光纏え、閃光の騎士   作:犬吉

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ほとんど説明回。台詞が原作のまんまにならないよう、自己解釈しながら文章を変えるのはとても大変です。
台詞も言葉選びが巧みな原作の良さを活かせるよう気をつけたいですね。




 ツインテールの少女達を追わんとするアルティロイドを、鏡也は迎え打つ。

 倒す必要はない。彼女達が逃げる時間とテイルレッドがリザドギルディを倒すまでの時間さえ稼げればいいのだ。鏡也は剣を翻して、突っ込んできたアルティロイドの足を払う。それ躓いて数体が転んだ。

 鏡也は飛びつこうとしたアルティロイドを躱し、逆に蹴り飛ばす。

「はぁ、はぁ……。出来るだけ早く頼むぞ、テイルレッド」

 上では激しい戦闘音が響き続けている。鏡也は上がり始めた息を抑え込みながら、徐々に後退を始める。

 先程放った『閃光』にはもう一つの弱点があった。それは一度使うだけで、体力がごっそりと削られてしまう点だ。

 もう、閃光は使えない。だが、一度見せたことでアルティロイド相手には牽制の効果が十分にあった。

 そうしている内に、上で轟音が響いた。ハッとなって見上げると、巨大な火柱が天に向かって激しく伸びていた。

「勝ったか……」

 テイルレッドの勝利を確信し、鏡也はフッと笑った。アルティロイド達もバタバタと撤退していく。

 やれやれと思い、いつものように手を鼻先にまで持ち上げ――鏡也はその手を止めた。そして、足早に”その場所”へと急いだ。

 果たしてそこに、それはあった。

 無造作に踏みつけられ、グニャグニャとなったメタルフレーム。プラスチックレンズも細かくひび割れ、ボロボロだ。

 もう、再生することは出来ない。この眼鏡は――死んでしまった。その事実に、どうしようもない程、胸が締め付けられる。

 鏡也はハンカチを取り出し、砕け死んだ眼鏡をそっとその上に置いた。そして丁寧に包み込み、ギュッと抱きしめる。

「ごめん。俺がもっと強かったら、君をこんな無残な目に遭わせたりしなかったものを……! どうか、安らかに眠ってくれ」

 もう、この眼鏡は自分の人生を映すことはない。いつか役目を終えるその時を迎えることが出来ないまま、死んでしまったのだ。

 心の中で黙祷する。そして唯一の死者をそっとポケットに収めた。

 数秒の後、立ち上がって振り返ると、テイルレッドがツインテールを奪ったリングを斬り捨て、そして奪われた属性力が元の持ち主に帰っていく光景が見えた。

「これで、やっと終わりか……良かった」

「鏡也――!」

 戦いの終結に安堵の溜息を吐いた鏡也の事を、大きく呼ぶ声がした。ガチャガチャとスク水鎧とツインテールを揺らして走ってくるテイルレッドだ。テイルレッドは鏡也を見るや嬉しそうに手を振った。

 その見かけのせいで、どうにも微笑ましい光景にみえてしまうが――あれは男だ。

「――お疲れ」

「おう!」

 鏡也が軽く手を上げると、テイルレッドがピョンと跳んで、パチン! と合わせた。

「任せといて何だが、よくあの化け物を倒せたな」

「まぁ、あれぐらいは一捻りってヤツだぜ」

 得意気にニカッと笑う姿は、得意満面の子供そのものだ。だが、男だ。後5年で成人を迎える男なのだ。

「鏡也くん――!」

「っ……! 神堂会長、目を覚ましてたのか?」

 振り返ればいつ意識を取り戻したのか、慧理那が立っていた。

「えぇ、途中から。それより! 幾ら私を助けるためでも、あんな怪物と戦うなんて……どうしてあんな危ない真似をしたんですか!」

「いや、だけどそうしないと……」

「鏡也くん!」

 むぅ。と膨れて眉をひそめて『私、怒ってます』アピールをする慧理那に、鏡也はこれ以上の面倒事はゴメンだと、頭を振った。

「あー、ゴメンナサイ。もうしません」

 諦め気味にそう言うと、慧理那は満足したのかふくれっ面を解いた。そして、今度はテイルレッドに向き直り、深々と頭を下げた。

「助けて頂いて、本当にありがとうございました」

「え、いや……そんな。俺――私は当然のことをしただけですから」

「とても素敵な戦いぶりでしたわ。まだ小さいのに……本当に強くて、勇敢で……私、感動いたしました!」

 キラキラとした瞳でテイルレッドを見る慧理那。隣の鏡也はジト目で慧理那を見ている。若干、不貞腐れているようにも見えた。

「なんだか、俺の時と全然態度違うんですけど?」

「鏡也くんのは、ただ危なっかしいだけでしたから」

「……そうですか」

 納得は行かないが、理解は出来る。実際、テイルレッドが駆け付けなかったら危なかったのだから。尤も、そのテイルレッドに危ない目に遭わされもしたのであるが。

「お嬢様―――!」

 唐突に響いた声に三人が振り向くと、タイヤから煙を上げているリムジンから降り立ったメイド姿の集団が、こちらに向かって走ってくるのが見えた。

(神堂家のメイドさん達か。面倒だな)

 鏡也はテイルレッドの肩を叩くとチョイチョイと指を動かす。テイルレッドはその意味を理解し、一步後ろに下がった。そして踵を返して走りだす。

「あ、待って下さい! あなたのお名前は!? また、お逢いできますか!?」

 足音に気付いた慧理那が叫ぶ。その声に足を止めて、テイルレッドは振り返る。

「テイルレッドです! あなたがツインテールを愛する限り……きっとまた! それじゃ――!」

 今度こそ、テイルレッドは止まらないで走り去った。

「……それじゃ、俺も帰る。友達を待たせているから」

「待って、鏡也くん! あなたはどうしてテイルレッドさんと……?」

「じゃ、そういうことで!!」

 呼び止める声を無視して、鏡也は駆け出した。通り過ぎて行く人たち。恐怖から解放されて、その喜びを噛み締めている。

 属性力を奪われて意識を失くした人達も目を覚まし始め、家族か友人か、親しい人達と抱き合っていた。

 それを尻目に、鏡也は柄をギュッと握りしめた。

 騎士の剣。それは守るためのものだ。だが、自分に何が出来た? テイルレッド――総二が来なければ、全てを奪われてしまっていた。

 足りない。圧倒的に力が。しかし、これ以上どうすれば良いのか、まったく分からない。

 だが、同時に心の中で何かが強く言うのだ。

 

 ―― 覚醒めなさい ―― と。

 

 

「………どういう状況だ、これは?」

 テイルレッドの消えた方に来てみれば、元に戻ったが意識を失くした総二を愛香が抱きかかえていた。これはいい。

 問題は何故、銀髪白衣の撲殺死体があるのかということだ。

「ふぉおおお……! ファーストキスが、アスファルトとハードにだなんて……!!」

「しぶといな、この人」

 もしかしたら、生命力はあのリザドギルディ以上なのではないだろうか。だとしたら、それをここまで追い込める幼馴染はあれ以上なのだろうか。鏡也はそんな事を考えてしまった。

「取り敢えず、総二は俺が運ぼう。早めにここを離れるべきだ」

「そうね。色々と話を聞かなきゃだし」

 鏡也は愛香から総二を預かり、背中に背負って立ち上がった。遠くからサイレンの音が響いているのが届く。警察や救急、消防が現着するまで時間はそうなかった。

「それじゃ、移動しましょう。私から離れないでくださいね」

「ここに来たみたいには出来ないのか?」

「空間転移の座標は、言わばトンネルの出口と入口。ここから転移すると、店内に飛び込んじゃいますが?」

「……ダメだな。客がいたら言い訳できん。仕方ない。適当なところでタクシーを拾おう」

 こうして鏡也達はマクシーム宙果を後にした。そしてこの日の混乱は、夜遅くまで続くことになるのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 日も傾き始めた頃。鏡也達は総二の部屋にいた。タクシーを拾おうとしたがなかなか捕まらなかったり、道路が混雑していたりで時間がかかってしまったのだ。

 その途中で総二が目を覚ましたり、アドレシェンツァ前に到着したは良いが、トゥアールのことをどう説明したらいいか分からず、秘密にする為に家の裏口から入ることにしたり、その際にトゥアールが元気よく挨拶して、直後に愛香の手刀によって元気良く鳩尾をえぐられたり。

 ともかく色々あって、今こうして四人は向き合っている。今日起こった全てを知るであろう人物から話を聞くために。

「そわそわ。そわそわ」

 何か呟きながら、そわそわして辺りを見回すトゥアール。

「結構強くぶち込んだのに元気ね、アンタ」

「フッ。あの程度何だというのです。私はこれから、総二様にもっと熱くて凄いモノをぶち込んd――」

 ジャキ! とでも音がしそうな手刀が光った。同時にトゥアールの軽口も閉じた。やはり結構痛かったらしい。

「――それで、このブレスは何なんだ? あの変態達は一体何者なんだ?」

 話を進めようと、総二が口を開く。その真剣な表情に、トゥアールは申し訳ないと照れ笑う。

「すみません。……あの、私、男の人の部屋に入ったの初めてなんです……キャッ」

 口元を小さな握り拳で隠してブリッ子するトゥアール。

「そもそも、何で俺が女になっちまうのか。ちゃんと説明してもらうぞ!」

「やだ、胸のドキドキが聞こえちゃう……どうしよう、恥ずかしい……イヤン」

「話が噛み合ってないわよ?」

 鏡也と愛香の顔に四つ角が立った。本気でイラッとしている。総二は惨劇の気配を覚え、慌てて叫んだ。

「と、トゥアール! さっさと説明してくれ!」

 そうしないと、説明できない体にされてしまうから。だが、トゥアールは二人を見て小さく唸った。

「……お二人はお疲れでしょうし、説明は後日、書面でということで」

「その前に遺書を書くことを勧めるが?」

 剣を抜いて薄ら寒く微笑む鏡也。流石にアルティロイドを倒す一撃には死の気配を覚えたらしく、出口を指した手がそっと膝の上に戻された。コホンと咳払いして、トゥアールは話し始めた。

「失礼しました。些かテンションが可笑しくなっていたようです」

「どう見ても平常運転だった気がするんだけど?」

「一口に説明するのは難しいので、まずはテイルギアから行きましょう」

 トゥアールが小さく折りたたまれた紙片を取り出すと、それが広がり折り目も消え、A2程度の大きさになった。

 そこに、テイルレッドの全身図と、各種の説明が映しだされた。これは簡易型のモニター装置らしい。

 テイルギアから始まり、フォトンサークル、フォースリヴォン、フォトンヴェイル、スピリティカフィンガー、スピリティカレッグ、テイルブレス、属性玉変換機構(エレメリーション)、エクセリオンブースト、フォトンアブソーバー。

 厨ニ臭さ満載な細かな説明の中には、リザドギルディとの戦いで総二が知ったものもあった。

 向こうで「長いわぁ!」とか「リヴォンってなんなのよ! イラッとするわぁ!!」などと愛香の激しいツッコミで吹っ飛ぶトゥアールが見えたが、それより気になる項目があった。

「なんだ、あの『エクセリオンショウツ』って? 何であそこだけ空欄なんだ?」

 項目が示しているところは丁度、テイルレッドの股間部分だ。流石に言い辛いのか、トゥアールもボソボソと呟くように答える。

「そ、それは……その、厨ニ臭さが無くなってしまうので控えていたのですが……えっと、戦闘が長引いてトイレに行きたくなった時、その……横モレなく素早く吸収、分子レベルで分解、拡散させる機能なんです。平たく言うとオム――」

「もういい! それ以上言わないで!!」

 何故、聞いてしまったのだろう。輝きの名を関するこれの事を。

 総二はちょっと後悔した。そして鏡也は「ふむ」と、鼻を鳴らした。

「なんだ、オムツか」

「せっかくボカしたのにどうして言うんだよぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「いいじゃないか。ほら、テイルギアって宇宙でも活動できるんだろう? だったら大事だぞ、オムツ? 宇宙飛行士だってオムツ着けてるんだし、いいじゃないか、オムツの一つや二つ。ちょっとオムツ丸出しなだけだろう?」

「だからそれを連呼するなぁ! あと、丸出しって言うなぁあああああああああ!!」

 これ以上この話題を進める訳にはいかない。総二はトゥアールに核心の話を振った。

「テイルギアの説明はわかったけど、肝心の話がまだだ。どうして俺は女になるんだ!? それを教えてくれ!」

「確かに。これを見る限りでは、総二がオムツ幼女になる理由が載っていないな」

「よりにもよってその二つを組み合わせるんじゃねぇええええええ!!」

「え? 女の体を教えてほしい? 分かりました。私だってこうしてノコノコ男子の部屋に来たんですからその覚悟はできています。さぁ、ベッドに行きましょう!」

「その前に彼岸の彼方にいけぇええええええ!」

「あぁあああああ! ノコノコついて来たらノコノコにされたぁあああああああああ!!」

 無限1UPするヒゲおやじの如き勢いで、愛香の高速ストンピングがトゥアールを襲った。猛烈な勢いでシェイクされるせいで、彼女の顔がトーテムポールのように見えた。

 あっちもこっちも混沌の様子になってきたその時、トゥアールが叫んだ。

「テイルギアを纏うと幼女になるのは私の趣味ですよ! 悪いですか!!」

「悪いに決まっとるわぁあああああ!!」

 開き直って押し切ろうとしたトゥアールだったが、愛香がそれを見逃す筈もなく。

 腕を両足で挟み込んでドラゴンスクリューの要領で盛大にぶん投げた。

 既にトゥアールのことを隠すとか、誰の頭の中に残っていなかった。

「いいじゃないですか! 大いなる力を得るには大いなる責任と犠牲が伴うんですよ! それに幼女なら相手の油断も誘えますし、ツインテールはあいつらの注意をひく役目もあるんですよ!」

「言うならそれだけを言えばよかったのに……」

 真実が必ずしも素晴らしいものではない。そのいい例であった。

「まぁ、言うことに一理ないわけじゃないし。その話はいいや」

「そうですよね! 幼女可愛いですよね! 可愛いよ幼女ハァハァ……!」

「………。で、あの怪物のこと……いや、その前にトゥアールのことを教えてくれないか?」

「待ってましたぁ! さぁどうぞ、隅から隅までご覧くださバタァ!!」

 嬉々としてパーッと白衣を脱ごうとした痴女の顔面を、愛香のアッパーカットがふっ飛ばしていた。

「……そろそろ、手加減できなくなりそうだから気をつけなさいよ」

「それで手加減って……」

 ベッドに倒れて悶え苦しむトゥアールの姿に、戦慄を覚える二人であった。

「私はこの世界の人間ではありません。異世界からやって来ました」

 復活したトゥアールが今までにないほど真剣な眼差しで話し始める。

 異世界人。文化も文明も違う未知の領域。なるほど、これ程までにこちらの常識や良識が通じないのはそのせいだったかと、誰もが納得し――

「あ、誤解なさらないで欲しいのは異世界と言っても正確には平行世界。こちらと名称以外はさほど変わりません。私だって、向こう的には日本人ですから」

「何を以ってさほど変わらないのか、俺には理解できないんだが?」

 皆の気持ちを鏡也が代弁すると、総二と愛香がウンウンと頷いた。

「それではまず、あの怪物が求めるもの……属性力について、説明します」

 トゥアールが語った内容は途方も無い規模であった。

 世界とは並行し、無数に存在する。それらは数多のマス目のように、壁一枚を隔てた程度であり、しかしそれは果てしなく遠い。殆どの世界はそれらの存在を知らず、また行き来することは不可能。

 だが、無数の可能性の中には稀に、果てしない進歩を遂げた世界が生まれることがある。トゥアールの世界も、その一つらしい。

 そして、文字通り別次元の科学力を持った世界で生まれた心の力。それは発達した科学文明を支えるだけのエネルギーを宿しており、心という不確かなものを固定化し、安定させることで無限の可能性を秘めた。

 人の思考、思想、趣味。知的生命体が宿す、心の豊穣。強い想い。あらゆるものからなる。

 それこそが属性力。怪物たち――属性力の負の産物とされる精神生命体〈エレメリアン〉が狙うもの。奪われれば精神の喪失に肉体が縛られ、二度と嗜好を持たなくなる。戦いの場でトゥアールが言った「全てが消える」という言葉の意味に改めて、恐怖を抱いた。

 テイルギアにもこの属性力――その中でも最強の力を持つと言われる〈ツインテール属性〉が使われており、通常兵器の効かないエレメリアンに対する、唯一のカウンターになるのだと。

「属性力は莫大なエネルギーを秘めています。好きなものなどに集中して挑むと効率が上がったりするのは、精神力をある種の推進力にしているからです。ですが、それはあくまでもそこまで。内での燃焼から、変換効率を高め、物質化が可能になった時、それは初めてあらゆる燃焼機関を超える。これこそ、テイルギアが最強たる所以なのです。ですが――」

 そこまでを語り、トゥアールはその視線を鏡也に向けた。余りにもまっすぐに見られたせいで、無意識に体が強張った。

「鏡也さん。あなたがアルティロイドを倒した時、あの瞬間……あなたは属性力を”発揮”していました。変換効率の上昇と発露。僅かとはいえ、物質化前の発現状態にまで至っていました。いったい、どうやったのですか? その剣に何か秘密が? それともなにか変換デバイスを持っているんですか? ハッ! まさか、眼鏡が壊れたことで、リミッターが解除されたとか!?」

「そんな訳あるか。これはただの剣で、あれはただの速突きだ」

 属性力の発露などと言われても、今初めてその存在を知らされた力の事など鏡也には分かろうはずもない。

「あの技は中等部に上がった頃か、自主練中に偶発的に出来たものだ。試合の切り札になるかと思って練習して、できるようになったは良いが……威力がありすぎるのと、体力の消耗が酷くて使い物にならなかったんだ」

「そうですか。でも、属性力の発露を生身でだなんて……消耗だけで済むのが奇跡です。下手をすれば、反動で体がバラバラになってもおかしくないんです。もう、あれは使わないでくださいね?」

「そ、そんなに危ない技だったのか、あれ」

 真摯な態度で戒めようとするトゥアールに、鏡也は思わず息を呑んだ。本人的にはかくし芸程度の気持ちだったので、実は超危険、しかも相手じゃなくて自分がと言われれば、今までの迂闊さをちょっと怖くなった。

「話を戻しましょう。彼らエレメリアンは精神生命体。属性力を糧として狙い、数多の世界を滅ぼしてました。彼らの組織の名は――アルティメギル」

「アルティメギル……?」

 鏡也はその言葉をうわ言のように反芻した。それを”何処か”で聞いたことがあるかのように。

「総二様。回収した石を出して頂けますか?」

「石……っと。これか?」

 総二が右手を上げると、テイルブレスからリザドギルディの消えた場所で回収された石が出現した。

「これは属性玉(エレメーラオーブ)。属性力が結晶化したもので、エレメリアンの核となるものです」

「これが……。触った時、〈人形〉って見えたんだけど?」

「それは、リザドギルディが人形属性のエレメリアンであった。ということですね」

「つまり、あいつは人形好きってこと?」

「正確に言えば〈人形を持った幼女好き〉、ですね。先程も言いましたが属性力は嗜好など強い想いに左右されますので」

 トゥアールが愛香の問にそう答えると、鏡也は何となく嫌そうな顔をした。あんなバケモノがそんな変態嗜好であったことはまだしも、今後はそういう類のばかり出てくるのかと想像してしまったのだ。

「何でそうも変化球な……まともな嗜好はないのか? 家族愛とか友情とか……もっとまともなのがあるだろうに」

 鏡也が呆れ気味に言うと、トゥアールはチッチッと指を振った。

「そういうのはある程度の知的生命なら誰もが有するものです。属性力はそこから逸脱したもの――自分自身が望み、伸ばし、得たものなんです」

 勿論、家族愛などの属性力が無いわけではない。と付け足し、更に続けた。

「属性力の中でも最大級の力を持つとされているツインテール属性。敵はこれを狙い、そしてこちらが彼らに対抗できる希望。ですが、テイルギアに用いられた属性力を発揮し、ギアの性能を引き出すには、相応のツインテール属性がなければいけません。それこそ、この世界で最高クラスの、です」

「それが……俺、なのか?」

「そうです。男性でありながら、総二様のツインテール属性は正しく世界最強! 総二様は選ばれし者なのです!!」

「俺が選ばれし者……!? そうか、俺は……俺の想いは間違ってなかったんだ!!」

 世界最強のツインテール属性。言い換えればそれは、世界最強のツインテール馬鹿だという事だ。だが、そんな言葉にさえ感涙する総二に、愛香は深々と溜め息を吐いた。

「ツインテールに人生掛けてるって……それと、何さり気なく手を出しんてんのよっ!」

「ドゴス!?」

 さり気なく総二の太腿に指を這わせようとしたトゥアールの顔面に、月刊少年誌がぶつけられた。もちろん背表紙だ。

「だが、トゥアールは何故そこまで奴らのことを知っている? この世界に危機を知らせに来た事といい、奴らとの因縁が浅くないようだが……?」

 ぶつけられて悶えているトゥアールに、鏡也は気になった事もぶつけてみた。

 おいそれと聞いて良い事ではない気はしたが、そこはきっと核心に関わることで、聞かなければならない事だと思った。

「……そうですね。因縁はあります。……私の世界は、奴らに滅ぼされたんですから」

 トゥアールの言葉をどこかで予想していた。異世界からの侵略者。それに対向する技術をもたらした者。

 何故、彼女は自分の世界ではなく、この世界に来たのか。

 奴らを追ってというなら、その理由は何か。突き詰めていけば、結論は見えてくる。

「私の世界の属性力はアルティメギルによって全て、奪われてしまいました。俯瞰してみれば今までと変わらない世界。でも、誰もが無機質で覇気の無い……まるで色が喪われてしまったような、そんな世界に成り果ててしまったのです。破壊も殺戮もない、ただ、心を奪い尽くす……これほどに静かで、残酷な侵略はありません」

 そう語る彼女の瞳は悲しみとともに寂しさを孕んでいた。

「エレメリアンに対抗するには属性力が必要です。ですが、属性力の技術が確立していない世界にとって、奴らは正しく、人智を超えた悪魔そのもの。目に見える被害が理解し難いせいで、誰もが対処に遅れてしまう。そして気が付いた時にはもう……」

 心という、目に見えない領域への侵攻。だが、心の豊かさを失った世界はきっと、何も生まれない世界になるのだろう。遠からず、緩やかな死を迎えるだろう。

「私は技術者で、早くに奴らの被害に遭ったせいでアルティメギルが侵攻に本腰を入れる前に、それに対抗する技術を確立できました。その御蔭で私の属性力は奪われませんでしたが……それが精一杯でした」

「………」

 目の前で全てが灰色となっていく光景。それはどれほどの絶望だっただろうか。目の前でツインテールを奪われただけで怒りに燃えた総二。慧理那がそれを奪われた時、無力感とともに怒りに震えた鏡也。

 個人でさえそれ程に感じたのだ。自分の生きてきた世界全てとなった時、心がどうして耐えられようか。

「奪われた属性力は24時間を超えるともう元には戻りません。ですから、生産性の無い復讐ですが……それでも、この力で奴らを止めたいんです」

「トゥアール……わかったよ」

 自分の世界を守れなかった彼女が、それでも諦めずに戦う道を選ぶ。その言葉には怒りはあれど、憎しみを感じない。そんな彼女の心を受け止めるかのように、総二が頷いた。

「利害の一致って言うにはこっちの方が恩恵が大きいけど、でも使わせてもらうよ、この力を。あいつらを倒してこの世界を守って、トゥアールの世界の敵を討つために」

「はい! どうぞ、存分に使って下さい、この身体を!!」

「お望み通り使ってやるわよ!!」

「ハラショー!?」

 ドヤ顔で白衣を脱いだトゥアールを、美しいブリッジでバックドロップを叩き込んで沈めた愛香。今の良い話も木っ端微塵だ。

「ほう、二人とも白か」

「なんて色気のないパンチラなんだ……」

 丸見えになってしまった下着に、欲情のよの字さえ感じない事があろうとは、総二は初めて知ってしまったのだった。




シリアス「おれ、頑張ったよね……?」

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