戸惑う鏡也に、善沙闇子は察したかのように口元を緩めた。
「やっぱり。実は昨日、ナイトグラスターさんに助けてもらって。けど初対面の筈なのに、何処かで会ったことがあるような気がしたんです。でも、確信がなくて……」
善沙闇子が話を続けているが、鏡也の耳には入っていなかった。善沙闇子が昨日の接触で気付いたとは考えにくい。となれば、この展開は善沙闇子の狙い通りということだ。
下手なことを言わないよう、鏡也は口をつぐむ。
「でも、今日やっと分かったんです! 鏡也さんが、ナイトグラスターだったんですね!」
「いや、人違いだ。そもそも、俺自身がアルティメギルに襲われてるんだぞ? あいつらと戦えるなら、わざわざ逃げ回ったりする必要が無いだろう?」
「変身する前に襲われちゃったから、でしょう? 異様に執着してたから振り切れないし、ツインテイルズが駆けつけてくれたから、戦わなかったんじゃないですか?」
「……なるほど。理屈としては正しいな」
そう返しながら、善沙闇子の行動を考察する。
彼女がここで何故、こんな事を言い出したのか。正体に気づいているなら、それを秘密にしておいたほうが良い。そもそも、アルティメギルにとって値千金の情報である筈だ。だが、アルティメギルにそれらしい動きはない。つまり情報は伝えられていない可能性が高い。
とすれば、以前に彼女自身が言った「人類に仇なすために軍門に降ったわけではない」という言葉に信憑性が生まれる。ならば善沙闇子の意図は何処にあるのか。
こんな事を言われて「はい、そうですか」と認めるわけがない。それぐらいは分かっている筈だ。ならば、ここで言うことそのものに意味があるという事だろう。
ここで情報を晒すことで何が変わるか。今までと合わせて思考する。
(重要なのは、正体を知るのが”善沙闇子”であって”イースナ”ではないという事。そして向こうは正体を看破されていることを知らないという事だ。………そうか、そういうことか)
これは、布石だ。大々的にトゥアールを探すための。万が一動きを知られてもイースナである事を知られないための。
正体を知った善沙闇子が、それでも正体を隠す相手に興味を持ち、周囲を探る。そこで偶然か狙いか、テイルレッド=トゥアールと出遭う。
出遭えずとも動きから秘密基地を知られる可能性がある。アルティメギル、にではない。イースナにだ。
これ程、面白くない話はない。基地を襲撃されて壊滅させられる方がマシだ。
だから、さっさとその目論見を潰しておこう。
「大したものだ。よくそこまで考えられたものだ。素晴らしい思考力だ」
感慨深げに首を振る鏡也。肯定とも否定とも取れないリアクションが意外だったのか、善沙闇子が怪訝そうにする。
「しかし、一つ気になったんだが……聞いても?」
「なんですか?」
「ナイトグラスターの姿を見て、君はどうして俺だと思った?」
「……どういう意味ですか? だって、そうだと感じたから」
「俺とナイトグラスターでは大分、見た目が違うはずだが? 特に身長は比べるまでもなく大きな差があるだろう」
「それは……変身してたからでしょ?」
善沙闇子が返す。それを聞き、鏡也は頭を振る。
「多少の変化なら、それもあるだろう。だが、頭一つ以上も変わっていて、それを”変身”の一言では済ませられない。普通なら『よく似た別人』か『親類縁者』かと考えるだろうからな」
「それは……」
いくら変身で見た目が変わるとしても、鏡也と総二のそれは大きな変化だ。とても一見して判断は出来ない。
言葉を濁す闇子に、鏡也は更に続ける。
「変身で見た目が大きく変わる。そういう可能性を予め知っていなければ、考えも及ばなかった筈だ。だが、君は迷うことなく、俺をナイトグラスターと言い切った。それはどうしてだ?」
「………」
善沙闇子は黙りこくった。ギリ、と無意識に歯ぎしりする音が聞こえた。そして鏡也は決定的な一言をぶつけた。
「三文芝居はここまでだ。いい加減、正体を見せたらどうだ――ダークグラスパーよ?」
「………。くく、ククク……!」
音一つない沈黙の中、それを破る不吉な笑い声が響いた。同時に、目の前に立つ小柄な少女の体から言い知れない気配が沸き立った。
「一体、何時から気付いておった……?」
「最初からだ。アイドルなんてバカな真似をどうしてしているのかと探ってみれば、眼鏡属性を広めるためのロビー活動とはな。そっちこそ、俺の正体に何時気付いた?」
「貴様の正体など、最初も最初……ここに来る前から気付いておったわ!」
「嘘を吐くな。この不健康劣悪眼鏡め。であるなら、最初にあれほどあっさりと引き下がるものかよ」
「ぐぬぬ……減らず口を!」
「答えてもらおうか。この世界に眼鏡属性を広める訳を。――アルティメギルと、どんな取引をした?」
「貴様に教えることなど、わらわのスリーサイズ以上にないわ!」
善沙闇子――イースナはその手を突き出した。その中に漆黒の大鎌が出現する。
「っ――!」
鏡也もすかさずSサーベルを展開し、構える。楽屋内は一触即発の状況へと変貌した。ほんの僅かな変化が、そのまま大爆発へと繋がるような、張り詰めた緊張感。
――piririririr!
突然、甲高い電子音が響いた。鏡也の意識がほんの僅かに逸れた瞬間、イースナが動く。
大鎌を振りかぶり、イースナが踏み込む。鏡也もサーベルをその軌道上に滑らせる。まともに受ければ刃ごと斬り捨てられる。いなして躱すしか無い。だが、それもコンマ数秒程度の余地しか無い。だが、刹那の見切りは鏡也の得意とするところだ。
命運決するその時――。
「善沙闇子さーん。お願いしまーす!」
「はーい! 今行きまーす!」
ドアの向こうから聞こえたスタッフの声に、イースナがころっと態度を変える。その切り替えの早さに鏡也がコロッとコケたのも仕方ないことだ。
「命拾いしたのう。わらわはこれからリハーサルじゃ」
「まじめか!」
「アイドル活動を侮るでない! 派手な面の裏では、常に地道な努力の積み重ねなのじゃ!」
大鎌を消すと、イースナは鏡也の脇を抜けてドアノブに手を掛ける。
「わらわは行く。………勝手に私物を漁るでないぞ?」
「誰が漁るか!」
「それとトゥアールの連絡先を知っておるのなら、そこの化粧台の前のメモ帳に記しておいて良いぞ?」
「とっとと行け―――!!」
バタン。と閉じられた扉。遠ざかる足音に鏡也は深い溜め息を吐いた。気が付けば、シャツが汗にまみれていた。
(危なかった――あの一撃、
鏡也は未だに鳴り続けるトゥアルフォンをポケットから取り出した。
「……もしもし?」
『鏡也! 良かった……大丈夫だったか!』
「総二か。一体どうした?」
『どうしたじゃない! いいかよく聞け! 善沙闇子はダー『鏡也さん! 今すぐ基地に戻って下さい! 何故なんだぜとかそういう疑問は全部すっ飛ばして! 主に私の未来の為に!!』トゥアール、落ち着けって!』
基地からの連絡に、この慌てよう。考えられるのは一つだけだ。トゥアールを押しのけた総二が改めてそれを伝えてきた。
『良いか、驚かないでくれ。善沙闇子の正体は……ダークグラスパーだ』
「ああ、知ってる」
『そう、驚くのも無理は―――――は?』
「というか、今まさに奴と一戦交えたところだ。安心しろ」
『安心できるか―――! ていうか、知ってたんならもっと早くに言えよ!』
「奴の狙いを探るためだ。その辺も含めて後で話す」
『あ、ちょっとま――』
鏡也は早々に通話を切る。相変わらずな仲間達の声に、少しだけ平静さが戻った。
「イースナの目的はほぼ掴んだ。奴のリアクションからも間違いないだろう。となれば、ここにいる意味もないな」
ならば帰るかと、楽屋を後にしようとところで、ドアノブがも回る音がした。もしやイースナが戻ってきたのかとドアの方を向く。が、妙だ。
ガチャガチャと回すが、ドアが中々開かない。鏡也はその様子を訝しみながら見ていた。
しばし音が続いて、やっとドアが開いた。そして、何かが入ってきた。が、ドアの大きさが合わず、詰まった。
「なっ……! なんだ、こいつは?」
それは一言で言うならば、デカかった。手足は短く、一歩進むにも全身をゆらす。
それは着ぐるみだった。以前TVで見た、流川市のご当地キャラが似た風なデザインだったから間違いない。あれと違ってヒレがある。顔も若干尖っている。
「サメ……か?」
何故、善沙闇子の楽屋にサメの着ぐるみが入ってきたのか。その余りにも突拍子もない展開に、鏡也は只々唖然とした。
サメの着ぐるみはついに部屋の中に入った。改めて見てもデカイ。3メートル近いだろうか。サメぐるみは大きく体を揺すった。
「はぁ~。やぁっと風船配り終わったわ~。これで善沙闇子はますます知名度アップやで」
そう言って、関西弁で喋るサメぐるみはビシッ! とサムズアップした。そしていそいそと着ぐるみを脱ぎ出した。
「っ……!?」
そうして出てきたのは銀色のロボットだった。ロボットが関西弁で、オカン口調で喋っているのだ。人間にしてはデカイ。もしやエレメリアンかと思っていたが、とんだSFの登場だ。
(不味い。流石にこれは予想外だ……!)
「何や、今日はえらく無口やなぁ。変身しとったらもうちょっと喋れるやろ? あ、もしかして変身解いてるんか? あかんよ、いつ人前に出るか分からんのやし…………イースナちゃん?」
戦々恐々とする鏡也に向かってロボットは一方的に喋り、そして首を傾げながら、鏡也にその視線を向けてきた。
「………」
「………」
「………………」
「………………」
「………誰やあんた!?」
「お前こそ誰だ!?」
「てっきりイースナちゃんがおるかと思うとったら、見知らぬ人が……はっ! まさかイースナちゃんのストーカー!?」
「ストーカーはむしろ向こうだろう!? 被害者が既に出てるし!」
「あかん、ストーカーに楽屋入られるとか! イースナちゃんがショックで引きこもってまう! 取り敢えず警察に連絡を!」
「人の話を聞け―――!」
気付けばスパーン! と、ロボットの頭を叩いていた。
「ぬぬ……なんて切れ味鋭いツッコミ。しかもこの身長差をどうやって埋めたかさっぱり分からへんかったわ。お兄さん、只者やないな? ……ん? この顔何処かで……あ」
ロボットは、赤くなった手をひらひらと振っている鏡也の顔を改めて見ながら、ポン。と手を打った。実際にはガチャン。であるが。
「……もしかして、御雅神鏡也はんか? てことはイースナちゃんの正体、バレてもうたんやなぁ。張り切っとたんに……かわいそうやなぁ」
「そういうお前は一体、何だ? アルティメギルの秘密兵器か何かか?」
「ん? あ~、こら失礼しましたわ。うちはメガ・ネプチューン=Mk.Ⅱ。イースナちゃんの相棒です~。お兄さんのことはイースナちゃんからよう聞いてますわ。ああ、うちとしたことがお茶もお出しせんと。ささ、どうぞ座って下さい」
「あ………え?」
何が何やらわからないまま、鏡也は座らされ、メガ・ネプチューン=Mk.Ⅱと名乗るロボットは手際良くお茶を淹れる。
「ささ、どうぞ~」
「あ、はい。どうも」
出されたお茶をすする。湯呑みは入れる前に温められており、お茶も甘みと渋みが絶妙なバランスを取っている。茶葉を入れすぎず、適量な証拠だ。そして蒸らす手間を惜しまず、注ぐ際も雑味を含ませないよう静かに。
この一杯、正に”茶を淹れる”という一工程を芸術にまで昇華している。
「これは……結構なお手前で」
「いえいえ」
「………」
「………」
「って、ちが―――う!!」
「なんと!? 切れ味鋭いノリツッコミやて!」
何故か驚愕するメガ・ネプチューン=Mk.Ⅱ。関西弁であることから、もしかしたら日々のツッコミに不足しているのかもしれない。
「何で普通にお茶とか出して歓待するんだ!?」
「あ、お茶よりもコーヒーとかの方が好みやった?」
「いや、お茶のほうが好み………いやいや、そうじゃない」
つい流されてしまいそうになる自分を制し、鏡也は改めて、このメガ・ネプチューン=Mk.Ⅱなるロボットを見る。
このいかにも一人だけ――一体だけ世界観が違う存在は言動一つとってもこちらに多大な影響を与えてくる。が、害意を加えてくることはなさそうだ。となれば慌てず騒がず、だ。
「善沙闇子――イースナはなんでアイドルなんて……いや、理由はわかるんだが。その、結構マジメにアイドルしているようなんで、気になってな」
「お、気になる? 気になるんなら見に行ってみる? 今時分ならステージでリハーサルしとるだろうから」
言うや、器用にも着ぐるみを着るメガ・ネプチューン=Mk.Ⅱ………名前が長い。
「……そうだな。じゃあ、案内を頼もうか、メガ・ネⅡ?」
「何で揃いも揃ってその略し方なん!? それに微妙なアレンジ加えられてるし!?」
◇ ◇ ◇
ステージを一望できる特等席――と言うにはいささかながら視点が高い二階席。人気のないそこからロボットin着ぐるみを伴って、リハーサルの様子を見下ろす。
「しかし、トゥアールから聞いた話じゃ、アイドルするような性格じゃないそうだが……何か仕掛けてるな? 変身でイースナと善沙闇子を繋げさせないようにしているのと関係が?」
「せやな。変身で善沙闇子になりきっとるんや。ていうか、虚弱体質やから変身せんと動けんのや。はぁ~、もっと外で遊んだからええのに。部屋にこもって日がな一日エロゲー三昧。友達も全然作れんし」
「………お、おう……え、エロゲー? あれ、未成年……いや、ん?」
何か深く立ち入ってはいけない闇を覗きかけてしまったが、それはそれとして聞き流せないところもあった。
(さっきのアレはそういうことか。変身状態なら、装備がなくても劣勢どころじゃないな)
なにせ、虚弱体質があれだけ激しく動けるのだ。どれだけの強化がされているのか想像に難くない。
「しかし、真面目にやってるものだ」
「あれでもアイドル歴はなかなかやからな~。他の世界でも同じようにアイドルしとったし」
「ほう……。その世界も”眼鏡属性を広めた上で、アルティメギルに侵略された”のか?」
「ん? 何で分かったん?」
「何となくだ。……さて、そろそろ帰るとしよう」
「あ、ちょっと頭にゴミが」
――プチッ。
「いったぁ!?」
「あ。毛根ごといったわ」
「いきなり何するんだ!? というか、その手でよく出来たな!? 何? ロボット繋がりで未来から来た猫型的な感じ!?」
頭を撫でて痛みを散らそうとしながら、鏡也がメガ・ネに迫る。
「いやいや。本当にゴミやと思ったんやて。でも見間違えたみたいや。あー、眼鏡の度が合わんかったかなぁ~」
「掛けてないだろ!? それ以前にロボットだろ!? 白々しい嘘つくな! ……くそ、髪は長い友達だけど、その友情は脆く儚いって、うちの祖父さんの遺言なんだぞ?」
「どんな遺言やねん」
「ともかく、俺は帰る。下手にストーキングしようとしても無駄だからな」
「せえへんわ。イースナちゃんじゃあるまいし」
心外だとばかりに、メガ・ネは腰に手を当てて返した。
「ハックション!」
「ストーップ。大丈夫、闇子ちゃん?」
「はい、大丈夫です。続けて下さい。………風邪かのぉ? いや、きっとトゥアールが噂をしているのじゃな」
「ハックション!」
「ちょっと、唾飛んだじゃない!?」
「風邪ですか、トゥアールさん?」
「いや、これはそんな生易しいものじゃない気がします。もっと悍ましくて悍ましい……陰湿極まりない物の怪の気配です」
◇ ◇ ◇
会場を出ると、鏡也は周囲に注意を払いながら歩いていた。メガ・ネはああ言ったが、注意するに越したことはない。なにせ相手は世界線を超えても追いかけてくるストーカーキングだ。
ドクペ好きのマッドサイエンティストも諦め必至な相手に、してしすぎるということはあるまい。
鏡也は適当なコンビニに入ると、適当に小物を手に取る。レジで会計するとトイレを借りる。勿論、用を足すためではない。
個室に入ると鍵を掛けず、転移機能を立ち上げる。行き先は基地――ではなく、陽月学園の屋上だ。そこから別の場所に数度ジャンプして、基地へと向かった。
さて、基地に着くと早速、心穏やかではない異世界の痴女が迫ってきた。
「どういう事ですか? イースナが善沙闇子だと知ってて何で接触を続けたんですか? 事と次第によっては出るとこ出ますよ!?」
「――それで、どういうことなんだ?」
「ああ、今話そう」
トゥアールを踏み敷いて、鏡也は総二らに事の次第を話し始めた。善沙闇子の目的、それによって何が起ころうとしているのか。かつて彼女が言った『人類に仇なす為にアルティメギルに与したのではない』という言葉の意味を。
「……じゃあ、ダークグラスパーの目的は、属性力を完全に奪われないようにするって事?」
愛香の言葉に鏡也は頷く。
「恐らくな。全ての属性力が奪われれば、人は生きた屍のようになる。だが一つでも残っていれば、人は生きられる。そういうことだろう」
「そりゃ、理屈はそうだけど……でも、釈然としないな」
総二は眉をひそめた。世界を守る。その手段としては間違ってないと思う。だが、果たしてそれで合っているのか。
「どちらにせよケルベロスギルディと、その背後にいるダークグラスパーと戦わなければならない。まずはケルベロスギルディに集中するべきだ」
「そんな事はどうでも良いんです! イースナに、イースナに私のことがバレているかどうか、それが大事なんです!!」
「安心しろ。イースナは未だにテイルレッドがトゥアールだと思っている」
復活しようとしたトゥアールを踏み直し、鏡也はそう伝えた。
この期に及んで、自分の属性力が何であるのか――忘れていたのかもしれない。
◇ ◇ ◇
アルティメギル基地。イースナの部屋。
「く、くやしい……。まさか、正体を見抜かれていた……なんて」
「まー、バレてもうたんはしょうがないわ。それで、これからどうするん?」
メガ・ネはイースナに今後の指針を尋ねた。だが、イースナの顔色は良くない。
「当初の予定通り……て、言いたいけど……この世界、眼鏡属性の広まりがどうにも遅い」
「ツインテールが広まっとるからなぁ」
「それだけじゃない気がする……もっと何か、異質な何かが在るような気がする。はあ……面倒。ただでさえ御雅神鏡也の事にトゥアールさんの事もあるっていうのに」
イースナはジャージの袖に手を引っ込めて、ブラブラとさせる。折りたたんだ膝を崩し、メガ・ネに昏い瞳を向けた。
「メガ・ネ。預けておいたあれを……出して」
「あれって……アルバムか? 夢を叶えるまで、トゥアールはんの写真を見ないようにするって言うてたやんか?」
「だ、大丈夫。トゥアールさんには会えたんだから。これはご褒美。これで明日からも……頑張れる」
「こういう願掛け、一回崩れたらお終いやと思うんやけどなぁ」
仕方なく、メガ・ネは預かっていたアルバムを取り出した。
そこにはイースナが盗撮――もとい、労力を割いて集めた写真だ。言葉にするのもはばかられる表情で、イースナはアルバムを開いた。
そして、彼女は戦慄した。
そこにはかつて、トゥアールがブルーのギアを纏って戦っていた勇姿が写っていた。美しいツインテールをなびかせて、戦場を駆ける姿は正に戦女神だった。
――その、筈だった。
「ど、どうして……ツインテールじゃない……!?」
トゥアールの写真が全て、ツインテールではなくなっているのだ。その姿は総二達にとっては見慣れたもので、イースナにとっては未知の姿。
最上のツインテールを持つものにしか纏えないテイルギアを、ツインテールでない者が纏っている矛盾。
その答えはすぐに出た。
「トゥアールさんは……ツインテール属性を失っている。……じゃあ、テイルレッドは……誰?」
そう。イースナはトゥアールの属性力を追ってきたのだ。そしてテイルレッドに行き当たった。だが、そのトゥアールはツインテールを失っている。
そうして考えれば矛盾は多い。携帯を常に持っていたトゥアールが、今は持っていないと言うし、よく考えればおっぱいが時空の彼方に消えるものだろうか。
浮かんでは消える疑問の泡沫。そして結論は姿を表した。
「テイルレッド……ヤツはトゥアールさんじゃない……! そして御雅神鏡也、ヤツはそのことを知っている!」
バタンと閉じたアルバムを、激情のままに叩きつけ――ようとして、そっと下ろし、代わりに拳をテーブルに叩きつけた。
「…………いったあ」
「あーあー。虚弱体質やのに無理するから~」
イースナはメガ・ネに手際よく手当されるのだった。
次回で3巻は終わる予定ですが、果たしてうまく行くのか。