光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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久しぶりに長い回。今回もネタが多いですがついて来れますかしら?




 鳴り響くチャイムの音に総二は目を覚ました。見回せば見慣れた教室。窓からは傾きかけた夕日が差し込み、室内を赤黒く染め上げている。

 人影はない。気配も感じない。全員下校したのだろうか。

 

 いや、そもそもどうして自分はこんなところで寝ているのか。もし居眠りをしていたとしても、愛香や鏡也、トゥアールが起こさないだろうか。

 

「ふはははは! 起きたか、テイルレッドよ!」

 

「ッ――!? だ、ダークグラスパー!?」

 突然の事に総二は椅子を蹴倒して立ち上がった。直後、ハッとした。今、自分は変身していない。なのにはっきりと言われた。”テイルレッド”と。

 正体がバレた!? 一体何故!? 動揺に体が硬直したその隙に、ダークグラスパーが動いた。

 顔が迷いなく近づく。そして――かつて感じたのと寸分違わぬ感触が、唇に起きた。

「うっ……!」

「貴様は、わらわの嫁じゃ!」

 傲慢不遜。そんな四文字がそのまま服を着たかのような発言に胸(ほのかに)を張るダークグラスパーに、総二は呆気にとられ、何も言い返せなかった。

 

 ガタン――。

 

「えっ――!?」

 突然の物音に、総二は反射的にドアの方を向いた。そこには小さな人影があった。白と赤いのボディスーツ、赤いツインテール。直接は見慣れない、しかし見慣れた姿。

テイルレッド()……?」

 そう。そこに居たのは、総二が変身した姿である筈のテイルレッドであった。テイルレッドはツインテールをたなびかせ、その場から駆け出す。

「待って! 待ってくれ!」

 気が付いた時には、総二は追いかけていた。邪魔な机を蹴飛ばすようにして、教室を飛び出す。廊下を走るテイルレッドの背中が見えた。すぐに全力で走る。だが、それほど長くないはずの廊下の向こうが果てしない。必死に走るが、テイルレッドは遠ざかっていく。まるで暗黒の彼方にテイルレッドが消えていくかのようだ。

「待ってくれ――――!」

 

 

 

「…………あのな、総二。俺も昔からお前のあれやこれやを知ってはいるが」

「…………何も言うな」

「これは……流石に問題だろう?」

「言うなよ!」

「だったらとっとと離れろ! 俺は男に抱きつかれて喜ぶ趣味はない!!」

「それ以前に何でいるんだよ!?」

「愛香がトゥアールをふん捕まえてるから、代わりに起こしに行けって言われたんだよ!」

 早朝の爽やかな空気の中、ツインテールバカが眼鏡バカの腰に目一杯抱きつき、罵声をぶつけ合うという爽やかさの欠片もない光景である。

 

「………なに、やってるの、あんたら?」

 

「「はっ!?」」

 ドアの向こうに、目のハイライトを失った愛香が立っていた。

「何やってるんですか! 総二様、抱きつくのなら私にお願いします!!」

 と、ベッドに飛び込もうとしたトゥアールが、無言の愛香によって窓の外へと飛び出されていった。

 ドガッシャーン! と、ガラス窓ごと朝の静寂も粉々にしたトゥアールの有様に身震いする二人。

「……で、何をやってるの、あんたら?」

「ち、違う愛香! これは誤解だ!」

「そ、そうだぞ! 俺達は何もやましい事はしていない!」

「お前、その言い方は止めろ!」

「何? やましいことって?」

 カクン。と首を傾げて、愛香が一歩踏み出してきた。名作サバイバルホラーのVRよりも、果てしなく恐怖を感じさせた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「おはようございます。今日もいい天気ですわね。……あの、観束君? それに鏡也君も、何故そんなに顔色が悪いんですの?」

 晴れやかな空と同じような朗らかな笑顔と共に慧理那が挨拶するが、曇天のような顔の男子二人の姿に首を傾げた。

「いや、ちょっと……」

 と言って、総二は目線をそらした。

「ちょっと、イドの怪物と遭遇してしまって……」

 と言って、鏡也は空を見上げた。

「はあ……そうですの。大変、でしたわね……?」

 と言って、慧理那はまた首を傾げた。

「誰がイドの怪物よ!」

 と言って、愛香が鏡也の足を蹴った。

「愛香さんはどっちかというと、いどまじんですよねー」

「あら、こんなところに丁度いい落とし穴が」

「ひー! 止めて下さい、常時システム・イドとか狂気の沙汰ですぅうううううう!」

 と言って、トゥアールは井戸の底ならぬ、マンホールの底へと沈められてしまった。

「そういえば姉さんは何でここに? 家はここと反対方向なのに?」

 慧理那の家――神堂家の屋敷はアドレシェンツァとは反対方向にある。だから学園近くでいつも合流していたのだ。

「え、えっと………そ、そうです! 昨日のあれで心配になりまして!」

「え? 一緒に登校したいから、わざわざこちらに回るよう言われたでは――モゴッ?」

 後ろに控えていた尊が言おうとしたところで、メイド隊がガシッとその口を塞いだ。

「メイド長、余計なこと言わないで下さい!」

「さ、お嬢様。ファイト!」

「も、モガ……? モガガッ!?」

 メイド達に押さえられ、ズルズルと引き摺られていく尊。残された慧理那は顔が赤い。

「………学校行こうか」

「――はい」

 羞恥にうつむく慧理那に、鏡也は優しく声を掛けたのだった。

 

「ちょ……置いてかないでください……」

 その後ろから、マンホールから這い出てきたベトベトンがズリズリと音を立てながら追いかけてきたのだった。

 

「それにしても、相変わらずお二人は仲がよろしいんですね」

「あれをどう見たらそうなるのか……私はいつも生命の危険と仲良し状態なんですよ?」

 ベトベトンからいつもの姿に戻ったトゥアールが切実に訴える。異世界人の生態か、はたまた異世界の超科学故か。どちらにせよ、トゥアール以外なら通報事案であっただろう。

「人影もないですし……観束君、今日こそ私を叩いてくださいね」

「そんな可愛く言われても、人のあるなしに関わらず叩いちゃダメなんだからな!?」

 ずい、と迫る慧理那に総二がツッコむ。すると慧理那は何を思ったか、トゥアールに向き直った。

「そういえばトゥアールさんにも叩いてもらってなかったですわね。トゥアールさん、私を叩いて下さい」

「…………………いいんですか?」

 トゥアールの双眸が怪しく光ったかと思いきや、その視線が慧理那の足の先からツインテールの先まで舐めるように動き、そして物理的に絡みついた。

「ドゥフフフフフフ! スベスベですねぇ」

「ちょ……あの、トゥアールさん。私は叩いてほしいんです……!」

「ええ、ええ。分かってますよぉ。ウフフヘヘヘヘヘヘ」

「ジャッジメント! デリート!」

「デカッ!?」

 蛇のように慧理那に絡みつくトゥアールに、ジャッジ愛香のジャッジが下った。

「合意なのに! 合意なのに何なんですかこの美人局は――!」

「合意じゃないだろ」

「アウチ!」

 嘆くトゥアールに容赦なく、鏡也のツッコミが喰らわされた。流れるように繰り出される平手打ちは、加虐属性の面目躍如だ。

「うう……。やっぱり鏡也君の叩き方は音だけでも……ハァ」

「ちょっと鏡也。それ以上は別のスイッチが入るからダメよ」

「ん? ああ、そうだな。遅刻したら元も子もないからな」

 流水の如くトゥアールを踏みつける鏡也に愛香が苦言を呈する。「いや、そうじゃなくて」という言葉が続いたが、果たして耳に届いたかどうか。

 

「………」

 総二は三人のやり取りを無意識にじっと見ていた。その視線の中に鏡也の姿は映らない。

「……総二?」

 そんな様子の総二に、愛香が顔を覗き込むようにする。すると、総二は目を見開いて一歩後ろに下がった。

「い、いや、何でもない! それより遅刻しちまうから急ごう!」

 総二は足早に行ってしまう。

「……? 総二?」

 その妙な態度に、愛香は首を傾げるのだった。そして鏡也は一人、痴女を踏みつけながら、首を振るのだった。

 

 

(おかしい。何で俺………”ツインテールより唇が気になったんだ”……?)

 そして総二は、自分の自分らしからぬ感覚に戸惑い、恐怖さえ覚えていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 アルティメギル秘密基地。会議場も兼ねているホールにはエレメリアン達が集まっていた。中央のテーブルを囲むのはスパイダギルディ一門。真ん中には邪神もかくやというような出来栄えのテイルブルーフィギュアが、MMD初心者のようなポーズで立っていた。

 フィギュアに対する熱意のほぼ全てがテイルレッドに注がれ、次にイエロー。最後の残り滓的な部分で作られているのだから仕方ないことだが。

 なお、割合的には8,9:1:0,1ぐらいだ。

「さて、テイルブルーの体質会議じゃが――」

「いえ、ここはやはりテイルレッド対策を!」

「そうです! テイルレッドこそが最強なのです! ブリーよりもレッド! あえて言います、時代は青より赤!!」

「実にローマ!!」

「やかましいわ貴様ら! 毎度毎度、ブルーにやられておるくせに! 先日は武器すら使われずに踏み潰されておったではないか!」

 

 ズドォオオオオオオオオオオン!!

 

 文句を言う一団を文字通り爆破し、ダークグラスパーは議長を毎度務めさせられているスパロウギルディに向いた。

「という事で、始めよ」

「は、はい。えー、では……テイルブルーのデータをまずは確認したいと思います」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

【テイルブルー】

 

 性格:凶暴

 

 スタイル:暴力

 

 速力:時速180km

 

 パンチ:9t

 

 キック:27t

 

 ジャンプ:60m

 

 備考:テイルレッドに続いて現れた戦士。エレメリアンを倒して得た力を躊躇なく振るう。非情。容赦なし。こちらの申し出など意にも介さず殺戮と破壊を撒き散らす。

 命乞いをしようものなら、嘲笑とともに蹂躙されるであろう。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……これは人間のスペックか? 太陽の子と間違えておらぬか?」

「地球で放送されていた検証番組も参考にしておりますが……概ね、間違いないかと」

「うむ……そうか」

 まだ何か言いたげだったが、ダークグラスパーは言葉を飲み込んだ。

「だが、これでは完全無欠のようではないか。弱点はないのか?」

「御意に。しかし先の戦いを見る限り、いよいよ人類として定義してよいのか……疑問が」

「まあ、仕方ないのう」

 敵である以上、非情なのは当然。とは言え、あの暴力の嵐はダークグラスパーも若干引き気味である。かつての青いギアの使い手であるトゥアールの華麗な戦いを知るが故に、そのギャップは尚更である。

「強いて言うなら、胸の小さいことを気にしている様子。そこを突かれると烈火のごとく怒り狂い、歯止めの効かない暴走状態になります」

「事態を悪化させてどうするのじゃ!? 弱点と言うたであろうが!」

「あとは……ウネウネしたものが苦手なようです。クラーケギルディ隊長の触手に今迄にないほど取り乱し、割って入ったリヴァイアギルディ隊長を悪鬼羅刹の如く殴殺しております」

 モニターに、リヴァイアギルディをボコボコにする映像が映し出される。惨劇。正にその言葉がふさわしい。

 実際は触手でメンタルブレイクしたところに貧乳攻めを食らった結果なのだが、ここにそれを知るものは居ない。

「それは弱点なのか? だがしかし……ふむ、ウネウネしたものか。…………おい、そこの」

 ダークグラスパーはグルリと見回して、丁度いいのを見つけたとばかりに、あるエレメリアンを指名した。

「え。え……ぼぼ僕ですか!?」

「そうじゃ。そこのミミズ。お前、程よくウネウネしておるな。よし、お前が行けい」

「え………えぇえええええええええ!? そ、そんな……ムリですよぅ!」

 指名されたウネウネことワームギルディは、その見事な体をウネウネさせて大慌てだ。

「ぼ、僕には無理ですぅ! そのような大任を負う域には達しておりません!」

「たわけ! 貴様は四頂軍〈美の四心〉の一員であり、副官スパイダギルディの一門であろう。いつまでも縮こまっていては師を超えられぬぞ!?」

「うう。スパイダギルディ様を超えるだなんて……最初から無理ですよぅ!」

 アルティメギル一の剣聖。その技の冴えたるや、飛ぶツバメも斬り落とすとさえ謳われている。それを越えようなどと、世迷い言でさえ言えよう筈もない。

 ましてや、ワームギルディは一門に席を置くとは言え実戦経験のない新参。狂戦士たるテイルブルーに挑むなど、爆弾を抱えてモビルスーツから飛び降りた青い巨星の結末並みに先が見えている。

 成果の見えない特攻は忍びないと、他の者が何とかしようと進言するも、ダークグラスパーは聞く耳を持たない。

 そんな中、一人の戦士がずい、と名乗り出た。

「でしたら、自分を補佐としてお付け下さい」

 それはカタツムリに似たエレメリアン――スネイルギルディであった。

「ほう……お前も、スパイダギルディの弟子であったな。許可しよう」

「ありがとうございます」

 スネイルギルディは礼を言うと、未だに怯え震えているワームギルディに寄った。

「スネイルギルディ君、どうして……?」

「なに、さすがは首領補佐官殿。見事な慧眼と思っただけだ」

「ど、どういうこと……?」

 意味が分からず、ワームギルディはおろか、他のエレメリアンも首を傾げる。

「テイルブルー、奴は恐らく………男の娘だ!」

 

 ―――ざわ!

 

「なん……だと?」

「男の娘……テイルブルーが?」

「いや、だが……だとすればあの暴力性も合点がいく」

「男の娘……女性になりきろうとしても、男性としての暴力衝動が隠しきれなかったということか」

「なんという事だ。流石はダークグラスパー様だ」

 

 

「…………………ふっ」

 ただ、丁度ウネウネしてたのが目に入ったから指名しただけだったのだが、何故か株が上がったようなので、ダークグラスパーは取り敢えず意味ありげに笑ってみることにした。

 

 

「そ、そうか……そうだったんだ。僕、頑張れる……!」

「その意気だ。誰も敵わなかった最凶のツインテールを討ち取れれば、その武勲とともに、男の娘属性への理解もより深まるだろう。それに――」

「それに……?」

「私も微かだが……希望を持っている。テイルブルーは、私が追い求めた存在なのではないかとな」

「そっか。スネイルギルディ君の属性もなかなか理解されないものだったよね……〈性転換属性(トランスセクシャル)〉は」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 陽月学園ツインテール部部室。ここでは最近起こっている事態に対する会議が行われていた。

「――という事で、各地の女子校で出没するエレメリアンの狙いは男の娘属性のようですね」

「先日戦ったスパイダギルディと、やはり関係があるのでしょうか?」

 慧理那は同じ属性ということでその関係性を疑う。トゥアールは「間違いないでしょうね」と答えた。

「男の娘……見た目は女子でも結局は男子。何だかんだで、いつも襲われているのは女子ばかりだったが……何かあったのか?」

「あたしは、こうも男の娘が蔓延してたことに頭痛がするわ。ていうか、女装して女子高に通うとか、普通に考えて大問題じゃないの? それが何でこうも多いわけ?」

 茶を淹れながら、鏡也は今までを振り返りつつ思案する。愛香も頭を抱えて悩んでいる。

「必ずしも女性を襲うわけではないんですが……これはもしかしたら、敵の作戦が次の段階に入った、ということなのかも知れません」

 どういうことかと視線で問うと、トゥアールは説明を始めた。

「元々、ツインテールの完全拡散の後、各属性力の刈り取りを行うのが向こうの主な作戦でした。ですが、総二様達の活躍でそれが破れた今、タイムスケジュールを前倒しにしたとしてもおかしくはないと思います」

「それってつまり、ツインテールのおまけみたいなものだったのが、主目的に代わるってことか? それ、かなりヤバイんじゃ……」

「落ち着け、総二。張り巡らせたセンサーはきちんと動作するし、やることは変わらない。今まで通りだ」

 不安を覚える総二に、鏡也は湯呑みを渡す。冷房のせいか手がいつの間にか冷えていたらしく、じんわりと熱が伝わっていくようで忙しなく指が動いていた。

 その時、エレメリアン襲来を告げる警報が、トゥアルフォンから響いた。

 

 

                 おっぱいパ~イ!

 トゥアールのおっぱ~い! 

 

 

「なんでメガネかけたお笑い芸人を呼ぶみたいなイントネーションになってるんだよ!?」

 総二は笑った芸人の尻をしばくかのように、トゥアルフォンを叩いて警報を止めた。

「いや~、過去の動画を見たらなかなか面白かったもので、つい」

 元ネタを知らなければ、文字に起こす意味さえ無駄になりそうなネタを仕込んだトゥアールはさておき、出撃だ。

「場所は……え、ここは……警察署ですね」

「え、なに? 率先して自首する気になったの?」

「津辺さん。この場合は自首ではなく出頭の方が適切ですわ」

「あ、そっか。犯人はエレメリアン。はっきり分かってるものね」

「そこじゃないだろ!? なんで〈男の娘属性のエレメリアンが警察署に出没〉するんだよ!?」

「はっ!? そういえば………まさか?」

「婦警の中にいるんだろうな………男の娘が」

 部室内に、なんとも言えない空気が流れる。まだ、学校は分かる。中学では女子以上の可愛らしさが、高校では女子以上の綺麗さが、大学に至っては黒いメイド服を完璧に着こなしていた。

 だが、それらは未成年。未成年なのだ。社会人として独立し、国家公務員となって尚、エレメリアンが狙うほどの存在。

 大丈夫なのか。具体的に津辺愛香の精神が均衡を保てるのか。もし保てなければ、警察署を襲った蜘蛛怪人の惨劇のように、暴走するテイルブルー対国家権力という構図が出来てしまう。

 四〇〇年を超えて蘇った剣豪ではないのだ。そんな事態はなんとしても避けなければならない。

「まず、場所を変えさせよう。最悪、逃しても問題ないということで」

「分かりました」

「仕方ありませんわね」

「健闘を祈る」

 

「………え?」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 結果から言えば、ツインテイルズはエレメリアンとの戦場を移動させることに成功した。ブルーとイエローが現場に降り立ち、レッドとナイトグラスターの待つ運動場へと追い込んだのだった。

「来たな、エレメリアン! もう逃げられないぞ!」

「………」

「年貢の納め時だ」

「………」

「覚悟してくださいまし!」

「………」

「くっ! ワームギルディ、覚悟を決める時が来たようだ」

「………」

「わ、わかったよ。怖いけど……がんばる!」

「………」

「ミミズ型か。ブルーの弱点を突いてきたようだな……ん?」

「おーい、ブルー? 大丈夫か?」

「………」

『総二様。そっとしておきましょう。今のブルーの心は名前通りなんですから。なにせ件の男の娘が………ねえ?』

「うっさいわよ! ……何なのよあれ。反則じゃない……!」

 問題の男の娘が、途方もない美形で、予め正体を知らなければ――いや、知っていても目を、心を奪われるだろう。下手なモデルやアイドルなぞ相手にもならない。

「集中しろブルー。敵は目の前だぞ!」

 レッドの叱咤が届くと、ブルーははっとして顔を上げた。

「あれ………いつの間に? ………て、ひっ!? み、ミミズ……!?」

「アイツ、見えてなかったのかよ」

「そこまで、ショックでしたのね」

「個人的に、眼鏡の似合う婦警の方が気になったが……」

「ぶれないなぁ。本当に!?」

 最早、ツッコむことさえ面倒くさいナイトグラスターのメガネフェティシズムはさておき、レッドがブレイザーブレイドを構える。

「ツインテイルズ! 我が名はスネイルギルディ。スパイダギルディ様の弟子にして性転換属性の戦士!」

「ぼぼ僕はワームギルディ。スパイダギルディ様の弟子で……男の娘属性です。よろしくお願いします」

 いつものように名乗りを上げるエレメリアン。だが、その中に不穏な言葉が聞こえた。

「男の娘じゃなくて……性転換属性だって?」

 レッドの言葉に、スネイルギルディが大仰にそのヌメッとした手を広げた。

「その通り! しかし、一口に性転換と言っても多岐に渡る。医術によるものもあれば、精神だけのものもあろう! だが、私が求めているのは遥かに困難!」

 スネイルギルディの言葉に熱がこもる。その迫力、鬼の如し。

「私が求めるのは”望まぬ女体化に戸惑う男子”! だが、そのような奇跡がどこにある!? 呪われた泉もなければ、魔法的ぬいぐるみもいない! 宇宙人だって!!」

 その熱が、心の高ぶりが、涙となってこぼれ落ちる。童謡に有る”角出せ”のあそこ、目だったのか。などと、レッドらは思った。

「そのような奇跡……神の悪戯が何処に転がっている!? 残る滅ぶ以前に、私が望む真の性転換は余りにも不確かな存在なのだ……! だから、未来ある友に希望を託す! さあ、行くぞワームギルディ!」

「う、うん!」

 スネイルギルディの言葉に奮起したワームギルディが激しくウネウネした。ブルーの肩がびくっと震える。

『スネイルギルディが崇拝しているのは性転換の中でも〈トランスセクシャル・フィクション〉という分類ですね。超常的な何かで性転換……いわゆるXをチェンジ! 的な』

 後半部分は聞き流しながら、ナイトグラスターはレッドに小さく耳打つ。

「レッド、ヤバイんじゃないか? もし奴と戦えば」

「……だよな。俺の正体が」

「幼女装趣味のオムツ野郎だとバレてしまうな」

「お前マジでふざけんなよ!? 久しぶりに聞くけど酷さが増してるぞ!?」

 レッド、久しぶりのマジギレである。

 

 

 そして反対側に立つ二人も、事態を察していた。

「ブルー。性転換属性ということは下手をしたらレッドの正体が……」

「そうね。レッドと戦わせるのは阻止しなきゃ。イエローはワームギルディを――」

「レッドの秘密は私が守りますわ!」

「え? ちょっと待って!」

 止めるも聞かず、イエローがスネイルギルディに向かってヴォルティックブラスターを撃ちながら突撃を敢行する。となれば必然的に――。

「な、ナイトグラスターさん……?」

 ブルーが期待の目を向ける。それにを受けてナイトグラスターは頷いて返す。

「て、テイルブルーさん! あなたにお話があります!!」

「ご指名だな、頑張れ、超頑張れ」

「なんでよー!?」

 運命とはなんと残酷な。再びウネウネに対峙する事になる己が身に嘆き叫んだ。

 そんな間にも、ワームギルディがウネウネしながらブルーとの距離を詰めていく。

「ひっ。ち、近寄らないでよぉおお!」

 錯乱一歩手前の状態で、拳を振るうブルー。頭部と思わしき場所をヒットしたが、吹っ飛ばせない。バネの玩具のようにボヨンボヨンと揺れるだけだ。

「う、ぐぐ……まって、僕は敵じゃありません……!」

「ヒ……いやぁああああああ!」

「僕は……貴女を理解する……存在なんです!」

「何でなの、何でウネウネしたのばっかりに好かれるのよぉおおおおお!」

 嘆き叫びながら、ブルーはワームギルディに拳をめちゃくちゃに叩き込む。武術を修めるブルーらしくない手の振りだけのものだったが、スピリティカフィンガーの効果もあって十二分のダメージを与えていた。

「うぉおおお! ワームギルディ!」

「行かせませんわ!」

 駆けつけようとするスネイルギルディに前に、イエローが立ちはだかる。何故か武装の六割を脱いでいたが。

「来ないで! これは……僕の戦いなんだ!」

「っ……! ワームギルディ……!」

「大丈夫。彼女は戸惑ってるだけなんだ。だから……大丈夫」

 どれだけ打たれても諦めない姿は、尊くもあった。その様子に、恐慌状態のブルーも徐々に冷静さを取り戻していく。

「お、おお……! ワームギルディの想いがついに……!」

 暴威の化身、破壊の権化、残虐超人度1000万パワーと言われたブルーを抑えたワームギルディに、スネイルギルディが男泣きする。

「……わかったわよ。アンタに敵意がないってのは……認める。で、話って? あんた、男の娘属性なのに?」

「だから、テイルブルーさんは男の娘でしょう? だから」

「死ね」

 

 ドゴォッ!

 

 エグい音が響いた。極めて理に適った撲殺するための拳が、ワームギルディにぶち込まれた。その破壊力は先程までとは比べ物にならず、ワームギルディがウネウネからグラグラへとシフトする。

「あたしからも聞くわよ。何処で判断した? 何処を見て言った?」

「だって……胸がちいさばらぁああああああああああ!?」

 言い切る前に、ブルーのキックがワームギルディを強制的に黙らせた。バウンドしながら転がっていったワームギルディだったが、それでも立ち上がろうとする。それでも、説得しようとする。

「お、男の娘はかつて両の性を持っていた天使のように、人類を新しい世界へと導く革新者(イノベーター)なんだ! でも、あなたがそうなるためにはその凶暴性を切り離さないといけないんだ! そうしないと、真の男の娘にはなれないんだよ!」

「そんなのになって、たまるかぁあああああああああああああ!!」

 心の底から、全てを否定する雄叫びを上げたブルーの完全解放が、ワームギルディを撃ち抜いた。いや、撃ち抜いたのは己を否定する存在か。

「う……うう。ご、ごめんねスネイルギルディ君……」

「ワームギルディ! 謝るな、お前は……立派だった!」

 ブルーの、永劫切り離されることのない暴力性から繰り出された一撃に倒れたワームギルディに向かって、スネイルギルディが叫ぶ。ビジュアル的な部分を除けば比較的感動のシーンだ。だが、ナイトグラスター的には言っておかなければならない。

「……盛り上がっているところ申し訳ないが、そこのミミズ?」

「な、なんですか……?」

「残念だが、テイルブルーは正真正銘の女子だ。男の娘ではないぞ」

「え? そ、そんな……ウソだ!」

「ウソではない。なあ、テイルレッド?」

「あ、ああ」

 

「そんな……そんなぁああああああああああああああ!?」

「ワームギルディイイイイイイイイイイイイイイイイ!?」

 

 絶叫を上げてワームギルディが爆散した。

「憐れなことだ」

「お前、ここぞとばかりにとどめ刺しやがったな」

 男の娘属性のために散ったワームギルディに手を合わすナイトグラスター。だが、きっちり仕留めに行った辺り、加虐属性の面目躍如であろう。

「おのれ、テイルブルー。ナイトグラスター。アイツは命をかけてテイルブルーが男の娘であることを証明しようとしたというのに! それを否定し、あまつさえ姑息なウソを吐くとは!」

 わなわなと震えながら二人に向かって叫ぶスネイルギルディ。

「そんな大嘘に命かけてんじゃないわよ!」

「ブルー。私は命をかけてはいないぞ? 嘘を吐いてないのだからな」

「ぬおぉおおおおお!」

 雄叫びを上げて、真正面のテイルイエローに向かって突進してくるスネイルギルディ。すぐさまヴォルティックブラスターのトリガーを引くイエロー。だが、それを背を向けて殻で受け止め、弾き飛ばした。

「っ……! 凄い硬いですわ!」

『うはっ。また素晴らしい素材ゲットです!』

 トゥアールが通信の向こうでたわけた事をほざているが、今はイエローとスネイルギルディの戦いだ。

「完全解放――ヴォルティック・ジャッジメント!」

「なんの!」

 生半可な威力では通じないと、必殺のヴォルティックジャッジメントを放つイエロー。閃光の一撃が放たれると同時に、スネイルギルディは防御形態として殻に閉じこもった。直後、イエローの蹴りが突き立つ――が。

「くっ……届かない!?」

 吹き飛ばされたスネイルギルディだったが、しかし今までのように爆発はしない。ゴソゴソと動き、中から姿を現した。

「ククク……私の殻はアルティメギルでも1、2を争う程の硬度を誇る。お前の攻撃も防いでくれたよ」

 クラーケギルディさえ一撃で倒した攻撃を真正面から受けきったスネイルギルディが、自信満々に胸を張る。

「なんて防御力だ。俺たちも行くぞ、ナイトグラスター」

「待って下さいませ、レッド。ここは新必殺技を試す時ですわ!」

「新必殺技だって!?」

 イエローの思わぬ言葉に、レッドが驚いてナイトグラスターにどういうことかと向く。が、ナイトグラスターも首を横に振るばかりだ。

「ほう、新必殺技か。良いだろう、どのような技でも、我が殻で防いでくれる!」

「いきますわよ、オーラピラー!」

 と、防御形態になろうとしたところに、イエローのオーラピラーがスネイルギルディを拘束した。

「ちょ……防御できな………!」

「本日二度目の完全解放――! ヴォルティック・ジャッジメント――――!」

「ごはぁああああああああああああ!」

 雷光の一弾となったイエローのキックが容赦なく、スネイルギルディに突き刺さる。そしてイエローが高らかに叫ぶ。

「―――ロイヤル!」

「名前だけで全く同じじゃねーか!」

「いや、インパクトの瞬間、ぐりっとひねりこんでるな。あの辺りが”ロイヤル”なんだろう」

「むしろ名前負けしてるじゃねーか!」

 レッドのツッコミはさておき、イエローの必殺技が直撃したのは確かだ。

「どうやら、新必殺技は防げなかったようですわね」

「防げるかぁああああああああああああああああ!」

 と、盛大にツッコミを叫んで、スネイルギルディが爆散した。

「なんてむごい」

 と感想を言うレッドらの足下に、スネイルギルディの殻が飛んできた。主を失くした殻が虚しく落ちて転がってきた。そして――。

 

 ぱんっ。

 

「ぶわっ!?」

「むっ?」

 殻が軽い音を立てて弾ける。細かい粉のようになっった残骸が、二人に降り注いだ。だが、特に何も起こらない。

「ふう、新必殺技の威力……思い知りましたか!」

「いや、特に威力は変わってなかったようだが?」

「えっ!?」

 ナイトグラスターのツッコミに、イエローが驚きの声を上げた。

「では、私はこれで。何かあれば遠慮なく声を掛けてくれ」

 一足早く、ナイトグラスターがその場を去る。それを見送って、レッドは二人に向き直った。

「じゃあ、俺達も戻るか」

 かくして何度も取り逃がしたワームギルディ、スネイルギルディは倒されツインテイルズは基地へと帰還する。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「おかえりなさい、総二様」

「おお、戻ってきたか」

 基地に帰ってきたツインテイルズを尊達が出迎えた。部室に置きっぱなしだった鞄を回収して来てくれたのだ。

 なお、ナイトグラスターはいつもの通り別に帰還している。

「しかし今回はちょっとやばかったな。向こう、ブルーの苦手なタイプを送り込んできたし……あんまり挑発的なことするなよ?」

「そうね……そうするわ。でも、そーじもよ。性転換属性なんて、正体バレるかもしれないんだし」

「ああ、そうだな」

 変身を解いていく慧理那、愛香に続いてレッドも変身を解こうとする。

(あいつら、なんだかんだ言って自分の好きな属性のために戦ってるんだよな。俺ももっとツインテールの事を考えないと。ダークグラスパーのキスされた程度で揺らいでちゃダメだ)

 光りに包まれ、変身が解けていく。

 

 ――テイルレッドが、闇の向こうに消えていく。

 

 ―――悲しそうな顔をして、ツイテールを解こうとして。

 

 ――――どれだけ走っても、手を伸ばしても、声を上げても届かない。

 

「っ―――!?」

 瞬間、総二は言い知れない恐怖と虚無感を覚えた。それらが全身を走り、総二の中のツインテールをかき乱す。

(落ち着け! ツインテールを手放すな! ツインテールを…………!)

 

 

 ――――ツインテールを、解かないでくれ!!

 

 

 

 

 

「っ………はぁ~。何だったんだ今のは?」

 全身を覆っていたスーツやアーマ―の感覚が消え、総二は大きく息を吐いた。

「そ、そーじ………?」

「観束、くん……?」

「あ………え? 総二様?」

「何だと……?」

 皆が一様に驚き、声を絞り出している。視線が全て自分に向いている。その意味が分からず首を傾げると、頬に何かが当たる感触があった。

「うん?」

 何だと思い、それに触れると、それは赤い髪の毛だった。まるで、テイルレッドのような。

「な……なんだ?」

 手に取ると、それが自分から続いているとすぐに分かった。ハッとして、壁の、鏡のようになっている金属の壁に自分を映し―――総二は、口をあんぐりを開けた。

 

「な、なんだこれはぁああああああああああああああああああああ!?」

 

 そこには、テイルレッドをそのまま大きくさせたような美少女が居た。赤い、ツインテールを揺らし、柱にまじまじと顔を近づけ、それでも見間違いではない。

 

 それが観束総二本人であることは、もう誰に言われるまでもなかった。

 




なんてヒドイ回だったんだ(棒)


※感想欄で元ネタを描いてほしいとあったので後ほど追記します

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