ナイトグラスターとダークグラスパー。その戦いの行く末は如何に!?
1
アラクネギルディとの戦いを終えた翌日。すでに鏡也は登校しており、有藤は買い物に出ていて家には天音一人だ。フローリングの床をマイクロファイバーモップで手際よく掃除していると、チャイムが鳴った。
「はーい。どちら様ですか?」
『すんませーん。郵便ですー』
ドアフォンを取ると、外門に郵便配達員が来ていた。モップを壁に立てかけて天音は玄関から出ていく。
「すんません。これ、御雅神鏡也さん宛です~」
「はーい、ご苦労様です」
4号サイズの封筒を手渡され、受取のサインをする。配達員はそのまま自転車に乗って去っていった。
「――で、これがその手紙?」
夕方頃。帰ってきた鏡也はリビングで天音から手紙を渡された。表には自分の名前だけが書いてあり、住所も郵便番号も切手もない。裏も見るが、やはり何も書かれていない。
明らかに怪しい。これは投函されても届かない。なのに、これはここに届いた。つまり直接届けられたということだ。一体誰が?
「母さん、これを届けた郵便配達員ってどんな感じだった?」
「どんな感じだったって……何の変哲もない普通の人だったわよ?」
天音は指を顎に当てて思い出す素振りを見せた。歳不相応な素振りだが、不思議と可愛らしく見えるのは、年齢を感じさせない若々しさと、その雰囲気故か。
「背は2メートル以上の眼鏡を掛けたサメの着ぐるみに郵便カバンと帽子。赤い自転車に乗っていたわ」
ガターン!
「ね、普通だったでしょ?」
危うくワンパンKOされるところだった鏡也が、どうにかこうにか立ち上がる。
「変哲しかない! ちょっとは怪しく思って!? 普通、サメの着ぐるみ着て自転車乗って郵便物配る配達員は居ないから!」
「鏡也……人を見かけで判断してはダメよ?」
「見かけ以上に判断材料タップリだから!? あと絶対、中身は人じゃないし!」
天然なのか、わざとなのか。これ以上追求の意味は無いと鏡也は諦め、手紙を開封した。中には数枚の便箋が三つ折りに入っていた。
「どれ……」
おもむろに便箋を開き、中身に目を通した。
「鏡也。もうすぐ夕ご飯よ? いつまでも立ってないで、手を洗ってきなさい」
「………………はっ!?」
気が付けば数時間が経っていた。手紙は全部読まれてあったが、その内容を思い出せない。正確に言えば、思い出そうとすると頭痛がするのだ。
ただ、記憶としてあるのはそれはもう良く目が滑ったということだけだ。とりあえず、覚悟を決めずに読んで良いものではないと、手紙を封筒に戻して、夕食後に改めて見直すことにした。
◇ ◇ ◇
工場跡地。輝く月に照らされるその場所に、二つの影があった。闇に溶け込むような黒い鎧を身に纏ったダークグラスパーと、月光に煌めく銀色のボディーのメガ・ネプチューン=Mk.Ⅱである。
「……遅いのう。メガ・ネよ、ちゃんと渡したんであろうな?」
「ちゃんと届けたで。本人は不在やったから家の人にやけど……ちゃんと受取のサインももろうたし」
「ええい、変なところをキチンとしおって! というか、それでは本人が読んだかどうか分からんではないか!」
「せやかて、しょうがないやん。向こうはイースナちゃんとち違うて、朝から学校行っとるんやから」
「むぅ……。まあ、読んだであろう。わらわからのメッセージであるのだからな」
「あ、その事で気になったんやけど………イースナちゃん、封筒に自分の名前書いてなかったけど大丈夫なん?」
「え?」
「………今、「え?」言うたか?」
「言っておらん。とにかく、手紙なんじゃから読むじゃろう。読んでおればここに来る。……フン、わらわを待たせて精神的優位に立とうとしておるんじゃろう。姑息なことじゃ」
「う~ん、そうなんかなぁ~?」
メガ・ネが疑問に思いつつも、ダークグラスパーがそう言うならばそうなのだろうと、おとなしく待つことにした。
だが、夏とはいえ夜は冷えるものだ。深夜に差し掛かり、肌寒いわ、眠いわ、トイレに行きたいわ。だが、席を外した途端来られては格好がつかないので必至に我慢していた。だがそれも、限界に達していた。
「………おのれぇ」
涙目になるダークグラスパー。内股でプルプルと震えながら、怒りで拳をプルプルと震わせるダークグラスパー。こうなればと動こうとするも、ひょこひょこと威厳も機敏もない歩みになってしまっていた。
「イースナちゃん、せやからトイレ行っとき言うたやんか」
「うるさいわ!ぁぁぁ……」
声を荒げるも、すぐにシオシオと萎びた青菜のようになるダークグラスパー。イースナダムは決壊寸前で、速やかな放流が求められた。その為には速やかに移動することが必須であるものの、しかし今のダークグラスパーにそれを望むべくもない。ナマケモノよりも遅い歩みで進むのが精一杯だった。
メガ・ネは仕方ないなぁと、ダークグラスパーの小柄な体をひょいと抱き上げた。その瞬間。
「ぁ――」
その時。エクセリオンショウツがついに、人知れずその機能を発揮したのだった。
◇ ◇ ◇
夕食を取り、風呂に入り、久しぶりにゆったりとした時間を過ごした。
何か忘れているような気もしなくもなかったが、思い出せないのだからきっと大したことではないのだろうと、鏡也はベッドに入る。総二の一件以来、バタバタとしていた時間が終わったので久しぶりの熟睡である。
草木も眠る丑三つ時。町中が深い眠りの中にあったその時、月光を遮って鏡也の顔に影が差した。
「………ぅん?」
異変に気付いて、枕元の眼鏡を取って掛ける。寝ぼけ眼の視界を数度瞬けば、はっきりと像が浮かんでくる。
「ブッ――!?」
鏡也の部屋は二階の角にあり、天井には明り取りの窓がある。そこに恨みがましい顔でベッタリと張り付いている暗黒眼鏡女子一人。
「みかがみきょうやぁ~~~~~~!」
「よ、妖怪暗黒ストーカー女!?」
「誰が妖怪じゃ! 貴様には言わねばならんことがある故、ここを開けい! 開けねば叩き割る!」
「いやいや短気過ぎるやろ!? ちょい落ち着いて!」
「ええい、離さんかメガ・ネ!」
ダークネスグレイブをこれでもかと振りかぶり、今まさに振り下ろさんとするダークグラスパーを、メガ・ネが脇を抱えるようにして押さえ込んだ。ガタンガタンと屋根で騒ぐご近所迷惑コンビに、鏡也は慌てて壁に掛けられてあったラダーを立て掛け、登った。
「お前ら何時だと思ってるんだ!? アルティメギルには常識がないのは分かってるけど、それでも常識がないのか!?」
「常識がないのはどちらじゃ!? 己の眼鏡に手を当てて考えてみよ!」
「………いや、お前だろ?」
「ええい、いけしゃあしゃあと! ともかく中に入れよ!」
「ちょっと待て! 押すな、バカ………うぉおお!?」
ガタガタと押し入ろうとするダークグラスパーを押さえようとする鏡也だったが、変身している相手に加えて、不安定な足場のせいで、ついに足を踏み外してしまった。ついでに肩を掴んでいたダークグラスパーも一緒に落ちかけた。
「危ない!」
間一髪。メガ・ネが鏡也を掴み、鏡也はダークグラスパーとラダーを一馬力で支えた。
どうにかこうにか危機を脱した鏡也だったが、これ以上の騒ぎは危険と、二人を中に招くしかないと覚悟する。
室内に張ってきた二人は――正確に言えばダークグラスパーが、だが――勝手にクッションを床に置いて座り込んだ。
「おい、来客に茶の一つも無いのか?」
「家人の寝てる時間に押しかけてくる奴を客とは呼ばん。さっさと要件を言え」
ベッドに腰掛け、不機嫌さを隠そうともしないで鏡也は話をするよう促した。
「ふん。礼儀も知らぬ貴様に話す言葉など無いわ。さっさと茶を出せ」
「………」
無礼極まるダークグラスパーに、鏡也の我慢限界地を軽く超えかけた時、メガ・ネがそれを諌めた。
「こら。人様のおうちに押しかけといてその言いぐさは何や? 謝り、イースナちゃん」
「いやじゃ」
「いやじゃ、て……イースナちゃん!」
「………もういい。茶を飲んだらさっさと帰れ」
真面目に相手をするのも面倒だと、背を向けて部屋に備え付けの冷蔵庫から茶のペットボトルを取り出す。振り返ると、何故かベッドの下にこれでもかと手を伸ばしてるダークグラスパー。ガサガサと手を忙しなく動かしている。更に頭まで突っ込んだ。
「何をしていやがる」
「むぎゃあ!?」
割れ目を狙い、ケツを思いっ切り踏みつけてやると、珍妙な悲鳴を上げた。同時に跳ね上がった頭がガツン! とベッドの底にぶつかった。
「痛ぅうううううう……!」
一瞬、フォトンアブソーバーはどうした? と聞きたくなったが、それよりも聞かなければならないことがあった。
「何で人のベッドの下をまさぐった?」
「ふん。エロゲーの一つもないとは何ともつまらん部屋じゃ。わらわならむしろベッドでエロゲーが出来ておるぞ」
「おい、メガ・ネプチューン。こいつの情操教育はどうなってるんだ?」
「ごめんなさいね。もう、とっくに手遅れで……」
「ああ……まぁ、そうだろうな」
これは典型的なダメ人間だったとトゥアールの話を思い出し、鏡也は溜息を吐いた。
「ほれ、これを飲んでさっさと帰って寝ろ。精神が不健康なくせに体まで不健康になるつもりか?」
「何を言うか。この時間はむしろ、わらわにとってのゴールデンタイムよ」
「それを不健康というのだ。で、要件はなんなんだ? あるならさっさと言え」
鏡也が促すと、ダークグラスパーは「ふん」と鼻を鳴らした。
「貴様、何故わらわからの決闘の申し込みを無視した? 怖気づいたというなら、とっととその眼鏡を手折るが良いわ!」
「決闘の申し込みだと? そんなものいつやった?」
「誤魔化すでない! 見よ、封が開いておるではないか! 知らなかったとは言わせぬぞ!」
と言って、机に置かれたままになっていた謎の手紙を取って見せた。
「やっぱりお前か。その意味不明、悪電波にまみれた時間泥棒を書いたのは」
「何を言うか。この中身をちゃんと読んだのか貴様?」
ドスン。と押し付けられる毒電波発生機。押し返そうとするも、流石に変身しているだけあって押し返せないものの、諦めず押し合いになる。
「見たから言ってるんだ。これのどこが決闘の申し込みだ」
「どれどれ。どんな事を書いたんや?」
睨み合う二人の手から、メガ・ネが手紙を取った。そうして開いて中身に目を通した。
「こ、これハ………」
「どうじゃ、メガ・ネよ。わらわ渾身の果たし状の出来は。遠慮なく言うが良い……メガ・ネ?」
無い胸をこれでもかと張って、威張るダークグラスパーであったが、メガ・ネが何故か何の反応も示さないことに気付いて、訝しげに首を傾げた。
鏡也も顔を覗き込んで見る。と、もしかしたらという異変に気付いた。
「おい。もしかして、機能停止してないか?」
「な、なんじゃと!?」
慌ててメガ・ネの体を揺するが、なんの反応もない。バシバシと頭を叩いてみる。だがやはり反応がない。
「アタ……ちょ、やめ……」
「メガ・ネ! しっかりせい!」
「起きろ、メガ・ネプチューン!」
「や、もう起き……」
「やはり反応がない! こうなればもっと強い衝撃を――」
「起きとる言うてるやろぉおおおおおおお!!」
「うるさぁあああああああああい! 何時だと思っているの――!!」
バーン! とドアが開かれた。そこにはいつものホンワカした雰囲気とは違って、目が座り、触れることすら憚られる恐ろしさを持つ天音の姿があった。その迫力に、ダークグラスパーも目を見開いたまま固まってしまっていた。
「ご、ごめんなさい……」
「早く寝なさい。良いわね?」
「は……はい」
「………」
バタン。と、ドアが閉まる。遠ざかる足音に、誰知らず溜息が聞こえた。
「今のはなんじゃ? 気配さえ感じなかったぞ?」
ダークグラスパーが、胸を押さえながら顔を青ざめさせている。よほどの恐怖だったようだ。
「うちの母親だ。普段は穏やかだが、寝起きがすこぶる悪くてな……自分で起きるには問題ないが、誰かに起こされると凄まじく期限が悪くなる。言っておくが、他人にも容赦なしだからな?」
「う、うむ………気を付ける」
僅かな間にすべてを察したか、ダークグラスパーは素直に頷いた。
「――でだ。メガ・ネプチューンは何で機能停止したんだ?」
若干小声になりつつ、鏡也が尋ねる。メガ・ネは手紙をダークグラスパーに突き出した。
「これは何やねん。読んだ瞬間、意識が飛びそうになったわ。ていうか、飛んだわ!」
「なんじゃと!? わらわ渾身の傑作になんということを!」
「そもそも、どこにも決闘の申し込み書いとらんやないの! こんなんで来るわけな良いやんか!」
「な……そんな馬鹿な事があるか!?」
手紙を奪い取り、ダークグラスパーが確認する。そして二枚目の真ん中あたりを指差した。
「ここに書いてあるではないか!」
『滅び去りし鉄の宮を赤に染まるその前に 麗しき眼鏡と偽りのレンズに裁きが下る』
「「何処がだよ!」やねん!」
バ――――――ン!!
再び現れた天音が、これでもかと据わった目で部屋の中をねっとりと見回す。3メートル近いロボットフィギュアと、ベッドの両端からはみ出す両足を、暫しジッと見ていたが、やがてバタンとドアを閉じた。
遠ざかる足音が完全に聞こえなくなるまで、室内では誰一人動かなかった。そのまましばらくジッとしてたが、二人がガバッとベッドから飛び起きた。
「お前の母親は一体何なんじゃ!? 修学旅行の見回りの先生か!?」
「お前らがでかい声を出すからだろうが!」
「イースナちゃん、落ち着き。これ以上は長居せん方がええって」
流石に懲りたか、小声になる三名。メガ・ネの提案に、ダークグラスパーはむむ、と唸りながらも頷いた。
「確かに、これ以上は無駄じゃな。というか、また来たら怖いし」
果たし状を仕舞い、ダークグラスパーは鏡也に向かって死神の鎌を突きつける。
「改めて、貴様に決闘を申し込む」
「俺が受けると思うのか?」
「思う。これはただの決闘ではない。眼鏡属性に相応しいのはどちらか、それを決めるための戦いよ。逃げるならば貴様の眼鏡はその程度と負けを認めたに等しいからの」
「なるほど。人を煽るのも随分と得意なようだな」
元より、避けられぬ戦いがついに来たのだから逃げるつもりなど毛頭ない。鏡也の言葉を肯定と捉え、告げた。
「明日の夕方四時、場所は最初の工場跡。其処がわらわたちの決戦のバトルフィールドじゃ!」
「ここはいつから埼玉県になった? とにかく、明日だな」
鏡也の返答にニヤリと微笑うダークグラスパー。部屋を後にせんと踵を返し――。
「――ちょっと待て。ドアから出る気か?」
「当然だろう」
「良いのか?」
「何がじゃ?」
「二度の寝起きのせいで、僅かな足音でも気付かれるぞ? そしてバレれば命が危険だ」
「具体的には?」
「あと一撃喰らったら死ぬ状態で、曲がり角曲がった直後、ヨグ=ソトースとぶつかるぐらい」
「それは人間に対する喩えとして的確か!? ……ともあれ、仕方あるまい」
ぶつぶつと言いながらラダーに足をかける。屋根に上がらなくても窓から出ればと鏡也は思ったが、あえて言わなかった。
「………覗くでないぞ」
「とっとと登れ」
頭の痛くなる事を吐きながら、ダークグラスパーが登っていった。続いてメガ・ネが登っていく。
「あの、心配は要らんと思いますけどちゃんと来てあげて下さいね。今日はずっと待ちぼうけで、トイレも行かれへんいうて……」
「メガ・ネェエエエエエエエ! 余計なことを言うでないわぁああ!」
「せやけど、また今日みたいなことになったら」
「アレはお前がトドメを刺したんではないか!!」
ダークグラスパーが顔を赤くして怒っている。その様子に、鏡也はつい聞いてしまった。
「漏らしたのか?」
「漏らしとらんわ! ちゃんとトイレに行ったわ!」
「でも漏らしたんだろう?」
「違うというとるじゃろうが! ええい、早う上がってこいメガ・ネ!」
「ああ、待ってやイースナちゃん! ホンマお騒がせしました」
ペコリと頭を下げて、ラダーを登っていくメガ・ネ。
のっしのっしと歩いて行くダークグラスパーと、それを追いかけるロボットを見送って、鏡也はふと零した。
「漏らしたのか………そうか」
ともかく、招かれざる来訪者は帰り、夜は再び安息の時へと帰ったのだった。
深夜のハイウェイを銀色のマシンが疾走する。その乗り手は闇から取り出したような黒いマントをたなびかせ、ハンドルを切る。
「しかし、相手の家に押しかけるとか大胆やなぁ」
「ふん。メガ・ネに任せては如何様にか誤魔化されていたやも知れぬからな」
「最初からシンプルに手紙書いとけば良かっただけやないの」
「うるさいわ! とにかく今は――」
「せやな」
『そこのバイク停まりなさい――――!』
「停まるんじゃねえぞじゃ、メガ・ネよ!」
「下手な死亡フラグっていうか、死ぬ時の台詞っぽいんやけど!?」
背後から追跡してくる赤色灯の車からの逃走中であった。
◇ ◇ ◇
一夜明け、その時は刻一刻と迫ってきている。昼休み。鏡也は一人、中庭のベンチで寝転んでいた。今日は雲一つない快晴で、時期的には気候も穏やかだ。ここは木陰になっているので、昼寝にも最適である。
あと数時間後には、ダークグラスパーとの決着をつけに行く事になる。いつか来る日と覚悟はしていた。だが、その当日にもこんなに穏やかでいる自分というのは想像もできなかった。
「お、ここにいたか」
「……ん。総二か」
顔を上げると、総二がいた。手にしていた紙パックをヒョイと投げてきたので、片手を上げて受け取る。
「部室に来ないから探しにきたんだ」
「今日はそんな気分じゃない……というか、静かに過ごしたかっただけだ」
ベンチから起きて、パックにストローを刺す。オレンジの甘酸っぱさが喉をするするすると下っていく。
「……で、愛香達は?」
「部室だよ。出てくる時にはトゥアールとじゃれ合ってたし。相変わらず仲が良いよ二人は」
「草食動物と肉食動物のじゃれ合いは、ネコとネズミ以上に命に直結しそうなものだかな」
他愛ない会話をしている間に、昼休みの終わりを告げる予冷が鳴り響く。
「おっと、教室に戻るか」
「総二。悪いが先に行っててくれ」
「遅くなるなよ?」
総二が先に戻るのを見送り、鏡也は思いっ切り背伸びをした。深く息を吐いて、小さく呟いた。
「じゃ、行くか」
初夏の風を浴びながら、ゆっくりと歩き出す。
その日。鏡也が教室に戻ることはなかった。
エクセリオンショウツの活躍を、描きたいだけの人生だった・・・。