光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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あけましておめでとうございます。(遅い)





 アルティメギル基地。道場の如き私室にて、スパイダギルディはダークグラスパーから指示を受けていた。

「――では、ツインテイルズ打倒をお前達に任せる」

「任務、謹んでお受けいたします」

 座したまま、深々と頭を垂れるスパイダギルディ。その一動は一切の無駄なく、様になっていた。

「されど、我が身の都合にて遅参した穴埋めを致したく。鍛えし技、実戦にて試してようと」

 背を正し、スパイダギルディは言った。その言葉の端には武人としての矜持がにじみ出ている。

「テイルレッド相手に、か?」

「ツインテイルズを相手に、です」

「……ほう。好きにするが良い」

 その要望を、しかしダークグラスパーは面白いと笑いながら了承した。

「御意。では、早速」

 立ち上がり、刀に手をかけるスパイダギルディ。その身より立ち昇る気迫、四頂軍の一角、その副隊長を務めるに相応しき迫力であった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 陽月学園へと向かう通学路。その道中、愛香は総二をずっとジト目で見ている。

「愛香、いい加減に機嫌直せって」

「べっつにー。総二が病的なツインテールバカだってことは重々承知してますからー」

「勘弁してくれよ……」

 そんなやり取りを見ながら、鏡也はトゥアールに尋ねた。

「寝ぼけて変身……なんてありえるのか?」

「セキュリテイはしっかりしてますし、誤作動の可能性もない筈なんですが……ですが、総二様ならあるいは………と、思えてしまうのが何とも」

「ふむ。まあ、そうだな」

 そう言いつつ。鏡也はどうにも違和感を覚えていた。なにか、いつもの総二らしくない気がした。

 鏡也が違和感の正体に気付くのはまだしばらく先のことであった。

 

◇ ◇ ◇

 

 丁度、昼休みの時間。トゥアルフォンがけたたましく鳴り響いた。エレメリアンがセンサーに引っかかったのだ。

 急いで部室へと向かうと、先に来ていたトゥアールが転送準備を進めていた。

「皆さん、急いでください! 今回の出現場所は――女子校ですね」

「女子校? この時間の学校じゃあ生徒が多いな。避難もさせないと。行くぞ皆!」

 総二たちは変身し、転送ポッドから現場へと飛んだ。

「鏡也さんも早く!」

「……来ないよな?」

「ガッチリとドア閉めてありますから急いで!」

 前回のこともあるので、警戒しながら鏡也も変身して飛び込んだ。

「すまない。何故かドアが開かなくて遅れた!」

「どうして技術の差を武力で超えてくるんですかね、この世界の人達は!?」

 トゥアール謹製超精密ロックシステムも、形無しであった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 転送された先は厳かな校門の前であった。その佇まいは歴史を感じさせる。

「ここは伝統と格式の高い、名門女子校ですわ」

「名門校か……」

 イエローの言葉を聞いて、レッドは門柱に掛けられた学校名を見やった。

「えっと、せいおうじょが――」

「レッド。急ぎなさい」

「うわ、引っ張るなよ!」

「急ぎましょう。ここには多数の女生徒がおります。エレメリアンからすれば、格好の標的ですわ」

 イエローが先んじ、その後をブルーに肩を引かれながらレッドが校門をくぐる。敷地内に入り、正面の道を進んでいくと向こうから何人もの生徒たちが慌てて走ってきた。

「――あそこ! エレメリアンがいる!」

 校舎の端――壁際に二人の女生徒。その前に立つ、背中に刀のような長物を背負った異質なる巨躯。紛うことなきエレメリアンだ。

 長い黒髪の女生徒をかばうように、もう一人の生徒が立ちはだかっている。

「不味いですわ。今にも襲われそう………ですわよね?」

 息巻いたイエローであったが、どうにも様子がおかしい。エレメリアンは腕組みしたまま、微動だにしない。それどころかしきりに頷いているようだ。

「な、何なんだ……あれ?」

「あたしに聞かれても知らないわよ」

 今までとは違う静かな状態に困惑するツインテイルズ。そこにトゥアールから通信が入った。

『分かりました。あのエレメリアンは……男の娘(ガールズボーイ)属性です!』

「お、男の娘属性って……またニッチな」

「………ちょっと待って。てことは、あの二人………どっちかが男の娘って事?」

『もしくはどちらも……ですかね?』

 見た限りどちらも美少女である。だが、エレメリアンが反応している以上、間違いない。

『ただ一つだけ言えるのは……どっちにしろ、女子力は愛香さんでは逆立ちしても敵わないという事ですね』

「あんた、後であたしの女子力(破壊力)を見せつけてやるわ」

『その女子力に物騒なルビ振ってますよね!?』

「あの……レッド。男の娘属性というのはなんですの?」

「え?」

 意味が分からないと、イエローが恐る恐る尋ねる。そう聞かれて、レッドはどう説明したものかとまた、困惑した。

「えっと……男なんだけど、女の格好が似合う………みたいな?」

「つまり、女装を好む属性ということですの?」

 

「――浅はかなり、テイルイエロー」

 

「っ――!?」

「いきなり食いついてきた!?」

 低く響く声とともに、エレメリアンが振り向いた。その威容を一言で表すなら――武士だ。

「浅はかとはどういう意味ですの?」

「男の娘属性を女装などという程度の低いものと同一視するなど……浅はかと言わずに何と言おうか」

 ビリ、と突き刺さる威圧。間違いなく幹部クラスだ。

「拙者はスパイダギルディ。アルティメギル随一の剣聖と謳われし武士。我が名にかけて、先の言葉は見過ごせぬ」

「なら、一体どう違うというんですの?」

「女装はただの個人的嗜好に過ぎぬ。男の娘とはジェンダーの壁を超えた領域にすまう、選ばれし存在のことよ」

「えっと………抽象的で良く分からないのですが?」

 

「男の娘属性――性別は男性のそれであるにも関わらず、しかし本人の望む、望まぬ関係なく女性の姿。それすなわち心に手弱女を宿す者のことよ」

 

「何奴!?」

「この声は――!」

 全員が校舎の最上階――その屋根の上に視線を送ると、白銀の影が宙を舞った。そのまま音もなく着地し、振り返った。

「むっ!? ダークグラスパー様だと!?」

「ふざけるな、エレメリアン。何故、奴と見間違える?」

「違う……そうか。貴様がナイトグラスターか。しかし、男の娘のなんたるかを語れるとは……なるほど。流石だと言っておこう」

「そういう貴様は目が悪いようだな。似合いの眼鏡でも見繕ってやろうか」

「遠慮しよう。敵と馴れ合うつもりはない」

 スパイダギルディがその背の武器に手を掛け、抜き放った。武士と名乗るだけあって、その武器は刀だ。大柄な体躯に見合う程の大刀である。

「武士道とは男の娘と見つけたり。我が剣こそ、即ち男娘の印(ムラマサ)である!」

「ルビの振り方にツッコミどころしかないんだけど!? ああ、もう! これ以上、無駄口叩いてないで戦うわよ! そこの二人もさっさと逃げなさい!」

 業を煮やしたブルーが叫ぶ。その声に驚いた女学生(どちらかが男の娘)が逃げ出す。ほぼ同時に武装を展開させたブルーが、闘争本能を丸出しにして飛びかかった。

「ウェイブランス! どりゃあああ!!」

「ぬっ!」

 振り下ろされた刃を半身をひねって躱したスパイダギルディに向かって、切っ先を突き出すブルー。だが、スパイダギルディは刃の腹を叩いていなすと、逆に刃を返してくる。

「くっ!」

 それを飛び退いて躱し、ブルーは連続で突きを放った。しかし、その全てを防ぐスパイダギルディの姿は余裕さえ感じられる。

「ブルーが離れてくれないと、射線が取れませんわ」

『いっそ一纏めにふっとばして良いんじゃないですかね?』

 激しい攻防を繰り広げる二人に、イエローは攻撃ができずやきもきし、この機にブルーを亡き者にしようと画策するトゥアール。当然聞こえているブルーは後でトゥアールをふっ飛ばそうと心に決めつつ、目の前の敵に攻撃を続ける。

「イエロー。私が合図をしたら攻撃を開始しろ」

 ナイトグラスターはそう言って、ブルーの加勢に入る。

「ブルー!」

「タッチ!」

 ブルーの真上を越え、ナイトグラスターが飛び掛かる。鋭く繰り出されるフォトンフルーレが男の娘の印(ムラマサ)と激突する。

「以前には騎士同士の決着はつかなかったが、今度は武士とは――面白いものだ」

「それはクラーケギルディのことか。彼の者の騎士道、拙者も一目置いていたが……なるほど、そなたも騎士であったな」

 連続して振り抜かれるフルーレを受け流し、スパイダギルディが笑う。

「剣の冴え、見事。だが――甘い!」

「ぐっ!?」

 袈裟懸けに振るわれた一撃が、ナイトグラスターを防御ごと吹き飛ばした。

(手応えが軽い……?)

 しかし、打ち据えたその手の感触の違和感に、スパイダギルディが即座に気付いた。

「イエロー、今だ!」

「了解ですわ!」

「むッ!」

 ナイトグラスターの合図でイエローがバックユニットの砲身を構える。スパイダギルディに向かって砲口が光った。

「――ちぇい!」

 

 ズパン――ッ!

 

「え――!?」

 発気と共に振り上げた切っ先が、弾丸を真っ二つに切り裂いた。イエローは驚きながらも更にトリガーを引き、二発、三発と撃つ。しかし、それも煌めく剣閃が斬り捨てた。

「私の射撃を……斬って捨てるだなんて!?」

「確かに速い。威力もある。だが、先にも言った筈だ。拙者はアルティメギル一の剣聖と謳われし者、と。我が剣の前では直線に飛んでくる攻撃など、止まっているも同じよ」

『剣豪ともなれば、背後から来るツインテールを鍋の蓋で防いだという逸話もあるぐらいですし、あれぐらいやってのけるのでしょうね』

「あんた、剣豪の逸話を何だと思ってるわけ!?」

 トゥアールの妄言にブルーのツッコミが光る。

「でしたら、これでどうですか!?」

 一度に防げる回数は決まってる。ならばとイエローは全武装を展開した。一斉に放たれる弾雨。しかし、スパイダギルディは一切の動揺を見せない。

「ちぇい!」

 無數に翻る切っ先が弾雨を斬り捨てる。同時に強く踏み込んで間合いを詰める。

「くっ!?」

 イエローが間合いを離そうと飛び退く。しかし、それよりも早く、スパイダギルディの男の娘の印(ムラマサ)が大砲を切り裂いた。

「その程度の攻撃で拙者を止めようなどとは、片腹痛い!」

「きゃあ!」

 強烈な一撃にイエローが吹き飛ばされる。

「こんのぉ!」

 ブルーが真上から強襲する。それを後ろに飛んで躱すスパイダギルディ。ウェイブランスが地面に刺さる。

「うりゃあ!」

 ブルーはそのまま柄を掴み直し、そこから大きく足を振り抜く。鞭のようにしなったその一撃が、スパイダギルディの顔面を捉えた。

「うぐっ!?」

「レッド、今よ!」

「喰らえ、オーラピラー!」

 ブルーの一撃にバランスを崩したスパイダギルディに向かって、レッドがオーラピラーを放つ。火球が命中と同時に激しく渦を巻く。

完全開放(ブレイクレリーズ)――!」

 ブレイザーブレイドが紅蓮の炎に包まれる。繰り出されるのは一撃必殺の刃。エクセリオンブーストが力を放ち、真紅の影を空高く突き上げた。

「――ぬううん!」

 スパイダギルディが気合と共に刃を振り抜き、拘束の炎を引き裂いた。

「オーラピラーを壊した!?」

『そんなバカな!?』

「っ……!」

「グランドブレイザ――――!!」

 今まで、この一撃を防いだ者は居ない。その自信から拘束を解いたスパイダギルディに向かって、レッドは構わず刃を振り下ろす。

 

 ガキィイイイイイン―――!

 

「うぁあああああああああ!!」

 振り上げられた白刃が、一瞬の交差の後に紅の刃をレッドの体ごと弾き飛ばした。

「ふんっ!」

 スパイダギルディの左手からネット状の蜘蛛の糸が飛び出し、レッドの体に絡みつく。

「くそ、動けない……!」

 全身を絡め取られ、身動きが取れないレッド。まずい、とブルーとナイトグラスターが動こうとする。が、何故かスパイダギルディはこのチャンスにも関わらず男の娘の印(ムラマサ)を鞘に収めた。その意図が分からない面々を尻目に、スパイダギルディは踵を返してこう言った。

「今日のところはここまでだ」

「なっ、待ちやがれ!」

 ネットを引き剥がそうと暴れながらレッドが叫ぶが、スパイダギルディは振り返ることなくその場から姿を消した。

『敵エレメリアン、反応消失。撤退したようです』

「了解した。スパイダギルディ、アルティメギル随一の剣聖を名乗るだけはある。単純な技量ならばドラグギルディやクラーケギルディよりも上手だな」

 ブルーとイエローがレッドの糸を引っ張り剥がす。それを尻目に、ナイトグラスターは思考する。

(いくら強力でも、オーラピラーをあれ程容易く壊せるものか? それに……)

 チラリとレッドを見やる。

いくらキレが悪かったとは言え(・・・・・・・・・・・・・・)、グランドブレイザーが弾き返されるとはな)

「くそっ、見逃されたってか」

 漸く糸から脱出したレッドは悔しそうに言う。それを聞いて、ナイトグラスターは肩をすくめた。

「――そうでもない。少なくとも、一矢は報いた」

「え?」

「では、私は先に失礼する」

 呼び止めようとするレッドに背を向け、ナイトグラスターは一瞬でそこから姿を消した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 無事に帰還しての放課後。部室にて部活動という名の会議である。

「取り敢えずイエローのテイルギアのダメージは深刻ではありません。自己修復で一両日中には完全に回復するでしょう」

「そうですか。良かった」

「むしろ大したダメージも食らってないのに何で愛香さんのギアが毎度ボロボロなのか聞きたいぐらいですよ。どんだけ無茶苦茶な使い方しているんですか?」

 その言葉に安堵する慧理那。トゥアールはブツブツ言いながら、ブルーのギアを修復させている。

 定期的にチェックを行うとはいえ、テイルギアはだいたいメンテナンスフリーで運用できる仕様だ。にも関わらずブルーのギアだけは自己修復だけでは追いつかない程のダメージが蓄積している。正直、フリーの部分が死んでいるのではないかと思う程だ。

「……ところで質問なのだが」

 と、尊が言い出した。それだけで嫌な予感しかしない。

「……なんですか?」

「やはりその、ナイトグラスター様もメンテナンスに来られるのだろうか? いや、別に他意はない。ただ純粋に質問しているだけなのだがな」

「………えーと、まぁ。そうですねー。来るかもしれませんし、来ないかもしれませんねー」

「煮え切らんな。ハッキリ言ったらどうだ? 普段ならば要らんことまで言い切るではないか?」

「そんなことないですよー。分からないから分からないと言ってるだけですしー」

 言い切ったら面倒なんですよ! とは言えないトゥアールはただお茶を濁すしかなかった。

 鏡也と総二は茶を啜りながら、小声で話ていた。

「で、さっきのあれはどういう意味だ?」

「……ん? ああ、奴が撤退した話か。何の事はない。お前の一撃が奴を上回ったってだけだ」

「……俺、押し負けてるんだけど?」

「そう思ってるのは他も同じだ。奴と俺以外はな。それより、お前のほうが問題だ」

「え?」

何かあったか(・・・・・・)?」

「は? いや、何も……?」

 目をパチパチとさせて総二は答えた。言われた意味が分からない。そんな顔だ。鏡也もそれ以上の追求はせず、「ならいい」とだけ返した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 アルティメギル基地に帰還したスパイダギルディは、すぐさま部隊長に呼び出されることになった。

 彼の目前に立つのは四頂軍の一角、美の四心(ビー・テイフル・ハート)隊長ビートルギルディだ。その背後には補佐役のスタッグギルディの姿もある。

「スパイダギルディよ。何故、撤退した? 口煩い者の中には恐れ慄き逃げ帰ったなどという輩までいる始末だ」

「恐れ慄き……確かに。あのまま戦っていれば、どうなっていたか分かりませんでした」

「戦いは貴様の有利であったように見えるが?」

「――これを」

 スパイダギルディは背にした刀を鞘ごと外し、その刀身をゆっくりと露出させた。そこには大きく刻みこまれたヒビがあった。

「我が刃は、テイルレッドの一撃にてすでに半死半生。何処まで打ち合えたか、拙者にも読めませぬ」

「事情は理解した。だが、ダークグラスパー様に大口を叩いておいておめおめと引き返してきたこと。どう贖う?」

「無論、この手にてツインテイルズを打ち倒すことで」

「だが、今のままで勝てるのか?」

「それに関して、一つ願いがございます」

「なんだ?」

「――”泉”へ入る許可を頂きたく」

 

「「っ――!?」」

 

 泉。その言葉にビートルギルディ、スタッグギルディ両名に動揺が走った。

「ちょっと待って。スパイダギルディ、本気で言っているの?」

 慌てたようにスタッグギルディが言う。スパイダギルディは静かに、しかし力強く頷いた。

「元より、いつかは行かねばならぬと思うておりました。ならば、かの妖刀を抜くに相応しき力、今こそ得る時かと」

「”泉”に入ればどうなるか………覚悟は出来ていると?」

「既に」

「………。いいだろう、ダークグラスパー様には言っておこう」

「ありがたき幸せ。では、早速」

 深く一礼し、その場を後にするスパイダギルディ。その背には覚悟を決めた者の凄みがあった。

「ああは言ったけど……大丈夫なの? だって”泉”は」

「問題ない。ダメだったら、所詮そこまでの男だったというだけの事だ」

「………」

「心配は要らん。奴ならば必ず試練を乗り越える」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 岩壁に囲まれた空間に広がるのは青く輝く水を湛える泉であった。明かりのない空間は、しかし泉の発する光に照らし出されていた。

 スパイダギルディと共にこの場を訪れた、カタツムリのようなエレメリアン〈スネイルギルディ〉と、ミミズのようなエレメリアン〈ワームギルディ〉は感嘆の息を漏らした。

「凄い……」

「このような場所があるなんて。それにこの水……何か妙な気配が」

 おもむろに泉に手を入れようとするスネイルギルディ。その瞬間、怒声が響いた。

「それに触れるな!!」

「ひっ!?」

 驚き、身をすくめたスネイルギルディが尻餅をついた。

「声を荒げてすまぬ。しかし、その泉に半端な意思で触れれば、たちまち溶かされてしまうのだ」

「え……ええ!?」

 思わぬ事実にワームギルディが身を震わせた。

「この泉は水ではない。これは……”エレメリウム”の泉なのだ」

「え、エレメリウム……!?」

 エレメリウム。別名を空想粒子と言い、エレメリアンや属性玉(エレメーラオーブ)を構成する物質である。属性力の純度とはエレメリウムの純度であり、高純度のエレメリウムはそのままエレメリアンの強大さに繋がる。そしてエレメリウムには嗜好を記録する性質があり、それがエレメリアンを形作り、中心にて結晶化したものが属性玉となる。

 また、高純度のエレメリウムは液体のような状態になり、このような”溜まり”を形成することがある。

「この中に入れば、エレメリアンはたちまち溶かされる。しかし、それでも尚、己を失わなければ、新たなる命を得ることが出来る。故に、この泉はこう呼ばれる。――”転生の泉”と」

「転生の泉……これが、あの」

「今より拙者はこの泉に身を沈める。その間、外の事は一切我が耳に届かぬ。後のことは任せるぞ」

「おまかせ下さい。――ご武運を」

「うむ」

 スパイダギルディはゆっくりと泉に足を差し入れた。水面はまるで粘性を持っているかのようにたわみ、波紋を広げる。

 二歩、三歩と進むにつれ腰が、体が沈んでいく。やがて完全に泉の中へと消えた。

「……戻ろう、ワームギルディ。我々にはこれからツインテイルズ打倒の命が下るだろう。スパイダギルディ一門の名を汚す訳にはいかない」

「うん………頑張ろう。スパイダギルディ様だって、命懸けで頑張ってるんだもんね」

 ワームギルディとスネイルギルディは後ろ髪引かれる思いではあったが、ここでやれる事はないと、泉を後にしたのだった。

 




ビートルギルディとスタッグギルディがフライング出演中ですが、果たして口調はあっているだろうか?
原作を確認しながらやってますが、はたして大丈夫かな?

エレメリウムの設定は勿論オリジナルです。アニメのシーンにそれっぽい説明をつけようと考えました。
今後も使う予定ではあります。

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