やおら髪に手を伸ばした。そうしてツインテールに結んでいるリボンを解き―――俺は、気がつけばその手を止めていた。

 

 ――どうしたの?

 

 駄目だ。それは駄目だ。だってそれは……そのツインテールは、愛香にとって(・・・・・・)とても大事なものじゃないか(・・・・・・・・・・・・)

 

「………ああ、そうだ。そうだった」

 俺は、ダークグラスパーと戦って、奴の術中に落ちてしまったんだ。つまりここは、俺の作り出した、夢の中。

 にしたって、よりにも寄ってこんな夢を見るとは……不覚。俺にとっちゃ、もう終わった話なのに。

 

 あの日。中学最後の大会で優勝したら愛香に告白しようと思っていた。俺がフェンシングを始めたのだって、愛香を守れるような強い自分になりたかったからだ。だけど、優勝した俺に観客席から手を振ってくれている愛香と、その隣で同じ様に手を振ってくれている総二を見て、気づいたんだ。

 俺が好きな津辺愛香という少女は、観束総二に恋をしている彼女だっていう事に。総二のために、日夜髪を結い、努力し続けられる一途な少女。そんなひたむきさに、俺は惹かれたんだ。

 だから、告白はしなかった。代わりに愛香の恋を応援しようと思った。

 それが……この体たらくとは情けない。

「愛香。そのツインテールは、とても大事なものだ」

 きっと言ったところで意味がない。だけど、伝えよう。終わらせよう。

「俺は、お前のことが好きだ。だけどそれは、”アイツ”のことが好きなお前のことを、だ。そしてそのツインテールは、お前の大事な……想いの証だ」

 だから、手放すな。誰にも渡すな。その想いは譲るな。時さえ超える、その想いを。

「ありがとう。いい夢を見た」

 気が付けば、俺は再びナイトグラスターへと変身していた。周囲もいつの間にか、俺一人だけいる真っ白い空間に変わっている。後は、ここを脱出するだけだが……。

 

 

 ―――グルルルルル。

 

 

「なんだ、今の声は?」

 どこからが響く、唸り声。さながら闇夜の奥に蠢く、血に飢えた獣のような声だった。

 

 ――グルルルルァアアアアアアアアアア!

 

 轟く咆哮。空間が砕け散り、黒い影が飛び込んでくる。それはゆるりと立ち上がり、こちらを振り返った。

「っ――!」

 瞬間、突き抜ける痛み。一瞬で間合いを詰められた! 反射的に防御した筈だが、腕の中まで強烈な衝撃が走る。更に鋭い爪が振り抜かれる。すぐに飛び退くが、ヤツはそれを追いすがるように飛び込んでくる。

 その巨大な体躯は狼。下着を連想させるような銀色のラインが黒い体毛に走っている。

 こいつはエレメリアンだ。だが、なぜエレメリアンがこの空間に?

「グルルァアアアア! ダークグラスパァアアアアアアアアア!!」

「何――!?」

 こいつ、まさか俺をダークグラスパーと見間違えているのか? そういえばメガ・ネもそんな事を言っていたな。どうやらこれは、ダークグラスパーの尻拭いらしい。くそっ、なんでこんな面倒なことに!

「フォトンフルーレ! ……出ないっ!?」

 そういえば、ここに落とされる時に外に落としたか。くそ、面倒な。

「サディスティックサーベル!」

 ストラップに偽装された、Sサーベルを起動させる。威力は心もとないが、丸腰で戦うよりは幾分もマシだ。

 向かってくる狼エレメリアンの爪を捌きながら、カウンターを叩き込む。だが、大したダメージにはならない。

「ぐっ!」

 逆に狼エレメリアンの爪は、受けた瞬間に衝撃を走らせ、こちらにダメージを蓄積させる。まずい。全部は躱しきれない!

「ガァアアアア!」

「うぐっ――」

 狼エレメリアンの蹴りがめり込む。それだけで意識が飛びそうな程の痛みが走った。どうにか体勢を整えるが、やばいな。こいつとの長期戦は出来ない。

 だが、短期決戦など火力の低い俺に出来るか? いや、狙うはカウンターからの一撃必殺ならば、あるいは。

「………よし、かかってこい!」

 俺は全神経を集中させる。真正面から突進してくる狼エレメリアン。俺は迎え撃つように駆け出す。

完全解放(ブレイクレリーズ)――!」

 全身の装甲が展開し、閃光の一矢と化した俺と狼エレメリアンが真正面からぶつかり合う。最大加速の俺と、狼エレメリアンの激突。耳をつんざく轟音。揺れる視界の端に、死の気配が踊り狂う。

「はぁ!!」

 俺はサディスティックサーベルを振り上げた。そして――投げた。

「ギャウ!」

 狼エレメリアンがそれを弾く。やはり、弾いた。

「そいつは囮だ! 喰らえ、無刀――ブリリアントフラッシュ!!」

 全出力を右腕に乗せて、最大速度で叩き込む!!

「グゥウウウウウウ!」

「うぉおおおおおお! ――ハァッ!!」

 俺の一撃が、狼エレメリアンをふっ飛ばした。砕けた右腕の装甲が、威力の程を物語っている。今の自分の最大の攻撃だ。これで駄目なら……。

 

「グルルルルル……」

 

「ああ……くそったれめ。ダークグラスパーのやつ、本当に面倒な」

 地を蹴って飛びかかる狼エレメリアン。その爪撃が、俺を完璧に捉えた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

『目を――目を覚ませ。目を覚ますのだ、御雅神鏡也よ』

(誰だ、俺を呼ぶのは?) 

『お主はまだ、ここで散ってはならぬ。その眼鏡は、未だ砕けておらず。なれば、まだ冥府に逝く時ではない』

(なんだ、誰なんだ?)

 その声は低く、老人のようにも、若くも聞こえた。ただ静かに、俺に目覚めろ、と。そう呼びかけていた。

 俺は謎の声によって目覚めた。そこは――宇宙。いや、銀河だった。そして銀河にて一際、強く輝く星があった。

『目覚めたか。眼鏡なるものよ。我は眼鏡。汝が内の眼鏡なり』

「………」

 いや、うん。総二のあれを見たから予備知識はあるけど、自分もこんな経験をするとは。

 これは間違いなく、俺の属性力だ。疑いなく受け入れられる。

『御雅神鏡也。汝に問う。――眼鏡とは何ぞ?』

「眼鏡とは――俺の力」

 

『否』

 

「ぐっ……」

 強烈な声が脳内に響く。まるで魂を揺さぶられるみたいだ。

『汝は己の眼鏡を見失っている。故に邪道の眼鏡に遅れを取った。眼鏡とは力に非ず』

「力に、非ず」

 その言葉に、俺は自然と銀河を見渡していた。………ああ、そうだ。そうだった。

 眼鏡は、人と同じ視線で人生を映す。眼鏡とは人生だ。人の生に寄り添うものだ。人の数だけ人生があり、人の数だけ眼鏡がある。その営みは永劫、失われることはない。

「そうだった。戦うために眼鏡があるんじゃない。眼鏡は、隣人を支え、育まれるもの。歩むもの。人一人のそれじゃない。人の数こそ、人生の数こそが、眼鏡なんだ」

 俺はいつの間にか忘れていたのか。総二が究極のツインテールなんて呼ばれて、ダークグラスパーなんて、俺と五角以上の強い眼鏡属性を持つ強敵も現れて。

『左様。眼鏡とは禅の域に至る道之。無数、無量、無限を受け止めるには大悟を見出さねばならぬ。』

「それは……壮大な話だな」

『人なるその身にて、その頂に行けるかどうか、我は見定めるのみ。今再び道を見出したならば、戻るが良い。今の汝はかつての汝に非ず』

 

 ◇ ◇ ◇

 

 狼エレメリアン――フェンリルギルディは理性を喪失した状態でありながら、その異変を察知した。

 本能のまま、目の前の敵を――ダークグラスパーを貫いた筈の爪にはしかし、何もない。それどころか、気配すらない。

「グルルルル……」

 耳で、鼻で、居所を探る。もはや目は見えない。おぞましきものを見るに耐えられず、自ら閉ざした。その結果、最終闘態へと至ったのは、何という皮肉か。

 

「ふむ。別段出力が上がったというわけではないが……なるほど、視界が実にクリアだ」

 

「っ――!?」

 声は、真後ろからだった。すぐさま飛び退き、間合いを取った。

「理性を失いながら、意外と冷静じゃないか?」

「グォオオオオオオ!」

 フェンリルギルディは、地を蹴った。目の前の怨敵を葬る。その意志だけが四肢を突き動かす。

「まあ、落ち着け」

 とん。と、奴の指が触れた。それだけで、今まで煮えたぎっていた負の濁流が凪いでいく。

「あ……あぁ。何だ、貴様は?」

 視界が、閉じたはずの視界が光を取り戻していく。映った顔はダークグラスパーとは似ても似つかない顔立ちだ。

「我が名はナイトグラスター。アルティメギルに仇なす者だ」

「ナイトグラスター……貴様が」

「さて、こちらは名乗ったのだ。名を聞かせてもらおうか」

「名など……知ってどうする?」

「知っておきたいのだ。これから、俺が倒す相手の名を。ついでにダークグラスパーに落とされた者同士の(よしみ)でな」

「ダークグラスパー……! そうだ、俺はあいつに……!v俺はあいつに復讐する! 邪魔するものも! 誰であろうと!!」

「残念だがそれは出来ないな。さっきも言ったが、お前はここで俺が倒す」

 まるで自然なことのように語るその口調。フェンリルギルディの心を苛立たせるには十分だった。

「やれるものならやってみるが良い! 俺の名はフェンリルギルディ! 世の全てに疎まれし、下着属性のエレメリアンだ!」

 フェンリルギルディが、轟咆を上げて突撃する。理性を取り戻しても、その動きは獰猛な野獣のそれだ。一瞬の間もなく、フェンリルギルディはナイトグラスターの間合いを詰め――。

「そうか。知れてよかった」

 一瞬で、フェンリルギルディを袈裟懸けに斬り捨てていた。

「が――っ」

「強かった。本当に強かった。アルティメギルに隊長以外でこれ程の戦士がいるとは予想していなかった」

「強かった……だと? 俺が……?」

「ああ。誰が何を言おうと、俺はお前の強さを認める。下着属性の力、恐るべしと」

「………そうか」

 不思議と心が軽い。それはどうしてか、フェンリルギルディには分からない。ただ、一つだけ。

 

 

 

 ――満足だ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ナイトグラスター、目を覚ませ!」

「無駄じゃ。我が眼鏡属性の生み出した闇は、奴の眼鏡属性と絡み合い、永劫抜け出せぬ奈落へと引きずり落としてる。どのような夢を見ているかまでは知れぬが、いかなる術を持ってしても、そこから抜け出せはせぬ」

 テイルレッドの叫びを否定するように、ダークグラスパーの言葉を肯定するように、闇が閉じてフォトンフルーレ()が消えていく。

「どうやら、完全に終わったようじゃな」

「そんな……ナイトグラスターが、負けた?」

「ウソよ。そんなのウソよ!」

「――まだだ。まだ、あいつは負けてない!! そうだろ、ナイトグラスター!!」

「レッド。ですが、これではもう」

「イエロー。お前の好きなヒーローは、仲間が絶体絶命になったら、あっさり諦めるのか? なにがなんでも帰ってくるって信じるんじゃないのか?」

 レッドの怒りにも似た瞳に睨まれ、イエローがハッとする。ヒーローは最後まで諦めない。それは自分に限ったことではない。仲間を信じること。信じ抜くこと。それもヒーローの戦いだ。

「この状況でも、まだナイトグラスターを信じるというのか? なぜ、アヤツをそこまで信じる?」

 ダークグラスパーが不機嫌気味に尋ねる。その問いに、テイルレッドは何をバカな事を、と言いたげに答えた。

「俺は知ってる。こと、眼鏡にかけてあいつ以上の奴なんてこの世界にはいないってな!! 俺が究極のツインテールだっていうなら、あいつは究極の眼鏡属性だ。お前の眼鏡よりの無限混沌(カオシック・インフィニット)だって、必ず破って帰ってくる!」

 

 

 

 

 

「そんな大きな声を出さずとも、聞こえているさ。テイルレッドよ」

 

 

 

 

「なっ……何じゃ。この気配は、まさか!」

 異変はすぐに起こった。空間が真っ白い光によって割かれ、そこから滑り出るようにして人影が現れたのだ。

 所々ダメージを負って、更に装甲を失っているが、その気高い銀の魂は欠けること無く。

 その姿にダークグラスパーがギリ、と歯ぎしりする。

「まさか、わらわの眼鏡よりの無限混沌(カオシック・インフィニット)を喰らって、帰ってこれるはずがない!」

「甘いな。同じ属性力を利用すれば脱出はた易いものだ」

 

 闇の呪縛を打ち破って、閃光の騎士が帰還する。それは、光と闇の眼鏡の決着の時を意味していた。




次回、決着です。




うん。大丈夫w

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