「彼女こそ、わらわの唯一の相棒――メガ・ネプチューン=Mk.Ⅱじゃ」
その存在を誇らしげに語るダークグラスパーに対し、ツインテイルズはその身を強張らせた。
ここに至って、まさかの増援。ダークグラスパーが相棒とまで言い切る存在。しかも先のを見るに相当なパワーがある。
今の状態のツインテイルズに勝機はない。
「おお、メガ・ネプチューン=Mk.Ⅱ。お前、空も飛べたのか」
「おや? もしかして……ああ、今日はナイトグラスターなんですね~」
「先日は美味いお茶を御馳走様だった」
「いやいや、これはご丁寧に」
「知り合いかよ!!」
「貴様らいつの間に知り合いになっとった!!」
お互いに頭を下げ合う二人に、レッドは思わず叫んだ。ダークグラスパーもだ。
「あ~、これは挨拶が遅れまして~。イースナちゃんがお世話になりました~」
まるで保護者の――オカンのようにツインテイルズにも頭を下げる、実に礼儀正しいロボットである。
「ホンマごめんなぁ。この子、友達おらんから遊んでくれる子にはえらく粘着質でなぁ。そんなやから友達なくすっていうのに」
「やかましい! 余計なことを言うでないわ! オカンか貴様は!」
「ちょ、何やその格好は!? 年頃の娘さんがはしたない! 早う何かを着なあかんやろ!」
「バカモノ、これは名誉の負傷じゃ」
その派手な登場とは裏腹に、今までで一番ゆるい空気になってしまった。
「しゃあない。これで隠しとき」
メガ・ネは何かを取り出し、ペタペタとダークグラスパーに貼った。
「よし、これで完璧じゃな」
「痴女かお前は」
主要な三箇所にQRコードシールを貼られて胸を張るダークグラスパーの頭部に、ナイトグラスターのチョップが入った。
「メガ・ネⅡよ。もう少しマシなのはなかったのか?」
「あいにく手持ちはこれしかないんですわ」
「今後は着替えを備えておくように。これは公序良俗に反しすぎて二週ぐらい回ってる」
「せやなぁ。ワンピースぐらいなら、かさばらんかなぁ?」
などと痴女対策会議をする騎士とロボット。それを尻目にダークグラスパーはレッドの前まで歩いてきた。当然、局部を隠すなどという非眼鏡的行為はしない。
「テイルレッド。貴様を好敵手と認めよう。トゥアールの事はもう何も言わぬ。継承したその力、極限まで使いこなしてみせよ」
「言われるまでもねぇ。お前がツインテールを愛する限り、戦いは避けられないからな」
「ふっ。先も言ったはずじゃ。わらわが最も愛するは眼鏡と」
そう言いながら、何故か舐めるような視線がレッドに向けられている。
「やばい、やばいですよ。あれはストーカーの目です!」
「では、テイルレッドよ。これをやろう」
「それを剥がすなぁああああ!」
コード付きシールを剥がそうとするダークグラスパーを慌てて制するレッド。
「じゃが、これはわらわのメルアドゆえ」
「それは後でトゥアールに聞くから!」
「そうか。ではメールを待っておるぞ? 24時間いつでも、二分以内の返信を約束しよう」
「お、重い……重すぎる」
具体的には尊の婚姻届並に重い。まさか、あれに匹敵するものが在ろうとは。世界は広い。
「しかしあれじゃな……幼さの中に凛々しさもあり、秘めたる男らしさというか………こう、堪らんのう。………よし、決めたぞ」
「は? 一体何――」
レッドはそれ以上は続けられなかった。何故なら、言葉を発するべき唇を塞がれたからだ――ダークグラスパーの唇によって。
「あ……」
「あ……」
「ああ………」
「「「あぁあああああああああああああああああああ!?」」」
悲鳴が木霊した。
「え………え?」
された当の本人は、何があったか分からず、困惑。それを尻目にダークグラスパーは局部の、よりにもよって局部のシールを剥がしてレッドの手に収めた。
「やはり受け取っておいてくれ」
ダークグラスパーはそのまま踵を返した。その途中、トゥアールに向けて呟くように言った。
「トゥアールよ。ふしだらな女と嘲笑ってくれ。じゃが、わらわはテイルレッドに心奪われた。わらわの事は忘れてくれ」
「ちょっと何言ってんですか!? 何でこっちが振られたみたいになってるんですか!?」
「では行くぞ、メガ・ネ! いつまでもナイトグラスターと遊んでいるな!」
「ほんなら、皆さん。お先です~」
言うや、メガ・ネプチューン=Mk.Ⅱが今度はバイクに変形した。
「ではさらばじゃ!」
「――て、いやああああああ! 何か生々しい感触がぁああああああ!!」
「む……何やら振動が……妙な感覚に」
「あかん! 色々とあかん! 即時撤退やぁあああ!」
エンジン音を響かせて走り出すメガ・ネプチューン=Mk.Ⅱ。そして、我を取り戻したテイルブルーが――。
「待てやコラァああああああああああああ!! 何してくれとんじゃぁあああああああああああ!!」
――と、およそ堅気とは思えない叫び声を上げてウェイブランスをぶん投げた。
「ぬお!? 何と凶暴なやつじゃ」
「いや、明らかにイースナちゃんのせいやろ!?」
石だの槍だの投げまくるブルーから逃げるように、ダークグラスパーは去っていった。
「……おい、大丈夫か?」
「……………え? あ、ああ………うん」
そして、当のレッドはナイトグラスターに肩を叩かれるまでずっと放心していたのだった。
次回、4巻の開始です。アニメだと最終エピソードですね。