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暗い。何処か見たことがあるような、それでいてないような。そんな不思議な場所だった。
その中で独り、赤い少女は佇んでいた。
少女は少年の誰よりも知る人物であり、それは同時にありえない事だった。何故なら、その少女こそ少年のもう一つの姿だったのだから。
それを少し離れたところから、まるでモニター越しにでも見ているかのような、現実感のなさで少年は見ていた。
少年は声をかけようとするが、声が出ない。そうこうしている内に、少女はその手を持ち上げ、美しいツインテールを――。
◇ ◇ ◇
「うわぁあああああああああああ!?」
跳ね上がるように体を起こせば、そこはいつもの自分の部屋だった。総二はバクバクとうるさい心臓を落ち着けようと、深く息を吐いた。そうして何度か繰り返すと、漸く嫌な感覚がなくなってきた。
無意識に時間を確認すれば、まだ明け方前だった。
「大丈夫ですか、総二様?」
「ああ、大丈……」
”ぶ”と言いかけて、総二は気付いた。顔を上げた先に何故かトゥアールがいた。スケスケのネグリジェ姿だ。もはや形式美にも近い状況だったが、それでも聞かなければならない。
「何で俺の部屋に?」
「それはもう、総二様に夜這……ゴホン。そんな事よりも、随分とうなされていたようですが……?」
「いや………? ダメだ、思い出せない。嫌な夢だったっていうのは分かるんだけど」
「まあ、夢なんてそんなものですからね。さ、まだ早いですから眠りましょう」
と言って、トゥアールもベッドに入ってこようとする。これまた形式美であるが、聞かねばならない。
「何で入ってくるんだ?」
「それはもう、夢見が良いようにと添い寝をですね」
――ドガッシャアアアアアアン!
「何が添い寝じゃコラァああああああああ!」
「ひいいい!? 愛香さんの暴力性を調べに調べて作り上げた絶対防壁〈アイカハバーム〉が粉々にぃ!?」
ああ、珍しく居ないなと思ったら愛香はドアのところでトゥアールの発明品と戦っていたのか。
すぐ目の前で行われる凶行を、まるでモニター越しかのような現実感のなさで見やりながら、総二はベッドに倒れ込んだ。
あの悪夢が、ただの悪夢であって欲しい。
内容も覚えていないのに、ただひたすらに心の底からそう思った。
「そんなに眠りたいなら好きなだけ眠らせてあげるわよぉおおおおおお!」
「いやああああああ! 悪夢のような現実が襲い来るぅうううううううう!?」
ついでに、この大騒ぎもご近所迷惑なのでさっさと終わって欲しかった。
◇ ◇ ◇
もはや説明不要な変態の巣窟アルティメギル秘密基地。色んな部隊の船がくっついた結果、その姿はまぁ何とも混沌とした様相になっていた。
とは言え、基地の機能は問題ないので、誰も何も言わない。外観なんて誰も見ないのだから。
そんな基地の大会議場には、歴戦の変態事エレメリアン達が集っていた。中心の円卓にはダークグラスパーとスパロウギルディが座していた。
「……して、ダークグラスパー様。作戦の方なのですが……行われないのでしょうか?」
「黙れ。とうに進んでおるわ」
「なんと!? それは……恐れ入りました」
ざわざわとする会議場。彼らが知るのはかつて引退したエレメリアンがツインテイルズと戦い、敗北したというぐらいだったからだ。
「くくく。なにせテイルレッドとキッスをしたのじゃからな!!」
――ザワッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
その時、基地が揺れた。比喩ではなく。
「なんと……!」
「それを何故、言われませなんだか!! であればこの双眸、ただひたすらにテイルレッドと触れ合った唇を見つめたものを!!」
「映像は!? 映像はないのですか!?」
「ええーい、やかましい! 映像は無い! 戦いの最中、着衣が乱れたのじゃ! 我が肢体を晒して、貴様らの目が潰れたらどうするのじゃ!?」
「つまり、それ程に見るに堪えな――」
その時、一体のエレメリアンが見るに堪えない姿に変わり果てた。
「逆じゃ、逆。ふざけたことを言うとただでは済まんぞ?」
「お言葉ですが……これ以上、ただではすまない状況というのは……」
スパロウギルディが恐る恐る尋ねると、ダークグラスパーは口元を歪め、こう言った。
「決まっておろう。24時間、テイルブルーの――」
「ご報告致します! 四頂軍”
「ようやく来たか。会議はひとまずここまでじゃ。解散せよ」
ダークグラスパーがマントを翻して席を立つ。残されたエレメリアン達は、重苦しい空気の中、席を立つ事もできなかった。
24時間、テイルブルーの…………何を、どうされるのか。想像さえ許されない恐怖が、会議場を支配していた。
◇ ◇ ◇
アルティメギルではそれぞれのエレメリアンに個室が与えられている。それは新たにやって来た美の四心でも同様であった。それ故に、個性の反映と言うのもが顕著である。
そこは部屋と言うよりも道場。畳張りで、壁には掛け軸。床の間には大太刀程はあろうかという長さの刀が掛けられていた。
しかし、其処には部屋の主の姿はない。代わりにダークグラスパーとカブトムシに似たエレメリアンがいるだけだ。
「なんじゃ、スパイダギルディは別行動中か? いつもならば門下纏めて此処におろうに」
「はっ。門下一堂にて修行行脚と。予定では、数日の内に合流する事になっております」
「わかった。――では、ビートルギルディよ」
「すでに部隊の者を向かわせました」
言葉に先んじてまっすぐに頭を垂れるビートルギルディ。ダークグラスパーは「うむ」と満足げに頷く。
「して、誰を向かわせた?」
「フリイギルディを。あやつの属性力〈
「………」
フリイギルディ。はて、どんな奴じゃったか。フリイじゃから……ノミ? と思考を巡らせるダークグラスパーであったが、すぐに気付いた。
「……人選、間違えておらぬか? 大惨事にしかならん気がするぞ?」
◇ ◇ ◇
「テイルレッド! この俺、フリイギルディと一対一の勝負を所望する!」
「ダメよ。あんた達の相手は全部あたしがするから」
白昼の陸上競技場。外側から大きく飛んで来たのが、フリイギルディであった。そこでは各校の女子陸上部が大会中であった。アルティメギル襲来にパニックが起こると思いきや、即座にツインテイルズが駆けつけ、テイルレッドに対する喝采と黄色い声援、カメラのシャッター音が雨のように降り注いだ。
と、ここまではいつもの光景だ。怪人が襲撃しているのに逃げないという状況に慣れというのは如何なものであるかというご意見もあろう。だが今、問題にすべきは其処ではないのだ。
「ひっ! テイルブルーよ!!」
「目を合わせちゃダメ! 狙われるわよ! ゆっくり距離を取って……走って!!」
まるでクマにでも遭遇したかのような対処法をしながら、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
このところ、テイルブルーは出撃の度、人殺しのような目をしている。その殺気たるや、アルバイトで極道をしている高校生と並んでも勝るとも劣らない圧力と迫力だ。
立ち上がる憎悪のオーラは敵にも守るべき一般人にも恐れられる。その憎悪の原因は言わずもがな――。
「よし、テイルレッドとテイルイエローで二対一だ! なに、丁度良いハンデよ!」
「だから、あんたの相手はあたしだって言ってんでしょうが」
ブルーがずい、と前に出ると、フリイギルディがずずい、と下がる。視線を合わせないことも忘れない。世間に広まっているテイルブルー遭遇マニュアルは、しっかりとアルティメギルにも伝わっているようだ。
「……何だ、この状況は?」
遅れて登場したナイトグラスターは、戦場となっているであろう競技場に降り立ち、困惑した。
「どうせあんたも、レッドの脚にスリスリするつもりでしょ? 脚属性のエレメリアンだものね」
「そのような事はせぬ。ただ、世の女性の健康的な美脚を愛で、その大切さを諭し、脚属性の萌芽を導くだけだ!」
「信じられるか! 絶対信じない! あんたらの変態ぶりはもう充分知ってたけど、更に信じられない!!」
「クッ……! なんという凶悪な気配! 良いだろう、ならば!」
「うん?」
突如、フリイギルディがナイトグラスターを指差した。
「テイルブルーの相手はナイトグラスターがする! 俺はテイルレッド! これでどうだ!?」
「どうだ、じゃねぇ」
「おごっ!?」
思わず素を晒して、フリイギルディを蹴り飛ばすナイトグラスター。そのままテイルブルーの前まで転がっていき、ブルーが”Welcome”とばかりに足を持ち上げた。
ドスンッ!
「ゴフッ!?」
情け容赦なくぶち込まれた一撃が、フリイギルディをハードコートの地面にめり込ませる。
「うぅ……な、なんという事だ。テイルブルー……その凶悪さに反して何という美脚! 胸から脚まで鮮やかな一直線! その脚に誇りを持てば、脚属性が即座に目覚めたであろうに……!」
その御足を賞賛するフリイギルディ。テイルブルーは表情を変えず、更に脚を盛り上げた。
「ほぉら、あんたの大好きな脚よ? 嬉しいでしょ? 嬉しいわよね? ほら、お礼を言いなさい?」
「ぐふうううう! あ、ありがとうございますありがとうございます! 素晴らしい足で踏んでいただき至福の極み!!」
何度も踏みつけながら、ブルーはフリイギルディに詰問する。
「あそこでアルティロイドが撮影している映像、あの女も見るの?」
「あ、あの女……?」
「ダークグラスパーよ。見るんでしょ? あいつに泣きついて助けを請いなさい。あと、基地の場所も吐きなさい?」
「ふ、フフ……このフリイギルディを甘く見るな。脚属性を持つ俺にとって、踏まれることなど手厚い看護と同然。手を……いや、脚を誤ったな! あ、もうちょっと上を」
「どう見てもダメージ行ってるよな? 医療ミスじゃないか?」
レッドのツッコミも虚しく、ブルーは容赦なく踏みつけ続けていく。その都度、下っ腹に重低音が響いた。
「あんたらにも痛覚があるんでしょ? このまま痛め続けて欲しいの?」
「な、仲間を裏切ることに比べれば………あああ、もっと! ねぶるようにぃ!!」
容赦なく踏み付けるブルー。その様子は正義の味方とはかけ離れたものだ。これ以上はヒーローの沽券に関わると、レッドが止めに入る。
「おい待てよ。いくら敵でもそれ以上は――」
――ぐにっ。
いけない。と言おうとして、レッドは何かを踏んだ。柔らかい。一体何だと下を見た。
果たしてそこには、戦ってもいないのに武装を解除したイエローが仰向けに転がっていた。はぁはぁと、息が上がっている。
「………何やってるんだ、イエロー?」
「最近、ブルーばかりが戦っていますでしょう?」
「あ、ああ……」
ダークグラスパーとの一件以降、現れるエレメリアンは尽くブルーによって大粉砕されている。レッドもイエローも出番はまったくなかった。
「だから、仕方ないのですわ……仕方ないのですわ!」
何が仕方ないのか、クワッと目をも見開き主張するイエロー。だが、イエローの中では大した理由のようだ。レッドは脚をどかし、改めて足を踏み出し――
――むぎゅ。
何故か、イエローが移動していた。その大きな胸を思いっきり踏みつけてしまっていた。足を出したところに向かってカサカサと動き、積極的に胸を踏まれに来るイエロー。その様はまさに虫である。
『なんですかそのおもしろ空間は! 総二様、後の事は愛香さんに任せてイエローを引っ張って戻って下さい! 色々と面白い遊びをしましょう!』
などと、トゥアールも言い出す始末。とはいえ、ブルーをそのままに出来ない。
「ナイトグラスター! ブルーを止めてくれ!!」
レッドは最後の希望に全てを託した。それを受けて、ナイトグラスターは動いた。
「ブルー。やめるんだ」
ナイトグラスターは未だ踏み続けるブルーの肩を叩く。意図を察してくれたとレッドは胸を撫で下ろす。
「そんな踏み方ではダメだ。足の裏全体をぶつけるのではなく、指の付け根か踵を押し込むようにするのだ。ヒールで踏むのは素人向けではないから、付け根の方が良いだろう」
「なるほど。こうね」
「そういう事を言ってんじゃねぇええええええええええええええ!!」
レッドのツッコミも虚しく、アドバイスを受けたブルーは更にフリイギルディを踏み攻める。
「お、おのれテイルイエロー……レッドのおみ足を独占するとは………ぬふぅううう! な、なんというテクニック!」
晴天の下、踏まれて悶える痴女とノミ怪人。それを取り囲む黒尽くめの戦闘員と運動着の少女たち。シュールという言葉すら生ぬるい、混沌とした空気だ。
「どうあっても助けは呼ばないってのね。じゃあ、もう良いわ」
言うや、ブルーは大きく跳躍する。そして左腕を掲げた。
属性力変換機構――〈
重力を操るそれを、自分の脚部装甲に掛ける。
「ま、待て待て! それはまてぇええええええ!」
自分に向かって槍のように落ちてくるブルーに、フリイギルディが逃げようとする。が、地面に埋まっていたせいで逃げ遅れる。
「だっしゃあああああああああああ!」
フリイギルディに突き刺さるブルーの急降下キック。その威力はグラウンドを更に破壊し、フリイギルディに止めを刺した。
爆炎が轟く中、ブルーがツインテールをなびかせながら、カメラを持ったアルティロイドに向かって歩いてくる。その姿は、オーバーブレイクした虎人型ロボットのようである。実際は虎以上に凶暴なものを秘めているのだが。
ブルーはカメラを回しているアルティロイドの頭をグワシッ! と押さえた。
「ダークグラスパー。いつまでも雑魚なんて送ってこないで自分で来なさい? さもないと、犠牲者がどんどん増えるわよ……?」
背後に「ドドドドドド」と効果音が聞こえそうな迫力で、カメラの向こうにいるであろう怨敵ダークグラスパーにメッセージを送るブルー。用は済んだとばかりにアルティロイドを解放し、追いやるように手をシッシッとやった。
「モ、モケ……」
背後から攻められるかも知れないと、何度も何度も振り返りながら徐々に下がっていく。
「あー。さっさと逃げないと、本当に襲ってくるぞ?」
「モ、モケ―――!?」
イラッとし始めているブルーを横目にナイトグラスターがそう言ってやれば、慌てて駆けていくアルティロイド達。
「ブルー。気持ちは分かるが、余り思い詰めるな。もう少し肩の力を抜いておけ。さ、引き上げよう」
ナイトグラスターはさっさと跳んで行ってしまう。残されたレッド達も何となくモヤッとした気持ちのまま基地へと帰るのであった。
◇ ◇ ◇
ツインテイルズ秘密基地。今日も今日とて反省会だ。普段からしているわけではないが、ここ数日は必ずと行って良い程している。というか、しないと今後の活動に支障をきたすと総二は思っている。
「いい加減にしろ! いくら何でも今日のは酷すぎる! 愛香、お前だって世間にどう言われてるか知らないわけじゃないだろう?」
「あいつらは害獣と同じなのよ!? 警察官が犯罪者に凄んで、警察官が悪者になるの? ならないでしょ」
「その警察にだって凄む限度があるだろうが……。鏡也、何とか言ってくれよ」
総二は肩を落とした。先刻の有様を見ても、止めるために力を借りたいと願った。
「そう言われてもな……」
鏡也はポチポチとコンソールをいじる。すると、モニターに映像が映し出された。
『こんにちわ~。あんこちゃんだよ~』
その瞬間、愛香の座る椅子の肘置きが粉々になった。
「表向き芸能人のダークグラスパーに、スタジオ襲撃を掛けないだけマシだろう?」
「………あ、はい」
鏡也の言葉に納得したのか、総二は更に肩を落とした。今映っている映像は録画であるが、生放送中にスタジオ襲撃など掛けた日にはいよいよ以て、世間の評価が揺るぎない状態になってしまうだろう。
「いけしゃあしゃあと、芸能活動なんてして……忌々しいわね。ケルベロスギルディがいなくなって三つ編みできなくなって、ツインテールに戻ったくせに。ていうか、まだ眼鏡属性を諦めてないのね」
まるで獰猛な獣のようにダークグラスパーこと善沙闇子を睨みつける愛香。愛香なりに線引きをしているということであろうか。
『え~。好みの男性ですか~? それは勿論、眼鏡が似合う男性ですよ~』
という善沙闇子に、愛香はポン。と手を打った。
「いいこと思い付いた。鏡也、あいつ口説き落としなさい」
「愛香。いくらお前でも言って良い事と悪い事があるんだぞ? あいつを口説き落とす? それは総二にツインテールを切れと言うのと同じぐらいの事だぞ?」
「っ――! 愛香、それはダメだ!! ツインテールを切るだなんて俺はしないし、させないぞ!?」
「物の例えだぞ!? 落ち着け総二!?」
「あんたも落ち着きなさいって! 悪かったわよ! 謝るからちょっと離れて、近い!」
と、きゃあきゃあやり合っているその脇で、ポツリと慧理那が零した。
「………なんだか、楽しそうですわね」
「一歩間違えると苦にしかならないバランスの上だけどね。……姉さん、元気ない?」
「そんな事はありません。ありませんけど……このところ、活躍がまったくないもので……」
「ああ……そうだね」
世間のイエローの評価はブルーに次いでひどい。ブルーは猛獣扱いだが、イエローは単なる痴女扱いだ。先日、陽月学園附属小学校前を通った際には防犯ブザーの練習をされていて、軽く凹み気味だったのだ。
鏡也はぽん、と慧理那の肩を叩いた。
「姉さん」
「鏡也君?」
「色々あってストレス溜まってるんだね。我慢せず、脱いでいいんだよ?」
「別にストレス解消で脱いでるんじゃありませんわ!? あれは………言うなれば変身の副作用のようなものです!」
「うん、そうだね。姉さんが悪いんじゃない。イエローが悪いんだよね?」
「それは結局、私が悪い事になってますわよ!?」
ここはツインテイルズ秘密基地。今日も今日とて通常運行である。
◇ ◇ ◇
アルティメギル秘密基地には、ある変化があった。先日、合流した
「ダークグラスパー様。ビートルギルディ隊長。不肖スパイダギルディ、門下一堂と共に帰還いたしました。本日を以て本隊と合流いたします」
船なら降りてきたエレメリアン達を出迎えたビートルギルディとダークグラスパーに、先頭の武士のような出で立ちのエレメリアンが深々と頭を下げた。その纏う雰囲気は一言で例えるならば――武人。佇まい一つにすら、見る者に与える畏怖の感があった。
「よくぞ戻ったスパイダギルディ。修行の旅路は如何であったか?」
「はっ。未だ研鑽の至らぬ非才の身ではありますが、ダークグラスパー様のお役には立てるかと」
「よくぞ申した。であるならば早速、貴様ら一門にはツインテイルズ打倒を命ずる! 修行の成果、見せるが良い!」
「「「はっ――!」」」
アルティメギル四頂軍
◇ ◇ ◇
観束総二は夢を見ていた。
視線の先にはテイルレッドがいる。その表情は背を向けているせいで伺えない。だが、そのツインテールは悲哀に満ちていた。
(ああ、悲しんでるんだ……)
ぼんやりとした思考で、そう考える。――それは、決してありえない事だというのに。テイルレッドは自分で、自分はテイルレッドなのだ。
なのに、自分は離れたところから、まるで他人事のようにそれを見ている。なんて夢だと、総二は思った。
声をかけようとした。近づこうとした。だが、声が出ない。足が動かない。まるで観束総二という存在がその場所に縫い付けられたかのようだった。
焦燥感が募る。このままではいけない。漠然とした不安感が、徐々に形を帯びていく。
(っ――!?)
テイルレッドが―――フォースリヴォンに手を掛けた。
だめだ。駄目だ駄目だダメだダメだ――! 必死に、声を上げようとする。だが、出ない。体も動かない。何故か、テイルレッドの姿が小さくなっていく。
――違う。自分が遠のいていっているのだ。
(止めろ……そんなことをしたら)
張り裂けそうな想いで、必死になって声を絞り出そうとする総二だったが、吐息の一つさえ漏れ出ない。
テイルレッドは振り返ることもなく、フォースリヴォンを外し――そして。
(やめろ………止めてくれ!!)
遠ざかっていく。全てが、何もかもが。自分の存在そのものが。
「ツインテ―――――ル!」
◇ ◇ ◇
「ハッ――!!」
まるで溺れた者のように、総二は息を吐いた。バクバクとする心臓の音が、内側から鼓膜を激しく叩いている。視界には見慣れたいつもの天井があり、そこが自分の部屋だと気が付いた。
「夢、か……」
総二は汗ばむ体を起こした。喉がカラカラで、ツインテールが顔に張り付いてしまっている。総二はそれを指で梳いて払う。
――ガチャ。
「…………え?」
今、何かがおかしかった。その違和感を知ろうと手を見やった。素手であった筈のそれにグローブが嵌められていた。それを包むような装甲。スピリティカフィンガーだ。
「あれ……? なんで……?」
変身、していた。その事実にマジマジと自分の手を――その手の中に取ったツインテールを見つめる。
どさ――。
その音に総二はドアの方へと振り向いた。そこには愛香が、信じられないものを見たというような表情で立ち尽くしていた。
「そーじ、あんた……また、くだらない事考えたのね!? ツインテールのまま寝てみようとかそんなのを!」
再起動した愛香が総二に迫る。だが、酷い誤解だと総二は即座に否定した。
「ち、違うって。寝る時は普通だったんだ。でも起きたらこうなってて……だいたい、前に変身したまま寝ようとしたけど、寝にくかったからそれ以降やったことないって」
「んなっ……」
即座に否定した結果、大惨事になった。ヨロヨロとしながら愛香はドアまで戻り、何故かカバンを開けた。総二はシャワーを浴びて汗を流すにも、まずは元に戻らないとと、意識を集中させた。
「………っ?」
いつもならすぐに変身が解けるのに、僅かにタイムラグがあった。テイルレッドから観束総二へと戻った自分の手をマジマジと見つめる。
何かが、自分に起きている。そんな不安感が生まれつつあった。
「だから! 総二がテイルレッドになって! ――違う! そうじゃないのよ!」
そして別の不安感に晒される者がいたりした。
原作だとアラクネギルディですが、アニメ版の流れが好きなのでスパイダギルディさんで登場です。
ビートルギルディも喋らせたくて喋らせましたが……口調大丈夫かな?