光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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海回、二話目。
みんな大好き、某人気アイドルも登場して盛り上がること間違い無し!







なんてキレイな話なら良いんですがねぇ・・・。




 神堂家所有の島はあまり人の手が入れられておらず、自然がそのまま残されている。鏡也は海の中を静かに泳いでいた。美しいブルーの空を、鳥の羽のようにたゆたう。スキューバダイビングとまでは行かないが、シュノーケルでの海中遊覧だ。

 ビーチバレーに水上バイクと、それぞれが思い思いに海を楽しんでいた。何故か尽くトゥアールが愛香の餌食になっていたが、自業自得なので仕方ない。

(綺麗な光景だ。静かで音もない。安らげるな)

 一面が青の世界。熱帯特有の鮮やかな魚群。海面から差し込む陽の光が帯となり、美しいグラデーションを描く。実に幻想的な光景だ

「――ぷはっ」

 息継ぎのために海面へと上がる。途端、騒々しい気配が帰ってくる。ボードにされたトゥアールが愛香を乗せて、見事に波に乗っていた。水の抵抗が強そうだが、素晴らしいスラロームを決めている。是非とも幻想であって欲しいと願いたくなる光景であった。

「………ん、なんだ?」

 何かが腕に絡みついていた。海藻かと思ったが、違う。もっと人為的な何かだ。手に取って持ち上げてみる。

「これ、水着か? でもこの色……まさか」

 赤みがかったオレンジ色の水着。これを付けていた人間は、一人しか居ない。

「おーい、鏡也ー。水着、返してくれー」

「やっぱりお前のか、総二」

 声に振り返れば、ソーラがこちらに向かってスイスイと泳いできた。鏡也は水着を持った右手を持ち上げ、その顔めがけて投げつけた。

「前を隠せ!」

「ぶわっ! 何するんだよ鏡也!」

「俺の台詞だ!」

「男同士なんだから気にするなよ!」

 男の時の癖で、前を隠さないままこちらに来たものだから、鏡也はもろに見てしまった。相手がソーラであるから特に思うところもないが、それとこれとは話が違う。何かしらの拍子で別の場所で同じことをやられたら冗談ではなくパニックが起きる。ビーチクライシスだ。

「なんで総二様がそのイベント発生させてるんですか! しかも、何で鏡也さんが水着ゲットしちゃうんですか! その上、総二様の有りのままを見るとかどんだけお約束を消化すれば気が済むんですかこのラッキースケベ男は!!」

「人聞きの悪い事を言うな」

 お前に物申す! と、バタフライで迫ってきたトゥアールを、そのままアイキャンフライとばかりに空へと投げ飛ばす。数秒後に「ビッターン!」と、派手な音を立てて背中から落ちたトゥアールが海中へと沈んでいった。

「とりあえずさっさと付けろ」

「あ、ちょっと待った。水中だとつけづらい……鏡也、後ろ付けてくれ」

「やれやれ。背中向けろ」

 ソーラが胸元を押さえている間に、鏡也が背中のホックを止める。

「ほら、これでいいか」

「サンキュー、助かったぜ。なんか上がないと、胸が揺れて動きづらいわ」

「そんなのは知らん」

 

 二人のやり取りを見つめる四つの目。愛香とトゥアールだ。その視線はジト目という言葉がよく似合っている。

「……どうです愛香さん? あれを傍から見てどう思われるか……分かるでしょう?」

「……いや、だって鏡也はノーマルだし。眼鏡好き以外は」

「それは総二様だって一緒でしょう? ですが、精神と肉体は相互関係にあるんです。愛香さんの蛮族ぶりが精神から生まれ肉体に侵食しているように、いつ総二様が女性的部分に目覚めてしまうか……その危険性が一番高い相手が、鏡也さんなんですよ!」

 熱弁を振るうトゥアールだったが、まず自分が真っ先に命の危険に晒されてしまった。盛大な水しぶきを上げて海面に叩きつけられていた。

「いやいや……でも………まさかそんな…………ありえないわよ」

「ちょ……! ありえない……! のは……! わたしの……! ほう……!!」

 ビターン! ビターン! と、何度となく水面を今強制的にバウンドさせられ、流石のトゥアールも、生命維持がレッドゾーンに入りつつあった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 沖から帰ってくると、何故か慧理那がしきりに体を動かしていた。泳ぎに出る前、一悶着あったせいで尊は一人、はぶられたかのように砂の城を作っている。

「姉さん、何してるんだ?」

「え、準備運動……ですわ?」

「何で疑問形?」

「ていうか、今頃するのか!?」

「今、思い出したんです! 怪我をしないために観束君も鏡也君も、よく見て参考にしてくださいまし!」

「お、おう……」

「ええ……」

 珍しくグイグイ来る慧理那に気圧される二人。慧理那は再び、準備運動を始めた。ゆらゆら。うねうね。と、慧理那の体に合わせて、彼女のツインテールが怪しく揺らめく。

(なんだ、あの動き? ツインテールが妙な気配を……っ!?)

 人の心を侵食する、その異様な気配に目眩が起きる。ツインテールから目が張り付いて離れない。

 ツインテールに興味のない鏡也ですら、これだ。ツインテールが心臓に絡みついている、異世界にもその名を轟かす某は――。

 

「ひゃあん!」

「はあ……はぁ!」

「ちょっとそーじ! 何してるのよ!」

「観束、貴様! お嬢様になんという事を!」

 

 やはり、ソーラは正気を失っていた。慧理那を押し倒し、その指で弄ぶ――慧理那のツインテールを。

「くっ……」

 まとわり付く邪悪な意思をどうにかして振り払わなければと、鏡也は意識を集中する。自身の属性力を眼鏡に集め、一気に解放することで邪気を払わんとする。

「―――ぬん!」

 くわっ! と、眼鏡を唸らせて、呪縛を解き放つ。自由を取り戻すとすぐにソーラに向かって走る。

 どうにか引き剥がそうとする愛香らを押し退け、鏡也は右手を振り上げた。

「目を――覚ませ!!」

 

 パシーン!

 

「あう――!」

 ソーラの体が空に泳ぎ、力なく砂浜に落ちる。

「目が覚めたか。総二?」

「あ……ああ。助かった」

 頭を振りながら、体を起こすソーラ。ツインテールについた砂を払いながら立ち上がろうとするが、足をもつれさせて転びそうなった。

「おっと」

「わ、悪い……まだ頭がクラっとする」

 とっさに鏡也が腕を出し、その体を支える。その腕に捕まり、漸くソーラは立ち上がれた。

「一体、何がどうなったんだ?」

「それは当人に聞こう――ねえ、姉さん?」

 チラリと視線を送れば、顔を紅潮させながらも気まずそうに首をすくめる慧理那。

「アレは準備運動じゃなくて、ツインテールを使った強力な催眠術だ。あんなのどこで………というか、一人しかいないか。慧夢おばさんだろう?」

「………はい」

 小柄な慧理那が殊更小さくなって、ポツリと呟いた。それを聞いて、鏡也はやっぱりかと溜め息を吐いた。

「あれは今後一切禁止。いいね?」

「………はい」

 塩を掛けた青菜よりもシュンとして、慧理那は頷いた。

「それはそうと……鏡也?」

「なんだ?」

「止めてもらっておいてなんだけど………何で眼鏡だ?」

 ソーラは自分に掛けられた紅色の眼鏡に触った。慣れない感覚に眉をひそめている。

「催眠術で暴走してたからな。ツインテールよりも強い、眼鏡でフィルタリングすることで暴走を解いたんだ」

「ちょっと待て。聞き捨てならねーぞ? なんで眼鏡がツインテールより強いんだよ!? ツインテールは最強の属性力だぞ!?」

「ふっ。政権交代の日も近いという事だ。よく似合うぞ、総二? やはり俺の見立ては完璧だな。その明るい髪には、ワインレッドのようなシックな色合いが似合うと踏んでいたんだ」

「ふざけんな! そんな日は絶対に来ねえよ! くそ、外れないだと!!」

「ははは! 洗脳を解くのに属性力を込め過ぎたせいかな! 安心するがいい。一時間もすれば外れる………多分」

「多分!? 多分て言ったか今!?」

 ワーワーキャーキャーと騒ぐ二人。それを冷ややかな視線が見つめていた。

「……なんですかあれは。なんで総二様が鏡也さんとイチャイチャしているんですか!? こんな事になったのも、愛香さんが私の邪魔ばっかりするからですよ!? 本当ならとっくに総二様の童貞を頂いて、正妻の座も安泰だったというのに!!」

「そんな時は絶対来ないわよ!!」

「チェンジガバメント!?」

 愛香によって、トゥアール政権の野望は物理的に海の藻屑と消えた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 慧理那の自業自得とはいえ、彼女を襲ってしまったソーラはその罰として、尊に遠泳を命じられた。本人も色々と思うところがあるのか、素直に従ってザッパザッパと泳いでいった。

 鏡也はパラソルの影に横になり、撫でる海風に身を任せていた。ダークグラスパーの一件以来、どうにも気を張っていたせいか眠気が込み上がってきた。瞳を閉じ、暗闇に包まれれば意識はすぐに落ちていった。

「ねえ、鏡也?」

「……」

「鏡也ってば」

「…………」

「鏡也!!」

「ゴフッ!?」

 いきなり気管が潰された。盛大に咳き込み、涙目で視線を上げれば愛香が覗き込んでいた。その長いツインテールが顔に掛かりそうだ。

「な゛……な゛んだよいきなり?」

「ちょっと聞きたいんだけど……良い?」

「良いも悪いも今、自分が何やったと思ってんだよ!? 俺はトゥアールと違って不死身じゃないんだぞ!?」

「私も別段、不死身じゃないんですが」

 何か言っているトゥアールをきっちり無視して、鏡也は愛香をジト目で睨んだ。

「で、わざわざ起こしたのな何なんだ?」

「……そーじの事よ」

「総二の?」

 愛香の緊張した、強張った表情に思わず背を正す。勘も鋭く、いつも一緒にいるだけあって、ソーラの身に起きた異変に感づいたのか。

「そうか……やはり気付いたか」

「やっぱり、そうなんだ」

 愛香は深く溜め息を吐いた。目を伏せ、深刻そうに呟く。

「でも、なんでそーじなの? 他にだっているじゃない」

「それを言われても……強いて言うなら、アイツだから。だろう?」

 確かに、以前は慧理那も似たような状態にあった。鏡也や愛香も陥る可能性もあった。ソーラがそうなったのはある意味必然であり、偶然でもあった。

「何よそれ……。そーじは男なのよ?」

「男だとかは関係ないだろう? ……いや、むしろ男だからか?」

 異変の始まりはダークグラスパーだ。となればやはり、同性より異性であるという点が大きな要因なのだろうか。外見が女性同士でも内面的には男性女性。総二が意識をしてしまうと言うのは間違った見方ではないだろう。ただ、今の状態――ソーラに至る経緯とどう繋がるかは不明だが。

「………やっぱり、そうなんだ。でも、どうしてなの、鏡也?」

「何が?」

「いつから……そーじの事、好きになったのよ!?」

「…………………………は? 今、なんて言った?」

 余りにも突拍子も無い発言に、思考が停止しかかった。どうにか二の句を次ぐが、まだ理解が追いつかず、目眩さえ覚える。

「だから、いつからそーじの事」

「とぅ」

「ごふっ!?」

 鏡也はつい、愛香の喉に地獄突きを決めてしまった。やるのには慣れてるがやられるのには慣れていない愛香が、ビーチを転がりながら咳き込む。

「ちょ……げほ………いきなり何するのよ!」

「あはははは! いい! 愛香さんがのたうち回って! 素晴らしい光景です! これはもう永久保存の上、今日という日を記念日にしましょう!」

 笑い転げるトゥアール。だがすぐに苦痛に転げ回る羽目になった。

「で、何でその発想に至ったのか説明してもらおうか? 事と次第によっては、いかにお前でも穏便にはすまんと心得ろ?」

「だって、トゥアールが……」

「ちょっと愛香さん! 何を言い出してるんですか!?」

「本当のことじゃない! アンタが”鏡也はラッキースケベで一番危険!”なんて言い出したから!」 

「だって本当のことじゃないですか!」

「ふたりともシャラップ」

 

 ――どどすっ。

 

「「ごふっ!?」」

 地獄突きリベンジ。またしても砂浜を転げる二人。鏡也は馬鹿な事をと首を振った。

「全く。俺も総二もまともだぞ……多分」

 自分はともかく、総二に関してはいまいち自信はない。

「でも、今の総二様は女性なわけですし。世の中にはTSというジャンルもありますしね。実際、スネイルギルディがそうでしたし。なので、お願いですから私の上から退いてください!」

 手足をホールドして作ったトゥアールチェアが文句を言う。が、鏡也にはもう少し解く気はない。

「大体、俺は――!?」

 その時、眼鏡にビリッと電気のような圧が走った。それを鏡也は知っている。闇の眼鏡――暗黒の支配者を名乗るかの存在。

「どうしたの、鏡也?」

「いる――ダークグラスパーだ」

「えっ?」

「総二に連絡をしろ。急げ、トゥアール」

「は、はい! 総二様―――え、ダークグラスパーがいた!?」

 トゥアールが驚きの声を上げた。ダークグラスパーが実際にいた事もそうだし、既に接触してしまっていることにも驚いていた。

「愛香さん、慧理那さん。出げ――」

「ダークグラスパァアアアアアアアア!!」

「――きをと言い切る前に跳んでいっているですがあの人!? しかもあの大岩どっから持ってきたんですか!?」

 あっという間に変身したテイルブルーが、大岩を抱えてリボン属性の力で飛んでいった。というか、大岩を素の力で持ち上げている辺り、蛮族化が加速しているような気がしなくもない。

「テイルオン! 鏡也君はここに居てくださいまし! ブルー、独断専行はいけませんわー!」

「気をつけてなー」

 変身したテイルイエローがすぐさま後を追って飛んでいく。それを見送ると、鏡也とトゥアールが視線を合わせた。

「………(チラリ)」

「………(チラリ)」

「………何か?」

 トゥアールと鏡也が先程まで砂の城を作っていた尊に視線を向ける。まるでシンデレラキャッスルのような、巨大建築を建てて満足気にしている尊と目が合った。

「お嬢様は行かれたのか。ならば我々も後を追おうではないか。なあ?」

「ちょっと、何で捕まえるんですか!?」

「お嬢様たちがどこに行ったか、分かるのは君だけだろう。さあ、行くぞ!」

「ひいいいい! 凄い怪力なんですけどぉおおおおお!」

 砂地も何のそのと、尊はトゥアールを引きずって走っていってしまった。一人残された鏡也は、四人とは違う方へと動いた。念の為、ひと目のない場所へと駆け込み、変身する。

「グラスオン!」

 人数的に3対1……否、メガ・ネがいれば3対2だ。だが、今のテイルレッドがどこまで戦えるか分からない以上、2対2と考えるべきだろう。それはあまりにも不利だ。ナイトグラスターは跳躍し、現場へと向かった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 叩きつけられた大岩。舞い上がる砂塵。怒りに震えるテイルブルー。不敵に笑うダークグラスパー。サメのマスコットメガネドンのきぐるみを着たメガ・ネプチューン=Mk.Ⅱ。反対側の砂浜では緊張が嫌でも高まっていた。

「なんでスク水着ているんですか! 露骨に狙いすぎでしょうがぁあああああ!」

 邂逅早々、ツッコミを唸らせるトゥアール。接敵2秒で戦場は混沌と化していた。

「しかも、何で名札剥がれてるんですか!? 下丸見えとか痴女じゃないんだから止めなさい!」

「ふふん。隠すようなものなど無いからの」

 痴女に痴女と呼ばれた暗黒眼鏡だったが、気に病むこともなく無い胸を張る。

「いや、すんませんな。ウチが名札剥がしてしもうたんですわ。ほら、イースナちゃんこれでも貼っとき」

 きぐるみのまま、ダークグラスパーの胸に器用にもペタリとシールを貼るメガ・ネ。白く四角いそれは宛名シールだった。

「何故、宛名シールを……」

「この間、イースナちゃんが通販で買い物した時に付いてきてたのを再利用したんですわ」

 テイルレッドの疑問にも健やかに答えるメガ・ネ。一番非常識な格好の存在が一番の常識人というのが皮肉に満ちている。

「あのきぐるみ……もしかして、この間のロボットが入ってるの?」

「ど、どうしてきぐるみを……? もしかして、ダークグラスパーの作戦ですの?」

「そこを気にするのか!? いや、気になるけどさ! あれはダークグラスパーというより善沙闇子の案件らしい。とにかく油断するなよ」

 と、レッドがある事に気づいた。通販ということは、アルティメギルの秘密基地の場所がわかる何かがある可能性があると。レッドは強化された視力でジッと睨むようにダークグラスパーの胸部を凝視した。

「むっ……胸に刺さるようなテイルレッドの視線。もしや……吸いたいのか?」

「何言ってんのよ。ダイ◯ンでも吸えないぐらいペッタンコのくせに」

「………」

「………」

 テイルブルーの言葉に、静寂が起きた。何か言わんとしたトゥアールですら、沈黙する羊のようであった。

「見たか、ダークグラスパー。これが真のボケというやつだ。この破壊力の前では、お前のそのツッコミどころだらけの格好も、ハリボテにすぎない」

「誰がボケてるってのよ!」

「……イースナちゃん。やっぱり安易なキャラ付けはあかんて。アイドルとしての寿命を縮めるだけやで?」 

「どうしてその結論に達したのか……じっくり話合おうじゃない、きぐるみロボット」

 ギリリ。と拳を握りしめるブルーが、ダークグラスパーに向かって指を突きつける。

「さっさとグラスギアを付けなさい。私だって丸腰相手にはちょっとぐらい躊躇うわよ。容赦はしないけど」

「それ、躊躇っておらんじゃろうが。じゃが、お前達と戦うのは部下の役目じゃからのう」

 この状況にあっても戦う気配を見せないダークグラスパー。その人を煙に撒くような態度がブルーの殺意を膨れ上がらせる。が、それに意を介さず、ダークグラスパーはレンズの奥の瞳を細ませた。

「じゃが、余計なものもやって来たようじゃな」

 

「――落ち着けテイルブルー。我を見失えば敵の術中だぞ?」

 

 その声が響くや、天空から一つの影が舞い降りた。そしてその声に即座に反応したのは、物陰に隠れていた飢婚者だった。

「その御声はナイトグラ――」

 アッシュシルバーの髪を海風になびかせ、黒縁ハーフリムの眼鏡は星の光を湛える。細身ながら鍛えられた裸身を惜しげもなく晒し、身につけるは黒のビキニパンツ。

 閃光の騎士――ナイトグラスターだ。

 

「――て、何で水着姿なのよあんたまでぇえええええええええええええ!」

 ブルーによる魂のツッコミが光った。

「何故と言われれば、TPOに合わせたらこうなるのは必然だろう?」

「環境よりも戦場のTPOに合わせなさいよね!」

「似合っていないか?」

「似合ってるわよ! 似合ってるから尚更、たちが悪いのよ!」

「大変ですブルー!」

「今度は何!?」

「尊が盛大に鼻血を噴いて倒れました!!」

「あーもう! 次から次へと!!」

 ツッコミ過多のブルーがイエローの慌てた声に振り返れば、砂浜を血の池の様に染め上げて、尊がうつ伏せに倒れていた。一見すれば惨劇の舞台だ。前面は血まみれで間違いないだろう。

「ナイトグラスター。なんじゃ、その醜い姿は? 眼鏡の気品が死んでおるわ!」

「ダークグラスパー。何だその見るに堪えん姿は? 眼鏡の魅力を殺したいのか?」

 かつての再現のように、睨み合う両者。その威圧に一切の加減はなく、一触即発の気配を漂わせる。ただし、スク水とビキニパンツのせいでシリアスも台無しだが。

「これ、どう収拾つければ良いんだよ……?」

 いよいよ着地点が見えなくなってきた状況に、レッドが思わず零す。その時、一際大きな波が砂浜に打ち付けた。

 ゴロン。と何か大きな物が転がってきた。最初は深海生物か何かかと思ったが、違うようだ。

「何だ?」

 よくよく見ると、それはエレメリアンだった。しかし動かない。もしかしたら彫像か何かかと注視していると、それはのそっと動き出した。生きているようだ。

「う……うぅ……」

 それはまるで、地の底から響く怨念めいた響きであった。お盆もまだ遠い季節に合って冥府から蘇ったか。

「腹筋の……腹筋の割れたおなごは……おりませぬか……冥土の土産に……腹筋の割れたおなごを……この爺に……どうか」

「世迷い言を言ってるな」

 ナイトグラスターが冷静にツッコむ。そしてダークグラスパーは眼鏡のブリッジを持ち上げ、言った。

「何じゃこやつは?」

「お前がそれ言っちゃダメだろぉおおおおおおおおおおお!?」

 指揮官クラスにすら分からないエレメリアンまで登場して、もう混沌が収まる気配は完全に死んでしまった。

 




混沌「我が世の夏が来たぁあああああああああ!!」

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