光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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アズールレーン、面白いですね。
愛宕さんが三人も来てくれたのに、ウェールズさんは来てくれませんでした
(なんのこっちゃ)


10

 ナイトグラスターが速攻を仕掛ける。最大の武器である速度を活かして、嵐のような斬撃を繰り出す。アラクネギルディは柱を障害物としながら走り、その軌道を限定させながら、間合いを離そうとする。そうはさせじと、さながら跳弾の如く行く手を塞ぎ、縦横無尽に飛び回る。

「ぬぅ……。この動き、”ただ速い”だけではないな」

「ハァアアア!」

「だが、それでも拙者には及ばぬ」

 鞘から解き放たぬ長物をグルリと回し、猛追するナイトグラスターの刃を躱し、その横っ面に向かって振るった。それに反応し、ナイトグラスターもフォトンフルーレを振り抜いた。

 

 ――ギィン!

 

 一合。たったそれだけでナイトグラスターの体が飛んだ。土煙を上げて滑りながら、なんとか体勢を立て直す。

「ぐう……っ!」

「幾ら速かろうとも、このような限定的な空間では攻められる方向は限られる。それさえ分かれば後の先を取るは容易よ」

 アラクネギルディが、鞘からゆっくりと刃を抜き放つ。薄暗い空間にあってもギラリと輝くそれは、まるで夜天に煌めく凶月だ。

「分断し、数の優位を活かすために一人、拙者の相手を努めようというのだろうが……愚策よ」

「化け物じみた貴様に連携をされたら、それこそ勝ち目がない。勝ちの目は高いほうが良いだろう?」

「なるほど。愚策と称したことは訂正しよう。だが、それでも拙者を一人で止められると思うか?」

「可能か不可能かは関係ない。ここで、貴様を倒す。そう決めただけだ」

「――潔し!」

 一足で間合いを詰め、上段から唐竹に刃が走る。瞬きの間に敵を両断する神速の一撃だ。ナイトグラスターは半身を引いてそれを躱す。数本の髪の毛が宙に舞った。片足を軸に回転し、ナイトグラスターは前へと踏み込む。間合いの差がある以上、懐に飛び込まなければ活路はない。

 横に飛び込んだナイトグラスターは更に半回転する勢いで、フォトンフルーレを振り抜く。しかし、その刃が止められる。アラクネギルディの背中から太い足のような爪が現れて、フルーレを止めたのだ。

「ちっ!」

 舌打ちすると同時に、飛び退く。鋭い爪が一瞬の後、ナイトグラスターの居た場所を貫いていた。

「拙者の武器はこの刀のみに非ず。手数においてもこちらが有利よ」

「つくづく面倒な相手だな――っ!?」

とっさに伏せる。その頭上を大太刀が烈風を伴って駆けた。更に六つの爪矢継ぎ早に襲いかかる。鉄骨さえ大きく切りつける威力のそれを躱しながら反撃を試みるも、敵の攻撃の隙間を突いての反撃では、思うような効果を発揮できない。

「くそっ」

「ダークグラスパー様と同じ眼鏡属性の能力。それは光、闇の違いはあれ、”像を結ぶ”事にある。光が像を映し、影が生まれるようにな。故に、視覚を通してあらゆる情報を得、そこから〈予測〉を見る。それは予知にも近い程だ。だが――」

 アラクネギルディが刃を水平に構え、そのスタンスを大きく広げる。それは明らかな意思に満ちてている。

「如何に”見えて”いようとも、それを活かせる力なくば……無力と同じよ」

「――っ」

 それを受けて、ナイトグラスターも構える。”予測”は――最悪。回避も許されない。だが、そこまであれば覚悟も決まる。

「無駄かどうか――確かめてみると良い」

「ふっ……良かろう!」

 静寂は一瞬。互いの姿が消え、耳をつんざく金属音と共に爆発が起こった。そして――。

 

「………ぅぐ」

「見事なる一撃だった。ナイトグラスターよ」

 積まれた土嚢を派手に吹き飛ばして、光の騎士が砂泥にまみれた。そして強烈なる武士は踵を返した。

 目的はツインテール属性。未だ戦闘中の上層階に向かって、アラクネギルディは軽く跳躍しながら登っていった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 テイルブルーとテイルイエロー、アラクネギルディは戦闘を継続しながら屋上まで上がっていた。

「こいつ……速い!」

「以前に戦った時とは比べ物になりませんわ!」

 イエローが牽制を仕掛け、ブルーが一撃を繰り出す。だが、イエローの弾幕も足止めし切れず、ブルーのパワーも容易くいなされてしまう。

「その程度では、拙者を留める事などできぬぞ?」

 息荒い二人に比べて、アラクネギルディは余裕さえ浮かべている。だらりと下げた長物を肩に担ぎ、ゆっくりと歩を進める。その威圧に、二人の足が無意識に下がる。

「臆したな」

 瞬間、アラクネギルディが踏み込む。一歩でその間合いを詰め、袈裟がけに一刀を繰り出す。今までの賜物か、反射的にランスで防御するブルー。その上から、強烈な衝撃が走った。弾き飛ばされるブルー。その踏み込みから、アラクネギルディの体が回転する。その足が鞭のようにしなって、イエローに向かって振るわれる。

「きゃあ!」

「イエロー! このぉ!」

 まともに喰らって吹き飛ばされるイエロー。ブルーはすぐに駆け出し、ランスを振り上げた。

「大振りな一撃なぞ、拙者には通じぬ――っ!?」

 余裕で飛び退きながら、しかし咄嗟に刃を盾にしたその上から、衝撃が走る。槍は触れていないが、攻撃は届いた。

「こんの――!」

 ブルーは目一杯の力を込めてランス横薙ぎに振るう。大きく跳んだアラクネギルディの足元を、不可視の一撃が弾いた。更にランスを振り回すも、アラクネギルディはその軌道を全て見切って躱してみせる。

 〈ハイレグα属性〉による不可視の間合延長攻撃だったが、もう効果がないと分かるや、すぐに次の属性玉をセットする。そして思いっきり跳躍した。

「これなら――どう!」

「そのような攻撃、躱すは容易い」

 真っ直ぐに繰り出される攻撃は、しかしあっさりと躱される。だが、それはブルーも承知だ。

「喰らいなさい!」

 体勢を立て直したイエローがガトリングガンで牽制する。アラクネギルディの注意が一瞬逸れたその時、ブルーの姿が消えた。

「ぬっ!?」

「――おりゃあ!!」

 ブルーの槍が鋭く、アラクネギルディに襲いかかった。アラクネギルディの正に真下から。〈スク水属性〉による透過能力でコンクリートを抜けたのだ。

「ぐぬっ!?」

 さしものアラクネギルディも、完全な不意打ちに対応し切れず、一撃を喰らう。それをチャンスと、ブルーが一気に攻めたてる。アラクネギルディも即座に対してブルーの攻撃を捌く。だが、彼女の狙いはその次にあった。

「これなら、どうよ!」

「っ――」

 超至近距離からの、完全解放。躱すのは不可能なタイミングだ。

「エグゼキュートウェイブ――!」

「ぬぅうううう!」

 放たれる必殺の一撃に対して即座に反応したアラクネギルディが、そこに向かって背中から六つの足と太刀を合わせ、正面から受け止めた。

「ちぇぇええええええい!」

 裂帛の気合と共に、大太刀がランスを弾き飛ばす。そのまま足の先端から赤い糸を光線のように放ち、二人がそれに絡め取られる。

「しまった!」

「せぇええええええええい!」

 糸を思いっ切り引かれ、二人の体が空中に投げ出される。防御も出来ないその状態の二人に、アラクネギルディが一閃した。

 

「「きゃああああああああああ!」」

 

 盛大にふっ飛ばされ、二人は剥き出しの鉄骨に叩きつけられる。低くたわんだ音が屋上に響いた。ガラガラと崩れる建築資材が、二人の上にのしかかっていく。

「危ういところであった。以前の拙者であったならば、今の一撃が届いていたやも知れぬ」

 言葉ではそう言いながら、アラクネギルディには焦りの色など微塵もない。それ程に圧倒的な差だった。

「――聞こえているか、テイルレッドよ! 何故に姿を現さぬか知らぬが、早く現れねば被害は拡がるばかりぞ!」

 アラクネギルディが叫ぶや、町を呑み込むような巨大な竜巻が出現し、それが解けるようにして烈風に変わる。その風に煽られた人々(主に男性)の悲鳴が、町のあちらこちらからから響いた。どうやら、強制男の娘攻撃の被害が更に拡大しているようだ。このままではいずれ、日本が男の娘国家になってしまうかも知れない。それは正に地獄絵図だ。

「冗談じゃないわよ……!」

「ええ。これ以上の被害はなんとしても……!」

 上に載っていた資材をどかしながら、ブルーとイエローが立ち上がった。だが、足は覚束ない。戦えなくないが、しかしダメージは決して軽くはない。

「まだ立ち上がれるか。しかし――」

「それもここまでだ」

 背後から、アラクネギルディの声が聞こえた。正面には変わらず、アラクネギルディがいる。その異変に察するよりも早く、二人の体を赤い糸が絡め取った。

「アンタ、どうして……!?」

 背後に目をやると、そこにもアラクネギルディが立っていた。その事実に、イエローが目を見開く。

「まさか……ナイトグラスターが?」

「奴ならば、すでに倒れた。残るはお主達だけだ」

「くっ……!」

 最悪の状況にブルーが歯噛みする。ただでさえ一体相手でこのザマだ。二対二では一縷の望みさえ無い。そう思うブルーの前で、二人のアラクネギルディは再び一人へと戻る。

「数の優位を捨てた? どういうつもり……?」

「その程度の優位、意味をなさぬ。なにせ……数が増えた分、この力は損なわれる故な」

 一体へと戻ったアラクネギルディの体から、凄まじい属性力の波動が迸る。大太刀”男の娘の棒(アメノムラクモ)”を軽く触れば、その剣圧だけでコンクリート片が吹き飛んだ。

 迫りくる死神の手に、身動き出来ないブルーとイエローはどうすることも出来ない。

「では、さらばだ――」

 

「待て―――!!」

 

 突如、戦場に木霊した声。それこそは、この世界最強のツインテールを持つ守護者。そして今や、世界の全てにその存在を知られる赤い戦士。

 

「現れたか――テイルレッド」

 テイルレッド、戦場に降り立つ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 基地のモニターでは、仲間達のピンチが映し出されていた。

「クソ――!」

 ソーラは居てもたっても居られず、転送装置に向かって駆け出した。

「待って下さい、総二様! 今、総二様が行っても無駄です!」

「っ――!」

 トゥアールの制止の声に、思わず足が止まる。たしかに、今のソーラにはまともに戦える力はない。だが、それでもソーラには赴かない理由にはならない。

 転送装置の操作はトゥアールにしか出来ない。総二は何としてもと、口を開こうとする。だが、それよりも早く別の声がソーラに掛けられた。

「行ってきなさい、総ちゃん!」

「母さん!?」

「お義母様!!」

 いつの間にやって来たか、いつものコスプレをした未春と、学園からここまで来たのだろう尊が立っていた。未春はつかつかと歩き、トゥアールの前にあるコンソールをパチパチと叩いた。と、転送装置が起動する。

「な、何で操作できるんですかお義母様!?」

「説明書を読んだのよ!」

「そんなものありませんよ!?」

「とにかく、行きなさい。――いいえ、行くべきなのよ!」

「待って下さい。総二様は今、戦える状態ではありません。出ていっても……勝ち目はありません」

「そんな事、どうということはないわ」

 未春はソーラの背を押すように、力強く言った。

「やりたい事とやるべき事が一致したなら、世界の声だって聞こえるのよ!」

「名言をパクるにしても、もうちょっとオブラートに包めよ!! でも、ありがとう。行ってくる!」

 ソーラは変身すると同時に転送装置に飛び込んだ。視界が光に染まり、空気が一変する。戻った視界に飛び込んできたのは、今まさに危機にさらされているブルーとイエローの姿だった。

 思わず、テイルレッドは叫んだ。

「待て―――!!」

 

 

 

 

 

 

 

「どうして総二様を行かせたんですか? 総二様は万全の状態ではないのに……」

「逆に聞くけれど、何時になったら総ちゃんは万全になれるの?」

「それは……分かりません。ですが、いつかは」

「それじゃダメなのよ。”何時、戦えるようになるか?”では足りないの。”何時、戦うべきか?”でないと。そうでなければ、総ちゃんは二度と立ち上がれなくなるわ」

 未春はいつになく真剣な表情でそう言った。

「それに、総ちゃん自身が問題の意味に気付けない限り、どれだけ時間を掛けても無駄なのよ。それに気付いているのは鏡也君ぐらいだけれどね」

「え? 鏡也さんは原因に気付いているんですか!?」

「あの子って結構、総ちゃんのこと見ているからねー。でも、結局は総ちゃん次第なのよ。自分の殻を壊せるかどうかは……ね」

 モニターの向こう、アラクネギルディと対峙するテイルレッドを見ながら、未春はそう呟くのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「くぅ……気を失っていたか?」

 圧迫感と共に痛む胸を押さえながら、ナイトグラスターは体を起こした。頭を振って、意識をハッキリさせれば、体中に違和感を覚える。その感覚に顔をしかめ、思わず独りごちる。

「やれやれ、これは盛大にやられたな。戦えないことはないが、果たして……」

 体を動かし、感覚を確かめ直す。どうやら動かすには支障はなさそうだ。一通り確かめると、強力な気配を発する上階を睨んだ。僅かに聞こえる音が、まだ戦闘が継続していることを教えてくれた。

 ナイトグラスターは一足飛びに、鉄骨を渡って上へと急いだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「何で来たのよ! 今からでも良いから帰りなさいよ! あたし達が信用できないの!?」 

「そんな事言って、ボロボロじゃねーか! とにかく俺も戦う!」

 レッドがブレイザーブレイドを構え、アラクネギルディに向かって飛び込む。上段から思いっ切り、叩きつけるように振り下ろす。が、その切っ先は床を叩くだけだった。

「……拙者を侮辱しておるのか? 何だ、その剣筋は?」

 明らかな不快さを孕んだ言葉に、レッドは更に攻撃を仕掛けた。しかし、その尽くが空を切り、剣の重さに振り回されるばかりだ。

「くそっ……! うおおおおおおお!」

 大きく跳んだレッドがその勢いを利用して、ブレイザーブレイドを振りかぶる。アラクネギルディは微動だにすることなく、スッと片手を上げた。

「なっ――」

 アラクネギルディはブレイザーブレイドの切っ先を、指で挟むように止めた。

「もう良い。お主からは何も感じぬ。これ以上、無様を晒すなテイルレッドよ!」

「っ――!」

 ブレイドを投げ捨てるように弾かれる。がら空きとなったその体に向かい、アラクネギルディの刃が振り上げられ――。

 

「完全解放――ブリリアントフラッシュ!」

 

 その瞬間。アラクネギルディとテイルレッドの間に銀の閃光が奔った。閃光はアラクネギルディを吹き飛ばし、レッドは尻餅をついた。

 見上げるテイルレッドの視界には、銀色の剣士の影があった。

「無事だったのか、ナイトグラス――」

 ター。と、レッドは言葉を続けたかったが……出来なかった。銀を全身に纏う姿はナイトグラスターのものに違いない。だが、明確に違っていた。

 銀糸の髪が背中まで伸びていて、体は一回り小さく細まっている。顔つきも男性のそれではない。全身が女性特有の丸みを帯びている。

「えっと……ナイトグラスターか?」

「ああ。言わんとせんことは分かる……間違いなく私だ」

 銀の影――ナイトグラスターは諦観したように言った。その変化に心当たるのは一つだけだ。

「もしかして、アラクネギルディの属性力で……?」

 離れたところにいるブルーとイエローも、困惑に目を見開いている。

「どうやら――うぐっ!?」 

 突然、ナイトグラスターが胸を押さえて苦しみだした。見れば、チェストアーマーに、大きな亀裂が入っている。

「くっ……何とか堪えてきたが……これ以上は、もう……!」

「おい大丈夫か! もしかして怪我を――」

 思わず駆け寄るレッドを余所に、ナイトグラスターの手が自分の肩に触れた。ガチャン。とチェストアーマーが落ちた。

 

 ――たゆん。

 

「…………………………………………は?」

 最初に聞こえたのは異様に低く、異様にドスの利いたブルーの声であった。

 元来、男の娘とは女子に異様に近い外見と内面を持つ男子の総称である。詰まるところ、どこまで行こうと性別上は男性なのだ。故に、女子に無いものはあるし、男子に無いものは無い。

 にも関わらず今、ナイトグラスターの胸には無い筈のものがあった。イエロー程ではないが、ブルーとは比較することさえ憐れになるサイズだ。

 何故、それがあるのか。レッドは知らず震える唇で尋ねた。

「お前、何で……?」

「――以前、スネイルギルディの粉を浴びたことがあっただろう?」

「あ、ああ……あったな」

 レッドに身に起きた異変が、それを起因としているのではないかとか投げたこともあったので、レッド自身よく覚えている。

「今更ながら、奴の属性力である”性転換属性”が強大化したアラクネギルディの”男の娘属性”の影響を受けてしまったようだ。ダメージを受けて防御が弱体化した事も原因であろう」

 そう自己分析するナイトグラスターは、解放された胸を数度撫で、安堵の溜め息を吐いた。

「全く……アーマーに潰されて何とも苦しかった。それにどうにも重い。感覚も色々と狂っているし、やりにくい事この上ない」

 やれやれと頭を振るナイトグラスター。レッドはどうしても、尋ねなければならなかった。

「つまり、男の娘になったんじゃなくて……完全に、女になっちまったのか?」

「そのようだ」

 

 

『「イィイイイイイイイイイイイイイイイイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」』

 

 

 途端、現場と基地とで同時に絶叫が響き渡った。

「なんで!? 何で男の娘飛び越えて女になっちゃってるの!? しかも何よそんなの見せびらかして! あたしへのあてつけ!?」

『ブヒャヒャハハハハハハハハッハハッハアアアアア! 性転換した男にさえ負けてる! 何ですかもうDNAレベルでさえ敗北する遺伝子なんですか! いっそブルーも性転換したら良いんじゃないですか!』

「トゥアール! あとで覚えときなさいよ! 胸囲をマイナスにしてやるから!」

『物理的に不可能なのになぜかやられそうな恐怖が!』

『いやああああああ! 私は男性と結婚したいのです! ナイトグラスター様がそのままになってしまったら、同性間の結婚になってしまう!? その場合、ウエディングドレスはどっちが着ることになるのですかぁあああああああああ!?』

「尊、落ち着いて下さい! まだそうだとは決まってませんわ!?」

『そ、そうですね‥…文金高島田である可能性も』

「そうではなくて!」

 

「………なんだか、感じ慣れた空気だな」

「そうだな。さてと、流石に髪はこのままでは邪魔だな」

 そう言って、足下に落ちていた恐らくは梱包用に使われていたのだろうビニール紐を使って、手早く髪を後頭部に纏め上げた。

「ちょっと待て。そこはツインテールだろう!? なんでポニーテールなんだよ!?」

「なんでって……こっちの方が簡単だろう?」

「違う! 簡単とか難しいとかじゃない! 俺達はツインテイルズなんだぞ!? だったらツインテールじゃないのか!?」

「そもそも、私はツインテールではないだろう」

「ほら、頭寄越せ。俺が結んでやるから!」

「いや、遠慮する。というか、落ち着け」

 

「――ナイトグラスターッ!!」

 

 グダグダになりかけた空気を、アラクネギルディが一喝した。ビリビリと肌に突き刺さる圧に、全員が身構える。

「いや、あえてその名は呼ぶまい。今の姿――名付けるならば”レディ・グラスター”とでも言うべきか」

 アラクネギルディはゆっくりとした動作で刀を納め、鞘ごと床に突き立てた。そしてやおら背後に手を回しながら、その歩を進めてきた。

 何をする気かと、警戒する一同に対し、アラクネギルディはそれを取り出した。

 

「すまぬが、写真を何枚か取らせてもらえぬか?」

「お前まで何を言い出しているんだ!?」

 

 スマホを取り出してカメラレンズを向けるアラクネギルディに、レッドは条件反射でツッコむ。

「それは構わないが……男の娘ではないぞ?」

「いいのかよ!?」

 許可を出してしまったナイトグラスターにもレッドのツッコミが輝く。

「確かに……拙者の属性力とは違う。しかし、その姿は我が弟子スネイルギルディの理想を正に体現した姿。あやつの追い求めたものは、確かに在ったのだと、伝えてやりたいのだ」

「滅びてこそ叶う……全ては遠い理想郷というわけか」

 少しだけしんみりした空気が流れた。男の娘だの性転換だのという点に目を瞑れば、比較的良い話なのだが。

 

 

「では、まずは一枚。少し体をこちらに傾けてくれぬか?」

「こうか?」

「うむ。そのままこちらに上半身をひねる感じで……そうだ。そのまま」

「むう……難しいものだ」

「次は、そのポニーテールを掻き上げるように……そのまま! そのまま動かずに」

 

 

「…………何なのよ、これ?」

 思わず独りごちるテイルブルーであった。




ずっとやらかそうとしていたこのネタ!

やったね妙ちゃん。ついにナイトグラスターにヒロイン属性がついたよ!

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