ダークグラスパーいよいよ登場。そしてあの人気キャラも本格登場です。
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見上げる者と見下ろす者。だが、その立ち位置が立場に置き換わる訳ではない。
レンズを介して交わされる視線。そこには一切の友好の色は見えない。アルティメギルとツインテイルズ。敵対する側にいる、というだけでは説明できない程――まるで不倶戴天の敵と見定めているかのようだ。
(ど、どういうことだよ……あの二人、まさか知り合いなのか?)
(そんな筈ないですよ……その筈です。ですが、どこかで遭遇していた? でも、それなら黙っている必要が……)
予想を大きく超える事態にテイルレッドとトゥアールが困惑を隠せないでいると、ナイトグラスターが軽い跳躍とともに二人の前に降り立った。
その背中が、まるでダークグラスパーと対するのは自分であると主張するかのように見えた。
ザン。と、ナイトグラスターがその一歩を踏み締める。それに呼応するようにダークグラスパーの足も踏み出される。
光と闇の体現。その言葉がしっくり来る程、二人は対極にあった。眼鏡属性という同じ力から生み出された筈の鎧もまた然り。
気が付けば、二人は互いに手の届くところまで来ていた。
距離が変わって、二人の身長差は更にハッキリとした。大人と子供。言葉のままだ。しかし、互いから発せられる気配はそんな言葉遊びなど軽く吹き飛ばしてしまう程に苛烈だった。
「「…………」」
レッド達はただ、固唾を呑んでそれを見守る。息をすることも、瞬きさえも忘れて。何かが起きる。その予感だけがヒシヒシと伝わった。
最初以降、一切の言葉を発しなかった両者が、同時に口を開いた。
「――出来損ないめ」
「――二流品が」
「ハーフリムが似合っておらんわ」
「アンダーリムに土下座しろ」
「パッドの角度がズレておるわ。情けない奴よ」
「テンプルも合わせられないのか、愚か者め」
「フンッ」
「ハッ」
――ガン!!
「「その眼鏡を味噌汁で洗ってから出直して来い―――!!」」
「えええええええええええええ!?」「何ですかそれぇええええええええ!?」
いきなり罵倒し合ったかと思えば、額をぶつけ合ってのこの展開。レッドもトゥアールも揃ってツッコミの声を上げてしまった。
「む? 今、トゥアールの声が二つ聞こえたような?」
「い、いいえ! そんな訳無いでしょう!? そ……それよりも、あなたとナイトグラスターはどういう関係なんですか!?」
トゥアールが慌てて誤魔化すように疑問を投げかける。二人は揃って向き直り、言った。
「「関係も何も、今初めて会ったばかりだが?」――じゃが?」
「じゃあ、さっきまでのやり取りは何だったんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
レッドがそれはもう、在らん限りの声を上げた。今までの空気とか全部返せと言わんばかりだ。
「む? 随分と言葉使いが変わったような?」
「そんな訳無いでしょう!? ……もう、疲れましたよ、本当に」
ぐったりとするレッド。後のトゥアールも同じように項垂れている。どっちも演技ではないっぽい。
「それはいかん。わらわの胸で良ければ存分に癒やされてくれて良いぞ?」
「だから膨らんでるのは嫌いだって言ったでしょう!? もういいから、用が済んだのなら帰ってくださいよ!?」
自棄っぱちとばかりに叫ぶトゥアールに、ダークグラスパーはまたもや「ぐぬぬ……」と唸り、そしてナイトグラスターを指差し叫んだ。
「おい、出来損ない眼鏡め! 今日のところはここまでにしてやるのじゃ! 次に会う時にはその眼鏡、タダで済むと思わぬことじゃ!!」
そしてテイルレッドに向かって続けた。
「トゥアール。これだけは言っておく。わらわは人間に仇なすためにアルティメギルの軍門に降ったのではない。わらわもまた、わらわの守るべきもののために戦うと決めたのじゃ!」
これ以上の言葉は今はないと、ダークグラスパーが踵を返す。そして蜃気楼――恐らくは転移ゲートであろう――の中に消え……ずに足を止めた。
「わらわのアドレスは、あれから一度も変えておらぬからな!!」
最後の最後で余りにも悲しい言葉を響かせて、ダークグラスパーはその姿を陽炎のように消した。
「………ダークグラスパー。恐ろしい敵だったな」
ダークグラスパーの去った空間を見やったまま、ナイトグラスターは小さく零した。
「色んな意味で恐ろしかったよ……本当にな」
色んなという部分に色んな思いが込められているような気もしたが、ナイトグラスターはただ、その額の汗を拭う。
「ああ、恐ろしい
「ちょっと待て。何だよメガネーラって? そんなの初めて聞いたぞ? 眼鏡の属性力のことじゃないのか?」
「それは
半ば呆れ気味――実際に呆れているのだろう――ナイトグラスターは肩をすくめた。
「じゃあ何なんだよ、眼鏡力って?」
「眼鏡力とは、眼鏡を掛ける者に宿る眼鏡の力のことだ」
「まんま属性力じゃねーか!?」
「全然違う。眼鏡を愛するならば属性力は生まれよう。だが、眼鏡力は眼鏡を掛けることでしか生まれないのだ」
「お前、思いつきでデタラメ言ってるんじゃないだろうな!?」
ドヤ顔で言い放つナイトグラスターに、レッドがツインテールを振り乱してツッコむ。
「――見てみろ」
ナイトグラスターがコン。と地面をつま先で叩く。
ビシ――――ッ!!
唐突に、数メートルに渡って横一文字に亀裂が奔った。丁度、ダークグラスパーと相対した場所だ。
「奴の眼鏡力………私をもってしても計り知れん。流石は首領直属といったところだな」
「眼鏡力……こええ」
もしかしたら、眼鏡は相当に物騒な属性なのかもしれないと、レッドは背中が寒くなった。
「総二様。とりあえず、基地に引き上げましょう。話はそれから」
「――そうね。色々と話さなきゃいけない事もあるしね?」
撤退の準備に入ったトゥアールの後ろに、夜叉が立っていた。怒りのオーラにツインテールがバタバタと揺れている。
「特にアイロン台がどうとか、その辺の貧乳とか……その辺りを詳しくねぇ?」
「あ、ああああああああああ愛香さぁああああああああああああああああああああ―――っ!?」
振り返る間もなく、ブルーの手がトゥアールの頭を鷲掴みにしていた。ベキベキと、仮面がひび割れていく。
「お嬢様――――!!」
いきなりフェンスをぶち破って、一台の車が飛び込んできた。その運転席には――勿論、尊だ。その瞳にナイトグラスターが映った瞬間、彼はクルッと背を向けた。
「では、私は先に帰らさせてもらう」
けたたましいブレーキ音に気付かないふりをしながら、ナイトグラスターはテイルグラスの転移機能でその場から去った。
「待って下さい、ナイトグラスター様―――!」
尊の悲痛な声も、一切聞かなかったことにして。
◇ ◇ ◇
薄暗い室内に光が差す。ドアが開いて、その部屋の主が足を踏み入れたのだ。
「おー。お帰りイースナちゃん。どやった? 目当ての人には会えたんか?」
まるでアイドル女性声優のような声。ガチャンと無機質に床を鳴らして現れたのは、巨大な影。小柄なダークグラスパーであることを除いても、巨大だった。
人を模した鋭角なフォルム。伸びる豪腕。頭部にはツインテールを思わせるウイング。
銀鋼の体を持つ――人の似姿。それはロボットだった。ロボットが、オカン口調の大阪弁を喋っているのだ。
「メガ・ネか。……逢えたぞ。しっかりとな」
「その割には不機嫌やな? 何かあったん?」
「ナイトグラスター。あ奴にも会った。ふん、何がナイトグラスターじゃ。わらわの名前のほぼパクリではないか」
「いや、そこまで似とるか?」
「わらわのダーク(闇)に対してナイト(夜)。グラスパー(眼鏡の支配者)に対してグラスター(眼鏡の一等星)。ふん! パクリの上にセンスの欠片もないとはの!」
そう言って、ダークグラスパーは指先で眼鏡を軽く持ちあげた。すると、その体を包んでいたグラスギアが解除され、野暮ったいジャージ姿の、一見して根暗な少女が現れた。
「ナイトグラスターかぁ。イースナちゃんと同じ眼鏡属性の、テイルギアを使っとるんやったっけ?」
「そう………わ、私が自分で頑張ってグラスギアを作ったっていうのに……あいつ、トゥアールさんにテイルギア作ってもらってた……!」
ギリ、と爪を噛むダークグラスパー……イースナ。その暗い瞳は嫉妬の色を湛えていた。
「許せない……羨ましい……トゥ、トゥアールさんが……なんで男のために……? 私には作ってくれなかったのに……!」
「いや。その頃にはイースナちゃん、アルティメギルに付いとったやん? トゥアールさんもおらへんようになってたし」
「…………」
正論を言われ、ぐうの音も出ないイースナ。その体をどっかりとソファーに預け、クッションを抱え込む。
「あの眼鏡。私の神眼鏡にも負けないぐらいの力があった。あんなの、何処で手に入れたの……? キラキラしてて……すごいイラッとした」
「ほう。それは凄いなぁ。そら、相当な属性力やな」
「それだけじゃない。私に及ばないけど、とても強力な眼鏡力だった」
「ごめんイースナちゃん。全然意味が分からんわ」
メガ・ネと呼ばれたロボットは即行でツッコんだ。その切れ味は即戦力クラスだ。
「何なん、眼鏡力って? そんなん初めて聞いたで?」
「眼鏡力を知らないの? 眼鏡を掛ける者なら誰でも持つ力なのに?」
「え? それは眼鏡の属性力ちゃうの?」
「全然違う。それは眼鏡を愛するから生まれる。でも、眼鏡力は眼鏡を掛けないと生まれない」
「それは常識なん? イースナちゃんの妄想とかとちゃうくて? え、うちがおかしいとちゃうよね?」
「違う。一般人はせいぜい1~3眼鏡力だけど、私の眼鏡力は53万は固い」
「フリー◯か!?」
またもやバシッとツッコミを入れるメガ・ネ。このロボット、やり手である。
「……それで、あと一人はどうやったん? そっちには会えんかったん?」
「会えなかった。でも仕方ない。作戦を進めていけば、いずれは会うと思うし」
イースナがひょいと指を動かすと、空間モニターが開いた。
「トゥアールさんとイチャイチャする………なんて忌々しい!」
モニターには、テイルレッドと抱き合ったりしている一人の高校生の姿が映っていた。
「御雅神鏡也………絶対に許さない」
(あー。どうか出遭わんで欲しいわ―)
クスクスと笑うイースナに、メガ・ネはそう祈らずにはいられなかった。多分、無理だろうなぁと感じながらも。
◇ ◇ ◇
基地に戻った面々は早速、謎の戦士ダークグラスパーについてトゥアールからの説明を聞くことにした。
「さて、何処から話したら良いか……そうですね、彼女ーーイースナは私と同じ世界出身の人間です」
「その割には随分と距離感があるというか、話しているだけでも壁というか……距離感が微妙だった気がしたんだが何でだ?」
トゥアールの言葉に総二は感じたままの事を尋ねた。
「……総二様になら分かる筈です。大勢のファンを持つということのリスクを。ちょっとお行儀の悪いファン程度ならともかく、彼女は別格でした。凶悪なストーカーだったのです」
「それにしたって、リスク管理ぐらい出来るだろう? ていうか、ファンにアドレスとか教えてたのかよ?」
総二もファンにメアドとかのメモを渡されたりするが、だからってこっちから連絡はしないし、教えるなんて尚更だ。
「あの頃のイースナは小さくて可愛くて、つい贔屓を……あ、でも、今は全然ストライクゾーン外れてますから。本当、あの年頃の少女って、なんであんなに成長早いんですかねぇ」
「改めて聞くけど、お前は何歳だ?」
遠い目をするトゥアールを、まるで遠い世界に居るかのように見ながら鏡也がツッコミを入れる。
「イースナは酷い時には一時間に60通もの、スクロールに一分かかる長文メール……しかも、全部違う内容のを送ってくる、人間メールサーバーと化しました。えぇ、自動送信システムが生っちょろい程に」
「エレメリアンより怖いんだけど」
一分に一通。送信のラグタイムを考えても、せいぜい40秒だろうか。どんだけの速度だ。
「受信拒否にするのも角が立つと思い、メール振り分けで通販サイトのDMと同じフォルダに放り込んでいたんです」
「自業自得とは言え、同情の余地がないことも………いや、ないか」
「人としての善意が欠片程度でも残っていたのが、むしろ驚きだけどね」
「そこのダ眼鏡と貧乳は黙ってて下さい」
眼鏡と貧乳のツープラトンで強制的に黙らされたトゥアールが復活するまで、しばしの休憩であった。
「と……とにかく今日の様子では暫くは来ないでしょう。その間に対策を練りましょう。今夜総二様の部屋で二人きりで。ええ、鍵もしっかりと掛けておきますよ。秘密保持は大事ですからね」
「秘密保持のために、あんたを〆た方が早そうだけどね」
「口封じいやぁああああああああああ!」
愛香によって二度と情報漏洩されないようにされるトゥアールの悲鳴が、基地内に木霊した。
「あら、帰ってきたのね。おかえりなさい、皆」
「ぶは――――っ!?」
直通エレベーターの扉が開き、未春が現れた。勿論、悪の女幹部コスプレだ。
「はじめましてかしら、新しいメンバーの子ね。私が総二の母の観束未春よ」
「まあ、これはご丁寧に。陽月学園で生徒会長を務めております、神堂慧理那と申します。それにしても素敵なお召し物ですわね!」
「でしょー。これ、手作りなのよー」
自慢気に未春がマントを広げる。特撮マニアな慧理那には相当にヒットしているようだ。
「――それで、ついに敵の女幹部が現れたようね。総ちゃん?」
「だから何で分かるんだよ!? そして何で嬉しそうなんだよ!?」
何故かご機嫌な未春。その理由が総二には分からず。しかし鏡也には分かった。
「総二。未春おばさんの理想……憶えてるか?」
「夢……?」
「……”悪の女幹部と正義の味方”のシチュエーション」
「ブホッ!?」
豪速球のビーンボールに総二が噴いた。あの戯言が、まさかここで生きてくるなど、誰に想像出来ただろうか。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず。それでトゥアールちゃん、続きを話してくれるかしら?」
「何故でしょう、未春将軍のお言葉なのに色々と不安要素が……」
「……新戦力が続々と登場している以上、失敗続きの幹部に居場所なんて無いのよ」
「未春将軍!? お待ち下さい、まだ私はやれます!!」
トゥアールがこれまで無いほどに動揺し、未春にすがりつく。その光景はまるで悪の組織そのものだ。
一応、ここは正義の側の筈なのだが。
一通りのコントが終了した所で、トゥアールが話を再開した。
「話す前に言っておきますが、私は清い身です。あの子とはなーんにもありません!」
「その前提は、当時幼女だったヤツのことを話す為に必要なのか?」
お茶の用意をしていた尊がやって来て、眉をひそめる。その前提をしないといけない性癖持ちなので、誰も何も言えない。
「イースナはエメレリアンに襲われていたところを助けたのが縁で知り合ったんです。それから何度も私の戦ってる場に現れて……そうですね、ちょっと前までの慧理那さんみたいな感じでしたね」
その頃を思い出しているのか、また遠い目をするトゥアール。イースナを語るということは、それは自分の過去――罪を語るに等しい。時折、ブルッと肩を震わせるのは向き合う痛み故か。
「とにかく、性格や性格や性格に致命的な問題があるにしても、嘘は言わない子でした。ですから『守るべきもののためにアルティメギルについた』という言葉は本当の事でしょう」
「守るべきもののために、か。彼女がトゥアールを慕ってる以上、敵に付くなんて相当の理由なんだろうな」
うーんと誰もが唸る。今までは一見して怪人な変態ばかりだったから躊躇もなかったが、今回は人間だ。どうしても色々と考えてしまう。
「あの、一つ聞いてもよろしいですか? 今の話だと、まるでトゥアールさんも戦っていらしたんですか?」
「ああ、言ってませんでしたね。私は言うなれば、先代のテイルブルー。元の世界では愛香さんのテイルギアを使って戦っていたんです」
「では、どうして引退を?」
「それは……」
無邪気というべきか、下手な隠し事をすると要らないところまで聞いてしまいそうな気配を察し、総二はトゥアールに告げた。
「丁度いい機会だし、会長にも話しておいたらどうかな? 勿論、言いたくないところは言わなくてもいいからさ」
「……そうですね。ですが、話し終わるまでどうか握っていて下さい」
トゥアールは神妙な面持ちで胸を突き出した。
「分かったわ。全力で握ってあげる」
「いぎゃあああああああああ! 潰れるうううううううううう!」
「やめろよ愛香! それ以上やったらトゥアールのおっぱいがマジで千切れるから!」
「落ち着け愛香。後で〆るのを手伝うから」
「……分かったわよ」
「そ、そこは分かって欲しくないんですけど……」
ビクンビクンと震えるトゥアール。まるで漫画のような歪み方をした胸をさすりながら、涙目になっていた。
そうして鼻をすすりながら語られる嘗ての故郷の顛末は、前に聞いた時よりも深い悲しさが演出されていた。
全部を聞き終えた慧理那は強く頷いた。
「なるほど。トゥアールさんは意志と力を次代に託した先代のヒーローだったんですね。引き継ぎイベント、しかと承りましたわ!」
「イベントって。まあ、総二達が受け継いだのは確かだし、姉さんが内容さえ理解しているなら良いか……良いのか?」
「良いんじゃないか?」
話は戻る。
「総二様のテイルギアには私のツインテール属性が使用されています。イースナがこの世界に来たのも、その反応を頼りにしてのことでしょう。だから、レッドを私と勘違いしたのだと思います。恐らくは眼鏡属性の能力の一つでしょう。鏡也さんがイエローのギアの不調を見抜いたように」
「グラスギアだっけ? テイルギアってそんな簡単にコピーで居るの?」
「いいえ。絶対に無理です……普通ならば」
愛香の疑問にトゥアールは答える。
「ですが、あの眼鏡がそれを可能とした。とは言え、完璧とは行かなかったはずです。足りない部分はアルティメギルの技術で補ったんでしょうね。属性力に関するところは元々、アルティメギルのものですから。でも一番の問題は――」
「人間が、仲間としていけ入れられている……だな?」
「あの様子じゃ、洗脳とかされている訳じゃないみたいだし、でもそんなのを仲間として側に置いとけるの?」
愛香はどうにも腑に落ちないと首を傾げる。エレメリアンと人間は何処まで行っても平行線だ。それはドラグギルディと戦った経験から、嫌というほど理解している。
「だけど、あの状況でもダークグラスパーは愛香達のツインテールを奪おうとしなかった。まあ、ナイトグラスターが来てたからって考えもできるけど、それを差し引いても、アルティメギルの利になるように積極的に動いている風には見えなかったな」
「首領直属という立場にあって、そういう行動を許される……いや、立場故か? 以前のフマギルディとは随分と違うな?」
「ああ、あいつも首領直属だったっけ? そういえば、アイツの属性玉ってやっぱり見つからなかったのか?」
「ええ。恐らくはまだ生きているかと」
「厄介だな。ブルーとナイトグラスター二人がかりでも倒せなかった相手が健在かもしれないなんて」
人間相手というだけでも厄介なのに、更に厄介な敵が健在かも知れないという可能性。先行きの不安さに――。
「……燃えますわ!」
いきなり、慧理那が立ち上がった。何故か凄いやる気に溢れている。
「現れた敵の新幹部! しかもそれは嘗てトゥアールさんを慕っていた少女! その上、倒したはずの強敵はまだ健在!! このシチュエーション、今燃えずに何時燃えるというのですか!!」
「いやいや! ちょっと待って会長! そんな気楽な話じゃないんだよ? 人間と戦うんだよ?」
「はい。ですが、どんなヒーローだって、序盤最後から中盤辺りで人間同士で戦うのは避けられない展開ですわ」
総二の言葉も、慧理那の耳には届かない。助けを求めて愛香を見ればいつもどおりの顔があった。
「エレメリアンと違って爆発させられないけど、別に大丈夫でしょ? トゥアールをぶん殴るより、ちょっと強く殴ればいいだけだし」
「うわー頼もしーなー」
そしていつも通りな発言。身内にはわりかし寛容――寛容であるが、しかし敵には一切の容赦しない。津辺愛香、まさに野生動物のそれである。
総二は最後の願いを託して鏡也を見た。
「ん? 死ななければ良いだけだろ?」
「やいや。お前は良いのかよ? アイツの眼鏡が壊されるかも知れないんだぞ?」
「………ああ、だがそれで壊されるなら、その程度だったということだ」
「鏡也……?」
「ん……いや、なんでもない。気にするな」
軽く手を振る鏡也。ダークグラスパーとの遭遇以降、どうも様子がおかしい。眼鏡が壊されるかもしれないというのに、それを容認してるかのような口ぶり。
もしかしたら何があっても壊れない。そんな自信があるのかも知れない。
鏡也の内心は、レンズの向う側にあるかのようにピントズレしてしまって、総二には見えなくなってしまった。
「ありがとうございます。きっとイースナも倒されることを望んでいる筈です。手加減などせず、余計なことを口走る前に足腰立たなくなるまでヤッてしまって下さい。そうそう、愛香さん。戦利品代わりにイースナのおっぱいもらったらどうですか?」
「なんで敵から施し受けなきゃならないのよ」
「じゃあ、私のおっぱいは良いんですか!?」
「勿論。それに取るなら大きい方がお得でしょ?」
「スーパーの特売品みたいに言わないで下さい!」
そして、こっちはこっちで色んな物が見えない状態になっていた。
「――それで、あの場に出てきたのはどういう事だ?」
慧理那達が帰った後、総二は鏡也が何故、あの場に姿を現れたのかを尋ねた。
「リヴァイアギルディが倒された後、トゥアールが二人の回収に出たんだ。で、すぐに尊さんも後を追おうとしたんだが、俺には機械が使えないから車を出して迎えに行ったんだ」
その辺りは総二も知っている。トゥアールが来て、尊がやって来た。正直、どれだけの速度で来ればあの短い時間で来れるのか気になるところだが、今はそれは横に置く。
「丁度、尊さんがエレベーターで基地から出た直後だったな。……実はここ最近、何度か妙な眼鏡の疼きを感じていたんだ」
「妙な疼き?」
「何で眼鏡が疼くのよ? 総二がツインテールの気配とか言い出したのと同じ?」
「知らん。だが、それ以外に言いようがない。だが、あの時はそれが桁違いだった。まるで電流が走ったかと思った」
その時を振り返る鏡也。気が付けば変身して、工場跡にいた。その後は屋根の上で状況を見守っていたが、ダークグラスパーに気づかれ、ああなった。
そこまで説明して、鏡也は瞳を伏せる。
(今思えば……ダークグラスパー、奴の属性力に引っ張られたようにも見えるな)
それは言い換えれば、属性力の差とも言える。支配者を名乗る少女と、騎士を名乗る自分との。
「眼鏡属性は属性力の中でも稀有なものです。正直、私も鏡也さんに会うまで見た事がありませんでしたから。それが二つ……どんな影響を出すか想像もできませんね」
鏡也はトゥアールの言葉を聞き、そして予感した。
ナイトグラスターとダークグラスパー。ツインテールよりも稀有な力を宿す者同士。
その出会いが確実に、何かをもたらそうとしている事を。
思わせぶりなこと言ってますが、様は類友の親戚な感じ。